この記事では、寒冷療法(アイシング)の作用(効果)・適用・禁忌について記載している。
寒冷療法以外の物理療法にも興味があれば、記事の最後のリンク先も参考にしてみてほしい。
寒冷療法(アイシング)とは?
寒冷療法(アイシング)とは『氷・冷水・冷媒等により局所・全身に寒冷刺激を与える治療法』を指し、具体的な種類としては以下などがある。
寒冷療法(アイシング)における「熱の伝達形態」
寒冷療法(アイシング)における「熱の伝達形態」としては、以下が挙げられる。
伝導冷却:
・冷たい側から温かい側に向けての熱の移動(固体)
・例⇒氷(アイスキューブ)、アイスパックなど
蒸発冷却:
・揮発液の塗布・噴霧を行い、その気化熱によって熱を奪う
・例⇒コールドスプレー
対流冷却:
・温かい分子は上層に、冷たい分子は下層に移動することによる熱の移動(液体・気体)
⇒患部を流水にさらす、扇風機などを利用するなど
寒冷の生理学的効果(作用)
寒冷の生理学的効果(作用)は、温熱療法の逆となものも多い一方で、類似した作用ある(例えば疼痛閾値上昇、筋紡錘活動低下など)。
関連記事⇒『温熱療法の作用まとめ!』
具体的には以下の通り。
- 組織温度の低下
- 一次的血管収縮と二次的血管拡張
- 組織代謝の低下
- 毛細管透過性の低下
- 痛覚の閾値上昇
- 筋紡錘活動の低下
組織温度の低下
寒冷作用として、組織温度は低下していく。
冷却による組織温度の低下は、表面組織ほど急激かつ容易に起こり、深部組織ほど時間がかかる。
一方で冷却終了後における効果の持続性は、表面組織ほど持続しにくい。
※深部組織ほど、終了後の組織温の上昇は穏やか。
※寒冷療法とは関係ないが、真夏にスポーツジムなどで水風呂で身体を深部まで冷やした後に日差しの強い屋外に出ても、10分程度は汗もかかずに涼しくいれるのは『深部組織ほど、冷却効果の持続性が高い』ということを示している。
一次的血管収縮と二次的血管拡張
寒冷刺激によって以下が起こる。
①まずは瞬間的で直接的な血管収縮がみられる。
↓
②冷却が進むと反射性の急激な血管収縮(一次血管収縮)
↓
③筋相まで冷却が進むとむしろ血管が拡張し(二次的血管拡張)、反応性充血がみられる
・一次的な末梢血管の収縮(表在性、局所の血流減少)⇒初期効果
・二次的な(反射性)血管拡張(血流増加)⇒後期効果
組織代謝の低下
寒冷刺激によって組織代謝は低下する。
※代謝とは生体内の化学反応であり、温熱療法では亢進するが、寒冷刺激では抑制される。
※酵素活性低下による代謝抑制とそれによる組織破壊抑制が起こるとされている。
でもって、代謝の抑制(組織代謝の低下)による以下の効果を狙って寒冷両方を施行することがある。
炎症物質産生の抑制:
⇒急性期の炎症抑制
組織の栄養・酸素の需要低下:
⇒浮腫による正常組織の二次的破壊を防止
毛細管透過性の低下
炎症物質産生の抑制と血管収縮による血流量減少に基づき、毛細血管の透過性が低下する。
つまり、浮腫の軽減に効果的な可能性がある。
浅部疼痛受容器に対する麻痺作用
以下の要素に基づき浅部疼痛受容器に対する麻痺作用が起こる。
- 神経伝導速度の低下
- 痛覚受容器や神経線維の閾値上昇
- 神経筋接合部の活動低下
『浅部疼痛受容器に対する麻痺作用』などと表現すると難しく感じるかもしれないが、スキー場などで遊んでいると足がチクチクしてきたり感覚が鈍くなってきたなイメージを持ってもらうと分かりやすい。
また、(温熱療法にも言えることだが)内因性モルヒネ様物質の疼痛抑制系の関与により疼痛閾値が上昇するとも言われている(冷たくて気持ち良い・温かくて気持ち良いなどの刺激が脳内で作用)。
筋紡錘活動の低下
筋紡錘の活動低下、γ線維の機能的遮断によって筋緊張低下・痙性の抑制が起こる。
※ただし、皮膚受容器の寒冷刺激で誘発される筋緊張亢進も起こるので、この辺りは混乱しないように。
でもって筋緊張に関する作用に関して、厳密には「寒冷適用後数分はむしろαニューロン活動が亢進し緊張は高まり、その後、筋冷却に伴って緊張は抑制される」といった表現の方が正しい。
この作用は、脳卒中片麻痺の痙縮に対するアプローチに利用されることもある。
寒冷療法の適応
寒冷療法の適用は以下の通り。
- 外傷の急性期炎症症状の緩和(腫脹・発赤・発熱・疼痛)
- 局所の疼痛(有痛性筋スパズムの軽減)
- 痙性(筋緊張の亢進)
- 神経・筋の反応抑制および促通
その他、創傷の進展防止、褥瘡治癒促進、筋再教育なども適応とされている。
要は、『(急性の)疼痛』や『筋緊張亢進』に効果的な可能性があるという事になる。
※筋緊張の抑制効果は、中枢神経疾患などにおける筋緊張を和らげる目的や、寝違えなどに用いられる場合がある。
※神経・筋に対する促通効果としては、Rood法における寒冷刺激を用いた手法などが挙げられる。
疼痛に対する効果
前述した寒冷の生理学的効果を踏まえた上での疼痛に対する効果は以下となる。
- 感覚受容器の疼痛閾値の上昇
- 刺激伝達の遅延による中枢への感覚性インパルスの減少
- 筋緊張低下による血液循環改善に伴う反応性充血
- 筋緊張低下による鎮痛効果
- 反応性充血による鎮痛効果
・・・・・・・などなど。
寒冷療法(アイシング)の禁忌
寒冷療法(アイシング)の禁忌は以下となる。
- 循環器疾患を有するもの
- レイノー病(発作性血流障害を呈する疾患)
- 寒冷アレルギーを有するもの(じんま疹等)
- 感覚障害のある部位
- 心臓および胸部の上
- 寒冷に対して拒否的なもの(特に高齢者)
- 高度の高血圧、心疾患、腎疾患、呼吸疾患
・・・・・・・・・・などなど。
寒冷療法(アイシング)を実施する際の注意点
寒冷療法(アイシング)を実施するにあたって『凍傷の予防』が最大の注意点となり、以下がポイントとなる。
- 実施前の十分な説明(治療の必要性、治療中の感覚変化)
- 終了の基準→感覚がなくなった時点
- 適応部位を随時チェックする
- 患部に固定して用いる材料は直接皮膚に当てない
- 全身的な反応も観察していく
寒冷療法(アイシング)の具体的な方法
寒冷療法(アイシング)の具体的な方法以下がある。
- 氷を利用してのアイスマッサージ
- ・クリッカーを使用してのアイスマッサージ
- アイスパック
- スプレー冷却法
・・・・・・・・・などなど。
これらの中で、以下のリンク先では『アイスマッサージ』と『アイスパック』について記載しているので興味があれば観覧してみてほしい。
アイスパックとアイスマッサージ(クリッカーなど)を動画で紹介!
また、物理療法全般における一覧記事は以下になる。