この記事では、温熱療法による作用について「局所作用」と「全身作用」に分けてまとめている。

 

※ただし、温熱療法による身体へのメリットのみならずデメリットにもフォーカスしているため、混乱しないでいただきたい。

 

また、補足として温熱療法の適用や禁忌、分類についても記載している。

 

各温熱療法の詳細については、記事の最後のリンク先も参考にしてみてほしい。

 

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目次

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温熱療法の局所的作用

 

温熱療法の局所的作用としては以下などが挙げられる。

 

  • 組織代謝の亢進
  • 血管の拡張
  • 軟部組織の伸張性増大
  • 神経伝導速度の増大
  • 鎮痙作用
  • 組織の熱性障害

 

 

組織代謝の亢進

 

温熱によって体内の化学反応を促進する(組織代謝の亢進)。

 

※温度が1度上昇すると組織代謝は13%上昇するとの説もある(van’t Hoffの法則)

 

※局所効果から脱線するが、風邪などで体温が上昇するのは、体内の化学反応を促進させてウィルスから体を守るという自然現象であり、悪い反応ではない。

 

※あるいは真冬に暖房を使わずにブルブルと体を震わせる(機械的刺激による温熱)は、組織代謝を促進させ、ダイエットになるとの意見もある(「冬は痩せやすい」ではなく「冬に暖房を使わずに過ごすと痩せやすい」というのが正解)。

 

 

代謝の亢進によって以下が起こる。

 

・組織の栄養・酸素の需要増大

・代謝産物・熱の運搬の必要性

・血管を拡張

 

 

組織代謝の亢進によって組織の細胞活動が活発化することで、呼吸・循環機能の活動性が上昇する。

 

この作用にはネガティブな側面もあり、例えば高度な心肺機能障害を有している場合は、代謝の上昇によって心拍数や心拍出量が増加し過負荷になる恐れがある

 

上記が難しくてぴんと来ない人は、インフルエンザで体温が上昇している(代謝が亢進している状態)で入浴する(更に代謝が亢進する)というのは、心肺機能に過負荷を与える(入浴後にぐったりして更に体調が悪くなる)というのがイメージしやすいのではないだろうか?

 

※通所サービス(デイケア・デイサービス)において、「体調がすぐれない高齢者」の入浴を控えるのも同じような理由。

 

あるいは、高度な循環障害や動脈硬化が起こっている場合は「代謝の亢進によって酸素や栄養の需要は増大するが、循環障害によって血液の供給が困難」なため、阻血を助長してしまう恐れがある

 

 

血管の拡張

 

組織代謝が亢進することでも血管拡張がなされるが、以下の温熱療法における以下の機序でも血管拡張がなされる。

 

温熱により『皮膚温度受容器の興奮』や『心理的リラックス』によって『交感神経抑制』が起こり、『血管平滑筋が弛緩する(=血管が拡張する)』。

 

でもって、血管拡張の結果として(代謝の亢進でも述べたように)以下が起こる。

 

・組織への栄養・酸素の運搬

・組織からの代謝産物・熱の排出

 

 

例えば疼痛に関しては、「発痛物質」や「老廃物」などが蓄積して起こりやすくなっている場合があり、温熱療法によってこれらが除去されることによって鎮痛が図れることがある。

 

※発痛物質に関してはこちらの一覧表を参照

⇒『(外部リンク)一般的な痛みの伝達神経路

 

※血管拡張の結果として、スパズムの軽減や疲労回復にも寄与できる可能性がある。
交感神経と疼痛の因果関係(交感神経抑制と鎮痛の因果関係)に関しては以下の記事も参考にしてみてもらいたい。

 

※徒手療法による鎮痛機序にも交感神経が影響しているのが理解できると思う。

⇒『(外部リンク)持続的な筋収縮と交感神経作用による痛みの悪循環

 

 

一方で、血管拡張は『炎症反応』によっても起こる。

※炎症反応とは「腫脹・熱感・疼痛・発赤」を指す。

 

そして、急性炎症による疼痛に対して温熱療法を実施すると、「更なる血管拡張・血流増加」によって浮腫や出血を助長させてしまう可能性がある。

 

※なので、急性炎期における温熱療法は禁忌

 

※急性炎症期における対処としては、温熱療法ではなく、むしろ寒冷療法が選択される。
もちろん、温熱療法では「適度な温熱」が重要であり「過量な温熱」には注意が必要となる。

 

※例えば低温火傷(痛みとともにまだら状紅斑、大理石様紅斑を呈する)⇒この点については後述する。

 

 

軟部組織の伸張性増大

 

温熱によって軟部組織の伸張性は増大する。

 

よくTVなどで「ストレッチングはお風呂の後に(あるいは入浴中)にすると効果的ですよ」といった情報が流されたりするが、あながち間違えではない。

 

※温熱療法とは全く関係ないが、ストレッチングについて知りたい人は以下を参照

⇒『ストレッチング、ちゃんと知ってる?

