この記事では『POS』と『POMR(問題志向型診療記録)』について記載していく。
目次
POSとは
『POS』とは『Problem Oriented System』の略である。
Oriented⇒それに関心を寄せた・それを志向する
つまり、POSとは「問題点に着目しながら考えていくシステム」と表現することが出来る。
もう少し専門的な表現としては以下の通り。
POSの成り立ち
POSは、アメリカの外科医L.L.Weedが考案し、1960年代に発表された『診断と医学教育のためのシステム』であり、元は医師のためのものであった。
この「POSは元々、医師のために考案されたシステムである」という点は、押さえておかなければ後々ややこしくなるので重要なポイントと言える。
でもって現在は、医師以外の職種(看護師・理学療法士・作業療法士など)がPOS(問題点にも着目ながら考えていくシステム)を活用している。
「医師によるPOS」と「看護・リハ職種によるPOS」の違い
医師の場合はカルテにSOAPを書きながら情報収集し、アセスメントをして、診断を下していく。
でもって「医師におけるPOS(思考の流れ・思考システム)」は上記の様に「記録を書きながら考えていくケース」が多いため、 『記録を主体としたPOMR(問題点に着目した医療記録)』という表現もされる。
しかし「医師以外の職種」の場合、医師のようにカルテを広げて診察を進めていくわけではない。
つまり医師の様に「書きながら考えをまとめていく」のではなく、
「頭の中で考えをまとめ(SOAP形式で考えをまとめ)アセスメントを育てていく」という思考方法をPSOと称することになる。
※これは、理学療法士・作業療法士の間では有名な『クリニカルリーズニング(臨床推論)』という思考法と共通した部分がある。
重複するが、POSはもともと医師のために考案されたシステムであるため、医師以外がPOSを活用しようとすると、意味合いが前述したように異なってくるので、ややこしくなる。
重複するが、医師と手法は違えど、以下のようにPOS(問題点に着目しながら考えていくシステム)を他職種も活用出来る。
医師は「書きながら考えをまとめていく」
看護師・リハビリ職種は「頭の中でかんがえをまとめていく(そして、まとめたものを後で記録する)」
POMR(問題志向型診療記録)とは
先ほど、以下の様に記載した。
でもって「医師におけるPOS(思考の流れ・思考システム)」は上記の様に「記録を書きながら考えていくケース」が多いため、 『問題点に着目した医療記録方法』を知っておく必要があり、この記録方法こそが『POMR』である。
POMR(問題志向型診療記録)とは
POMRとは「Problem Oriented Medical Record」の略であり、『問題志向型診療記録』と訳される。
POMR(問題志向型診療記録)とはザックリと以下の様に解説される。
患者のもっている医療上の問題に焦点を合わせ、最高のケアを目指して努力する一連の作業システムである。
作業システムは、第1段階(問題志向型診療記録の作成)、第2段階(診療記録の監査)、第3段階(記録の修正)の3つの段階によって構成され、問題解決を合理的・系統的に行う記録介入方法である。
ここから先は、PORM(問題志向型診療記録)の以下における各々の段階について記載していく。
・第1段階:問題志向型記録の作成
・第2段階:診療記録の監査(記録中の欠陥を発見する方法)
・第3段階:記録の修正(欠陥を修正して完全な記録に仕上げる方法)
POMR 第1段階:問題志向型診療記録の作成
問題点を中心としたカルテ記載は次の1~4のステップから成り立つ。
※でもって、5(退院時要約)が付け足されることもある。
- 情報収集
- 問題点の列挙
- 治療方針
- 経過記録
1)主観的(subjective)
2)客観的(objective)
3)評価(assessment)
4)方針(plan)
- 退院時要約
1.情報の収集(database)
患者についての情報としては以下などが挙げられる。
- 主観的情報:
・主訴(患者の訴えをできるだけ患者が述べる言葉どおりに、主観的な要素もとり入れて記載する)
- 客観的情報:
・現病歴
・身体的所見
・神経学的所見
・臨床検査、X線診断、CT、MRI
・・・・など。
- その他:
・家族関係
・社会経済的背景
