この記事は、高齢者の尿失禁(尿もれ)などの排尿トラブル(つまりは排尿障害)についての一般的知識について記載している。
尿失禁(尿もれ)などの排尿トラブルを有している高齢者は多いため、通所リハビリ・訪問リハビリに携わりっていたり、本人や家族・職員へアドバイスする理学・作業療法士にとってもこれらの知識は大切となるため、是非観覧してみて頂きたい。
排尿について
尿は、腎臓で生成される液体状の排泄物で、血液中の水分や不要物、老廃物からなる。
腎臓で血液をろ過することで産生された尿は、尿感を経由して暴行に蓄積され尿道孔から排出される。
膀胱の容量は成人で平均500ml程度で、膀胱総容積の5分の4程度蓄積されると大脳に信号が送られ、尿意をもよおす。
高齢者は排尿回数が増え、1回の尿量が減少していく傾向がある。
また、昼に比べて夜の尿量が増えるのも一般的な傾向である。
※夜間に尿量が増えるのは、心臓・腎機能やホルモンの働きが低下するためとされている。
尿意が起こって排尿に至るまでを詳しく解説
尿意が起こって排尿に至るまでを、もう少し詳しく解説していく。
膀胱内の尿量がある程度になると、体外に排出される。
膀胱に全く尿がないときは、膀胱内圧は0に近いのだが、100mlほどたまり始めると、内圧は上昇し、150~300mlほどたまると、尿意がまし内圧は更に上昇する。
でもって、一定の内圧を超えると意志の力で排尿を押さえることが出来ず、尿道括約筋の収縮が内圧に抗しきれなくなり、排尿が起こる。
また排尿時、筋肉では、膀胱括約筋は弛緩し尿道括約筋が収縮している必要がある。
膀胱に一定量の尿が溜まると、膀胱壁が伸展して膀胱に圧が加わり、知覚神経・骨盤神経を通して刺激が脊髄に伝わると尿意を感じ、腹圧をかけることで尿が排泄される。
※画像引用:月刊デイVol212
排尿筋 | 内尿道括約筋 | 外尿道括約筋 | 生理作用 | |
---|---|---|---|---|
下腹神経(交感神経) | 弛緩 | 収縮 | 支配なし | 排尿の抑制 |
骨盤神経(副交感神経) | 収縮 | 弛緩 | 支配なし | 排尿の開始 |
陰部神経(体性神経) | 支配なし | 支配なし | 収縮 | 排尿の一時停止 |
1日における正常な尿量
1日における正常な尿量の目安は以下の通り(ただし、文献によって多少異なる)。
正常な尿量(成人):
・1200~1500cc/日
・200~300cc/回
正常な尿量(高齢者):
・1100~1200cc/日
・100~1500cc/回
排尿障害
尿を蓄えたり、排出に関わる器官・機能の異常が原因で、排出に異常があることを「排尿障害」と呼ぶ。
排尿障害の原因には、以下のようなことが考えられている。
- 神経系の障害
脳や脊髄が膀胱尿道の状態を感知して命令を出す機能の障害
- 排出器官の障害
膀胱・尿道・尿道括約筋・前立腺などの障害
様々な排尿障害
排尿障害には様々な種類があるが、ここでは以下について記載していく。
- 尿失禁(尿もれ)
- 頻尿
- その他の排尿障害(乏尿・尿閉・無尿・多尿)
尿失禁(尿もれ)について
尿失禁(尿もれ)とは、自分の意思とは関係なく排尿されることで、症状によって以下のように分類される。
尿失禁タイプ |
病態 |
原因 |
|
蓄尿障害 |
切迫性尿失禁 |
蓄尿時に膀胱が勝手に収縮し、突然尿意が起こり、尿がしたくなると我慢できずに漏れる |
膀胱への刺激(膀胱炎など尿路感染、前立腺炎、化学療法・放射線など) 排尿に関わっている神経の問題(神経因性膀胱)→脳卒中の高齢者でみられる 前立腺肥大 |
腹圧性尿失禁 |
咳やくしゃみ、重い物を持つなど、腹圧がかかる時に尿道括約筋がしまらずに漏れる。 |
尿道括約筋障害(内因性括約筋不全・前立手術など)骨盤底の筋肉の弱り 加齢・分娩・肥満などによっても骨盤底筋群は弱化する。 もともと女性は骨盤底筋群が弱くなり易い 骨盤底弛緩・膀胱下垂(出産、便秘、肥満など)
|
|
機能性尿失禁 |
尿意が無く、沢山漏れてしまう。 膀胱・尿道機能に関係なく、認知症やADL低下によってトイレで排 尿ができずに漏らす。 |
神経因性膀胱(脳血管障害・脊髄疾患など) 知能精神障害(認知症など) |
|
尿排出障害 |
溢流性尿失禁 |
多量の残尿があるため、尿が尿道より溢れて、常にチョロチョロ漏れる |
前立性肥大 尿道の狭窄 神経因性膀胱(脊髄疾患・骨盤内手術・糖尿病性末梢神経障害など) |
※これらは混合していることもあるので総合的に判断する必要あり。
高齢女性の尿漏れの原因は、腹圧が加わった拍子に外尿道括約筋が緩んでしまう腹圧性尿失禁であることも多く、これは骨盤底筋群のエクササイズで改善が期待できる。
一方で、加齢とともに過活動膀胱や尿路感染症が増え、急に出たくなってトイレに間に合わず漏れることも多くなり、前立腺肥大の男性は少しづつ漏れ出る溢流性尿失禁が多く起きる。