 

※「線維性結合組織の硬化」と「運動時痛」の因果関係も指摘されており、柔軟性が改善されることは鎮痛にも寄与する可能性がある。

 

 

ちなみに、一概に「軟部組織」といっても皮膚、筋・筋膜・靭帯・関節包など様々あり、温熱療法の種類によっては深部の組織にまで影響を及ぼさないものもあったりする。

 

例えばホットパックは表在性温熱療法に該当し、深部の組織まで影響を与えることは出来ない。

 

ホットパック療法では、含水率の高い組織(末梢血管、皮膚)ほど加温されやすく、1~2cmの深さの筋組織では最高温度に到達するまでに15分以上かかります。

 

また、3cmの深さの筋では温度上昇は1℃以下で、特に脂肪組織が多いところでは比熱の小さい脂肪に熱が集中し、筋組織に伝導しにくくなります。

~『日本メディックス 温熱療法』より~

 

 

ただし、筋筋膜の機能障害を「伸張性の低下」にフォーカスして考えた場合、原因は「反射的短縮」と「構造的短縮」に分けられ、ホットパックの効果として「筋緊張が低下すること」によって成されることが多い。

 

具体的には、(「組織代謝亢進の項目でも述べた)『皮膚温度受容器の興奮』や『心理的リラックス』によって『交感神経抑制』が起こるなどの理由も含めて言われている。

 

ホットパック療法を行うと、視床下部の温度調節機構の作用で、血管拡張作用のあるヒスタミン様物質の分泌等により皮膚の毛細血管が拡張して、皮膚内の血流は2倍以上になります。

 

このことにより血行が促進され、痛みの産物であるヒスタミン、ブラディキニンが除去され痛みが軽減されます。また、皮膚温度受容器の熱刺激によるγ線維の伝導が遮断されると、筋紡錘の活動の低下により一過性の筋緊張が軽減されます。

~『日本メディックス 温熱療法』より~

 

もちろん、各温熱療法の特徴を十分理解したうえで選択して活用することが望ましい。

 

※反射的短縮・構造的短縮に関しては、以下も参照。

⇒『(外部リンク)理学療法の用語解説

 

 

ちなみに、先ほどの引用の中で「痛みの産物であるヒスタミン、ブラディキニンが除去され痛みが軽減されます」との記載があったが、急性痛では話が異なってくる。

 

しかし急性痛(炎症状態)に対して温熱刺激を加えると、生体膜の透過性亢進や滲出を起こし、「ヒスタミンなどは産生され」、ますます炎症を惹起させることになる。

 

 

神経伝導速度の増大

 

神経の伝達速度は、「温熱で増大し、寒冷で低下する」と言われている。

 

従って、これらの特徴を鎮痛(疼痛の緩和)に役立てるとするならば、温熱療法よりも寒冷療法の方が参考になる。

 

温熱療法:

→組織代謝の亢進による鎮痛

(リラックスなどによる交感神経の抑制・軟部組織の伸張性増大など・発痛物質や代謝産物の排出)

 

寒冷療法:

→神経伝導の阻害による鎮痛

 

 

鎮痙作用

 

要は、温熱刺激により筋のリラクゼーション(筋緊張の低下)が望めるという事である。

 

γ神経線維活動を抑制して筋紡錘の伸展感受性を低下させることで、間接的に筋活動を減少させると考えられている。

 

ちなみに、寒冷療法も鎮痙作用がありる。

でもって、筋紡錘の活動性を低下させる点は共通しているのだが、寒冷療法は「γ線維の機能的遮断」によって筋緊張低下が起こる。

 

