この記事では『報酬系』のリハビリテーション活用法、つまり『強化学習』に関連した記事である。

 

※強化学習自体に関しては以下も参照してみてほしい。

⇒『強化学習(手続き学習)』って何だ? (報酬誤差学習も解説!)

 

報酬系自体に関しては、「実験」や「日常での活性場面」「メリット・デメリット」なども含めて、以下の記事で分かり易く解説しているので興味がある方は合わせて観覧してみてほしい。

⇒『コラム 報酬系まとめ! 全てはここから始まった。。興奮は幸せを呼ぶのか?

 

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報酬系を「リハビリのモチベーションの向上」に活用

 

リハビリ(理学療法・作業療法)には、即自的効果を狙ったアプローチと、そうでないアプローチがある。

 

※例えば高齢者のリハビリにおいては、今後も低下していくであろう運動機能を出来るだけ維持していくことを目的に実施されることもある。

 

でもって、この様な「即時的に効果を実感できない内容(あるいは長期的な達成目標)」に関しては、リハビリの開始当初には、意図的に強化刺激を準備することがモチベーションを維持するための秘訣となる。

 

 

モチベーションと治療効果の相関関係

 

運動学習を伴う運動療法、例えば「起居動作練習」や「ADL練習」などではモチベーションが大いに影響する可能性がある。

 

なので、理学療法士として対象者のモチベーションを高めるための工夫ということも必要となる。

 

一般的に、モチベーション以下の2つに分けられる。

 

外的動機づけ:

外的動機づけは、それを行うことに対する報酬を与えるということ

対策例:うまくできた場合にほめる(ほめる行為には賛否あるが)

 

もちろん「運動療法はつらいものではない」といった負のイメージを払拭するような説明も必要かも知らない(「今日は座位保持や軽い体操レベルの事しかしないこと」を最初に伝え、安心してもらうなど)

 

 

内的動機づけ:

内的動機づけは、それを行うことで得られる結果の価値の高さを理解させるということ。

内的動機づけは「自発的な動機づけ」であり、この動機づけが強い場合は外部要因にモチベーションが左右されれることは無い。

しかし一方で、内的動機づけが弱い場合は何らかの対策によって内的動機づけを高める必要がある。

対策例:運動療法を行うことで得られる治療効果をしっかりと説明する

 

 

通常は、外的動機づけと内的動機づけを組み合わせながら強化学習を図る。で、一番の理想は(セラピストの手から離れ)自身の内的動機づけだけで成長していけることである。

 

 

報酬(強化刺激)の種類

 

先ほどの「外的動機づけは、それを行うことに対する報酬(目的とする行動を強める刺激(強化刺激)として作用するもの)を与えるということ」と解説した。

 

でもって、リハビリにおける報酬(強化刺激)は「褒めること」をイメージしやすいかもしれない。

 

確かに、報酬(強化刺激)としてお金や物をあげるというのはリハビリ時において一般的ではないのだが、念のためこれら(お金や物も含めた)報酬の種類について列挙しておく。

 

※ちなみに「褒めること」は必ずしも強化刺激になる訳ではない。例えば、胡散臭く感じたりすると、逆に嫌悪刺激になる。なので、安易に「褒めること=強化刺激」と思わないほうが良い。

 

ちなみに強化刺激の例としては、以下のものがある。

 

 

物的報酬

物的報酬とは「食べ物、おもちゃ、お金」など、対象者が欲しいと思っているものを指し、これらは強化刺激として利用できる。

変化球として、食のメニューを決定できる権利を強化刺激として用いて、在宅療養中の心臓病患者に適度な運動を行わせることに成功した報告がある。

 

トークン

トークンとは「お金のように一定数集めるといろいろな価値のあるものと交換できるもののこと」である。

通常1回の運動では、効果は得られない。

例えば、強化刺激が「好みの食事ができる」であったとしよう(物的報酬)。しかし、運動のたびに強化刺激が与えられると、適切な栄養管理はできないし、食費もかさんでしまう。また、強化刺激は与えすぎると飽和化を生じ、その機能が減衰してしまう。

このような報酬や活動性の強化がもつデメリットを避けるために、トークンは利用される。

例えば、「所定の運動プログラムが1週間継続できれば1枚のトークンが与えられ、それを4枚集めると好みのレストランで食事ができる」というルールを定めるのである。

生活習慣病や変形性関節症の進展予防、転倒予防目的の運動療法では、動作能力の改善や体調の改善などの効果はなかなか得られないため、トークンは有効である。

 

社会的強化

社会的強化としては、言語的(褒め言葉)、非言語的賞賛(拍手・ほほ笑み・うなずき)などが該当する。

これらは対人関係と信頼感の基本であると同時に、即時的に利用できる強化刺激であり、コストもかからない点できわめて有用と言える。

担当セラピスト以外の病棟スタッフ・医師・家族からも社会的強化を行ってもらえれば多様性が得られ、より有効。

賞賛や注目は、重度の認知症や失語症を合併した対象者においても、ターゲット行動を増加させる可能性がある。

 

活動性強化

活動性強化とは「一定条件を満たした場合に、好みの活動をできるようにすること」である。

例えば、「ある一定期間連動が継続できたら孫と一緒に遊べる」とか、「好きな店にショッピングに出かけられる」などが該当する。

あるいは、離床を拒否する患者(利用者)に対して「車椅子に写ってくれるなら、(近所に咲いている)満開の桜を特別に見に行くことがでいます」というと離床してくれるかもしれない。

