この記事では、高次脳機能障害の一つである『注意障害』について解説している。
注意って何だ?
注意という言葉自体は、留意・配慮・叱責の意味で日常生活で頻回に用いられている。
・居眠り運転しないように注意する
・風邪を引かないよう注意する
・歩きたばこをやめるように注意するな
ただし、このことが逆に「注意障害」なる用語を分かりにくさせている側面もある。
でもって、高次脳機能障害の一つである『注意障害』における「注意」という用語は、生理学的には以下を指す。
意識の焦点を合わせて集中することが本質であり、あることを効果的に処理するためにほかのいくつかの事から手を引くこと
なので、このような生理学的意味における障害が、注意障害であると考えられる。
でもって注意機能の障害は、空間認知・言語・行為・学習・記憶など全ての認知的行動に基礎的に関わるため、注意障害への評価とアプローチが最優先される。
注意障害の臨床分類
前述したように、注意には「集中」と「選択」の2つの側面がある。
でもって「集中の適度」という視点から以下の4つに分類されている。
・覚醒度(alertness , vigilance)
・持続的注意(sustained attention)
・選択的注意(selective attention)
・分配性注意(divided attention)
さらにこれらを意図的にコントロールする注意の制御機構が想定されている。
※この様な注意の諸側面の障害は「全般性注意障害」と呼ばれ脳外傷後に多く認められる。
⇒『頭部外傷(外傷性脳損傷)とは!?高次脳機能障害も含めて解説』
各種障害における臨床的な特徴
前述した各種の注意障害における臨床的特徴は以下の通り。
覚醒度の障害:
覚醒度の障害があれば、注意が喚起されにくく喚起されたとしてもすぐに減弱してしまう(関連記事⇒『意識障害の意味・評価法・原因を考える』)
持続的注意障害:
持続的注意障害では、時間経過とともに課題に対する反応が低下する。
選択的注意障害:
選択的注意の障害では妨害・干渉刺激の中から正解の標的刺激を選択することが困難となり、ほかの刺激に惑わされ易くなる。
分配性注意障害:
分配性注意障害が障害された場合には、複数の課題を同時に行うことが困難となり、一方の課題から他方の課題に柔軟に注意を振り向けることができなくなる。
全般性注意障害を『不随意的注意障害』と『随意的注意障害』に分類
全般性注意障害に関連して、Luriaは不随意的注意障害と随意的注意障害にわけて論じている。
不随意的注意障害:
不随意的注意障害とは脳幹・辺縁系障害による定位反射障害であり、臨床的には無気力・易疲労性が認められるが言語的指示により改善がもたらされる。
随意的注意障害:
随意的注意障害は前頭葉障害によって起こり、注意喚起性の減弱、転導性亢進症状(注意が散漫な状態)は言語指示によって改善しないという。
この前頭葉障害による注意障害は「遂行機能障害」の基盤をなすとされる。
※口頭指示で修正できるかどうかでどの部位が障害されているかで、どちらの注意障害か区別できる。
方向性注意障害
一側性脳血管障害による半側空間無視のメカニズムの中核をなすものとして、『方向性注意(directed attention)障害』が重視されている。
臨床的に右半球損傷による左半側空間無視が重篤で頻度が高いのは、左半球が右空間への方向性注意を司るのに対して、右半球は両側の空間への方向性注意を担うためであると説明されている。
方向性注意障害の神経機構としては網様体・辺縁系・帯状回・頭頂葉のシステムが重視されており、特に発症急性期では前述の全般性注意障害と重複することが稀ではなく、臨床像を複雑にしている。
注意障害のリハビリ
ここまでの記載と重複するが、注意障害とは簡単に表現すると以下になる。
注意障害のリハビリに関しては、まず集中できる環境を作り、情報量を少なくして単純化するのがポイントとなる。
前述したように、注意障害にもさまざまな種類があるが、まずは「一つの課題に集中して取り組めること」が大切であり、その後徐々にステップアップ(例えば、配分性注意障害に対するアプローチなど)。
具体的なリハビリとしては「簡単な計算や漢字などのドリルから始め、迷路や音読、新聞の切り抜きを要約するなどが多岐な内容に発展させていく」などが挙げられる。
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以下は、注意障害も含めた高次脳機能障害のまとめ一覧となる。