この記事では、温熱療法の一つである『極超短波(マイクロ波)療法』の概要を解説していく。
極超短波の効果・適応・禁忌についての知識を整理したい方は参考にしてみて欲しい。
目次
極超短波(マイクロ波)療法とは
医療用における『極超短波(マイクロ波)療法』は以下を指す。
『周波数2450±50MHz、波長約12.5cmの電波を用いた深部加熱を目的とした温熱療法』
もう少しザックリと、電子レンジと同じ周波数を用いた温熱療法と言い換えることも出来る。
病院・クリニックでは、ホットパックと並んで使用頻度の高い物理療法に該当される。
~画像引用:http://www5b.biglobe.ne.jp/~tajimase/micro.html~
極超短波(マイクロ波)療法=高周波療法
余談として、「極超短波(マイクロ波)療法=高周波療法」であるという点を補足しておく。
※巷では、極超短波療法・マイクロ波療法・高周波療法などと呼ばれるため、(他の物理療法も含めて)混乱することもあるが、このこれら3つは、物理療法としては同義とザックリ考えておいて良い。
「1MHz=1000000Hz」であり、各周波数における人体への通電による影響は以下の通り(ちなみに、極超短波は通電による物理療法ではないので誤解なきよう)
- 50~60Hz⇒痺れ、ビリビリ感、筋収縮
- 10000Hz⇒筋収縮はみられなくなる
- 1000000Hz⇒発熱感
※上記の「50~60Hzでの痺れ・ビリビリ感・筋収縮」を利用した物理療法が低周波療法(低い周波数を用いた治療法)と呼ばれる(低周波療法は干渉波療法とも呼ばれ、これらは同義として扱われる)。
でもって、極超短波療法は2450000000Hz±50000000Hzの周波数を用いると前述した。
つまり、極超短波療法は(低周波療法のように通電するわけではないが)高い周波数(つまり高い周波)用いるので、高周波療法に含まれるということになる。
※なんとなく、低周波・干渉波・極超短波・マイクロ波といった用語の整理ができただろうか??
※ここから先は、極超短波をマイクロ波と表現して記載していく。
マイクロ波の効果
マイクロ波は温熱療法に分類されるため、効果も『身体を温めてくれる』ということになる。
でもって、極超短波(マイクロ波)による温熱療法の特徴は以下の通り。
- 温熱効果が深部まで達する
- 乾性の温熱療法に該当する
温熱効果が深部まで達する
マイクロ波のエネルギーの深達度(エネルギーが半減するしんどは3~4㎝と言われており、このことからも比較的深部にまで温熱作用をもたらすことが分かる。
また、脂肪よりも誘電率高い加温に有効とされている。
※水分を多く含む組織(筋)はエネルギーを吸収しやすい
ちなみに、マイクロ波が「深在性の温熱効果」が得られるのに対して、ホットパックやパラフィンなどは「表在性の温熱効果」が主とされている。
乾性の温熱療法に該当する
※ホットパックや温泉療法は「湿性の温熱療法」に該当する。
まぁ、ポイントは温熱効果が深部にまで達するという点だろう。
腰痛や肩凝りなどの症状に対して、比較的深部にまで温熱効果が浸透して効果的な場合がある。
※一方で、ホットパック独特の温熱効果(ビニールにホッとパックをくるめた乾性のホットパックにおいても生まれる効果)を好む人もおり、結局のところは(理屈も重要だが)好みの問題で物理療法の選択がなされたりすることもある(両方試して、効果的な方を選ぶなど)。
※また、マイクロ波はホットパックと比べて準備が楽(電気のスイッチを押すだけ)といった意味で手間のかからない治療法である。
※ただし、後述するがホットパックと比べて『禁忌に十分注意する必要のある物理用法』である点は覚えておいてほしい。
なぜ深部まで温めることができるのか?
