この記事では、温熱療法の一つである『超音波療法』の概要を解説していく。
リハビリ従事者(理学療法士・作業療法士)の皆さんは、超音波療法の方法・作用・適応・禁忌を整理に活用してみてほしい。
超音波とは
『超音波』は「20KHz以上の音波」を指し、人間の耳では直接聞くことはできない
そして、この超音波を利用した物理療法を『超音波療法』と呼ぶ。
超音波療法はエネルギー変換熱による深部温熱療法であり、生体を振動させることで摩擦熱が発生することで温熱効果が生じる。
超音波療法は以下が特徴となる。
・全温熱療法の中で最も深達度が深い
・靱帯・腱・関節包・筋膜などのコラーゲン含有量の高い組織の加温に有効
超音波療法の方法
超音波療法には以下の様に「直接法」と「間接法」に分類される。
そんな中で、ここでは臨床でも用いやすい『直接法』について記載していく
※『間接法』は「水中法」と「水袋法」に分類され、凹凸のある患部に用いられる(この記事では割愛する)。
直接法は、患部にジェルを塗った状態で、超音波機器の導子面を患部に直接当てていく。
直接法に関しては、以下の動画を観覧してもらうと、どんなものかイメージがわくと思う。
重複するが、「超音波の直接法」は、導子面が患部と密着させやすい部位で用いられる。
また、超音波を患部に伝播しやすくするためにカップリング剤(超音波ジェル)を使用する。
超音波の周波数
超音波は「人の耳で聞こえる範囲を超えた高周波(20kHz以上)である」と冒頭で記載したが、物理療法として超音波を用いる場合は、以下のいずれかの周波数を用いる。
・1MHz
・3MHz
※動画でも、どちらの周波数を用いたかがテロップとして流れていたと思う。
低い周波数(1MHz)のほうが、ビームの拡散度が大きくなる。
低い周波数(1MHz)のほうが、筋肉でにおける半価層値(深達度)は深い。
深達度⇒1MHz>3 MHz
(3 MHz は1MHzの半分程度の深達度)
※超音波の全温熱療法の中で最も深い
収束性⇒1MHz<3 MHz
1MHzは約5cmまでの深部組織、3MHzは1cm程度の浅部組織の加温に用いられる
上記からも分かるように、超音波の深達度に影響するのは強度ではなく周波数である。
超音波の出力(強度)
出力は0.5~2.0W/㎠の範囲で、患者が温感を感じる強度を用いる。
超音波療法の実施中はも、患者の温感を確認しながら、不快感が出ないようにする。
※患者が不快感を訴える場合は、直ちに出力を下げる。
過剰な強度・長時間照射は破壊的副作用のため危険なため注意する。
機械が正常に作動しているかを確認する方法としては『蒸気キャビテーション法』があり、以下の通り。
超音波導子上に水滴を落とす
→水滴が激しく振動⇒約0.5W/㎠と判断
→噴霧・蒸発⇒約1.0W/㎠と判断
『超音波直接法』の移動法
『超音波の直接法』は「移動法」と「固定法」に細分類されるが、固定法については使用を問題視する意見も多く一般的でないため割愛する。
『移動法』の概要は以下の通り。
移動法とは:
導子部を患部に当てた状態で移動させていく超音波療法である。
移動させる際は、導子を全面接触させることが重要となる。
※導子が治療面に対して傾斜しないよう注意する。
移動の方法:
『ストローク法(直線的な移動)』あるいは『回転法(重なり合う円を描きながらの移動)』を用いる。
※動画における「スーッと直線的に動かす方法」のがストローク法
※動画における「クルクルと円を描くように動かす方法」が回転法
強度:
0.5~1.0W/㎠程度
移動速度:
2~4cm/秒程度
治療時間:
急性、亜急性期で3~5分、慢性期で5~10分
※あくまで目安
超音波の作用(機械的振動)
超音波は温熱作用があると冒頭で記載したが、この点について詳しく記載していく。
超音波の温熱作用は「機械的振動」によって起こる。
この点は、ホットパックと異なりイメージしにくいかも知れないが、寒い日に体をブルブルと震わせることで熱が産生されるのをイメージしてもらえば「振動と温熱」の因果関係が理解してもらいやすいのではないだろうか?
超音波は、この機械的振動にるエネルギー変換熱によって温熱作用をもたらす。
温熱作用は、音波の伝わりやすいものや吸収しやすいものほど温まる
※同じ「深部組織を加熱する物理療法」であるマイクロ波と異なり、 金属の挿入部でも用いることができるという特徴を持っている。
温熱作用の詳細については以下の記事でも記載しているので、こちらも参考にしてみてほしい。
温熱療法の作用まとめ!
