この記事では、リハビリ歩行時に使用されることの多い用語でもある『トゥクリアランスtoe clearance)』について解説している。

 

目次

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トゥクリアランスとは

 

トウクリアランスとは以下を指す。

 

「歩行の振り出し」や「段差越え」の際の、爪先と床や段差との距離。
 
フットクリアランスと表現している書籍もあるが、「つま先」ということで「トゥ(toe)」という表現を用いている書籍が圧倒的に多い。

 

以下がトゥクリアランスである。

 

 

例えば平地歩行において、トゥクリアランスとは「つま先と床面との隙間のこと」なので、何らかの原因で小さくなれば、躓きやすくなる。

 

立脚肢は立脚中期以降、股関節と膝関節が伸展し、反対側の遊脚肢が地面につまずかないような高さに体重支持を行う。

また、遊脚肢も地面につまずかないように股関節と膝関節は屈曲し、下肢全体を短縮させる。この足趾と地面の距離を「トゥクリアランス」と呼び、健常では必要最小限の距離となっている。

 

トゥクリアランスが短すぎると躓きや転倒の原因となるため、(トゥクリアランスを長くする工夫として)片麻痺者では非麻痺側の伸び上がりや麻痺側下肢の分回し歩行などの異常歩行が現れやすい。

 

 

歩行周期とトゥクリアランス

 

歩行周期においてトゥクリアランスが生じるのは「遊脚初期(イニシャルスウィング)」である。

 

遊脚初期(ISw)は「右足趾が床から離れてから、十分な足部挙上(足部クリアランス)を確保後、立脚肢に並ぶまでの相」である。

 

一方で、歩行周期においてトゥクリアランスを確保するために重要なのは「遊脚前期(プレスウィング)」であると言われている。

 

厳密には、(ターミナルスタンス~)プレスウィング時に生じる「ロッカーファンクション(フォアフットロッカー)」が重要視されており、以降はフォアフットロッカーについて記載していく。

 

 

フォアフットロッカーについて

 

フォアフットロッカーは前足部内側の前縁と母趾の部分を下肢の前方への推進の中心とし、ターミナルスタンス~プレスウィングで起こる。

 

※以下がフォアフットロッカーのイラスト。

フォアフットロッカー,ロッカーファンクション

 

でもってフォアフットロッカーの終わりごろ、前脛骨筋と足趾伸筋群が筋活動を開始し、トゥクリアランスに向けた準備が行われる。

 

フォアフットロッカーは前足部内側の前縁と母趾の部分を下肢の前方への推進の中心となる。

 

腓腹筋に蓄積されたエネルギーによって足関節底屈し、脛骨はトウロッカーの上を前進する。

 

でもってフォアフットロッカーの終わりごろ、前脛骨筋と足趾伸筋群が筋活動を開始し、トウクリアランスに向けた準備が行われる。

 

 ※そして「遊脚前期(プレスウィング)」から「遊脚初期(イニシャルスウィング)」へ移行する。

 

 

用語の整理をしよう

 

立脚相である「立脚後期(ターミナルスタンス)」「遊脚前期(プレスウィング)」や、遊脚相である「遊脚初期(イニシャルスウィング)」など歩行周期に関しては、以下の記事でまとめているので用語の整理をしてみてほしい。

⇒『リハビリに必要な『歩行分析の基礎知識』まとめ一覧

 

ロッカーファンクションは、フォアフットロッカー以外にもヒールロッカー・アンクルロッカーなども存在し、これらは以下の記事で解説している。

⇒『歩行に必要な「ロッカー機能(ロッカーファンクション)」の知識を分かり易く解説!

 

 

遊脚後期における「股関節伸展」の重要性(二重振り子の振り出し)

 

遊脚期にトゥクリアランスを得るためには、膝関節が屈曲していなければならない。

 

でもって、「遊脚期に生じる膝の屈曲運動」は「二重振子の性質に基づいた慣性による運動」である。

 

「二重振りによる下肢の振り出し」とは

 

プレスウィングの時期に足先がまだ接地しているにもかかわらず、大腿部の前方移動が始まり、遊脚の進行方向への運動エネルギーが増加する。

 

このため、大腿部の重心移動は下腿に先行して生じることになり、大腿部の振子に対して下腿の振子の位相は遅れる。

 

それによりイニシャルスウィングの膝関節屈曲が形成され、遊脚のクリアランスが生じることになる。

 

