この記事では、医療・介護の基礎知識でもある『肺(lung)』『呼吸器』について、ザックリと解説していく。

 

目次

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 肺の構造と機能

 

肺は脊髄、胸骨、肋骨に囲まれた胸郭の中にある器官である。

 

右肺と左肺に分かれ、三つの袋(上・中・下葉)が3る右肺と、二つの袋(上・下葉)がある左肺の大きさは異なる。

※この違いは左に心臓があるから。

 

 

肺は気官・気管支を通ってきた空気に含まれている酸素と、静脈血が全身から運んできた二酸化炭素とを交換する。

 

つまり肺は、空気中の酸素が血液中の二酸化炭素と交換される『血液への新鮮な酸素を補給する基地』と表現できる。

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肺の中にはメチャメチャ多くの肺胞が詰まっている

 

気管支の終点は終末細気管支となり、その先端には極小な袋がついている。

 

そして、この袋のことを『肺胞』と呼ぶ。

 

両肺の肺胞を合わせると、その数は3億個もあるとされ、とにかく肺の中にはメチャクチャ多くの肺胞が詰まっているとイメージしておいてほしい。

 

そんな『肺胞』のまわりには毛細血管がめぐらされている。

 

でもって、肺胞の壁はとても薄いので、ヘモグロビンという物質が毛細血管に二酸化炭素分子を放し、酸素分子と結合することが簡単にできる。

 

 

①は「二酸化炭素を多く含んだ赤血球(のヘモグロビン)」

②は「(ガス交換が行われた後の)酸素を多く含んだ赤血球(のヘモグロビン)」

※赤血球の中は「酸素(O2)を緑」、「二酸化炭素(CO2を青)」で表現

 

※肺胞の中に放された二酸化炭素は細気管支、気管支、気管を通り口や鼻から出される。

※つまり、私たちが吐いている息には多くの二酸化炭素が含まれている。

 

 

ここまでの解説を動画で理解

 

動画の方がイメージしやすい部分も多いと思うので、ここまでの解説についてもっとイメージを膨らませたい方は以下の動画も参考にしてみてほしい。

 

 

ちなみに、動画の2分10秒から『閉塞性換気障害』や『拘束性換気障害』の話になるが、閉塞性換気障害の「COPD」と「気管支喘息」を区別して記載ししているように、これらは別物である(気管支喘息はCOPDに含まれない)。

 

この点に関しては以下の記事でも解説しているので興味があれば観覧してみてほしい。

 

換気障害(閉塞性換気障害と拘束性換気障害)を解説

 

 

肺内の血液の流れ(肺の内部をめぐる肺動脈と肺静脈)

 

肺の内部は気管支のほかに、肺動脈肺静脈とが隅々まで走っている。

 

それぞれの働きは以下の通り。

 

肺動脈の働き:

心臓から汚れた血液(二酸化炭素を多く含む)を肺に送り込むこと

 

肺静脈の働き:

肺から心臓にきれいな血液(酸素を多く含む)を送り出すこと。

 

 

先ほどのイラストの様に、肺動脈は気管支にそって、気管支と同じように枝分かれしているが、肺静脈は隣接する肺動脈の中間をぬうように走り肺門へ向かう。

 

気管支が枝分かれして終末細気管支となるように、肺静脈肺動脈も気管支と同じくらい枝分かれをして終末の毛細血管になる。

 

 

肺胞内でガス交換が行われる

 

気管・気管支を通って入ってきた空気には酸素がたっぷり含まれている。

 

この酸素と(肺動脈によって肺に送られた)静脈血が出会うところが、『肺胞』である。

 

そこで静脈血と酸素は結合し、静脈血は酸素を含む動脈血に変身する。

 

これが、肺の中のガス交換のしくみである。

 

 

動脈(肺動脈)・静脈(肺静脈)・動脈血・静脈血という用語の整理。

 

ここまでの解説で以下の用語が使われてきたので、これらを整理しておく。

  • 動脈(肺動脈も含む)
  • 静脈(肺静脈も含む)
  • 動脈血
  • 静脈血

 

※ここから先は、「酸素を多く含む血液⇒きれいな血液」「二酸化炭素を多く含む血液=汚い血液」と表現して解説していく。

 

 

『動脈』・『静脈』という表現は心臓を基準に考えるため、以下になる。

 