また余談ではあるが、物理療法全般における一覧記事は以下になる。
物理療法を使いこなせ!一人職場療法士が知っておきたい物理療法ポイントまとめ
超音波による非温熱作用
超音波による機械的振動が、温熱作用をもたらすと前述した
一方で、超音波による機械的作用として非温熱作用もあり、具体的には「微細振動効果」や「生物学的効果」が挙げられる。
~微細振動効果~
微細な振動効果によって以下が起こる可能性がある。
①細胞膜での透過性や活性度を改善することによる炎症の治癒を促進
②細胞間隙の組織液の運動方向に影響を与えて浮腫などを軽減
また、機械刺激で触圧覚を刺激することにより鎮痛効果(ゲートコントロール理論)を起こすとされている。
~生物学的効果~
超音波は組織の修復過程における以下の三段階で有益な作用があると考えられている。
①急性炎症期
当音波の微細振動によってマクロファージなどの組織球を活性化させ、創部の清浄化を促進する。
②肉芽組織形成期
超音波は組織球からの細胞増殖因子やサイトカインの放出を促進させ、血管の新生や線維芽細胞の増殖や遊走を刺激し、膠原細胞による組織修復を加速させる。
また線維芽細胞を収縮要素のある筋線維芽細胞に変換させ、創の周囲を収縮させる。
③瘢痕期
創傷治癒の最終過程における瘢痕期において、超音波は結合組織の伸張を促進させ、修復を加速させる。
超音波の「連続モード」と「パルスモード」
超音波には「連続モード」と「パルスモード」が存在し、使い分けは以下の通り。
連続モード:
前述した「超音波の作用」における、温熱効果・微細振動効果(や生物学的効果)を目的とした超音波ビーム様式である。
炎症度としては「比較的、炎症が治まってきた時期から選択されるモード」と言える。
パルスモード:
前述した「超音波の作用」における、微細振動効果(や生物学的効果)を目的とした超音波ビーム様式である。
炎症度としては「急性炎症期に選択されるモード」と言える。
超音波の適応と禁忌
超音波の適応と禁忌については以下の通り。
適応
・筋疾患(肉離れ、打撲、肩凝り、腰痛、筋スパズム等)
・関節疾患(関節周囲炎、慢性関節炎、捻挫、関節拘縮等)
・・・・・・・などなど。
超音波の禁忌
・知覚障害
・悪性腫瘍
・急性炎症
・肺結核、血友病
・血栓性静脈炎
照射禁止部:
眼球、脳、生殖器、心臓(ペースメーカー)・・・など
ちなみにマイクロ波と異なり、超音波は金属挿入部への照射も可能であると前記した。
ただし、セメント(メチルメタクリレートセメントなど)結合の人工関節や合成樹脂成分が用いられている領域への照射は禁忌となる。
なので、これらの術式は必ず確認しておく必要がある。
また、骨の突起部などでは骨膜に反射した超音波との干渉によりエネルギーが集中し、組織の損傷を起こしかねないので注意が必要である。
超音波の(他の温熱療法と比べて)優れている点
ここまでの内容と重複する部分も多々あるが、まとめとして超音波療法の(他の温熱療法と比べて)優れいている点について記載しておく。
超音波療法では伝導加温(ホットパックや遠赤外線など)と異なり、熱転換によって目的とする組織に作用を及ぼすことが特徴である。
伝導加温では、与えられた温熱エネルギーはほとんど皮膚表層にて吸収されて深部の組織にまで達しないが、超音波における熱転換では深部にまでその作用が及び、筋肉の深い部分へ効果的に電気エネルギーを到達させることが可能となる。
この点も踏まえたメリットは以下の通り。
- 周波数と出力レベルを変えることにより、浅部から深部まで十分な効果が得られる。
- 他の方法に比べ、腰・背部や肩の筋肉・腱などの深部の組織を効率的に温めることが可能である。
- 手術によりプレートやボルトなどの金属が挿入されている場合でも治療が可能である(極超短波では、この様な部位への照射は禁忌である)
- 骨折治癒、創傷治癒などにも応用されている(ただし、炎症急性期には超音波により炎症が増悪する場合もあり、温熱作用を起こす強さの超音波は控える必要がある)。
超音波の生体反応を動画で紹介
最後に、超音波によって起こる生体反応(機械的振動)を分かりやすく示している動画を紹介して終わりにする。
以下の動画で、何となく機械的振動をイメージしてもらえると幸いである。