マイクロ波は、水のように極を持つ分子が「電磁界の動きに伴って回転し、他の分子との間で摩擦がおこった時に熱を発生する」という原理を利用している。
※皮膚・脂肪・筋肉)などの等性加熱が特徴だが、血液量、水分量の多い筋肉が特に(この原理によって)加熱され易い。
重複するが、マイクロ波による熱発生原理は『分子の振動、回転による摩擦熱』ということになる。
また、マイクロ波は光に似た性質を持っているため、反射・屈折・透過・吸収作用があるのだが、これらのうち屈曲現象は筋膜付近などの組織密度の高い部分で起こるため、その領域の温度上昇が起こりやすい。
マイクロ波の生理的作用と適用
マイクロ波の生理的作用はザックリと以下の通り。
- 温熱作用
- 血流増大
- 鎮痛作用
- 軟部組織の粘弾性低下
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・などなど
でもって、適用は以下の通り。
・疼痛(変形性関節症・慢性腰痛・筋筋膜性疼痛など)
※ただし炎症症状を伴うものは除く
・知覚異常(筋緊張亢進に伴うこわばり感・神経炎などに伴う不快感など)
・徒手療法や運動療法の前処置
※温熱療法による疼痛閾値の向上、軟部組織の柔軟性改善
・筋緊張亢進(中枢性疾患に伴う痙性・筋スパズムなど)
※ただし、痙性に関する効果は一時的なので、他の治療法との併用が前提となる場合が多い。
これらは、一般的な温熱療法の生理的作用と重複するため、詳しくは以下も参照してみてほしい。
温熱療法の作用まとめ! 『温熱の良し悪し』を把握して臨床に活かそう♪
ちなみに余談ではあるが、物理療法全般における一覧記事は以下になる。
物理療法を使いこなせ!一人職場療法士が知っておきたい物理療法ポイントまとめ
マイクロ波の禁忌
マイクロ波の禁忌は以下になる。
- 炎症の急性期
- 火傷
- 結核
- 悪性腫瘍
- 感染症
- 出血傾向
- 血栓症
- 血友病
- 感覚脱失
- うっ血のある組織
- 浮腫
- 虚血性組織
- 挿入金属体
- ペースメーカー
- 補聴器
- 成長期の骨端線
- 生殖器官
- 内分泌器官
- 妊婦の腹部
- 腰部
- 眼球
・・・・・・など
※金属への熱収束が大きいため火傷に注意するする必要がある。
※なので、骨折によるプレート固定など身体内部に金属が挿入されている部位に極超短波を照射すると、その金属に向かってエネルギーが集まり、その表面で反射されることにより周囲の軟部組織を異常に加熱してしまう危険性があるため必ず確認すること!!
マイクロ波の使い方
先ほど、マイクロ波の操作は「スイッチを入れるだけなので簡単」と述べたが、もう少し詳細にポイントを説明する。
まずは、前述した禁忌事項を確認することが重要となる。
例えば、患者の体内にペースメーカーや人工骨頭などの金属性物質が埋め込まれていないかを確認する。
※物理療法は医師の指示の下でなされるため、いちいち確認する必要は無いとは思うが念のため・・・
あるいは、以下の内容はリハ科で確認して対処する必要がある事項なので覚えておこう。
・照射部位にネックレスや時計などの金属類を着用していないかも確認する。
・金属製材料を含む衣料を着用している場合(で尚且つその衣料を介して照射する場合は)は、脱いでもらう。
・照射部位に湿布やカイロを貼っている場合は剥いでもらう。
※特に、肩凝り腰痛の人は、照射部位に湿布や(シャツなどを介して)カイロを貼っていたりすることも珍しくない。
※なので特に初回は、これらを貼っていないかを十分に聞き、もし貼っているようなら剥がしてもらい、次回からは貼ってこないよう説明する必要がある。
※また、認知機能が低下した高齢者などは、「ついつい説明したことを忘れて貼ったまま来院しちゃった」的なことも起こったりするので、人によっては毎回注意しておいたほうが良い場合もある。
実際に照射する際は、照射アンテナを治療部位から5~10cm離して、照射部位に対して直角に照射するようにセットする。
本体に電源を入れ、タイマーを10~20分間(病院の方針で、恐らく何分照射するかは決められていると思う)に合わせて、患者が心地良いと感じる程度まで徐々に出力を上げていく。
出力に関しては、「照射開始に丁度良いと思っていた出力」であったとしても数分後には「熱すぎに感じてしまう」といったように変化することもあるので、「熱く感じるようなら我慢せずに直ぐ職員に声をかけるように」と言葉添えしておく。
※少し熱いと思ったら離れたり、出力が弱いと思ったら近づいたりと、勝手に照射距離を調整して自身で対処する患者も多い。
マイクロ波の余談
マイクロ波に関しては、通信機器やコンピューターなどの周辺機器に影響を及ぼすリスクがあるなどの指摘から、米国では商品価値が低下しているという報告もある。
個人的にも、マイクロ波から5m程度離れた場所で、(他の患者の)血圧測定度をデジタル計で試みようと思っても、正常に起動しないことがある。
(電磁波が当たらないようにする)手で血圧計を覆ったり、マイクロ波が利用されていない際に計測すると正常に計測できることからも、明らかにマイクロ波が影響していると思われる。