・・・・・・・・・など
2.問題点の列挙(problemlist)
患者の情報収集が終了すると、それぞれの情報を次の手順で問題点の整理を行う。
- 障害レベルに分ける:
収集した情報から国際障害分類(ICIDH)または国際生活機能分類(ICF)に従って分類するとよい。
- 経時的に分ける:
収集した情報から問題リストを障害分類レベル(生活機能レベル)に分けるとともに、問題解決の時間的関係からも整理する。
つまり、緊急に解決しなければならないものから、あるいは達成レベルの早いものから問題リストを整理する。
問題リストの整理に当たっては問題の頭に整理番号をつけ、治療プログラムと一致させるのが良い。
その他のポイントは以下の通り。
- 他職種でもわかるような表現で記載(統一した用語を使用)
- これらの問題点はそれが始まった年月日(疾患であれば発症の時期)を記載。
- 問題点が解決した年月日(疾患であれば治癒した時期)を記載。
3.治療方針(plan)
疾病の治療法や個々の問題点を解決(障害の治療、または軽減)するために最初に立てる治療針である。
これらには以下などが含まれる。
- 医学的な精密検査
- 疾病に対する薬物療法
- リハプログラム
- 個々の問題点に対する治療目標
・・・・など
問題点はより基本的、緊急性の高いものから整理され、治療プログラムの番号がつけられる。
リハビリにフォーカスした場合は、以下などの治療方針を考える。
- 診断的方針(問題点を明確にするための評価計画)
- 治療的方針(問題点を解決するための理学療法計画)
- 教育的方針(対象者や家族および介護者に対する指導計画)
4.経過記録(progresSnote)
原則として問題点の番号順に記載する。
また、以下の4項目(S・O・A・P)に分けて記録する。
- 患者の主観的(subjective)なものを記載:
つまり、問題となる症状などがどの様にして起こったか、あるいはどの様に変化したかなどを、できるだけ患者の表現するままに記載する。
- 客観的(objective)なものを記載:
つまり、医師やリハ関連職が行った、臨床検査結果、各種機能評価などの客観的データを記載する。
- 評価(assessment)を記載:
評価(assessment)は「主観的または客観的情報から得られる個々の問題に対する経過の総括的評価」であり、医学的鑑別診断も含まれる。
また、必要に応じて新たな問題点の追加・変更・削除もこの項で行う。
『評価(assessment)』という用語が使われているのでピンときにくいが、①②の内容を統合、解釈、考察し、次の新たな評価・治療を計画を立案するためにも活用される。
- 計画(plane)を記載:
③の総合評価に基づいて、問題点をいかに解決するか、その方針(plan)を決める。
例えば、今までの治療方針やリハビリプログラムを継続するか、または、修正、変更するかなどについて記載する。
①~④の項目は、問題点の解決法を検索する思考過程として、その頭文字をとって、SOAP(subjective 、objective 、assessment 、plan)法と呼ばれ、診療や医学教育の場で広くとり入れられている。
退院時要約(discharge summary)
これらは患者が他の病院に転院したり、または同一病院内で主治医や治療担当者が代わる場合に、患者の主観的、客観的な情報をまとめて伝達するもの。
次の項目に整理する。
- 主観的最終経過要約:
患者の主観的な訴えをまとめる。
- 客観的最終経過要約:
医師や治療担当者が得た客観的なデータ、すなわち病歴、診察所見、検査データ、測定データ、将来に分析が必要とされるデータなどをまとめたもの。
- 判断考察:
今後患者がどのような経過をとるかという見通しをまとめる。また、はっきりした目標や専門家の意見も記載する。
例えばリハビリ(理学療法・作業療法)にフォーカスした場合、それぞれの問題に対してどのような計画に基づいて理学療法を実践したか、理学療法の結果はどうだったのかなど問題解決の過程を簡潔にまとめる。
あるいは、解決されなかった問題に対しても原因を考察して要約するなどがポイントとなる。
ここまで解説してきた問題志向型診療記録のまとめ
ここまでダラダラと解説してきた問題志向型診療記録をコンパクトにまとめると以下になる。
①情報収集 (data base) |