・心臓から拍出される血液が通っている血管⇒動脈

・心臓へ戻る血液が通っている血管⇒静脈

 

でもって、何となくのイメージとして「動脈=きれいな血液が流れている」「静脈=きたない血液が流れている」を持っている人は多い。

 

そして、このイメージはあながち間違えではないのだが、『心臓と肺を結ぶ血管』に関しては逆になる。

 

すなわち以下の通り。

  • 心臓から肺へ拍出される血液(きたない血液)が流れている血管⇒肺動脈
  • 肺から心臓へ戻る血液(きれいな血液)が流れている血管⇒肺静脈

 

 

つまり、『動脈血』・『静脈血』という表現は肺を基準に考えるということだ。

なので以下になる。

 

・肺(肺胞)を通過する前(ガス交換される前)の血液⇒静脈血

・肺(肺胞)を通過した後(ガス交換された後)の血液⇒動脈血

 

つまり、「心臓から肺を結ぶ血管」および「流れている血液」は、以下の様にややこしい表現になる。

 

  • 肺動脈は静脈血(きたない血液)を肺胞に送っている。
  • 肺静脈は動脈血(きれいな血液)を心臓に送っている。

 

 

ここまで述べてきたことを、ウィキペディアでは端的に表現しているので引用しておく。

 

動脈血(どうみゃくけつ)とは:

 

肺に入って酸素を多く含んだ血液のことである。

動脈血は二酸化炭素を多く含んだ静脈血に比べ、赤みを帯びている。

 

ヒトの場合、動脈血は、肺から肺静脈を通って心臓の左心房に入る。

そこから左心室に行き、大動脈を通って心臓から出て、身体の各部位に酸素を供給する。

 

血管の動脈、静脈の別は心臓から出るか心臓に向かうかで分けられているが、血液の動脈血、静脈血の別は、肺から出るか肺に向かうかの別で分けられるため、肺静脈を動脈血が、肺動脈を静脈血が流れるという言葉の上での矛盾が生じる。

 

 

念のため、肺胞におけるガス交換のイラストを再度挿入しておく。

 

 

①は「二酸化炭素を多く含んだ赤血球(のヘモグロビン)」

②は「(ガス交換が行われた後の)酸素を多く含んだ赤血球(のヘモグロビン)」

※赤血球の中は「酸素(O2)を緑」、「二酸化炭素(CO2を青)」で表現

 

 

余談:酸素を運搬しているのはヘモグロビン

 

前述したイラストの通り、血液中の酸素や二酸化炭素を運んでいるのは、赤血球の中の『ヘモグロビン』という成分である。

 

ヘモグロビンは酸素と結合すると鮮やかな赤色になり、二酸化炭素と結合すると赤黒い色になる。

 

その影響を受けるため、酸素を含んだ動脈血と二酸化炭素を含んだ静脈血では、同じ血液でも色が多少異なる。

 

つまり、動脈血は鮮やかな赤色、静脈血は黒っぽい赤色に見える。

 

 

 ここまでの解説を動画で理解

 

動画の方がイメージしやすい部分も多いと思うので、ここまでの解説についてもっとイメージを膨らませたい方は以下の動画も参考にしてみてほしい。

 

 

 

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肺活量について

 

肺活量とは『肺の換気能力を示す数値』を指し、以下のイラストも参照。

 

 

換気量に関しては以下の以下の記事で深堀解説もしている。

⇒『スパイロメトリーで分かる「肺活量」・「吸気量」・「残気量」を解説

 

 

呼吸運動と呼吸筋について

 

呼吸をするとき、肺が直接ふくらんだり縮んだりしているように思うかもしれないが、肺自身にそのような能力は無く、『呼吸筋』の働きによって肺は拡張・収縮を繰り返しすことで成り立っている。

 

※代表的な呼吸筋としては、吸気に働く横隔膜と外肋間筋があり、いずれも脳幹の呼吸中枢による調節を受ける。

 

肺に空気が入ってくるときには、肋間筋が縮んで肋骨を上に引っ張り上げ、横隔膜が縮んで下がることで胸郭が広くなる(イラスト左)。

 

一方で空気を吐き出すときは、肋間筋がゆるんで肋骨が下へ下がり、横隔膜がゆるんで上がることで胸郭が狭まる(イラスト右)。

 

横隔膜の動き

 

 

呼吸運動に必要な『呼吸筋』について

 

