この記事では、『アロディニア』という用語について解説していく。
痛覚過敏とアロディニア
痛覚過敏(hyperalgesia)とは以下を指す。
『どんなに軽微な侵害刺激に対しても、感作が生じているために本来の刺激以上に強い痛みが生じてしまう状態』
これに対して、アロディニア(allodynia)とは以下を指す。
『皮膚に触覚刺激、軽い圧刺激など、普通痛みを起こさないような非侵害刺激が加わっただけでも痛みを生じてしまう状態』
上記の画像は、痛覚過敏が侵害刺激で「ものすごく痛いと感じる」のに対して、
アロディニアが非侵害刺激ですら「すごく痛いと感じる」というのが分かり易い(参考画像:ペインリハビリテーション)
例えば、衣服や寝具が触れる、風邪が当たるなど軽微な刺激でも痛みを感じたりする。
私自身もアロディニア(恐らく線維筋筋痛症と思われる)を有した方の訪問リハビリを担当したことがあるが、上記のようにエアコンの風に当たるだけでも痛く、少し皮膚に触れるだけでも飛び上るほどの苦痛を訴えるといった具合であった。
臨床において対応に難渋するアロデニアだが、この症状は痛覚神経ではない他の神経(例えば触覚神経)からの信号が痛みの信号として伝わってしまうことが関係していると言われている。
これは人間を対象に血圧計のマンシェット(腕に巻きつける帯)を使用した実験により証明されているため、その実験内容を記載することでアロデニアに対する理解を深めてもらいたい。
アロディニアの実験手順
アロディニアの実験手順は以下の通り。
手順1:
健常者は腕にマンシェットを巻いて血流が止まるぐらいいっぱいに膨らませた状態で20分くらいそのままにしておくと、『触覚刺激は感じなくなるが、痛覚刺激には過敏になる』といった状態になる。
※ポイントは「阻血により触覚刺激は感じなくなる」という点である。
※手順1は医学生の間でも痛覚と触覚についての理解を深めるため実際に学校でも授業で体験するらしい。
手順2:
次にアロディニアを有した患者の正常側、問題側に対して痛み評価をおこなった。
テスト前の評価の結果は以下の通り。
・正常側の腕は1グラム以上の刺激で触れられていると感じ、10グラム以上の刺激で痛みを感じる。
・問題側の腕は1グラム以上の刺激でテストを終了せざるを得ない程度の痛みが出現してしまう。
手順3:
この患者の問題側の腕に手順1と同様な阻血状態を作り出し、手順2の評価と比較した。
アロディニアの実験から分かること
この実験からは「10グラム以下の刺激を加えても何も感じない(痛みが出現しない)」という結果が得られた。
痛覚神経が過敏になっているのであれば、マンシェットで阻血することにより10グラム以下の刺激を加えた際にテスト前と同等な痛みを訴える(あるいはそれ以上に痛覚過敏になる)ことはあっても、痛みが出現しないということはあり得ない。
そして、『阻血によって消失する感覚は触覚である』という事実から、アロデニアによって生じていた10グラム以下の刺激での痛み(触れられただけで感じる痛み)は痛覚神経ではなく、触覚神経の問題であると結論付けることができる。
正常時には触覚と痛覚に関与する神経は独立しているため、どれだけ触っても、それを痛みと感じてしまうことは無い。
しかし、この実験で「本来ならば触覚刺激を伝えるための経路が痛みの経路へも関与してしまっている」ということが証明されたことになる。
この証明がなされるまでは、アロディニアは痛覚過敏の延長上の症状だと考えられており、その考えを覆す貴重な実験とされている。
そして、私たちの臨床においては、アロディニアを起こしている患者さんに対して周囲の人が「触っただけでそんなに痛がるなんて、大げさな」といった心因性要素だけを疑ってかかるような考えはのは誤りであると言える。
神経が混線してしまったために激痛が起こることもあり得るということを正しく理解すれば、患者さんへの接し方も変わってくるかもしれない。
アロディニアは、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、心因性疼痛のいずれでも生じることがあり、複合性局所疼痛症候群(CRPS:complexregionalpainsyndrome)、慢性腰痛(failed back Syndromeを含む)、線維筋痛症などの疾患でもみられる。
アロディニアには、
軽い触刺激が皮膚に加わるだけで生じるmechanical allodynia、
痛みを感じない程度の温刺激で生じるheat allodynia、
冷刺激で生じるcold allodyniaなどがある。
Mechanical allodyniaには、
触刺激が皮膚に加わるだけで痛いmechanical static allodynia、
皮膚にあたり動くことで痛いmechanical dynamic allodynia、
皮膚に軽い圧が加わることで痛いmechanical deep allodyniaがある。
アロディニアは、加わる刺激がどのような刺激であったとしても、感覚の質が変化している状態であり、つまり刺激と反応の様式が異なっている状態である。
アロディニアの発生メカニズムとして、侵害受容器の閾値低下(末梢性感作)や脊髄後角のWDRニューロンの閾値低下(中枢性感作)などによって、非侵害刺激(情報)を侵害受容ニューロンが伝えて痛みとして知覚するようになっていると考えられている。
~『ペインリハビリテーション』より引用~
関連記事
アロディニアや痛覚過敏については以下のサイトでも言及しているので、ぜひ参照してみてほしい。
HP:感作(末梢性感作・中枢性感作)と脳の可塑的変化を徹底解説!
また、アロディニアや痛覚過敏が生じる病態として『線維性筋痛症』や『CRPS(複合性局所疼痛症候群)』が挙げられ、詳しくは以下も参照してみてほしい。
線維筋痛症とは?個人的な体験も含めてブログで解説!(ガイドライン・エビデンス含む)