この記事では、上肢(肩・肘・手関節)に対する関節モビライゼーションのポイントを記載していく。

 

四肢関節のモビライゼーションは、脊柱モビライゼーションと比べて簡単であるが故に、ブログレベルの表現でも臨床で活用しやすいので是非観覧してみてほしい。

 

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※下肢(股・膝・足関節)に関するモビライゼーションは後述するリンク先を参照してほしい。

 

※関節モビライゼーションの適応・禁忌・基本的な留意事項に関しては割愛しているため、詳細は以下を参照。

⇒『関節モビライゼーションとは?定義/適応と禁忌/種類とグレード/治療面について解説!

 

目次

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肩関節モビライゼーション

 

「肩関節」と表現されるものは以下で構成される(滑膜関節以外も念のため記載する)。

  • 肩甲上腕関節
  • 肩鎖関節
  • 胸鎖関節
  • 肩甲胸郭関節
  • 第2肩関節

 

これらの中で、この記事では「肩甲上腕関節」にフォーカスを当てて記載していく。

 

※以降は「肩甲上腕関節」を肩関節と略して記載。

 

 

肩甲上腕関節における治療面の特徴

 

特徴1:治療面が外側(+腹・頭側)へ向いている

 

肩関節モビライゼーション(五十肩)
カパンジーの機能解剖学には肩甲骨関節窩に関して以下の様に記載されている。
『肩甲骨体部の上外角にあり、外方・前方および軽度上方を向いている』
~左画像はカパンジーの機能解剖学より引用~



治療面を把握しておくことは、全ての関節モビライゼーションを実施するにあたって重要である。

 

※全ての関節モビライゼーションは治療面に対する並進運動が基本となる。

 

※治療面に対する平行な可動は「滑り」と表現される。

 

※治療面に対する垂直な可動は「離開」と表現される。

 

 

特徴2:

治療肢位では(肩甲上腕リズムによって生じる)肩甲骨の角度も加味して滑りモビライゼーションの方向を決定する必要がある

 

肩甲上腕関節の関節モビライゼーション時には、肩甲上腕リズムも考慮して可動方向を見定めなければならない。

 

例えば、肩関節屈曲120°な可動域制限を有した対象者に、治療肢位(=自動運動最終域)での「肩甲上腕関節の尾側滑りモビライゼーション」を考えたとする。

 

その際は、単に(治療面だけに留意して)尾(+若干の外)側方向へ滑らせようとするのではなく、肩甲骨の外転角度も加味しておかなければならない。

肩甲上腕関節モビライゼーション

 

※すなわち、尾(+若干な外側)方向から、更に(肩甲骨が外転している分も加味して)可動方向を決定する必要がある。

 

※もし肩甲上腕リズムを加味していなければ、関節副運動テストが偽陽性(過少運動性)と判断される可能性がある。

 

※もちろん、可動方向もブレているため効果的な関節モビライゼーションが実施できない(むしろ関節を傷めてしまう可能性すらある)。

 

※肩甲上腕リズムを加味する際(で尚且つ歩行肢位で実施する際)は、つま先を必ず可動方向へ向けておく

 

⇒これにより体重移動だけで関節を動かせるため、手は副運動やグレードへ感覚を集中できる。

 

⇒肩甲上腕関節は傷めやすい部位なので、慎重に可動するよう注意。

 

 

肩関節モビライゼーションを動画で紹介

 

肩関節モビライゼーションの動画があったので紹介する。

 

 

この動画のポイントは、2分30秒からの『上腕骨の尾側滑りモビライゼーション』である。

つま先の向きが内側になっていたり、可動が粗暴であるなど気になるはあるものの、以下の点は参考になる。

 

歩行肢位であり、(手押しではなく)体重移動によって可動させる環境を整えている。

・体重を落としてなるべく療法士の体を密着させる。

・可動部(上腕骨頭)になるべく近い場所を把持する。

・可動手の前腕長軸が、可動方向(尾・外側)と一致している(一致していないと、体重移動で可動しにくく、手押しになったり、可動軸がぶれたりする)。

・離開(治療面に対して垂直な力)を軽度に加えたうえで、滑らせ(治療面に対して平行な力)ている(⇒『治療面について』)。

・可動方向が尾(+外)側になっている(尾・内側になっていない)。

 

