この記事では、介護予防・リハビリの対象として注目されている『サルコペニア』と『フレイル』に関して、それぞれの意味や違いについて記載していく。
これらは、高齢者のリハビリに携わる理学・作業療法士は知っておいて損のない知識なので、是非一読してみて欲しい
サルコペニアとは
サルコペニア(sarcopenia)は、ギリシャ語のsarx(筋肉)、penia(喪失)を合わせた言葉である。
サルコペニアとは、加齢に伴って筋肉量や筋力が著しく減少し、転倒から寝たきりに至る危険性が高い状態のことを指す。
特別な理由もなくサルコペニアになる高齢者が全世界で増えており、80歳以上の1~5割という報告もある。
近年、筋力低下に関連してよく聞く用語としてサルコペニアがあります。
サルコぺニアは1980年に「加齢による骨格筋量の減少」として最初に提唱されました。
近年では筋量の減少だけでなく、それに伴う筋力や身体能力の低下も含めるという考え方が一般的であり、EWGSPによる報告では、
「身体能力の障害、QOLの低下や死のような有害な結果をもたらすリスクを伴う、進行性で全身性の骨格筋量と筋力の低下に特徴づけられる症候群である」
と述べられています。
要約すると以下の通り。
・もともと『サルコペニア』は「加齢に伴う筋肉量の減少」という意味で使われていた。
↓
・しかし近年では「(筋肉量の減少のみならず)筋力低下や身体機能低下」もサルコペニアの範疇とするようになった。
高齢者におけるサルコペニアの発症機序
サルコペニアは多くの老年症候群を起こし、身体機能や認知機能の低下で転倒や死亡リスクを大きくする。
ちなみに、『書籍:理学療法評価学』では、以下がサルコペニア発症の機序として以下を挙げている。
- 筋線維の蛋白合成と蛋白分解のアンバランス
- 筋サテライト細胞の数および増殖能力の低下
- 内分泌環境の変化(成長ホルモンやテストステロンの減少など)
- 神経筋機能の減少
- ミトコンドリアの機能低下
- 成長因子の減少(インスリン様成長因子Iの低下など)
- 遺伝子発現の変化
- アポトーシス
- 身体活動の低下
- 栄養不足
サルコペニアの定義
サルコペニアの定義は以下の①と、②or③のいずれかが当てはまった状態を指す。
①筋肉量の減少
②筋力の低下
③身体機能の低下
サルコペニアは、「高齢者のふらつき」・「転倒・骨折」・「機能障害」・「要介護化」などと密接に関連している。
サルコペニアの評価としては、握力と歩行測定を実施する。
基準値は、握力を両手で各3回測定し、最高値が男性26kg・女性18kg未満、歩行速度が0.8km/秒以下。目安は、青信号で横断歩道を渡りきれるかどうかとなる。
どちらか一方でも該当すると、サルコペニアが疑われる。
確定診断は、X線を用いる特殊な検査方法「DXA(二重X線吸収法)」あるいは「生体インピダース法」で筋肉量を測定。
男性7.0(単位=キログラム/平方メートル)、女性5.4(同)の基準値未満なら、サルコペニアとされる。
~画像引用:サルコペニア研究~
ただし、この筋肉測定法は普及していないので、握力か歩行速度が基準値以下なら注意が必要と考えてかかりつけ医などに相談することが望ましい。
※DXAを用いる意義としては、筋肉量が基準値を超えているにもかかわらず、握力や歩行速度が基準値以下なら、他の病気(関節リウマチやパーキンソン病など)が影響している可能性も考慮する必要がある。
- 歩行速度の測定は以下を参照してほしい。
⇒『10m歩行テスト/高齢者の歩行スピードを評価しよう』 - 握力測定は以下を参照してほしい
サルコペニアの分類
サルコペニアは一次性、二次性の2つに分類される。
- 一次性(原発性)サルコペニア:
⇒年齢(加齢)以外の原因が無いもの - 二次性サルコペニア:
⇒「生活不活発(明らかに活動が不十分など)」・「何らかの疾患(脊柱管狭窄症・変形性膝関節症など)を有している」・「栄養不足」などが原因のもの
関連記事⇒『廃用症候群を総まとめ!看護/介護/リハビリで必須な知識を復習しよう』
サルコペニアのリハビリ(予防と治療)
サルコペニアのリハビリ(予防・治療)について記載していく。
※ただ結論から先に言ってしまえば、予防にしても改善にしても「適切な栄養と運動」が重要となる。
リハビリ① サルコペニアの予防
サルコペニアの予防においては以下が重要となる。
- 活動的な生活習慣
- 筋力トレーニングを含む運動習慣
- 十分なタンパク質を中心とした栄養管理
- 慢性疾患の予防と管理
50~60歳代を境に急激に、筋量・筋力ともに急激に低下することが知られている。
でもって特に80歳代以上の高齢者の筋量や筋力は、30歳未満と比較して半分に低下しているとの報告もあったりする。
そして、サルコペニアの予防には習慣化が大切となる。
コツコツと前述した項目を継続することがサルコペニアの予防につながる。
運動に関しては、例えば週2~3回のレジスタンス運動(筋肉増強運動-筋肉に一定の負荷をかけて筋力を鍛えるトレーニング)などが一つの目安となる。
