この記事では、『高次脳機能障害』について認知症との違いも含めて記載していく。
高次脳機能とは
脳の機能は以下の3層構造をしている。
- 大脳新皮質(記憶や理解などの認知機能や、理性のコントロール)
- 大脳辺縁系(感情や食欲・性欲などの本能をコントロール)
- 脳幹(呼吸や循環、心臓の動きなど、生命維持に必要な機能をコントロール)
そして、『大脳新皮質』が司る認知機能や理性のコントロールといった機能「高次」の脳機能、すなわち「高次脳機能」と呼ぶことがある。
認知機能に問題が生じる原因
認知機能に問題が生じる原因を大まかに分けると以下の4つが挙げられる。
※この記事では、高次脳機能障害と認知症にフォーカスしているので、その部分は赤色で表現している。
- 生まれながら、または生まれるとき・発達時の損傷⇒『知的障害・発達障害』
- 成人の脳卒中や交通事故などによる突然の損傷⇒『高次脳機能障害』
- 高齢者の慢性あるいは進行性の損傷⇒『認知症』
- 精神症状と呼ばれるうつや統合失調など⇒『精神障害』
高次脳機能障害と認知症の違いとは?
前述した「認知機能に問題が生じる原因」からもわかるように、高次脳機能障害と認知症の違いは以下になる。
- 急性発症で改善が期待されるもの⇒高次脳機能障害
- 慢性発症で徐々に症状が進んでいくもの⇒認知症
上記は、経過や原因で分類しているが、詳細が不明な場合や、重複する部分がある場合は、厳密には分けられない。
※例えば、高齢者で脳卒中を発症した場合などは、高次脳機能障害と認知症を同時に有しているケースもあり、どちらが優位なのか分かりにくい場合もあったりする。
更には私たちが医療・介護の現場で使われている『高次脳機能障害』という用語と、行政での用語の意味合いが異なっており複雑だったりもする。
※ちなみに、アメリカでは、上記分類における②高次脳機能障害と③認知症を『神経認知障害』という用語でひとまとめにしていたりする(なので、どの切り口で高次脳機能障害という用語を使うかで意味合いが異なってくる)。
いずれにしても、「認知機能に問題が生じている」という点は共通しているため、症状やそれらへの対応には共通部分も多くあったりする(対応が異なる部分も多くあるが)。
一方で、改善が期待されるのか徐々に進行するのかという側面からみると、リハビリを進める上で全体の考え方は異なってくる。
高次脳機能障害の症状
高次脳(つまり大脳新皮質)の機能は多様であるが、例えば以下の2つにつが症状として分かり易い。
- 頭の問題
注意力や記憶力など⇒神経生理学的検査のテストで点数化が可能
・この問題は、高次脳機能障害では『神経心理学的障害』とも呼ばれる。
・この問題は、認知症では『中核症状』とも呼ばれる。
- 心や行動の問題
対人関係がうまく作れない・感情や欲求のコントロールが上手くいかないなどが起こることがあり、点数化することが難しく、生活においても困ることが多い問題。
・この問題は、高次脳機能障害では『心理社会学的障害』とよ呼ばれる。
・この問題は、認知症では『周辺症状』と呼ばれる。
認知症の『中核症状』と『周辺症状』に関しては、以下の記事でも詳しく解説しているので合わせて観覧してみてほしい。
⇒『ご家族も必見! 『認知症』を語る上で欠かせない基礎知識を総まとめ』
高次脳機能障害の代表的な症状と対応
高次脳機能障害の症状として、ざっくりと「頭の問題」と「心や行動の問題」と解説したが、もう少し厳密な症状として代表的なのは以下の4つとなる。
・注意障害
・記憶障害
・遂行機能障害
・感情や行動の障害
ここから先は、これら4つに関して、一般的な対応も含めて解説していく。
注意障害
集中できず周囲に気が散り易い、注意をむけられずにボーっとしている、課題に時間がかかかる、うっかりミスや不注意が多い、などが該当する。
※注意点として、これらの特徴は私たちも大なり小なり持っており、「注意力散漫=注意障害」ではない点には注意してほしい(ここに記載している症状全てに言える)。
注意障害に関しては、まず集中できる環境を作り、情報量を少なく単純化する。
訓練としては、以下などの様に徐々に難易度を上げていく。
・単純な計算や漢字などのドリル
・迷路や音読
・新聞の切り抜きの要約
・・・・・・・・・・・・・など。
最初は注意力を付けることを目的に、その後時間や回答率を記録、フィードバックしながら行う。
※PCやタブレットも活用できるかも。
ちなみに、注意障害の評価として有名なテストとしては以下などがある。
⇒『トレイルメイキングテスト(TMT):簡便に注意機能を評価しよう』
記憶障害
新しいことが覚えられない、覚えtことを忘れてしまう、思い出せないなどの障害である。
軽度の場合は、訓練や生活の工夫によりそれ自体が改善することがあるが、中等度~重度の場合は、残った機能で補う(代償)方法を考える必要も出てくる。
記憶は以下に分けられる。
・頭で覚えるもの(学習されて事実や知識の記憶)
・体で覚えるもの(技能の様な操作に関する記憶など)
そして、記憶障害を有していても「体で覚えるもの」は記憶に残りやすいため、目で見た記憶や耳で聞いた言葉の中で定着しやすいものを利用しながら、何度も何度も繰り返し身体で覚えてもらうことが、戦略を習慣化するコツとなる(もちろん、なかなか定着しない場合もあるのだが・・・)。
遂行機能障害
遂行機能とは「実行する機能」のことである。
一連の手順が上手くいかず、「時間がかかる」「要領が悪い」「頼んだことを一つずつしか行えない」というように周囲からは見えてしまう。
対処法としては以下などが挙げられる。
・情報を分けて事前の準備を行う
・手順を言語化する
・事前に計画を立てる
・一つずつ順番に行う
・いきなり行わず立ち止まって確認する
※これらは『ゴール マネジメント トレーニング』といって、職業訓練などで良く行われる方法となる。
感情・行動の障害
感情や行動の障害は、その人の持つ病前のキャラクターも影響するため、一人一人の対応が異なる。
従って言あkなどの行動観察を行って分析するところから始める。
・どういうもの(作業・人・会話・音など)が本人の問題行動を引き起こすのか
・本人はどの時どういう反応を示すのか
・・・・・などなど。
※周囲にとっては問題となる行動であっても、本人にとっては理由があるケースが多いとされている。
その上で、例えば「引き金になるものは避け、なるべく問題行動が起きる前に周囲が動く」など様々な対策を施していく(多様性があるので一概に言えない)。
その場から、それらの問題行動に対して批判はせずに指摘したりする(ただ、感情のコントロールが出来ない人に指摘するのはかなり非常に神経を使う必要があったりもする)。
これらの対応をしつつも、内服薬が処方されることもある。
ただし「問題行動を抑える薬剤(向精神薬)」は、覚醒レベルや認知機能を低下させる可能性があることも十分考慮しなければならない(さじ加減が難しかったりする。薬が効きすぎると活動性が極端に低下し、廃用症候群に陥ることも・・・)。
頭部外傷と高次脳機能障害
高次脳機能障害を起こしやすい疾患の一つに『頭部外傷』があり、頭部外傷に関しては以下の記事で詳しく解説している。
また、高次脳機能障害に関しても(この記事とは違った切り口で)解説しているので、淡えて観覧してもらうと高次脳機能障害に対する理解が深まると思う。