 

動画内で紹介されている、上記以外の方法に関しては、突っ込みどころが多々あって、それを踏まえたうえで開設するのが大変そうなので割愛する(参考になりそうなポンとがあれば、そこだけ臨床で活用してみてほしい)。

 

※基本的に、デモンストレーションなのでガシガシと動かしているが、実際はもっと愛護的に動かす必要がある点には注意してほしい(誤解しないでほしい)。

 

 

肩甲上腕関節モビライゼーションのポイント

 

肩関節の可動域制限がある場合、痛みを伴う制限なのか、痛みを伴わない制限なのかで、適用グレードや実施肢位が異なってくる。

 

例えば痛みを伴わない場合の可動域制限な場合、静止肢位(=LPP)での離開手技あるいは、治療肢位(=自動運動最終域)での関節モビライゼーションを施行する。

 

※痛みが無いのであればグレードⅢでOK

 

※個人的には上肢挙上(肩関節屈曲・外転)制限で、尚且つある程度の可動域を有しているのであれば治療肢位での滑りモビライゼーションを施行することが多い。

 

※屈曲や外転以外の要素(外旋など)の改善であれば離開手技を用いる。

 

※離開手技は効率よく関節周囲組織(関節包など)を伸長できる手技である点は覚えておいて損はない。

 

※最終域での滑りモビライゼーションは「関節への負担が強い」との考えから推奨しない学派もある(あるいは僅かな牽引を加えた状態で滑りモビライゼーションを実施するなど)

 

※逆に言うと、もし滑りモビライゼーションを最終域(付近)で用いるのであれば、「治療肢位」という点に留意するということ。

 

※「治療肢位」とは「(他動運動)ではなく自動運動における最終域」を指す。

 

痛みを伴う可動域制限の場合も一般的には上記と同様であるが、PDMかERPかで手法が異なってくるかもしれない。

 

痛みが上記のどちらかも踏まえて、慎重に反応を評価してグレードを微調整していく。

 

※この辺りは「アートな要素」であり、個別性も強いので言語化は難しい・・・・

 

疼痛が強い場合では「治療肢位」での関節モビライゼーションよりも「現在の静止肢位(=本人が一番安楽な肢位)」での離開手技が採用される。

 

可動域の改善が得られた後はStabilizationエクササイズも実施。

 

特に上腕骨頭の中心化は重要!

 

安静時痛が生じている場合は、グレード3の関節モビライゼーションは用いない。

 

※「現在の静止肢位」でグレード1~2の離開手技が適用となる場合はあるかもしれない。

 

※もちろん、安静時痛が生じているのであれば、適切な日常生活指導(ポジショニングも含む)が重要となることもある。

 

 

臨床推論により、以下に述べているような肩甲上腕関節以外へフォーカスしたアプローチを選択する場合も多い。

 

例えば、肩関節の機能障害を改善しようと思った時には『肩甲上腕リズム』も含めて複合的に考えていく必要性がある。

 

あるいは、肩関節は脊柱の機能障害とも密接に関連しており、従って頚胸椎移行部や肋椎関節のモビライゼーションによって肩関節の機能障害が改善される場合もあり、これらの視点も大切となる(特に頚胸移行部は肩関節へアプローチしていないにもかかわらず顕著に機能障害(可動域制限やERP・PDMなど)が変化する場合がある。

 

胸椎モビライゼーションは、肩や肘の疼痛を主訴とする患者に対し疼痛や機能障害の改善を促進させる(推奨グレードA)

 

肩痛を主訴とする患者に対し、胸椎と肋骨のマニピュレーションは即自的な効果があるとの報告がある。

 

また、肩や肩甲帯の障害において、通常の治療に胸椎への徒手療法を加えると肩の症状の回復が促進される。

 

