この記事では大腿四頭筋一つである『大腿直筋(Rectus femoris muscle)』のストレッチングについて記載していく。

 

目次

閉じる

大腿四頭筋の基礎情報

 

大腿四頭筋の基礎情報は以下となる。

 

筋名

起始

停止

作用

神経

大腿直筋

腸骨の下前腸骨棘と寛骨臼の上縁

膝蓋骨の膝蓋骨底

脛骨の脛骨粗面

股関節の屈曲

膝関節の伸展

大腿神経

(L2~L4)

内側広筋

大腿骨の転子間線の遠位方の領域と粗線の内側唇

膝蓋骨の膝蓋骨底

脛骨の脛骨粗面

膝関節の伸展

大腿神経

(L2・L3)

中間広筋

大腿骨の大腿骨体の前面と内・外側面

膝蓋骨の膝蓋骨底

脛骨の脛骨粗面

膝関節の伸展

大腿神経

(L2・L3)

外側広筋

大転子の前面および下面と粗線の外側唇

膝蓋骨の膝蓋骨底

脛骨の脛骨粗面

膝関節の伸展

大腿神経

(L2・L3)

 

以下が大腿直筋となる。

大腿四頭筋:大腿直筋

  • 大腿直筋の筋連結:
    ⇒内側広筋・中間広筋・外側広筋

 

スポンサーリンク

 

大腿直筋は短縮しやすい?

 

大腿直筋は他の大腿四頭筋より反射的短縮(過緊張)を起こしやすいとされている。

 

そして大腿直筋に対するリハビリ(理学療法)としては「筋力低下」より「反射的短縮(過緊張)」がフォーカスされやすい。

 

※ちなみに、大腿直筋はSLR運動で活動しやすいので、筋力低下にフォーカスを当てたリハビリ(理学療法)を考えているならおススメである(重錘を巻けば活動量は更に高まる)

関連記事⇒『SLR運動のメリット・デメリット

 

 

では、なぜ大腿直筋は他の大腿四頭筋より過緊張を起こしやすいのだろうか?

 

その理由は諸説あるが、その中の一つが以下である。

 

『大腿直筋が伸張された肢位を日常生活でとることが少ないから』

 

 

ちなみに「大腿直筋が伸張された肢位」とは「膝関節屈曲を伴った股関節の伸展状態」である。

 

例えば日常生活における『正座』という行為は、膝を最大屈曲させるため大腿四頭筋は最大限ストレッチされる。

 

ただし大腿直筋だけは、大腿四頭筋の中で唯一の2関節筋であり、正座では「膝は屈曲するけれど、股関節は伸展していない」ので十分な大腿直筋のストレッチは起こらない。

 

同様な例で言えば、草むしりなどで膝を曲げてしゃがむ姿勢(蹲踞の姿勢と言う)も「大腿直筋以外の大腿四頭筋はストレッチされている」が、「大腿直筋のストレッチは不十分」となる。

 

この様な理由から、大腿直筋はストレッチされることが少なく、短縮を起こしやすい筋の一つとされている。

 

 

大腿直筋のストレッチング

 

大腿直筋のストレッチングを記載する前に、まずはエリーテストを記載してみる。

 

エリーテスト(Ely Test)を解説

 

大腿直筋の短縮度合いを評価する手法としてエリーテストがある。

 

方法は以下の通り。

 

『療法士は、腹臥位となった対象者の膝を他動的に屈曲していく。』

 

そして、膝を屈曲していった際に、同側の股関節屈曲(骨盤前傾)が生じれば陽性(大腿直筋の短縮あり)と判断される。

 

以下の記事でもエリーテストを解説しているので合わせて感らしてみてほしい。

⇒『エリーテストを紹介(大腿直筋の短縮)

 

 

腹臥位での大腿直筋ストレッチング

 

前述したエリーテストで陽性となった(股関節が屈曲してしまった)状態から、股関節屈曲(骨盤前傾)しないよう殿部(骨盤)をベッドへ押し付けることで固定すると膝関節屈曲角度が減少する。