あるいは、ホットパックが大好きな高齢者であれば「リハビリ室まで休憩しながらでも良いので歩いて行けたら、ホットパックを当てましょう」などと声掛けすると、普段はベッドサイドでのリハビリしかしない(出来るのにしない)人にも動機づけとして機能する。

自由時間の付与も、自分の好みの活動を選択できるという点で活動性の強化にあたる。

 

社会的評価

社会的評価とは「自分が現在どの程度行動できているか、という情報を教えることである。

まわりの者(セラピスト・医師・看護師・介護士など)はグラフや表を対象者とともに見ながら、行動が改善したこと、目標に近づいてきたことに対して強化刺激を与える。

例えば、介護保険領域における「定期的な体力測定」は、この社会的評価によって行動を強化する絶好のチャンスとして活用できる。

フィードバックされたデータは、見通しを与える先行刺激としても機能する。例えば、目標とする筋力値に接近したという強化刺激は、「あと少し頑張れば歩行ができる水準の筋力に到達できる」という見通しを示す先行刺激になっている。

注意点としては「一つのデータだけをフィードバックしていると、データが停滞した場合に強化刺激としての機能が低下する」という点である。

例えば、「元気になったかどうかの指標を握力測定のみで判断していた場合」は、握力測定が低下していると、リハビリに対する行動は弱化してしまう。

なので、(一つだけでなく)複数のデータを準備しておくことが肝要である。

 

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行動内在型強化 : 強化刺激による運動学習の理想形

 

学習経過に伴って徐々に自分一人でできることが増えてきたと感じられる場合、学習の遂行そのものの中に強化刺激が組み込まれていることになり、これを『行動内在型強化』と呼ぶ。

 

例えば、運動療法の継続によって体調改善などが自覚されると、(他社から何らかの強化刺激を与えられなくとも)その自覚自体が強化刺激として働いてくれる。

 

でもって強化学習の理想は、以下になる(あくまで理想)。

 

前述してきた様々な報酬(強化刺激)を他者から与えられることによって行動が強化される段階から、次のステップとして「学習の経過と結果が行動内在型強化として働ける状態」へ移行できること。

 

「自分一人でできることが増えてきたと感じられる」ということはセルフエフィカシー(自己効力感の高まり)も意味しているのではないだろうか?

関連記事⇒『自己効力感(セルフエフィカシー)とは

 

※学習がスムースに進んでいる場合には、それに伴って得られる達成感などの行動内在型強化が働き、特に意識して強化刺激を与えなくても学習が進むこともある。

 

 

セルフマネジメント行動

私たちの生活の中には、他者から指示や教示を受けてそれに従って行動する場合と、そのような他者からの指示がなくても自発的に行動する場合がある。行動は一般的に、他者から与えられた指示(A)のもとで行動(B)し、うまくいった・達成感が得られた(C)ということが繰り返されて定着する。その後、徐々に他者からの指示や教示がなくても、自分から行動をスタートさせ、完結させることができるようになる。

他者からの指示がほとんどない場合でも遂行される行動を「セルフ・マネジメント行動」という。

 

しかし一方で、失敗や、成績の停滞ばかりであれば、行動内在型強化刺激に移行することはできない。

 

 

自己記録・自己評価

 

自己記録・自己評価とは「自分の行動を自分で測定し記録すること」である。

 

また、「それに対して自分で評価すること」である。

 

学習の効果を、セラピスト・医師・看護師などの第三者がいない場面でも維持するための技法である。

 

まず自分自身で行った行動とその成果を記録していく(自己記録)。

 

そして、設定された目標と実際の実施状況を比較し(自己評価)、それを目標に近づけていくことで、自分自身へのフィードバックが得られる(自己強化)。

 

この手法は、内的動機づけを高めるために有効な手段と言える。

 

 

効果的な報酬(強化刺激)は人によって異なる。

 

適切な行動は、強化刺激によって支えられることで獲得・維持されるが、効果的な強化刺激は、個人個人で大きく異なる。

 

したがって、介入する側ができるだけ多くの(前述したような)強化刺激の引き出しを持っておくと良い。

 

どの様なタイプの強化刺激が対象者に最も有効かを考察するとともに、学習経過の中で実際の強化刺激の効果を見極め、効果がなければ別の強化刺激を探していくことになる。

 

 

強化刺激の与える際のポイント

 

強化刺激の与え方にも工夫が必要である。

でもって、効果的な強化刺激の与え方は、以下の様なものがある。

 

即時性

強化刺激は、行動の直後に与えられる場合が最も効果的である。

強化刺激をすぐに与えるのが難しい場合には、どのような行動が出現したら強化刺激が得られるかをルールで示しておく。

 

多様性

できるだけ多くの種類の強化刺激を用いる。

例えば、漢字の書き取り練習を強化する場合に、先生の賞賛ばかりでは飽きてしまう。

 

明示性

特に指導初期では、強化刺激そのものをはっきりとした明瞭な形で示す。

日本では「本人の前では褒めないようにしている」などの言葉をよく耳にするがさりげない強化刺激では対象者に認知されない。

 

具体性

良い行動の内容を具体的に褒めることが有効である歩行訓練であれば、「良いですよ!」ではなく、「歩行スピードが上がっていますね」「連続歩行距離が延びてきましたね」「左足の上がりが良くなってきましたね」などと声をかける。

 

関連性

適切な行動と直接関連した強化刺激が効果的である。

例えば、歩行訓練で右足の振り出しを指導する場合、適切に右足が振り出せるようになったら、音声刺激による褒め言葉(関連性が低い)だけでなく、動く右足を軽くタッピングする(関連性が高い)などの、運動反応に直接関係した身体への触覚刺激を与えることが効果的である。

 

 

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