この記事では高齢者のリハビリ(理学療法・作業療法)に携わる上で注意すべき『脱水』について解説していく。

 

目次

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脱水は2種類に分けられる

 

脱水は大きく分けて以下の2つに分けられる。

 

主に水分が減る脱水

 

水分を著しく大量に喪失することによって生じる脱水であり、専門用語で『高張性脱水(水欠乏性脱水)』とも呼ばれる。

 

「水分が減る脱水」では、細胞外液のナトリウム濃度が上がり細胞の中から外へ水分が移動し細胞内の水が減るため意識障害などの危険が大きい。

 

主な原因:

・尿崩症による尿量増加

・発熱などによる不感蒸泄の増加

・・・・などなど

 

主な症状:

・舌や口の乾燥

・尿量が減る

・皮膚乾燥

・意識障害

・喉の渇き(高齢者では感じにくい)

 

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主にナトリウムが減る脱水

 

「主にナトリウムが減る脱水」は専門用語で『低張性脱水(ナトリウム欠乏性脱水)』とも呼ばれる。

 

「ナトリウムが減る脱水」では、「水分が減る脱水」とは逆に細胞外から細胞内へ水分が移動するため血漿量が減り血圧が低下し頻脈が起き、間質液の減少皮膚の弾力が低下する。

 

ただし、細胞内液は減らないので、あまり口は乾かない。

したがって、水分だけでなく塩分の補給にも気を配ることは大切となる。

 

主な原因:

以下などによりナトリウムを喪失したにもかかわらず、電解質の十分な補充が行われない場合に生じる。

・大量の下痢や嘔吐

・発汗

・イレウス

・胃液や腸液などの消化液のドレナージ

 

主な症状:

・頻脈
・皮膚の弾力性低下

・血圧低下や立ちくらみ

 

ナトリウム欠乏性脱水の時に大量の水を補給すると、ナトリウム濃度が更に薄まるため、身体は水を排出する方向に動くので脱水が更に進行する。

 

なので、脱水時の水分補給はナトリウムなどの電解質を含んだものを摂取することが望ましい。

 

脱水が起こらないよう常に注意が必要だが、特に真夏や入浴後といった汗を多くかいてしまう際に注意する必要がある。

 

 

日本人は、水分が減る脱水が圧倒的に多い

 

脱水には以下の2種類が存在すると前述してきた。

 

  • 水分が減る脱水
  • ナトリウムが減る脱水

 

でもって、日本人の脱水は圧倒的に『水分が減る脱水』が多いと言われている。

 

その理由は、日本人の多くがすでに食事で必要量を上回る塩分を摂取している傾向にあるからだとされている。

 

従って、基本的に塩分に神経質になる必要はなさそうである。

 

ただ、塩分が必要な目安として以下などを上げる専門家もいるので参考にしてみても良いかもしれない。

 

  • 長時間、玉のような汗をかくとき
  • 腕などを水洗いしてから舐めても、しょっぱいと感じるとき

 

 

なぜ高齢者は脱水を起こし易いのか?

 

先ほど、「低張性脱水」「高張性脱水」それぞれを起こし得る原因を一般論として記載した。

 

でもって、高齢者は以下の理由で脱水を起こしやすいとされている。

 

  • 喉が乾かない
  • 食欲低下による水分・塩分の不足
  • 水分の貯蓄が少ない

 

 

喉が乾かない

 

私たちは口渇感を有しており、この口渇感が定期的な水分補給を可能とする。

 

しかし、高齢者の中には、口渇感が薄れてしまう人も存在し、その様な場合は意識的に水分補給をする必要がある。

 

従って、「喉が渇いていないのに水分補給をすること」の意味を伝えることは重要となってくる。

 

一方で、高齢者が水分摂取しない理由は、口渇感だけの問題ではなく、持病の影響であったり、(飲むことも含めて)物事が億劫になっているなどの精神的な問題が複雑に絡み合っていることもあり、自発的な水分補給が難しい場合もある。

 

この様な場合、こちらが水分補給を促す際は、本人の好みな味付けである飲み物であれば、水分補給し易いかもしれない。

 

※ただし、中には糖分が多く含まれているものものあるので、糖尿病(あるいは糖尿予備軍)には注意が必要である。

 

また、コーヒーや紅茶の利尿作用がある飲み物では、体内の水分が逆に減少してしまう可能性があるため、積極的な摂取は「脱水予防」という視点からは望ましくない。

 

 

食欲低下による水分・塩分の不足

 

食事には多くの水分が含まれている。これは一見含まれている水分が少なそうな料理も同様である。

 

したがって、食欲低下は脱水を起こし易い。

 

また、先ほど「日本人は塩分不足による脱水を起こすことは稀である」と述べ、その理由として「食事で十分すぎる塩分を摂取しているからだ」としたが、

 