でもって、例えば肩こりなどの筋緊張亢進(筋スパズム)などでは、温熱が良いか寒冷が良いかは人によって異なる(一般的に慢性であれば温める方が良いとされているが。。)。

 

一方で、脳卒中後遺症としての『痙直』といった病的な筋緊張亢進状態を抑制するという意味では寒冷療法が活用される。

 

⇒『寒冷療法(アイシング)の効果(作用)・禁忌まとめ

 

 

組織の熱性障害

 

「血管の拡張」の項目でも余談で記載したとおり、温熱療法では「適度な温熱」が重要であり「過量な温熱」には注意が必要となる。

 

例えば、過大な温熱刺激は『侵害刺激』であり、皮膚に疼痛・紅斑・壊死などを起こす。

 

従って、警告信号である「不快な熱さ・痛さ」が生じた場合は、温熱療法の最中でも直ぐにクライアントに伝えてもらうよう、あらかじめ伝えておく。

 

※温熱の強度が、最初はちょうどよく感じても、徐々に不快に感じてくることもある。

 

逆に言うと、患部に感覚障害を有しているクライアントでは禁忌となる(不快さ・痛さなどの感覚が鈍っていたり消失したりしているので熱傷を起こす可能性がある)。

 

あるいは、「丁度良い温熱の強度」であったとしても、同じ部位に長時間当てていることで低温火傷を起こす場合もあり注意を要す。

 

※高齢者の夜間における電気コタツの仕様など。

 

 

全身的作用

 

温熱療法の全身的作用としては以下などが挙げられる。

 

  • 体温上昇
  • 発汗
  • 末梢血管の拡張
  • 心拍出量と心拍数の増加
  • 血圧降下
  • 脳・腎・消化器系への循環減少

 

※温熱による全身的影響に関しては、温泉療法(入浴)時がイメージしやすい。

 

 

また、補足として『温熱療法の遠隔作用』というものもあり、これは「局所への温熱刺激が遠隔部へ起こす作用」であり、具体的には以下の通り。

 

  • 血流による熱の遠隔部への移動
  • 血流増加に呼応した遠隔部欠乏

    (これは全身作用に記載した「脳・人・消化器官への循環現象」なども含まれるかもしれない)

  • 自律神経を介した反射性の反応

    例えとして、温熱によるリラクゼーション効果が副交感神経を刺激し、血流改善・鎮痛に結びつくなど。具体的には『筋収縮と交感神経の痛みの悪循環』も参照

 

 

ではでは、話を「温熱療法の全身作用」に戻して、一つ一つ解説していく。

 

 

体温上昇

 

局所作用の項目でも記載したように代謝の亢進が起こる。

 

従って、全身状態の不良な症例や高齢者幼児には注意を要す。

 

 

発汗

 

発汗は体温調節反応として、水分の蒸発によって体温をさます作用がある.

 

発汗における注意点としては以下がある。

 

『長時間・過量な温熱⇒過剰な発汗⇒脱水症 に繋がる危険性』

 

 

特に高齢者は、体重を占める水分量が少ないため容易に脱水に陥りやすいため、入浴後は脱水予防目的に水分補給をすることが望ましい。

 

※高齢者の脱水に関しては以下も参照

⇒『高齢者の脱水と予防の知識

 

 

末梢血管の拡張

 

特に加温されやすい末梢・体表部の血管が拡張される

 

 

心拍出量と心拍数の増加

 

加温による血流需要の増加に応じて心拍出量と心拍数の増加がみられる

 

 

血圧降下

 

心拍出量は増加する反面、血管の拡張のため血管抵抗は減少し血圧は低下する

 

 

脳・腎・消化器系への循環減少

 

温熱により末梢・体表に血行が集中すると、その分だけ脳・腎・消化器系への循環減少する。

 

つまり、脳の乏血による『立ちくらみ・失神』が起こる可能性があり、注意が必要である。

 

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温熱療法の適用と禁忌

 

温熱療法には様々な種類があり、各々によって適用や禁忌が異なってくる。

 

そんな中で、ここでは温熱療法全般における適用と禁忌をザックリと記載していく。

 

詳細については、後述する各温熱療法のリンク先で確認してみてほしい。

 

※例えば、マイクロ波は金属への熱収束が大きいため、人工関節などは禁忌!