 

なので、もし大腿部の前方移動を生じさせるための十分な股関節屈曲モーメントがなければ、膝関節の屈曲も生じにくくなる。

 

これらのことから、以下を頭に入れておく必要がある。

 

歩行において遊脚期の膝屈曲角度が不十分な場合、膝関節の問題ではなく、股関節の運動障害が原因になっていることがある。

 

遊脚期の下肢の動きは前遊脚期の振り出しの結果であるため、遊脚期の問題の改善には立脚期の身体の動きが大きく影響している。

例えば片麻痺者の遊脚期の膝関節屈曲について調べた研究によると、膝屈曲が不足する主な要因は前遊脚期の下肢の振り出し速度の不足であることが明らかになっている。

この点は、立脚期へのアプローチによって遊脚期のクリアランスの改善につながると考えられる。

 

プレスウィング時の「股関節の伸展」は、歩行におけるセントラルパターンジェネレーター(CPG)としても重要な可能性がある。

CPGに関しては以下の記事で紹介しているので、併せて観覧することで「股関節伸展の重要性」の理解が深まると思う。

 

⇒『歩行リハビリで『CPG(セントラルパターンジェネレーター・中枢性パターン発生器)』を賦活せよ!

 

 

トゥクリアランスを高くするための様々な工夫(代償動作)

 

遊脚期の膝屈曲角度が不十分な歩行ではクリアランスの低下が生じるために、骨盤の引き上げやぶん回し歩行といった典型的な歩容を呈することがある。

 

平地歩行においてトゥクリアランス(地面からつま先がどの程度上がるか)が短くなるのを防ぐため、以下の様な代償動作を生じることがある。

 

骨盤の挙上(体幹側屈)

遊脚側骨盤を側方挙上させる(体幹側屈も含む)。逆に反対側の骨盤の落ち込みによって、場合によっては反対側のトゥクリアランスが阻害される(教科書的にはトレンデレンブルグ歩行がイメージしやすい)。

 

股関節の外転

遊脚期における過度な外転。

いわゆる「分回し歩行」。

 

股関節の外旋

遊脚期における過度の股関節外旋。

トゥクリアランスを得るためだけでなく、股関節屈筋群の筋力不足にかかわらず脚を前方へ運ぶための意図的運動なこともある。

 

股関節の屈曲

遊脚期において股関節の過度の屈曲。

場合によってはトゥクリアランスの確保に有効な場合がある。

ただし、エネルギー消費が増大するため非効率。

 

 

関連記事

⇒『跛行(はこう)とは! 異常歩行(歩行障害)の全種類・原因を網羅する

 

 

リハ中の転倒にも注意せよ!

 

トゥクリアランスに応じた環境整備も重要となる。

 

例えば、「トゥクリアランスに応じた段差の補正」や「滑りやすい床の材質の評価」・「足元の明るさの確保」などで転倒のリスクを軽減させる。

 

また、リハ中も以下などの評価時はトゥクリアランスが短くなりやすい。

 

これらの歩行試験では、患者は普段の練習ではあまり行わない、最大努力での歩行を行っている。

 

そのため筋緊張が亢進・遊脚期のトウクリアランスが不良となってつまずきが生じやすくなる。

 

※患者の「できるだけよい結果を出したい」という気持ちも、この傾向を助長させる。

 

※歩行速度が速いほど、つまずいた際の前方への身体傾斜速度も速くなるため、セラピストは普段の歩行よりもつまずきへの対応を強化する必要があるそれにもかかわらず、セラピストがストップウォッチを手にし、歩数やタイムの計測に気をとられていると、患者のつまずきにとっさに対応できず、転倒させてしまうことになる。

 

試験中は、普段よりトゥクリアランスが得にくくなるので、転倒には十分注意しよう。

 

 

関連記事

 

記事の中盤にも記載したが、 立脚相である「遊脚前期(プレスウィング)」や、遊脚相である「遊脚初期(イニシャルスウィング)」など以下の記事でまとめているので用語の整理をしてみてほしい。

⇒『リハビリに必要な『歩行分析の基礎知識』まとめ一覧

 

ロッカーファンクションは、フォアフットロッカー以外にもヒールロッカー・アンクルロッカーなども存在し、これらは以下の記事で解説している。

⇒『歩行に必要な「ロッカー機能(ロッカーファンクション)」の知識を分かり易く解説!