※つまりは、以前の記事で「寿命には有酸素運動が良く、無酸素運動には弊害があるという」という論調での記事を作成したが、「サルコペニア」という視点で考えると、必要最低限の水準にまで筋力を維持・向上させるためのレジスタンストレーニング(無酸素運動)も大切ということになる。
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リハビリ② サルコペニアの治療
サルコペニアには以下の2つに分類されると前述した
・一次性サルコペニア
・二次性サルコペニア
でもって、どちらのサルコペニアかによって治療の考えが異なる。
一次性サルコペニアの治療:
一次性サルコペニア(原因が加齢のみ)の場合、筋力トレーニングが最も有効である。
※もちろん『十分な栄養』も必須であり、栄養不足では筋力トレーニングの効果が発揮されない。
二次性サルコペニアの治療:
二次性サルコペニアの場合は、まず「不必要な安静」を避けることが重要となる。
※過剰な活動が悪影響を及ぼす場合もあるが、多くは過剰な安静のために二次的障害(廃用症候群)が起こっていることが多い。
また、疾患に関連したサルコペニアであるため、「疾患自体の治療・管理」が重要となってくる。
※疾患の程度によっては、筋力トレーニングは控える必要があるし、実施するにしても十分なリスク管理が必要な場合もある。栄養に関しても「単純に十分摂取すればOK」という類ではない場合もあるので一概には言えない。
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⇒『リハビリのリスク管理に『安全管理・中止基準のガイドライン』を知っておこう!』
どんな栄養が大切なの?
『一次性サルコペニアの治療』の項目で「十分な栄養も必須である」と記載したが、具体的にはどんな栄養素が重要なのかを深堀していく。
当然のことながらバランスの良い食事(栄養摂取)が大切になるのだが、その上でサルコペニアの予防・改善には以下の摂取が重要とされている。
- 良質なたんぱく質・アミノ酸(ロイシンなどの必須アミノ酸)
関連記事⇒『栄養の重要性を徹底解説!!』
- ビタミンD:
ビタミンD 濃度(血中25-ヒドロキシビタミンD 濃度)が低いことと、身体機能、筋力低下との関連性が高いことが分かっている。 - カルシウムなどの摂取
フレイルとは
『フレイル(Frailty)』とは日本老医学会が提唱している概念で、高齢者の筋力や活動が低下している状態(虚弱)を指す。
フレイルの定義は以下の通り。
高齢期に生理的予備機能が低下することでストレスに対する虚弱性が亢進し、
生活機能障害、要介護状態、死亡などの転帰に陥りやすい状態で、
筋力低下により動作の俊敏性が失われて転倒しやすくなるような身体的問題のみならず、
認知機能障害やうつなどの精神・心理的問題、独居や経済的困窮などの社会的問題を含む概念。
サルコペニアのキーワードが『筋肉量(+筋力・身体機能)』と単純で分かり易かったのに対し、フレイルは上記の様にゴチャゴチャとした一見すると分かりにくい。
フレイルとは虚弱性が増大した状態
上記の定義の様にフレイルの定義はゴチャゴチャしているのだが、そんなフレイルを一言で表すと以下になる。
『フレイルとは虚弱性が増大した状態』
まずこれを軸にしたうえで、様々な要素を付け足していくと「フレイル」という用語の全体像が見えてくる。
日本では、これまでfrailtyの訳語として「虚弱」という用語を用いてきたが、最近のfrailtyは「適切な運動や食習慣によって改善が可能」という可逆性をもた概念であるため、負のイメージを持つ『虚弱』『衰弱』といった用語に訳されなくなった。
でもって、『虚弱』『衰弱』といった用語の代わりに登場したのが「フレイル」というカタカナ語であり、日本老年医学会が2014年に提唱した。
なので、フレイルとは以下のように表現できる
『フレイルとは、虚弱性が増大しているものの、改善の余地がある状態』
ただし、キーワードとなっている「虚弱」というのは、ものすごく曖昧な用語である。
でもって、筋力・持久力・生理機能の減退などなど複数要因から成り立つ症候群と言える。
なので、この曖昧な『虚弱』を表現するために、フレイルの定義はゴチャゴチャとした表現になっている。
高齢期に生理的予備機能が低下することでストレスに対する虚弱性が亢進し、
生活機能障害、要介護状態、死亡などの転帰に陥りやすい状態で、
筋力低下により動作の俊敏性が失われて転倒しやすくなるような身体的問題のみならず、
認知機能障害やうつなどの精神・心理的問題、独居や経済的困窮などの社会的問題を含む概念。
フレイルとサルコペニアの違い
前述したようにフレイルは、サルコペニアと比べて「高齢期における機能減退状態」を広く捉えた概念といえる。
なので、個人的には「フレイルを生じ察せる様々な要因の一つにサルコペニアも含まれる」といった解釈で良いのではと感じる(あくまで個人的な意見)。
フレイルの評価方法
米国老年医学会が発表した評価法によると、以下の項目のうち3つ以上が該当するとフレイルと認定されることになっている。
・年に4~5kgの体重減少
・疲れやすくなった
・握力の低下
・歩行スピードの低下
・身体の活動性低下
上記は、何となく「虚弱な人」を連想させるのではないだろうか?
