この記事では脳卒中によって生じる『高次脳機能障害』の一つである『失認(apraxia)』につい、種類や特徴も含めて記載している。

 

失認には、半側空間無視も含まれるので、半側空間無視について知りたい方も是非観覧してみてほしい。

 

 失認とは

 

失認とは以下のように定義されている。

 

視覚、聴覚触覚などが保持されているにもかかわらず、あるいはその障害のみでは説明できないくらいに日常的に熟知している物品の名称、用途、特徴などが認知できなくなった状態。

 

典型的な例では「1つの感覚系を利用するのみでは認知できないが、他の感覚系を利用すれば認知できる」という特徴をもつ。

 

 

視覚失認の例:

視野や視力は保たれているにもかかわらず、視覚的には提示された物品が何であるか分からない。

しかし、触覚・聴覚などの他の感覚機能を利用すれば認知できる。

 

失認には以下の種類があり、順に解説していく。

 

・視覚(物体)失認

・相貌失認

・触覚失認

・半側空間無視

・身体失認および病態失認

 

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視覚(物体)失認(visual(object)apraxia)

 

視覚失認(物体失認)とは以下を指す。

 

視覚障害・半盲・視野狭窄などの感覚障害がないにもかかわらず、眼で見ただけでは、物体・図形・色彩などの認知ができないが、手で触れたり、音を聞いたりすると認知できる状態。

 

※視覚失認とは視覚認知の障害であり、他の感覚系を用いれば提示された物品の認知が可能といった特徴を持っている。

※なので、視覚的な認知が不可能でも、触覚的・聴覚的な認知が可能は可能である。

 

障害部位:

優位(左)半球後頭葉

 

検査の例:

・患者が熟知している種々の日用品を示して、その名称や用途を答えさせる。

・色紙や積木の色を答えさせたり.識別および選択させる。

 

※まずは上記の検査に先行して、視力や視野の障害がないか確認しておく必要がある。

※また、失語や半側空間無視など他の高次脳機能障害との鑑別も必要となってくる。

 

 

相貌失認(prosop agnosia)

 

相貌失認とは以下を指す。

 

物体を認知することができるが、人の弁別・表情の理解などができない状態

 

※視覚認知の障害であるが、対象が人の顔に限られる。

 

※人の顔だという事は理解できるが、誰であるかは分からなくなるのが主な症状。

 

※視覚失認と同様に、相手の声やプロフィールなどの視覚系以外の情報があれば相手の判別は可能である。

 

※病識自体はあることが多く、相手の仕草や声・髪形・服装などによって代償を試みている場合が多い。

 

障害部位:

劣位(右)また両半球後頭葉

 

検査の例:

家族あるいは有名人(首相など)など日常的に熟知している相貌の認知を評価する。

例えば顔写真を見せて(実際の人物に対面してもらっても良いが)、その人の名前や職業などを言わせる。

または、複数の顔写真のなかから検者の指示した名前の写真を選ばせるなど。

 

 

触覚失認(tactile agnosia)

 

触覚失認とは以下を指す。

 

表在知覚、深部知覚、立体覚などに異常がないにもかかわらず、物に触れて外界の物体の大きさ・形状・粗滑などの感覚的性状はわかるが、物体の名称や用途が認知できない状態。

 

障害部位:

対側の頭頂葉縁上回

 

検査の例:

患者に目を閉じさせて、鍵・コイン・ボタンなどの日用品を握らせて、その物品名や用途
を答えさせる。

 

※検査は、感覚障害が無いか軽微なことが条件となる。

※なので、上記の検査に先行して、感覚障害がないか確認する必要がある(軽微であれば検査は可能)。

 

※スクリーニングとして触覚・痛覚、位置覚・運動覚、二点識別覚を検査しておくと良い。

 

脳の損傷半球と同側(健側)には症状は現れないため、健側と患側で比較が可能である。

 

 

半側空間無視(unilateral spatial neglect ; USN)

 

半側空間無視とは、Heilmanによって以下の様に定義されている。を指す。

 

さまざまな刺激に対する反応や行動に際し、要素的な感覚・運動障害をもたないのに、大脳病巣の反対側に与えられた刺激に気づかず反応しない状態。

 

提示された刺激に反応せず、無視しているように見える。

そのメカニズムとしてはさまざまな説があるが、方向性注意障害説が有力である。

 

障害部位:

劣位(右)半球頭頂・後頭葉の障害による左半側空間無視が多いが、優位(左)半球障害による右半側空間無視もある。

 

 

半側空間無視の検査について

 

半側空間無視に関する机上テストとしては以下などがある。

 

・線分2等分テスト

・線分抹消テスト

・図形模写

・横書き文の読み

 

線分2等分テスト:

あらかじめ印刷した横線を2等分させるか、患者自身に2点を結ぶ線分を引かせ、その線分を2等分させる。

 