個人情報(氏名、年齢、性別、家族・家庭家屋環境など) 医学的情報(現病歴、理学療法評価結果、他部門の情報など) ※理学療法評価結果は、検査測定結果、目標と達成時期を含めて記載する 社会的情報(職業歴・住居環境など)
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②問題点の列挙 (problem list) |
・あらゆる側面の問題点を列挙し、番号を付ける ・一度付けた番号は変更せず、解決した問題点は欠番とする ・新たな問題点は順次追加する
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③治療方針 (初期計画) (initial plan) |
・リストアップした問題点の1つ1つについて解決するための計画を立案する ①診断的計画(問題点を明確にするための評価計画) ②治療的計画(問題点を解決するための理学療法計画) ③教育的計画(対象者や家族および介護者に対する指導計画)
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④経過記録 (progress note) |
問題リストに挙げた問題点(番号)ごとに『SOAP』の4項目に整理して記載する 関連記事⇒『SOAP』
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⑤退院時要約 (discharge summary) |
①~④のまとめとして作成する。 焦点を絞って箇条書きで記載する。 SOAPで表現しなくてもよい。 それぞれの問題に対してどのような計画に基づいて理学療法を実践したか、理学療法の結果はどうだったのかなど問題解決の過程を簡潔にまとめる。 解決されなかった問題に対しても原因を考察して要約する。
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POMR 第2段階:診療記録の監査(記録中の欠陥を発見する方法)
POMR(問題志向型診療記録)の第2段階である『監査』は診療記録中に欠陥があるかどうかを発見することであり、具体的には以下の3つの要素から成り立つ。
- 記録作成が適切か:
第1段階の「基礎データ」「問題点の整理」「初期計画(診断面・治療面・教育面)の立て方」「経過ノート」などが適正に記赦されているか監査することである。
- 医療行為が適切か:
医療行為は徹底しているか、信頼できるか、能率的であるかを監査すること。
- 欠陥の確認:
記録中に欠陥があれば、それを確認すること。
POMR 第3段階:記録の修正
POMR(問題志向型診療記録)の第3段階は、「記録の欠陥を修正して、完全な記録に仕上げること」である。
問題志向型記録の監査によって欠陥を発見したときは、その欠陥を修正する。
※修正に当たっては確認印と日付をつけて変更する。
※欠陥を消去するわけではない。
※「修正自体にも意味があり、患者の治療に役立つものだから」という考えのもと、消去しない。
リハビリテーションにおいては記録の修正を、各部門の参加するカンファレンスなどにおいて実施するのが良いとされる。
理学療法士・作業療法士が誤解しやすい点
この記事で、POS・POMR・SOAPについて何となくでも意味を整理してもらえただろうか?
理学療法士・作業療法士がPOSを以下の様に誤解している場合がある。
しかし、『POS(問題点に着目しながら考えていくシステム)』の中に『POMR(問題志向型診療記録)』があり、POMRにおける「経過記録の記載方法」が『SOAP法』ということになる。
関連記事
以下では、カルテの記載方法である『SOAP』について解説している。
SOAP方式によるリハビリカルテ(診療記録)の書き方(理学療法・作業療法・看護)
SOAPはPOS(問題点に着目しながら考えていくシステム)の一部ではあるが、ここに記載したPOMR(経過記録の記載方法)とは切り離して、SOAPだけ活用している職場もあったりする。
SOAPは患者の問題転点に着目しながら『クリニカルリーズニング(臨床推論)』していくにあたって、有用な記載方法でる一方で、記載方法は必ずしも統一されていなかったりする。
でもって、この点も含めてSOAP深堀しているのでぜひ一度観覧してみてほしい。