 

そして、この「(股関節が屈曲しないよう)骨盤を固定した状態での膝関節屈曲」が大腿直筋のストレッチングということになる。

 

以下の動画は大腿直筋に対する腹臥位でのPIRであるが、この状態からストレッチングも可能である。

 

 

※注意点は、この動画が「腰部を押さえつけている」ことである。

 

※大腿直筋の短縮が強い場合はここまで膝が屈曲しない段階で臀部が浮いてくる(股関節が屈曲してくる)はずなので、代償が起こらないよう殿部(骨盤)を固定しておくことが望ましい。

 

腹臥位における大腿直筋ストレッチングのメリットは、股関節屈曲による代償を予防できる点にある。

 

もし膝を屈曲していく最中に股関節が浮いてくる(屈曲してくる)のであれば、その時点でやりすぎ。

 

浮いてくる一歩手前で膝屈曲を止めて、キープすることでストレッチングする(動画の様に大腿直筋に等尺性収縮を加えても構わない)。

 

※大腿直筋は反射的短縮が起こりやすい筋の一つなので、PIRに対する反応も良い。

関連記事⇒『PIRを含めた等尺性収縮後弛緩テクニックまとめ

 

ただし、高齢者などで腹臥位がとれない人も多いので、臨床での活用頻度は低いかもしれない。

 

なので、以降は「腹臥位以外の肢位でのストレッチング」について記載していく。

 

 

腹臥位以外でのストレッチング

 

高齢者では腹臥位になれない人(力が入ってしまいリラックスできない人も含む)は多い。

 

なので、高齢者へ用いる大腿直筋のストレッチ方法としては、以下もおススメである。

  • 肢位は側臥位or背臥位
    (背臥位の場合は、ストレッチ側をベッドから垂らす)
  • 反対側下肢を屈曲させることで骨盤後傾・腰椎の過剰な前彎を抑制
  • 股関節伸展+膝関節屈曲

大腿直筋 ストレッチ
特に背臥位でのストレッチング(ストレッチング側の下肢をベッドから垂らす方法)の場合は、ベッドから下肢を垂らした時点で股関節が伸展位(あるいは伸展刺激)が入っていることになるたため、療法士はその肢位で股関節を固定しつつ、膝を屈曲していけば良いので簡単である。

 

※ベッドから垂らすのは、尾側ではなく、外側に垂らす(尾側へ垂らしてもベッドが邪魔で膝を屈曲できない)。

 

※下肢を垂らすと腰椎が前彎してしまい腰痛が出現するリスクがあるため、対側下肢は必ず屈曲しておく(要は膝を立てておく)こと!

 

また、このストレッチング方法はセルフエクササイズとしても活用しやすい。

 

※下肢を垂らして、殿筋+ハムストリングスを収縮させることで「股関節伸展+膝屈曲」させることで大腿直筋は伸張させる。

 

また、この肢位で脱力しているだけでも、(下肢の重みで)「低負荷で持続的な伸張刺激」を大腿直筋(+股関節屈筋群)に加えることが可能となる。

 

※ただし、脱力する場合は「高齢者で大腿直筋にかなりの短縮がみられる人」でなければ刺激は加わらない(単なる腸腰筋のストレッチングにはなる)。
低負荷であるからこそ、数分間の持続的な伸張でも遅発性筋痛生じにくいため、セルフエクササイズとしても適している。

 

※ストレッチングは、伸張強度よりも、伸張時間の方が重要となる。
関連記事⇒『スタティックストレッチングのポイント

 

 

高齢者は円背中を呈しやすく、股関節筋群(大腿直筋も含む)は短縮しやすい筋群と言える。

 

そして、(構造的円背ではなく)機能的円背な場合、アライメント矯正として大腿直筋のストレッチングは非常に有効である(この姿勢だと、ついでに腸腰筋なんかも同時にストレッチングを起こせる可能性もある)。