半側空間無視がみられる場合は、以下の様に「中点よりも大きく右寄りに印をつける」などの現象がみられる。

 

 

 

線分抹消テスト:

あらかじめ印刷した短い斜線に抹消したものに印をつけるよう指示する。

 

半側空間無視がみられる場合は、以下の様に「右側にある線分のみを抹消し、左側は見落としている」などの現象がみられる。

 

 

 

図形描写:

図形を示し、大きさ形を同じように模写させる。

 

 

横書き文の読み:

あらかじめ印刷した文章を読ませる。

場所、人物、季節の情報は左側に配置する。

半側無視患者は、左側の文を読み落とすので、読み落とした場所、人物、季節などを質問すると、正確に答えられない。

 

 

半側空間無視検査の補足

 

前述した机上検査に加えて、行動上の特性も評価する必要がある。

 

つまり、「机上課題で半側無視が検出されなくとも、日常行動で無視症状を認める場合」があるという事。

 

 

身体失認および病態失認(asomatognosia , anosognosia)

 

身体失認とは以下を指す。

何らかの患側の身体が正しく認知されない状態

 

病態失認とは以下を指す。

自分が病気であることを否定する状態(とくにこの場合片麻痺を否定する状態)

 

※ただし、患側の身体が正しく認知されないということは、片麻痺を否定していることにもつながるので、身体失認と病態失認は明確には分けづらい。

 

 

身体失認

 

身体失認の中で一番有名なものは『半側身体失認』である。

 

~~半側性身体失認(hemiasomatognosia)~~

 

半側身体失認とは以下を指す。

 

自己の身体の半側が認知できない状態(左半側に出現しやすい)

 

※自分の半身(麻痺側)があたかも存在しないように振る舞う。

※麻痺に対しての関心が低下し、麻痺側が不自然な姿勢をとっていたり、ベッドで自分の身体の下敷きになっていても気付かないといった現象がみられる。

 

障害部位:

劣位(右)半球頭頂葉

 

検査の例:

自己の半身の存在を無視したり、使わなかったりする。

その結果、半身を柱に当てたり、移乗動作において、患側上肢や下肢を置き忘れる行動をとる。

 

※重度の麻痺による体性感覚障害によっても「半側身体失認」に類似した光景が見受けられる。

ただし、半側身体失認の場合は「自発的に麻痺側を動かさなくとも、強い(命令)指示によって(わずかでも)運動が可能である(重度麻痺の場合は、動かせない)。

 

 

両側性身体失認

 

両側性身体失認の中で有名なものは『ゲルストマン症候群』と『病態失認』である。

 

~~ゲルストマン(Gerstmann)症候群~~

 

ゲルストマン症候群とは以下の4つの症状を伴う症候群を指す。

 

ゲルストマン症候群の4症状:

 

①手指失認(検者が指示した患者自身の指の選択が困難な状態)

②左右失認

③失書(自分で書字をしたり.書取りをすることができない状態)

④失計算(暗算や筆算ができなくなる状態)

 

障害の部位:

優位(左)半球角回

 

検査の例:

手指失認に関してはまず「あなたの親指を出してください」といって患者自身の指の選択や呼称を行わせる。それとあわせて「私の薬指に触れてください」といって他人の指の選択呼称も行わせる。

左右失認に関しては、単に右と左を弁別させるだけでなく、「あなたの右手で左手をもってください」というような左右同時に使用する課題で症状を認めやすい。

失書に関しては、自発書字・書き取り・写字を検査する。とくにそのなかでは写字は良好なことが多い。

失算は暗算と筆算を検査する。

 

 

~~病態失認(anosognosia)~~

 

病態失認とは以下を指す。

 

片麻痺の存在を認知できない状態。

 

※半側身体失認に伴ってみられ、左片麻痺に出現しやすい。

※片麻痺症状を否定したり、無視したりする。

※脳損傷の急性期とくに麻痺が重い場合に一時的に現れることが多いが、症状が遷延するものもある。
※例えば、なぜ入院しているかわからない患者も多く、重度の麻痺があるにもかかわらずベッドから立ち上がろうとして転倒することもある。

※近年、病態失認という用語は「病識の欠如」を指すことが多い。

 

障害の部位:

劣位(右)半球頭頂葉

 

検査の例:

片麻揮の患者に対して、「どこか動きづらいところはありますか」、「右と左で動きにくさは違いますか」などと質問を行う。

もし明らかな麻痺があるのに「右も左も動きやすさは変わらない」と答えるようであれば両側上肢あるいは下肢の運動を命じる。

この症状の多くの患者は実際には上肢の挙上は行えなくても「上がっている」と答えることも多い。

そして、実際の麻痺の上肢を見せるとはじめて麻痺の存在に気付くことが多い。

半側無視を呈している患者も多いので.しっかりと上肢を視野に入れる必要がある。

 

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