さらに肩のインピンジメント症状を持つ患者に対する胸椎へのマニピュレーションは、インピンジメンットの改善に即自的な効果があるとの報告もある。

 

頸腕痛を有する患者に対し、胸椎と肩甲上腕関節への関節モビライゼーションは、疼痛や機能障害において改善を示すとの報告がある。

 

外側上果炎症の患者に対しても、頸胸椎への徒手療法を加えることは症状改善の促進につながるとの報告がある。

理学療法診療ガイドライン第一版ダイジェスト版 P453

 

 

肘関節モビライゼーション

 

肘関節は以下の2つで構成される。

  • 腕尺関節
  • 腕橈関節(+近位橈尺関節)

 

これらの中で、この記事では「腕尺関節」にフォーカスして記載していく。

 

※以降は「腕尺関節」を肘関節と略して記載。

 

 

腕尺関節における治療面の特徴

 

特徴1:関節窩が深い

 

関節窩が深いため、(関節由来な)可動域制限に対する治療では、滑りモビライゼーションではなく離開(牽引)モビライゼーションが採用される。

 

この際の離開モビライゼーションは、治療肢位・静止肢位の両方が採用される。

 

 

特徴2:治療面の角度が特殊

カパンジーの機能解剖学には腕尺関節について以下の様に記載されている。

 

『上腕骨へら状部は前方へ曲がっている。へら状部の骨幹部の軸対して45°傾斜している。』

 

『同様に尺骨の滑車切痕も、水平に対して45°傾斜した軸に従って前上方へ向き、これもまた全体が尺骨骨幹部の軸の前方に位置している。』

肘関節モビライゼーション2
肘関節モビライゼーション1
~カパンジーの機能解剖学より~

 

上記の様に、治療面が特殊なため、その治療面への併進運動(離開・牽引)となるよう注意する。

 

腕尺関節に関しては、個人的に「肘関節の軽度伸展制限」に対する関節モビライゼーションを施行することが多い。

 

 

右肘の軽度伸展制限に対する離開モビライゼーションの一例

 

手順1:

対象者は右側臥位(右上肢が下な側臥位)で、上腕遠位より末梢をベッドから出す。

※要は肘をベッドから出す

 

手順2:

療法士は、対象者の右側で、なおかつ(ベッドから出た)右上肢よりも頭側へ立つ。

 

手順3:

療法士は右手で、対象者の右前腕遠位を把持して肘関節が軽度屈曲位(治療肢位)となるよう保持する。

 

手順4:
療法士は左手掌で、対象者の前腕の尺側(尺骨)を「治療面と垂直な方向」へ力を入れることで腕尺関節へ離開(牽引)モビライゼーションを実施する。

 

手順5:

複数回モビライゼーションを実施して、再評価する。

 

※必要に応じて腕橈関節のモビライゼーション(橈骨長軸方向への牽引)も併用していく。

 

※上肢の機能的動作を考えた場合は、近位橈尺関節など他関節のモビライゼーションも併用する必要があるかもしれない。

 

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手関節モビライゼーション

 

手関節は以下の2つで構成される。

  • 橈骨手根関節
  • 近位橈尺関節

 

※厳密には手根間関節も手関節の動きに影響を与る

 

上記の中で、この記事では「橈骨手根関節」について記載していく。

 

※以降は、「橈骨手根関節」を「手関節」と略して記載

 

 

手関節の治療面の特徴

 

手関節の形状は「治療面が(若干)掌側・尺側へ向いている」という特徴がある。

手関節モビライゼーション
※カパンジーの機能解剖学には手関節に関して以下の様に記載されている。
 
『前腕関節窩は全体として、近位から遠位へ、尺側から橈側へ斜めの平而で、水平と25~30°の角度をなしている』
 
『関節窩が遠位掌側を向いているために手根骨顆は水平と15~20°の角度をなしている関節窩の平面上を滑りながら・・・・以下省略。』
~左画像はカパンジーの機能解剖学より引用~



