この記事では理学・作業療法士のリスク管理の一つとして知っておくべき「レッドフラッグ」について記載していく。

 

レッドフラッグとは

 

レッドフラッグとは、以下の様に定義されている。

 

『脊柱原性の疼痛が悪性の病変(癌・感染症・馬尾神経障害など)に由来している可能性があることを示す臨床所見または兆候』

 

例えば、クライアントが癌のような重大な問題を抱えているかどうかを判断しようとした際、身体検査で得られた身体的兆候のうち解剖学的・病理学的観点から妥当性・信頼性のある診断を可能にする特別な兆候は無いため、身体検査はあまり有効では無いとする文献がある。

 

では、このレッドフラッグを判断するために重要なツールは何かというと、
『問診』
 である。

 

例えば、レッドフラッグに関する第一人者は「(腰痛患者が)悪性腫瘍の可能性を検出するにあたって、レントゲンよりお問診の方が検出能力が高い」とまで言っている。

 

悪性腫瘍を検出する最も重要な問診は「癌の既往があるか」を聴くことである。

※これは、直接癌が脊柱に発症するというよりも、他から転位した場合が多いからとされている。

 

 

「癌の既往があるか」を含めた健康状態に関しては、以下の2パータンの聴き方をするこが重要となる。

 

①食欲があるか?熱はないか?だるかったりしないか?といった間接的な聴き方

②癌の既往はあるか?糖尿病・心臓病の既往はあるか?といった直接的な聞き方

 

※特に「癌の既往」は(前述したように)重要なので必ず聴く

 

 

癌の次に重要なレッドフラッグは「馬尾神経障害」である。

 

「過去24時間以内に、腰・下肢に激しい痛みが出現して、過去9時間前くらいに排尿障害も出現した」と発言があった場合は、直ちに専門医への受診を勧める必要がある。

 

急な排尿障害を訴えた時点で、何もしてはいけない。

 

どんな理学検査であろうが実施してはならない。

 

時間が勝負な場合もあり、早く対応しないと取り返しのつかない可能性が高まるとされている。

 

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癌患者への整形外科的リハビリ(理学療法)

 

病院に勤務していると、がんの既往がある人も整形外科的治療をしに来ることがあり、理学療法士が運動リハビリを提供することもある。

 

その場合は、医師も「癌の既往がある」と分かった上で、理学療法士に整形外科的なリハビリを指示しているので、その指示に従って実施して良い。

 

この場合は、がんの既往があることを医師も患者も知っていて、尚且つこの痛みが癌由来のものではないと判断されたうえで指示が出されているので問題ない。

 

問題なのは「癌の確認がなされていないままリハビリをすること」なだけである。

 

ただし、リハビリ(理学療法)に通っている患者が、急にレッドフラッグの問診に引っかかるようであれば、医師に報告・or再受診してもらう必要がある。

 

あるいは、介護保険下での理学療法では、理学療法士によるレッドフラッグの確認は(医療保険下での理学療法に比べて)重要となる場合もある。

 

問診において、レッドフラッグを確認するための具体的な質問は以下にも詳細を記載しているので、興味のある方はチェックしてみてほしい。

理学・作業療法士が重要視すべき問診を徹底解説!

 

 

理学療法診療ガイドラインによるレッドフラッグの解説

 

病院に勤務している理学療法士は、医師の診察によりレッドフラッグも確認したうえでリハビリが開始されるためレッドフラッグという言葉自体を知らない人もいたりする。

 

一方で、海外で開業しているダイレクトアクセス(医師の指示なしで理学療法の評価・治療を受ける権利)があるため、悪性な病変が疑われる場合には直ちに病院での検査を勧めなければならないため、知っておかなければならない事項となっている。

 

『脊柱原性の疼痛を及ぼす悪性の病変』は様々あり、『理学療法診療ガイドライン第一版』にもレッドフラッグに関する記載があったため、下記に載せておこうと思う。

 