高齢者で「そもそも十分な食事すらとれていない場合」は塩分不足の脱水が生じる可能性も有り得る。

 

重複するが、食事の摂取量が減ると(食事に含まれている塩分も摂取することが出来ないので)身体におけるナトリウムが不足してしまう。

 

高齢者における塩分の過剰摂取は問題となるが、薄味の食事に留意しているところに食欲不振が加わるとナトリウムが不足してしまう可能性も出てくる。

 

そんな「ナトリウム不足な状態で、水分だけを積極的に補給してしまう」とナトリウム濃度が薄まりすぎることによる脱水に陥る可能性もある。

 

 

水分の貯蓄が少ない

 

人間には「摂取した水分を貯蓄する能力が」備わっており、しっかりと水分補給をしておけば、ある程度は貯蓄した水分でやり繰りが可能である。

 

しかし一方で、体内に水分をためておけない『ドライボディー』の人が存在することも知られており、このタイプの人は、自覚がないままに脱水症状に陥りやすいとされている。

 

でもって、ドライボディーの原因は「筋肉不足」であり、この筋肉こそが水分を貯めておくタンクの役割を持っているのだ。

 

筋肉のタンク機能は加齢によって衰えていき、80歳では若いころの半分の量にまで落ちてしまいまう。

 

※ちなみに、加齢による筋力低は不可抗力で、『サルコペニア』と呼ぶ

(厳密には「年齢(加齢)以外の原因が無いサルコペニア」とうことで『一次性サルコペニア』と呼ばれる。)。

関連記事⇒『サルコペニアとフレイル(+違い)

 

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脱水の見つけ方

 

脱水を発見する際は、以下がポイントとなる。

 

  • 暑い(真夏・入浴など)のに汗をかかない

 

  • 腋窩に触れてみる(脱水では乾いている)

     

  • 皮膚をつまんでみる
    (専門用語で『ツルゴールテスト(turgor test)』とも呼ばれる。

    脱水していると、つまんだ皮膚が2秒以上立ったままになることがあり、これは皮膚のハリが低下していると起こる状態である(専門用語で『ハンカチーフサイン』などとも呼ばれる)。

    高齢者はそもそも皮膚のハリが低下しているため、前胸部などの「高齢者でも皮膚のハリを保ちやすい部位」での評価が有効(鎖骨よりやや下なら服を着用したままでも触れやすいといったメリットも)。

 

  • 舌や口の中が渇いている

 

  • 排尿の頻度や量が少ない
    (水分摂取していないことが起因する)

 

  • 排尿の頻度や量が多い
    (腎不全や利尿剤などにより体内の水分が抜けてまう)

 

  • 心臓の高さに置いて爪を押してみる
    (専門用語で『ブランチテスト(blanch tes)』と呼ばれる)

    →爪の色はピンク色だが、爪を圧迫すると白くなる。ただし、圧迫を解除すると直ちにピンク色に戻る。

    →しかし、脱水が生じているとピンク色に戻るのに2秒以上かかる。

    ※ただし、貧血だと元々爪が白いのでこの方法は使えない。

 

補足:ブランチテストについて

 

補足としてブランチテストについて補足しておく。

 

方法

対象者の爪床を白くなるまで圧迫(5秒など)した後、圧迫を解除する。

 

結果と解釈

  • 赤みが2秒以内に戻る⇒末梢循環に問題ない
  • 赤みが戻るまでに2秒以上かかる⇒ショック・脱水などの末梢循環不全を疑う

 

ただし、この「2秒」は年齢・性別など個人差が大きいのであくまで目安。。

 

 

バイタルチェックも忘れずに!

 

バイタルチェックからも脱水の可能性を考えることが出来る。

 

具体的に、脱水が生じた際のバイタル変化は以下の通り。

 

  • 発熱(不感蒸泄の増加による)
  • 脈拍の増加
  • 血圧の低下
  • 脈圧の増加(脈圧70mmHg以上)⇒拡張期血圧のみ低下した場合
  • 脱力・意識障害

 

※血液検査では、血中尿窒素(BUN)やクレアチニン(Cre)の上昇がしていないか確認する(脱水では上昇する。また、BUN/Cre比の上昇も重要な所見となる)。

 

 

バイタルサインの一般的な知識は以下でまとめているので、興味がある方は合わせて観覧してみてほしい。

 

⇒『バイタルサイン(vital signs)の基準値をザックリ理解!