※ちなみに、ドイツ徒手医学における手関節の治療面は「尺側20°掌側10°の傾き」とされている。

 

従って、関節モビライゼーション時は、「治療面がやや尺側・掌側へ向いている」という点に注意しながら「治療面に対する並進運動(離開or滑り)」を心がけることが成功の肝となる。

 

以下には離開手技に関して記載していく。

 

※離開モビライゼーションは、治療肢位・静止肢位の両方が採用されるが、ここでは静止肢位での離開モビライゼーションを記載。

 

 

右手関節背屈制限に対する離開モビライゼーションの一例

 

手順1:

対象者は端座位となり前腕回内位で右手をテーブルに乗せる

 

手順2:

前腕遠位部の下に丸めたタオルなどを入れ込むことで、手関節を「軽度(10°くらい)掌屈位」にする

 

手順3:
療法士はテーブルと平行な力を加えること(=治療面に垂直な力が加わること)で関節面に離開が起こる

⇒治療面を考慮し、やや尺側方向(20°)程度へ牽引力を加える

 

手順4:

複数回モビライゼーションを実施して再評価する
手関節の離開

モビライゼーション(股・膝・足関節):終わりに

 

最後に、この記事における注意点を記載しておく。

 

 

関節モビライゼーションの方法は無限にある

 

クライアントの状態(疼痛の程度・関節可動域の程度・クライアントがとれる肢位が限られているかなど)や施行する環境(ベッドサイドなどの狭い環境か電動の治療台かなど)によっても方法は異なってくる。

 

つまり、記事で示した各関節に対する関節モビライゼーションは、単なる一例を示したに過ぎない。

 

むしろ重要なのは、いかに自分の臨床で「(型に当てはめず)創意工夫していくか」が大切となる。

 

重複するが、この記事の内容は一つのヒントとして捉えて頂き、自身で臨機応変にアレンジして頂きたい。

 

 

関節モビライゼーションに限定して記載

 

この記事では関節モビライゼーションに関する記事なため、「関節のみ」にフォーカスして、それ以外は割愛して記載している。

 

ただし実際は、軟部組織や神経系など様々な評価・治療を織り交ぜながらのリハビリとなる点に注意して頂きたい。

 

 

運動連鎖にも注目する

 

この記事では四肢の大関節(肩・肘・手関節)のモビライゼーションを中心に述べているが、四肢は脊柱の機能とも密接に絡んでいるため、実際には一見すると四肢の問題であっても脊柱もからめて評価・治療をしていく必要がある(逆もまたしかり)。

関連記事⇒『運動連鎖の魅力と限界

 

 

疾患ではなく機能に着目

 

関節モビライゼーションの適用としては様々な疾患名が挙げられることがあるが、基本的には「疾患(病理学的な要素)」ではなく、機能を評価して適用かどうかを判断する点には注意して頂きたい。

※関連記事⇒『理学療法士は機能不全(機能異常・機能障害)に着目すべき!

 

※つまり同じ「変形性関節症」でも機能を評価した結果、関節モビライゼーションが適用な場合もあるし、非適用な場合もあるということ(関節モビライゼーションが適用かどうかの評価として、例えば『関節副運動テスト』などが挙げられる)

 

※重複するが、(ここに記載している関節モビライゼーションは評価について記載してないが)上記の関節副運動テストなどの適切な評価をしたうえでの施行となる点には注意して頂きたい。

 

 

関節モビライゼーションのまとめ記事

 

冒頭にも記載したが、以下の記事が関節モビライゼーションのまとめ記事で、「適応・禁忌・基本的な留意事項」に関して言及している。

 

こちらも合わせて観覧すると、モビライゼーションの理解が深まると思う。

 

関節モビライゼーションとは?定義/適応と禁忌/種類とグレード/治療面について解説!

 

 

また、肩・肘・手関節のモビライゼーションに関しては以下で解説しているので、興味がある方は参考にしてみてほしい。

 

モビライゼーション(股・膝・足関節)の「方法」と「成功の秘訣」を解説!