この記事では、歩行時における「上下・側方の重心移動」と「各関節の運動」について解説している。
ただ、この記事を観覧するには「歩行周期に関する予備知識」が必要なので、事前に以下の記事で情報を整理しておくことをお勧めする。
重心の上下移動と側方移動
歩行は「崩したバランスを回復する作業」の繰り返しで進んでいく。
つまり「前方へ傾斜させた身体を転倒させないようにバランスを回復させる」というのが歩行である。
成人の重心は、下から身長の55~56%の高さで仙骨の前面に位置している。
でもって「1歩行周期当たりの重心移動」は、前方移への移動に加え以下の2つも加わっている。
- 重心は上下移動
- 重心の側方移動
重心の上下移動の振幅は約5cmと言われている。
重心の左右方向の振幅は約4cmと言われている(頭部の左右方向の移動は重心の移動より大きく約6cmと言われている)。
そして、重心の↕・左右移動のどちらも歩行速度を上げると大きくなる。
エネルギー効率から考えると、この2方向の振幅を最小限にすることが経済的な歩行といえる。
重心の上下移動
重心の上下移動の軌跡は立脚中期が最高となり、踵接地期が最低となる。
重心の側方移動
重心の側方移動は立脚中期が最も左右に移動する時期である。
歩行時における各関節の運動
次に、歩行時における各関節の運動について記載していく。
歩行時の骨盤運動
自然な歩行速度での骨盤の前傾と後傾は、総計で4~10°程度とされている(文献により異なる)。
遊脚側の骨盤は水平の位置から下方に傾く。
最も傾斜が大きくなるのが立脚中期である(これにより重心の最高点を低下させている)。
この傾斜によって立脚側の股関節は相対的に内転し、遊脚側は外転する。
支持期の直上を通過するときに、この骨盤傾斜が起こるので、遊脚側は下肢を前方に振りだすために膝関節を屈曲しなければならない。
骨盤の傾斜によって、重心点の垂直方向への移動幅は減少する。
歩行時の股関節運動
股関節は、1回の歩行周期に伸展と屈曲を各1回行う。
- 股関節は、立脚相の踵接地期に約20~30度屈曲位となる。
- その後は伸展を続け、体幹は前方に移動する(踵離地期に約10度の最大伸展位となる)。
- 次に遊脚相では、下肢を前方へ降り出すために屈曲し、踵接地直前で30度をわずかに超えた最大屈曲位となる。
歩行時の膝関節運動
膝関節は1歩行周期に屈曲と伸展を2回行い、これは二重膝作用(double knee action)と呼ばれる。
- 支持脚は踵接地後、直ちに軽く屈曲する。
- 立脚相の後半に体幹が支持脚より前方に移動すると、膝は伸展する。
- その後(対側肢が着地すると)再び屈曲し、屈曲速度を増して遊脚相となる。
- 遊脚相の後半では、急速に伸展する。
- この時膝屈曲は遊脚初期に足を地面から引き離す(足クリアランス)のに役立ち、伸展は次の一歩を踏み出すのに役立っている。
二重膝作用(ダブル ニー アクション)
脚は膝関節を完全伸展位で踵接地して立脚相になり、その後に膝関節は屈曲して、足底接地まで屈曲を続ける。
立脚中期の後、体重が完全にかかる時期に膝関節はふたたび伸展し、踵が地面からはなれると同時に屈曲を始める。
膝関節の伸展一屈曲-伸展一屈曲の変化を二重膝作用(double knee action)といい、接地時の衝撃防止と重心点の垂直移動の振幅減少に役立っている。
歩行時の足関節運動
足関節は、1歩行周期に背屈運動と底屈運動を2回行う(膝関節と同様)。
- 踵接地期は軽度の底屈位となるが、その後さらに底屈して足底接地期を迎える。
- その後、体幹が前方へ進むにつれて再び背屈し、踵離地期には約10度の最大背屈位となる。この背屈は、体幹が支持脚の前方に移動するまで続く)。
- その後、再び足関節は底屈して踵離地となり、足趾離地後は急速に背屈に変わる。
- 遊脚相の足クリアランスでは、比較的長く背屈位を保つことになる。
足関節と膝関節の動きには密接な関係がある。
踵接地時期には膝関節は完全に伸展し、足関節は背屈している。
逆に膝関節が屈曲しているとき、足関節は底屈している。
この両者の関係も重心点の垂直方向への移動を少なくするのに役立つ。
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