この記事では脳卒中によって生じる『高次脳機能障害』の一つである『失認( agnosia)』について、種類や特徴も含めて記載している。
目次
失行とは
失行とは以下を指す。
失行には以下の種類があり、順に解説していく。
・観念失行
・観念運動失行
・肢節運動失行
・着衣失行
・構成運動失効(構成運動障害)
この他の行為としては『運動維持困難(motor impersistence)』がある。
※運動維持困難は「指示された運動(例えば目を閉じたままにする、口を開いたままにするなど)を長く維持することが出来ない状態を指し、2つの動作を組み合わせるとより
困難な課題となり陽性率が高くなるとされている。
※ただ、2つの動作を組み合わせるという事は、注意をそれぞれに分散させつつ維持する機能(分配性注意)が困難な事を意味する気が。。そんなことも考えると、運動維持困難は『注意障害』に該当するのではと個人的には思ったりもする。
話を『失行』にもどして、ここから先は各失行の種類についての詳細を解説していく。
観念失行(ideational apraxia)
観念運動失行とは以下を指す。
自発運動に障害があり、口頭命令でも誤った反応がみられる。
複雑でなければ模倣動作は可能な場合も多い。
障害部位:
優位半球頭頂莱
検査の例:
検査日常用いられている物品を正確に使えるかをみる。
例えば、コップに水を入れて飲むように指示する。
観念運動失行(ideomotor apraxia)
観念失行とは以下を指す。
個々の動作は可能であるのに、目的にかなった行為はできない状態。
日常生活上の自発運動は正常に行うことができるが、検者による口頭指示や検者の模倣をする場合に障害がみられる。
また、できない行為も常にできないのではなく、ある特定の環境や条件、動作などはうまく行えたりもする。
障害部位:
優位半球頭頂葉下部
検査の一例:
検査ジャンケンの手つきをさせたり、下肢で円や四角を描くようにさせたりする。
また、耳や手に触れるように指示する。
もう少し詳細な検査例
もう少し詳細な検査例としては以下などが挙げられる。
象徴行為:
「兵隊の敬礼」「おいでと手まねきする」(身振り)などを実施してもらう。
道具使用の模倣:
「歯みがきの模倣」「スプーン使いの模倣」などの道具使用の模倣をしてもらう。
上記の模倣が口頭命令でうまくできないときは、検者が動作をしてみて模倣させる。
口頭命令が理解できているのに動作を誤るか、模倣がうまくできなければ観念連動失行と判断できる。
肢節運動失行(limbkinetic apraxia)
肢節運動失行とは以下を指す。
障害部位:
左右いずれかの前運動野上部(病巣と反対側に現れる)。
肢節運動失行の種類
肢節運動失行は、症状の出現部位によって以下の3つに分類される。
手指失行(hand-finger apraxia):
『手指失行』は指先の巧綴運動が困難になる状態を指す。
検査の一例:
- ・指を机の上でピアノを叩くように、順次屈曲させる運動を模倣させる。
- ・ボタンをはめる動作、鉛筆で字や絵を書く動作をさせる。
顔面失行(facial apraxia):
自分では笑ったり、しかめたりする事が可能。しかし一方で、「検者の指示に応じて、笑い顔を作ったり.しかめたりすること」は出来ない。これを『顔面失行』と呼ぶ。
検査の一例:
眼を閉じさせたり、舌を出させたりする。
歩行失行(apraxia of gait):
『歩行失行』は足が床に吸いついて歩けなくなったり、床から足を大きく離すことができなくなる状態を指す。
検査の一例:
下肢を交互に出すように指示したり、ボールをける動作を真似させる。
着衣失行(dressing apraxia)
着衣失行とは以下を指す。
障害部位:
劣位半球頭頂葉後部
検査の一例:
検査患者に着衣を脱いだり、着たりするように指示する。
その動作を観察する。
※評価の際は、きちんと畳んだ状態から衣服を着てもらったり、袖を裏返しにして患者に渡すと障害が明らかになる場合がある。
※ただし、半側無視や認知症でも左右の袖を間違えたり、衣服を着れない症状が現れるので鑑別が必要。
※この障害をもった患者の症状としては、ボタンを掛け違っていても気付かないといった軽いものから上下肢をどこに通したらよいかわからなくて全く衣服が着られない重症なものまで幅広い。
構成障害(constructional disability)
構成障害とは以下を指す。
かつては構成失行と呼ばれたが、失行の定義と異なるため今日では構成障害と表記することが多い。
障害部位:
以前は優位半球頭頂葉とされていたが、その後劣位半球頭頂葉の障害でも出現。
ただし、劣位半球障害では、空間失認も考慮に入れる。
検査の例:
二次元あるいは三次元の図形や物体の自発描画、模写、構成が、口頭指示の場合も自発的に行う場合にも困難となる症状なため、以下の様な検査を実施する。
- 紙に三角・四角・円などの簡単な形や、家・舟などの絵を描かせる。また検者が描いた図形を模写させる。
- マッチ棒で三角四角などの図形を作らせる。
- 積木の三次元の図形を模倣して作らせる。
他の高次脳機能障害との鑑別
構成障害に関して以下の様に前述した。
でもって広義の構成障害では、半側無視などの検査に影響を与える別の高次脳機能障害があってもよいことになっている。
ただし、半側無視との鑑別をしたいのであれば、線分二等分テスト、線分抹消テストなどを行う。
※線分二等分テストや線分末梢テストに関しては、『失認(apraxia)は? (半側空間無視など)』を参照。
また、認知症が疑われる場合には、図形模写も取り入れているミニメンタルステート検査(MMSE)が有用である。
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以下は、失行も含めた高次脳機能障害のまとめ一覧となる。