 

 

脱水の予防に必要な水分摂取量

 

脱水を予防するためには十分な水分摂取が必要となってくる。

※実際には塩分(ナトリウム)も大切。

 

そして、1日に身体から出ている水分は「最低でも不感蒸発量+尿量」であることから、最低でも同程度の水分摂取が必要ということになる。

 

そこから算出される必要水分量は、一般的には2ℓと言われており、更に発汗で水分が失われることを考えると、1日で必要な水分摂取量は2ℓ以上ということになる。

 

ただし、前述したように「食事」にも(私たちが予想する以上に)水分が備わっているため、(きちんとした食事を毎食摂取出来ていると仮定すれば)毎日水を2リットルもガバガバと飲まなければいけないという単純計算にはならない。

 

一方で、真夏で汗をかきやすい時期であったり、入浴直後であったりは身体の水分量が減少しているため、意識的に摂取する必要がある。

 

 

高齢者と若年者では水分摂取量が異なる

 

高齢者では、発汗量や尿量の減少、エネルギー消費量の低下などから、水分排泄量が減少している場合が多い。

 

また、腎臓や心臓の機能などが低下していることも少なくないため、過剰な水分摂取により、浮腫、心不全などを発症する危険性がある。

 

この様な症状が認められた場合には、水分投与量を減量し、必要に応じて利尿薬の投与なども検討する必要が出てくるのだ。

 

つまり、『高齢者は脱水になり易いから、やみくもに水分摂取を促せばよい』といった単純なものではない。

 

この様な理由から、高齢者では、成人と比較し、水分摂取量を少なめに設定するほうが安全と言える。

 

以下は年齢や性別から水分投与量を決定する場合の目安となる。

(引用:高齢者の栄養ケアQ&A55: あなたのギモンがスッキリ解決!

 

年齢・性別 (mL/day)
若年弾性 2500
成人男性・若年女性 2000
成人女性 1800
高齢者 1500
超高齢者 900~1200

 

しかし一方で、(重複するが)高齢者は脱水症状も起こしやすいため水分補給は超重要だ。

 

つまりは、「きちんと水分を摂取することも大切」というのが基本ではあるものの「過剰な水分補給が高齢者の体調へ悪影響を及ぼす可能性」というのを頭の片隅に入れておいたほうが良いというのが、このカテゴリーで伝えたいことになる。

 

 

高齢者に必要な水分補給のポイント

 

話を「高齢者の脱水予防(水分補給の重要性)」に戻す。

 

前述したように高齢者では「水分の含有量が多い筋肉」が少ない(水分を貯蓄するタンクの容量が少ない)」ので小まめな水分補給が求められる。

 

「バイクと原付のガソリン」で考えると、バイクはタップリと給油できるだけのタンク(筋肉)をもっているので小まめな給油(水分補給)は必要ないが、原付はタンクが小さいので小まめに給油しないといけない。

 

具体的にな高齢者の水分補給のポイントは以下の通り。

 

  • 1時間にコップ半分程度の水分を摂取

    ※これは、あくまで目安。少量・高頻度が大切だという意味。

    ※体の水分タンクを常に満杯にしておくイメージ

    ※筋肉量の少ない高齢者が体内のタンクを満杯にするためには、喉が乾いたと感じる前に、時間を決めて一定量の水分を補給を心がけよう。

 

  • 食事からもきちんと水分補給を

    食事からも一日約1リットルもの水分を摂取している。暑さで食事がとれない場合には、その分の水分もとるよう心がけよう(一回の食事に含まれる水分はコップ2~3杯分などと言われている。あくまで目安だが・・)

 

 

ナトリウム入りの水分を摂取しよう

 

高齢者は特に脱水を起こしやすいため、まずは経口保水液などでナトリウムも一緒に水分補給してみることも重要となる。

 

以下などは非常に優秀な飲料水(経口補水液:ORS)だが、安価なスポーツドリンクのようなものでもOKなので積極てな摂取を心がけよう!。

 

 

パウチもある。

 

 

簡単なORSの作り方として、水1ℓに対して砂糖小さじ4、小さじ半分くらいで作ることが出来る。

 

スティックシュガー2本、塩一つまみくらいの量である。

 

このような物をLGSといい発展途上国ではコップ一杯の沸騰したお湯に一つまみの塩と一握りの砂糖を入れるという事で普及しているという地域もある。

 

こうした簡便なLGSに重炭酸を加えることで、水尾吸収率はさらに高まるため、その前駆物質としてクエン酸を加えると良い。

 

これは市販のスポーツドリンクの内容物に似ているが、ORSのほうがナトリウム量が多い組成となっている。

 

現在日本では、厚生労働省許可の個別評価型病者用食品としてORS用の飲料OS-1が発売されている。

新床ずれケアナビ―在宅・介護施設における褥瘡対策実践ガイドより引用~

 

※経口補水液/経口補水塩 (Oral Rehydration Solution / Oral Rehydration Salt)

 

 

関連記事

 

脱水は熱中症と深い因果関係があり、熱中症を理解しておくことは脱水のリスク管理として重要となる。

 

熱中症に関しては以下の記事を参考にして理解を深めていただきたい。

 

高齢者が注意すべき熱中症と、その予防対策を解説!