高齢では尿路に問題がなくとも、ADL低下でトイレが遠くて間に合わず漏らしてしまうということもあるが、それは生活環境の工夫で対処出来る可能性がある(例えば部屋を変える、動線に手すりを設置するなど)。
※尿失禁の予防・リハビリに関しては以下を参照。
骨盤底筋が尿失禁(尿もれ)予防に重要な件
頻尿について
- 頻尿とは
通常1回の尿の量は300mlくらい膀胱にたまるまでは我慢できる。
しかし、それほどたまっていなくても膀胱炎などの場合、尿意を我慢できないことがある。
多く水分を摂取すれば容量や排尿回数は増えるが、それでも日中9回、夜間3回以上トイレへ行く頻尿、あるいは1日2.5ℓ以上の尿が出る多尿は異常と言える。
- 頻尿の原因
頻尿によって疑われる原因は以下の通り
・尿路感染症
・過活動膀胱
・残尿(排尿後にも膀胱の中に尿が残ること)
・多尿(糖尿病などが原因で起こる)
・腫瘍
・前立腺肥大症
・心因性
・・・・・・・・・・・・・・など
尿路感染症のことが多いので、残尿感や排尿時の痛みの有無の確認、尿量の確認が有効 。
※加齢とともに尿量は徐々に変化してくるため、「尿量の急な変化」に注意するよう心掛ける。
※通所サービスでは、緊張や不安の強い利用者では、心因性で頻回になる場合もある。
- 排尿時の痛みや残尿感について
排尿時に痛みや、排尿後に尿が残っているような感じ(残尿感)を訴える場合は、膀胱あるいは尿道に異常があることが多い。
最も多いのは膀胱炎・尿道炎・前立腺炎だが、膀胱がんや膀胱結石の可能性もあり、女性では子宮筋腫や子宮がんの可能性もある。
- 加齢による頻尿への考察
水分摂取が体にいいからと必要以上に水分を取って夜間頻尿を起こすケースも増えている。
夜は利尿作用の強いお茶は避け、少しの白湯にするなど水分の取り方を工夫するのも一つの手段と言える。
頻尿の病気を探るには排尿回数の他に、尿量の測定も必要となる。眠りが浅いために、夜目覚めてトイレに行きたいと思いこむこともある。
その場合は、頻尿より不眠対策が先となる。過活動膀胱や膀胱炎などの尿路感染症による頻用も高齢ではよくある。
その他の排尿障害について
その他の排尿障害として、以下のような種類がある。
- 乏尿(ぼうにょう)
400cc以下/日
排尿量が減少した状態
- 無尿
50cc以下/日
腎臓での尿生成低下や尿感の閉塞などで尿量が著しく減少した状態
原因として疑われる疾患⇒前立腺肥大・腫瘍・心不全
- 尿閉
尿意がある(膀胱に尿がたまっている)にもかかわらず、尿が全く出なくなる状態。
前立腺肥大が原因なことが多い。
肥大した前立腺が膀胱の出口をふさいでしまうことが原因の大部分とされる。
長時間尿が出ない、下腹部が張っている、下腹部が痛いなどの症状があれば受診が必要となる。
- 多尿
3ℓ以上/日
排尿量が多量な状態
原因として疑われる疾患⇒尿崩症・糖尿病・電解質異常など
尿路感染症と過活動膀胱
最後に、「尿失禁(尿もれ)」の項目でも記載している「尿路感染症」と「過活動膀胱」について解説して終わりにする。
尿路感染症(膀胱炎や腎盂炎など)
尿路感染症のほとんどが尿道口から上がってきた菌が炎症を起こすタイプとされている。
脱水などで尿が出ない、疲れや冷え、免疫低下などが引き金となり、尿道の短い女性や前立腺に問題がある高齢男性に起きやすく、尿路カテーテルを入れていると頻度が高くなる。
高齢では膀胱炎でも排尿時痛がなく、慢性化し夜間頻尿しか起こらず年のせいと見過ごされることもある。
従って、夜間頻尿を訴える高齢者がいれば、一度泌尿器科の受診を勧めてみるのも良いかもしれない。
菌が腎臓の入口(腎盂)まで親友したのが腎盂炎で、急性では高熱や腰背部痛が出現するが、元々尿路や免疫に問題がある高齢者の場合は慢性の腎盂炎となり、ほとんど症状がないまま気付かれず、急に悪化し慢性腎不全となることもある。
従って、微熱や軽い背部痛でも高齢者の場合は尿路の病気も疑った方が良いのかもしれない。
※症状がなくとも尿検査で発見できる。
※尿が濁ることなども重要な徴候といえる。
過活動膀胱
膀胱が勝手に収縮するため、急にトイレに行きたくなり、時に間に合わず漏らしてしまうことがある(切迫性尿失禁)。
加齢による膀胱の機能低下でも起きるため高齢になるほど増えてしまう。
膀胱の収縮をおさえる薬(抗コリン約)が治療の基本となるが、骨盤底筋群の訓練で外尿道括約筋を鍛えることも尿漏れ予防に役立つ。
脳卒中、パーキンソン病、糖尿病の神経障害などの神経障害が原因となることもある(神経因性膀胱)が、その場合は反射性尿失禁や、逆に排尿しにくい・閉尿なども起きる。
排尿が難しく残尿が多い場合はカテーテルで導尿をする。
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