この記事では、先天性無痛症を例にして、「痛み感覚」の重要性について記載していく。
先天性無痛症
『先天性無痛症』という痛みを全く感じることが出来ない病気がある。
一次侵害受容ニューロンの発生・分化には神経成長因子(NGF)が関与しているが、この病気ではNGF受容体のTrkA遺伝子に変異があることが解明されている(その他に、ナトリウムイオンチャネルの変異や神経成長因子の変異による先天性無痛症も報告されている)。
胎生期に末梢組織がNGFを放出しても、TrkA遺伝子に変異があるために、侵害受容線維は存続できず、痛みを感じることが出来ない。
また、痛みのない世界にいるため侵害刺激による屈曲反射がおこらないだけでなく、警告信号が脳に到達しないために、環境からの危険を学習することが困難であり、無意識に危険から逃避することもできない。
このことから、捻挫や骨折をしても痛くないのでそのまま動き回ってしまうといったことにも繋がってしまう。
あるいは、例え小さな傷であっても本人の訴えがない為に発見・手当が遅れてしまい、壊疽に繋がり、その果てに手足の切断にまで至ってしまうこともある。
更には外傷だけでなく、内臓の痛みも感じないために、内科的な病気の発見が遅れてしまうことすらあり得る。
痛みは生きていくうえで必須なものである
このように痛みとは、自分の体を守るための警告信号として非常に重要な要素であることがよく分かる。
そして、このことは臨床において私たちに様々な事を示唆してくれている。
例えば、「痛み=警告信号」と捉えた場合、「痛みを我慢してのリハビリ」というのは有害になり得るという事だ。
更には、痛み刺激による神経の感作や脳の可塑的変化につながると痛みの慢性化により、痛みが複雑化してしまうこともある。