この記事では、歩行におけるリハビリ(理学療法・作業療法)の基礎知識として知っておきたい『ロッカー機能(ロッカーファンクション)』について記載していく。

 

ロッカー機能は中枢ジェネレーター(CPG)を賦活する上でも非常に重要なので、ぜひ観覧してみてほしい。

 

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目次

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歩行に必要な『ロッカー機能(ロッカーファンクション)』とは?

 

歩行の前方への動きには、身体重量が前方に落下する力が駆動力として利用される。

 

この動きは、その際のメインシステムである「踵+足関節+中趾節間関節」によってもたらさられると考えられている。

 

でもって、この行程はPerry(1992)が『ロッカーファンクション』と呼ぶ「揺りてこ」のメカニズムに基づき足底に作られた支点を中心とする回転運動に変換される。

 

Perry(1992)は歩行における3つの回転軸をヒールロッカー、アンクルロッカー、フォアフットロッカーと呼んでいる。

 

ロッカーファン各々の軸をイラストでイメージ

 

前述したように、ロッカー機能(ロッカーファンクション)とは、「歩行の立脚期」に起こる以下の3つを指す。

 

  • ヒールロッカー(Heel Rocker)
  • アンクルロッカー(Ankle Rocker)
  • フォアフットロッカー(Forefoot Rocker)

 

でもって、これらロッカー機能によって、立脚期の身体がロッキングチェアの様に回転しながら前方に移動していく(~画像引用:ゲイトソリューションのパンフレットより~)。

 

 

各々の回転の中心は以下の通り。

 

  • ヒールロッカー   ⇒踵
  • アンクルロッカー  ⇒足関節
  • フォアフットロッカー⇒前足部

 

この様に回転中心が徐々に前方へ移動することによって、身体も前方移動する。

 

ヒール、アンクルそしてフォアフットロッカーを的確に評価する練習を積むと、PTは目の前に起こっている立脚期の動きの流れの全容を素早く把握することができる。

 

観察されたロッカーファンクションは、「過多」、「不足」、「正常」のいずれかで評価され、それぞれのロッカーは定義された時間の中で固有の回転軸を持っている。

 

正常な機関を越えてこの回転軸が損じしていると、そのロッカーファンクションは「過多」と評価される。

 

それぞれの回転軸が時間的に正常より短かったり、全く存在しない時はそのロッカーファンクションは「不足」と評価される。

 

~『観察による歩行分析』より引用~

 

ヒールロッカー(踵ロッカー)の特徴・機能

 

ヒールロッカーにより、身体は踵を中心に回転する。

 

ヒールロッカーの機能は以下の通り。

  • 衝撃吸収、および床に向かう力を前に向かう力に変換する。
  • イニシャルコンタクト~ローディングレスポンスの間に起こる。
  • 前脛骨筋群・大腿四頭筋などの遠心性収縮により衝撃が吸収され、踵の船底のような形状により回転運動が行われる。

ヒールロッカーは「初期接地から荷重反応期に起こる機能」である。

 

この時期は、足関節の前脛骨筋(足関節背屈筋)は遠心性収縮を起こしている。

また、大腿四頭筋も(膝伸展位から軽度屈曲位へ)遠心性収縮を起こしている。

 

~画像引用http://www.nedo.go.jp/hyoukabu/articles/201004kawamuragishi/pdf/kawamuragishi_f.pdf~

 

前脛骨筋の筋活動によって足部と下腿は連結されているため、初期接地直後に踵部を回転軸として下腿が前方へ傾斜される。

 

それにより膝部は前方に引きだされて、前方への推進がスムーズになる。

 

 

ヒールロッカー+アンクルロッカーによる(推進力の伴った)重心の上昇

 

ヒールロッカーによって重心の持ち上げが始まり、(後述する)アンクルロッカーで更に重心は上昇する。

 

この「ヒールロッカーとアンクルロッカー(の中盤まで)による重心の上昇」は、その後の重心下降を伴う推進力を引き出すのに重要な役割を持つ。

 

 

アンクルロッカー(足関節ロッカー)の特徴

 

アンクルロッカーにより、身体は足関節を中心に回転する。

 

アンクルロッカーの機能は以下の通り。

  • 重心を前方に回転させる。
  • ミッドスタンスの間に起こる。
  • 下腿三頭筋の働きによって下腿の前方への動きを安定させながら、回転運動によって下腿を前方に傾ける。

 

アンクルロッカーは単脚支持期で起こり、重心最高点から重力によって下降する動きに対して足底屈筋の遠心性収縮で下肢の前傾にブレーキをかけ、股関節屈筋群を伸ばしながら、(体幹直立位のまま)股関節を伸展していく。