 

※以下の記事では同じようなイラストで腸腰筋のセルフストレッチングを表現しているので、見比べてみてほしい。

⇒『トーマステスト(Thomas test)』を活用した腸腰筋ストレッチングを紹介

 

そして、股関節屈筋群をストレッチングする手段としてこの様な姿勢を数分間キープしてもらうという手段は活用しやすい。

 

スポンサーリンク

 

その他のセルフストレッチング

 

大腿直筋に対する背臥位以外でのセルフストレッチングを記載していく。

 

具体的には以下の2つ。

 

  • 立位でのストレッチング(筋短縮が軽度であれば、これを背臥位でも実践できる)
  • 片膝立ち位でのストレッチング

 

 

立位でのセルフストレッチング

 

高齢者に指導することは稀だが、若い人が「何らかの理由で大腿直筋をストレッチングしたい場合」は有効となる。
大腿直筋のストレッチ

 

片脚立位になるため、壁に寄りかかるなどして安定した状態を作り出しておいた方がストレッチングし易い。

 

また、『エリーテスト(Ely Test)の項目』でも記載したように、大腿直筋は股関節の屈曲のみならず「外転・外旋」にも作用する。

 

従って、セルフストレッチングにおいても、外転・外旋しないよう注意しなければならない。

 

※きちんと下肢を矢状面上に保持することが大切。

 

特に以下の右イラストのように股関節の外転がエラーとなりやすい。

大腿直筋のストレッチ2

もし、このストレッチング方法で大腿直筋に伸張感を感じるのであれば、ぜひ左右イラストを交互に実施して伸張感を比較してみてほしい。

 

恐らく、違いが分かるはずである(こういうのは字面より、実践してみる方が覚えやすい)。

 

また、冒頭で記載した「大腿直筋の筋連結」を見てもらえばわかるように、他の大腿四頭筋とも連結しているため、ストレッチングをすると大腿直筋より広範に伸張感を感じる(単関節筋であるはずの他の大腿四頭筋を包んでいる筋膜にも伸張感を感じる)と思われるので、是非体感して頂きたい。

 

立位でのセルフストレッチングのメリットは「いつでも、どこでも実施できる」という点にある。

 

ストレッチングは頻回に実施するほど効果を発揮する。

 

一方で短縮が軽度な人であれば、ここで記載した「立位のストレッチング」を、そのまま背臥位で実施することも可能である。

 

そのまま寝転がってテレビでも見ていれば、数分後には随分伸びているはずである。

 

 

片膝立ち位でのセルフストレッチング

 

大腿直筋に対する「片膝立ち位でのセルフストレッチング」は以下の動画を参照してもたいたい。

 

※前半は、大殿筋の収縮による相反抑制を利用した大腿直筋のストレッチングとなる。

関連記事

⇒『ダイナミックストレッチングとは

⇒『PNFストレッチング(腸腰筋)

 

※その後、(膝の屈曲操作をしない)股関節の伸展運動による「腸腰筋のストレッチング」となる。

関連記事⇒『腸腰筋(大腰筋)の作用は沢山あるよ(エビデンス参考)

 

※そして、大腿直筋のバリスティックストレッチングが1分経過後からスタート

関連記事⇒『バリスティックストレッチングとは

 

 

 

大腿四頭筋のリハビリ(理学療法)関連記事

 

大腿四頭筋に関する総まとめは以下を参照。

大腿四頭筋トレーニングを解説!

 

 

以下は大腿直筋の短縮テスト(エリーテスト)について。

エリーテストを紹介(大腿直筋の短縮)

 

 

大腿直筋の短縮と仙腸関節障害の因果関係を以下のリンク先に少しではなるが記載しているので、 興味がある方は観覧してみてほしい。

仙腸関節障害と大腿直筋のタイトネス

 

 

大腿直筋以外のストレッチングに関しても、以下の記事にまとめているので興味がある方はチェックしてみてほしい。

ストレッチング、ちゃんと知っている?