 

 

温熱療法の適用

 

  • 疼痛の緩和
  • 痙縮の軽減、スパズムの緩和
  • 軟部組織の伸張性増大(拘縮の改善)
  • 創傷の治癒促進(血流増進による効果)

 

温熱療法は対象とする疾患・部位とその目的によって、温熱器具と適用の仕方が決められる。

つまり、表在性温熱と深達性温熱のどちらを用いるか、具体的に何をどの範囲で用いるか、適用の仕方は急激・短時間あるいは緩徐・長時間にするかを決める。

 

例えば、短縮した関節包を伸張する際に用いる場合には、急激かつ深部に選択的な温熱が必要となる。

しかし関節リウマチに対しては、急激で選択的な温熱が炎症を助長し関節破壊を進行させる可能性があるので、表在性で全身性短時間の温熱が好まれる。

 

同様に腰部椎間板ヘルニア発症急性期には、急激な深達性温熱はヘルニア部の腫脹を増長し症状を悪化させる可能性があるため、表在性温熱で脊柱起立筋などの腰部周囲筋の緊張緩和を図るにとどめる(わざわざ、温熱しなくて良いとの意見もあるが。。)。

 

 

温熱療法の禁忌

 

  • 急性炎症:

    創傷・痛風・リウマチ性関節炎などの急性炎症期では、温熱によって炎症は助長される。

 

  • 悪性腫瘍:

    腫瘍の成長を促し、転移の危険性も増すと考えられている。

 

  • 感覚障害と意識障害:

    熱傷の危険が高いので通常は禁忌とされる。

 

  • 出血傾向:

    末梢血管が拡張し血流増加しているため、創傷時は止血しにくくなる。

 

  • 循環障害・動脈硬化:

    血流による熱の放散が妨げられているので熱傷の危険が高くなる。また局所の代謝が温熱で亢進するため相対的虚血となり、壊死に陥る危険を生じる。

 

  • 急性期の重篤な疾患:

    重症な心疾患など。前述した悪性腫瘍も含まれる

 

 

温熱療法の分類

 

念のため、温熱療法とは何かについても記載しておく。

 

温熱療法とは、以下の療法を指す。

 

『熱、電磁波、音波などの熱エネルギーの作用で循環の改善や疼痛の軽減を得る療法』

 

具体的には以下を指す。

 

  • ホットパック
  • 温泉療法
  • パラフィン療法
  • 極超短波(マイクロ波)
  • 赤外線
  • 超音波

・・・・・などが挙げられる。

 

これらに関しての詳しい解説は、後述するリンク先も参考にしてみてほしい。

 

 

温熱療法の分類

 

前述したように、一言で「温熱療法」といっても様々な種類がある。

 

それら温熱療法に関して、ここでは複数の分類を記載していく。

 

~熱の移動形式による分類~

 

①伝導:

温かい側から冷たい側への直接の熱の移動。

個体同士に生じる。

例⇒ホットパック・パラフィンなど

 

②対流:

温かいものが上層に、冷たいものが下層に移動する

液体、気体に生じる

例⇒温浴・サウナな

 

③輻射:

空間で隔てられた物体間での熱の移動

放射によって生じる

例⇒赤外線、マイクロ波など

 

④機械的振動:

例⇒超音波

※超音波による温熱療法は機械的振動に該当する。

 

 

~熱の種類による分類~

 

①乾熱:

例⇒赤外線・パラフィン

※パラフィン自体は水分を含まず乾熱に分類されるが、発汗による汗が被膜との間にたまるため、実際は湿熱的性格も持つ。

 

②湿熱:

例⇒ホットパック・温浴

 

③転換熱

例⇒マイクロ波・超音波

※赤外線は、転換熱ではなく乾熱に該当。

 

 

~熱の透過性による分類~

 

①表在熱:

例⇒ホットパック・パラフィン浴・赤外線

 

②深部熱:

例⇒マイクロ波・超音波

 

 

各温熱療法を紹介

 

各温熱療法に関しては、以下の記事で詳細を解説しているので、興味があれば観覧してみてほしい。

 

ホットパック(温熱療法)を解説+動画

 

パラフィン療法(温熱療法)を解説!+動画

 

極超短波(マイクロ波)の適応・禁忌を解説!

 

超音波療法を活用しよう

 

 

また、物理療法全般における一覧記事は以下になる。

 

物理療法を使いこなせ!一人職場療法士が知っておきたい物理療法ポイントまとめ