以下は、「理学療法士協会HP 理学療法診療ガイドライン第一版:背部痛理学療法診療ガイドライン:3章理学療法評価の推奨グレード 2.理学療法士が知っておくべき診断の知識」からの引用。

 

 

個々のレッドフラッグは特異的病変に必ずしも関連していないが,詳細な検査を必要とする重篤な基礎疾患の存在する確率が高いことを示す。複数のレッドフラッグは詳細な検査を必要とする。

 

しかし,レッドフラッグはどのシステマティックレビューでも総合的に評価されていない。

 

33 件の学術的背景および18 件の開業医背景(患者総数19,312 例)をもつ最近の研究報告によると,脊椎腫瘍の有病率はそれぞれ0.69%および0.12%であった。

 

また,腫瘍性疾患に起因する脊椎の痛みがあり筋骨格系のリハビリテーション医に紹介された患者は,平均年齢65 歳であり,夜間痛,うずくような症状の発現,自然な症状発症,癌の病歴,歩行誘発性症状,および不明な体重減少などがある可能性が比較的高い。さらに,疼痛強度には幅があり,部位は広範囲であり,視覚的アナログスケール(visual analoguescale: VAS)の平均スコアは6.8 であった。

 

レッドフラッグを示さない場合,X 線検査を用いた慎重な臨床評価によって重篤な脊椎病変が発見される例は,患者2,500 例の中でたった1 例であったことが報告されている2)。すなわち,レッドフラッグにあてはまらない場合,重篤な脊椎病変が存在しないという信頼性は99%となる。

 

最初の臨床病歴聴取は,重篤な脊椎病変の可能性があるレッドフラッグを確認することを目的とすべきである。

 

レッドフラッグは,腰痛患者の既往歴や全身症状から発見されるリスクファクターであり,このような特徴をもたない患者と比較した場合,腰痛を引き起こす重篤な疾患リスクの高さと関連する。レッドフラッグにあてはまる可能性がある場合,感染症,炎症性リウマチ疾患,または癌などの重篤な基礎疾患を除外するための詳細な検査が必要とされる。

 

レッドフラッグは腰痛以外に認められる徴候であり,その例としては20 歳未満または55歳を超えて症状出現,最近の激しい外傷歴,一定で進行性の非機械的な疼痛(安静時に軽減しない),胸部痛,悪性腫瘍の既往歴,ステロイド剤の長期使用,薬物乱用,免疫抑制,ヒト免疫不全ウイルス,全身的な体調不良,原因不明な体重減少,広範な神経学的症状(馬尾症候群を含む),構造的変形,発熱などがある。

 

馬尾症候群は,患者が膀胱機能障害(通常は尿閉であるが,溢流性尿失禁の場合も時折ある),括約筋の障害,サドル麻痺,下肢の全体的衰弱や進行性衰弱,または歩行障害などの症状を訴える場合に存在する可能性が高い。

 

これには緊急の専門医の紹介が必要である。

 

すべてのガイドラインは,ある種の診断的トリアージについて提案しており,その中で腰痛は重篤な脊椎病変の可能性(腫瘍,感染症,炎症疾患,骨折,馬尾症候群などのレッドフラッグ疾患),神経根性疼痛,および非特異的腰痛に分類するとしている。

 

すべてのガイドラインで,診断手順はレッドフラッグの確認と特異的疾患(時に神経根症状が含まれていることもある)の除外に焦点をおくべきであるとされている。

 

レッドフラッグは腰痛以外の徴候であり,例えば,20 歳未満または55 歳以上の発症年齢,重篤な外傷,胸部痛,体重減少,および広範な神経学的症状などが含まれる。鑑別診断の重要度と基本的原則に関しては一般的なコンセンサスが得られているが,診断的トリアージとしての科学的根拠はほとんどない。

 

勧告として,

 