 

先ほど「ヒールロッカーとアンクルロッカー(の中盤まで)による重心の上昇は、その後の重心下降を伴う推進力を引き出すのに重要な役割を持つ」と解説した。

 

でもって、この推進力は、その後に再び起こる「重心上昇を伴う推進力に必要な筋活動(イニシャルコンタクトからミッドスタンスの中盤までに必要な筋活動)」をサポートしてくれる。

 

これはジェットコースターをイメージすると分かり易い。

 

一番最初に高所までゆっくり上昇するためには電力(筋力)が必要だが、一度そこに到達して急落下した後は、その推進力でジェットコースターは動き続ける。

 

以下は、歩行時の重心の上下移動を示している(何となくジェットコースターをイメージしてもらえないだろうか)。

 

※~『画像引用:ゲイトソリューションのパンフレットより』~

 

だからこそ、「ロッカー機能を十分活用しなががら、一定の推進力を維持したままでの(テンポの良い)歩行は疲れにくく効率も良い」ということになる。

 

実際の歩行は重心が上下しすぎる弊害もあり、だからこそ重心の上下動を最小限にするための機能も身体には備わっているが、ここでは敢えて「ロッカー機能によって起こる重心上下動のメリット」を解説してみた。

 

フォアフットロッカー(前足部ロッカー)の特徴

 

フォアフットロッカーにより、身体は中指節間関節を中心に回転する。

 

フォアフットロッカーの機能は以下の通り。

  • 重心の下降を緩やかにする。
  • ステップ長を調整する。
  • ターミナルスタンス~プレスイングの間に起こる。
  • 腓腹筋とヒラメ筋が、最大筋力の約80%の力で足関節背屈しながら下腿が前方に倒れていく速度を減速するように働く。
  • これにより、対側下肢の振り出しの時間的余裕が生まれる。

 

フォアフットロッカーは前遊脚期で起こり、下腿三頭筋は(前述したアンクルロッカーの際と異なり)求心収縮を起こすことで足関節を底屈させる。

 

でもって、足関節底屈筋を含めた筋活動によって「床への蹴りだし(Push off)」が起こる(Push offに関しては議論があるようだが、リハビリにおいては、これを意識させるのことは重要だったりする)。

 

その後、遊脚期に入ると同時に、足関節は背屈筋群の収縮に切り替わる(つまり下腿三頭筋は活動しなくなる)。

 

正常歩行においては、(初期接地で踵が床と接触してヒールロッカーが起こり)アンクルロッカーからフォアフットロッカーへの移行がスムーズに行われて初めて、効率の良い歩行が実現されるのだが、股関節の伸展制限・足関節の背屈制限、下肢の支持性低下などによって実現されない事もある。

 

でもって、これらロッカー機能の獲得が可能かどうかも見極めながらリハビリ(理学療法・作業療法)を実施していくことは大切になる。

 

 

例えば、脳卒中片麻痺患者のロッカー機能と歩行パフォーマンスに関しては以下などと言われている。

 

※以下では、『pudh off』の代償として『pull off』という表現を用いている。

 

片麻痺者の歩行については多くの先行研究があり、歩行速度の低下や歩幅の非対称性などが指摘されている。

 

 

歩行速度低下と関連する要因を調べた研究も数多く行われ、その多くが麻痺側立脚後期後半の床反力前方成分の減少、足関節底屈モーメントの減少、底屈筋の活動の低下が歩行速度低下と関連すると報告している。

 

多くの文献の結果をまとめると、麻痺側の立脚後期後半に足関節底屈モーメント低下によりpush offが減少し、代償として股関節屈筋による大腿部の引き上げ(pull off)が行われるとしている。

 

~『脳卒中片麻痺者に対する 歩行リハビリテーション』より引用~

 

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ロッカー機能を有した装具も開発されてるよ

 

プラスチックで足関節を固定してしまうような下肢装具がある一方で、ロッカー機能を有した装具も開発されており、例えばゲートソリューションなどが該当する。

 

ゲートソリューションデザインな装具の特徴は以下の通り

(画像引用:ゲートソリューション装具のパンフレットより)

 

 

脳卒中片麻痺では、(体幹の機能に比べて)下肢(特に足関節から遠位)の機能は改善が遅かったり難しかったりする。

 

でもって、ゲートソリューションの様にロッカー機能を引き出せる装具を使用した歩行練習は、正常歩行(効率の良い歩行)を再獲得する上でも重要となる。

 

 

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合わせて観覧してもらうと歩行への理解が深まると思うので是非!!

 

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