空気を肺胞に取り込むには、胸腔内圧を陰圧化して肺を拡張する必要がある。

 

このための胸郭拡大を『呼吸運動』と呼び、
この呼吸運動は『呼吸筋』によって起こる。

 

そして、(前述したように)代表的な呼吸筋としては、吸気に働く横隔膜と外肋間筋がある。

 

肋間筋の収縮』によって矢印の方向へ肋骨を挙上出来る。

 

※外肋間筋は、上位肋骨から内側前下方に走り、下位肋骨に停止する。

肋間神経の支配を受け、肋骨を引上げることで胸郭の前後径を拡大する。

 

横隔膜の収縮』が矢印の方向へ腱中心を引っ張り、胸郭が拡大する

 

※横隔膜はドーム状をなす膜状の骨格筋で、胸腔と腹腔を分ける。

胸骨剣状突起・第7~12肋骨および腰椎から起こり、中央の腱中心に停止する。

横隔神経(頚神経叢)に支配され、収縮により腱中心が低下することで胸腔容量を増大する。

 

※更に、努力吸気時には第1肋骨が前斜角筋・中斜角筋(と間接的に胸鎖乳突筋)によって持ち上げられ、第12肋骨は腰方形筋によって固定される。

 

※更に、脊柱起立筋が働いて脊柱を伸展し、大胸筋も働くなど、多くの筋活動が起こる。

 

 

一方、(通常の)呼気はこれらの筋の弛緩と肺胞の弾性で起こる復元運動によって起こる。

 

努力呼気に主として働くのは、腹部の筋(特に内・外腹斜筋と腹横筋)、および広背筋である。

 

これらが収縮し、横隔膜を胸腔側に押し上げ、下部の肋骨を引き下げる。

 

吸気時に働く『外肋間筋』と同じような名称である『内肋間筋』は呼気(努力呼気)時に働く(ちなみに内肋間筋に関しては「前部線維は呼気に働く」との文献もある)。

 

 

呼吸運動に必要な『呼吸筋』のまとめ一覧

 

前述した呼吸筋を、もう少し詳細にまとめると以下になる(ただし文献によって多少の違いはある)。

 

 

~吸気に働く筋~

 

主動作筋は『横隔膜』と『外肋間筋』で、その他は補助筋である。

 

  1. 横隔膜:収縮により腱中心が下がり、平らになる。同時に胸骨部と肋骨部の付着を外上方に引き上げることにより胸郭下口が拡大する。
  2. 外肋間筋:肋骨を引き上げる。
  3. 小胸筋:肋骨を外上方に引く。
  4. 大胸筋:肋骨を外上方に引く。
  5. 鎖骨下筋:鎖骨を固定することにより吸気を助ける。
  6. 内肋間筋:呼気筋であるが.肋軟骨部にある筋線維が肋骨の引き上げに働く。
  7. 肋骨挙筋:肋骨を挙上させる。
  8. 胸鎖乳突筋:深呼吸時に働く。
  9. 斜角筋群:深呼吸時に働く。
  10. その他:舌骨上筋群僧帽筋上後鋸筋脊柱起立筋群などが吸気時に補助筋として働く。

 

 

~呼気に働く筋~

 

  1. 内肋間筋:肋骨を下方に引き下げる。
  2. 胸横筋:肋骨を引き下げる。
  3. 腹直筋:腹腔内圧を上げて横隔膜を押し上げ、さらに下部肋骨を下内方に引き下げて胸腔を狭くする。
  4. 内外腹斜筋:肋骨を引き下げる。
  5. 腹横筋:腹圧を上げる。
  6. 菱形筋:下部肋骨を引き下げる。
  7. 下後鋸筋:下部肋骨を引き下げる。

 

 

胸式呼吸と腹式呼吸

 

胸郭の動きが大きい呼吸を『胸式呼吸』
腹部の動きが大きい呼吸を『腹式呼吸』
と呼ぶ。

 

私たちはふだん、両方を併用した呼吸をしてるが、一般的に以下の傾向があると言われる。

・男性は腹式呼吸の割合が高い。

・女性は胸式呼吸の割合が高い。

 

 

肺(呼吸)の動画を紹介

 

最後に、呼吸時の肺の動きを動画で紹介して終わりにする。

 

肺胞が表示されていたり、横隔膜の作用も紹介されているため、ここまで述べてきたことをイメージしやすいと思う。

 

 
 

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