(1)重篤な脊椎病変と神経根性疼痛を除外するために初回の評価時に適切な病歴聴取と理学的検査からなる診断的トリアージを実施すること,

 

(2)重篤な脊椎病変と神経根性疼痛が除外される場合,非特異的腰痛として管理することをここに添えておく。

 

 

レッドフラッグとダイレクトアクセス

 

治療を行う場合、セラピストは以下などを考察・確認しながら進めなければならない。

 

  • 痛みを伴う手技と無痛の手技のどちらを選択するのか
  • 安全にその治療を行うにはどのくらいの力を加えるべきか(例えばイリタビリティーを考慮するなど)
  • 身体的な治療に対する制約があるか

 

でもって、潜在的な危険因子を確認するのに大切な方法の一つが「問診によるレットフラッグの確認」である。

 

※重複するが、レッドフラッグの確認は(あたかも筋骨格系障害のようにみえる)非筋骨格系障害を検知する上で重要な要素である。

 

 

海外におけるダイレクトアクセスと開業権

 

日本の理学療法士は処方箋やカルテ情報から事前の情報を得られるために対象者に対面する前から初期仮説を立案しやすい。

 

その後、姿勢・動作の観察、治療介入の各段階で仮説の検証による修正と新たな仮説の生成を繰り返している。

 

一方で他国では、前述したように「直接、理学療法の検査・治療を受ける権利(ダイレクトアクセス)」が認められている。

 

例えば以下などの先進諸国である。

・アメリカ

・ヨーロッパの国々

・オーストラリア

・・・・・など。

 

そして、これらの先進諸国の理学療法士は(日本の理学療法士とは異なり)理学療法の開始前からリスク管理、理学療法の適応の有無、初期仮説を生成するための情報を自ら収集しなければならない。

 

重複するが、これらの先進諸国では、患者が医師の診察を経ることがないため、(日本とは異なり)理学療法士自身がが患者に“潜む疾患”を発見する能力が問われている。

 

本来、医師の評価・治療を必要とする患者が、理学療法士のところに来た場合、医学的評価・治療を必要とする状況(症状・徴候)を識別し、患者を医師に紹介しなければならない。

 

ただし、開業が許されていない日本では、これらの体系化が十分発展していない。

 

しかし、前述したように慢性疾患で漫然と医師の診察を受けていたり(どうせ症状は変わっていないだろうと、ほぼ薬だけ処方されているような状態)、介護保険サービス(通所サービス・訪問リハビリなど)で長期に渡ってクライアントと接することがある場合においては、医師がレッドフラッグを見落としている可能性もある。

 

そのため、日本でもレッドフラッグの知識は持っておくに越したことは無いと思われ、ここで示してきたような判断(クリニカルリーズニング)は今後ますます求められると思われる。

 

 

 

関連記事

 

痛みの心理社会的要素を表す用語に『イエローフラッグ(更にブルー・ブラックフラッグにも分けるという考えも)』なる用語もある。

 

レッドフラッグとイエローフラッグの位置づけは以下の通り。

(画像引用:ペインリハビリテーション

 

 

 

そんな『イエローフラッグ』に関しては以下の記事で解説しているので、合わせて観覧してみてほしい。

 

イエローフラッグ/ブルーフラッグ/ブラックフラッグ |心理社会的要素

 

 

この記事では、問診の重要性について解説してきたが、そんな『問診』について深堀した記事が以下になる。

 

理学・作業療法士が重要視すべき問診を徹底解説!

 

 

理学療法士が知っておくべきクリニカルリーズニング(臨床推論)に関しては以下で解説している。

 

クリニカルリーズニング(臨床推論)って何だ?

 

 

雑記として、理学療法士・作業療法士の『開業・開業権』についての私見を記載している。レッドフラッグとは関係ない記事になるが、興味がある方は観覧してみてほしい。

 

理学療法士・作業療法士の開業権は将来もムリ、メリットも無し!