でもって、「握力」「歩行スピード」に関してはサルコペニアとも重複する評価であるため、サルコペニアの要素も評価していると言い換えることが出来るのではないだろうか?
重複するがフレイルとは、(サルコペニアに比べて)非常に幅広く抽象的で曖昧な概念である。
でもってフレイルの定義や診断基準については医学的に多くの研究者によって議論が行われているにも関わらず、意見の一致が得られていないのが現状である。
※例えば、前述した5項目に関しても、厳密な基準は「年に4~5kgの体重減少」のみであり、それ以外は以下の様に基準値は設けられていない。
・どの程度疲れやすければフレイルなのか?
・どの程度、歩行スピード、握力、活動性が低下すればフレイルなのか?
兎にも角にも、サルコペニア・フレイルともに、「高齢者が認知症や転倒・疾病による機能障害に陥り介護が必要になる直前の段階」と「健康な状態」との中間のような段と捉えることが出来る。
一般的に高齢者の虚弱状態を加齢に伴って不可逆的に老い衰えた状態と理解されることも多いが、サルコペニアもフレイルも、しかるべき介入により再び健康な状態に戻る可能性を秘めている。
従って、サルコペニアやフレイルを早期に発見し、適切な介入をすることにより、生活機能の維持・向上を図ることが期待される。
フレイルのリハビリ(予防と改善)
サルコペニアのリハビリ(予防・改善)に関して、「栄養と運動の重要性」を記載したが、これはフレイルにも当てはまる。
つまり、予防や改善の話になると多くの部分でサルコペニアとフレイルはオーバーラップしてくる。
しかし、フレイルはサルコペニアよりも幅広い概念を持っているため、予防と改善には+αの補足が必要となる。
でもって、その+αとは『活発な社会参加(外出・コミュニケーション・仕事・ボランティアなど)』である。
この「活発な社会参加」はサルコペニアの改善にも結び付く要素ではあるが、認知機能の活性化などサルコペニアの範疇には無い効果も期待している。
また、サルコペニアとフレイルをICFで以下のように例えると、違いが更に分かり易くなる。
- サルコペニアの予防・改善でターゲットにしているのはICFにおける『心身機能』
- フレイルの予防・改善でターゲットにしているのはICFにおける『心身機能』『活動』『参加』の全て
ICFに関しては、以下の記事で深堀しているので、合わせて観覧してみてほしい。
⇒『ICFとは!?考え方・活用法を、図や例も使って分かりやすく解説』
サルコペニア・フレイルのリハビリ関連記事
筋力を増強させる方法は無数にあるが、以下の記事ではスロートレーニングについて紹介している。
スロートレーニングは、ゆっくりとした地味な運動であるものの、効率的な無酸素運動トレーニングとして注目を集めている。
スロートレーニングで効率的なシェイプアップ!
また、高齢者の身体機能に関しては、「サルコペニア」や「フレイル」以外に、『ロコモティブシンドローム』なる概念も存在する。
それらの用語も理学・作業療法士として知っておいて損は無い知識だと思うため、以下の解説を参照してみてほしい。
ロコモティブシンドロームの予防と運動
また、サルコペニアやフレイルと関連深く、リハビリ(理学療法・作業療法)や介護・看護の専門用語として馴染み深いものとしては、『生活不活発病(廃用症候群)』がある。
※高齢者で生活が不活発な場合はサルコペニアやフレイルを起こしやすい(助長しやすい)。
※ただし、サルコペニア・フレイルは生活が不活発でなくとも(加齢に伴い)起こり得る場合もあるので生活不活発病とイコールではない。
そんな『生活不活発病(廃用症候群)』については以下の記事でも解説しているのでチェックしてみて欲しい。
生活不活発病の理解がリハビリに必須な件