リハビリテーションにおいては、痛みを誘発せずに実施することが基本となる。

 

なぜなら、痛みを誘発させるということは不快な情動を喚起させてしまい、中枢・末梢神経感作を含めて、痛みを複雑化させる可能性を有しているから。

 

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ただし、評価・治療の際に出現する痛みは有意義な情報であることも多い為、

 

疼痛誘発テストなどで、あえて痛みを引き起こすこともある。

 

また、「痛み=悪」では必ずしもなく、「誘発させても構わない痛み」も存在する。

 

今回は、そんな「誘発させても構わない痛み」の一例を記載していく。

 

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わざわざ痛みを誘発させる人達

 

農家の人の中には、畑を鍬で耕した後に、「いててて」と言いながら腰を反らす人がいる。

 

それでは、なぜ痛いにも関わらず、腰を反らしたりするのだろうか?

 

理由は、「腰を反らした時は痛いけど、実施した後は(反らす前より)腰痛が楽になるから」だと思われる。

 

私たち医療・介護職も、トランスファーなどで腰に負担がかかった後などに、同様な行為をすることにより楽になる人達が存在し、そういう人達であれば何となくイメージ出来るのではないだろうか?

 

そして、これらの例は、「痛み=悪」では必ずしもなく、「誘発させても構わない痛み」も存在していることを示している。

 

 

クライアント自らが痛みの善悪を判断するのが難しい場合がある

 

痛みには誘発しても構わない種類の痛みがあることを前述した。

 

そして、前述した人達のように「動かした際の痛みは、自身へ好影響をもたらす」と理解していれば、その動作を積極的に取り入れることが可能で、「痛みのセルフコントロールが可能」という自己効力感の向上にもつながる。

 

他方で、前述した人達のような「自身へ好影響をもたらす運動方向・あるいは痛み」があるにもかかわらず、それらが把握出来ていない人達も大勢いる。

 

そして「自身へ好影響をもたらす運動方向や痛み」を有している人達の中で、私たちが臨床で携わるクライアントに関して言えば「前者は少なく、後者は多い」という可能性が高いと思われる。

 

つまりは前述した人達のように、「誘発される痛みが自身にとって適刺激かどうか」を単純明快に把握できる類のものばかりではないということになる。

 

そして、理解出来ていないクライアントに対して「誘発しない方が良い痛みなのか」「誘発しても構わない痛みなのか」をセラピストがリーズニングして、解答を導いてあげることは重要な役目と言えそうだ。

 

 

痛みの善悪は評価を深堀しないと分からない 

 

例えば高齢で円背姿勢なクライアントが「連続歩行で徐々に出現してくる痛み」を訴えていたとする。

 

でもって、「リハビリ(理学療法・作業療法)をして、もっと長距離を歩けるよういなりたい」と思っていたとする。

 

このクライアントに「腰を反らすと痛いですか?」と問診した際、

 

「そりゃ腰を反らすと痛いですよ。辛いから反らさないようにしています」という回答が得られたら、あなたはどの様に感じるだろうか?

 

なんだか「悪い痛み」な気がしないだろうか?

 

クライアントの「辛い」と表現した痛みは、腰を反らした際の瞬間的な痛みではあるものの、クライアントの訴えである「連続歩行で徐々に出現してくる痛み」という症状は別物となる。

 

ただし、この「別物ではあるが、一見すると悪そうに思える痛み」をもう少し利用してみて、本人の訴える「連続歩行で徐々に出現してくる痛み」に変化が起こるか、因果関係があるのか詳細に調べてみるのは一つの方法としてアリである。

 

そう考えた場合は、もう少し深堀りして聞いて行きく必要がありそうだ。

 

もしかすると、「腰を反らして痛かったからといって、普段より歩けなくなるといったことはない。単に、反らした時に痛みが出ることを辛いと表現しただけだよ。」という返答が得られるかもしれない。

 

そうなると、「腰を反らすことによる瞬間的な痛み」と「連続歩行で痛みが誘発されるという主訴」の間に、ネガティブな因果関係はないのかもしれない。

 

※「瞬間的な痛み」と表現するとギックリ腰的な激痛をイメージしてしまうかもしれないが、もしその様な質の痛みであれば、因果関係うんぬんどころの話ではない。

 

※なので、ここで言う「瞬間的な痛み」はもう少し漠然とした鈍痛であったと仮定して話を進めていく。

 

 

腰を反らした際に「瞬間的な鈍痛」が出現することは分かったが、自動運動テストでもう少し詳細に評価をしてみても良さそうだ。

 

例えば、腰を反らした際の痛みは、以下のどちらだろうか?

  1. その動作を止めた後も持続する(イリタビリティーが高いか)
  2. 直ちに消失する(イリタビリティーが低いか)

 

※①をP-W、②をP-NWと表現していく(マッケンジー用語を真似た略語ではあるが、正式な用い方ではないので、マッケンジー法に精通している方は、その点に注意してほしい)。

 

①であればその動作は非適応な可能性を考慮し、②であれば慎重に評価を継続していくよう判断する。

 

 

「P-NW」な場合の判断

 

前述した疼痛が「P-NW(疼痛が誘発されるが、直ちに消失する)」な場合、

 

その刺激を何度も反復(例えば10回繰り返すことで)した際の反応は、以下のどれかだろう?

 

  1. 反復を繰り返す度に痛みが増強する

    ※最初の動作で5点だった痛みが、10回目の動作では8点にまで増強した⇒感作が起こり易い

     

  2. 反復を繰り返しても、痛みは変わらない

    ※最初の運動で5点だった痛みが、10回目の動作でも5点のままであった⇒感作が起こりにくいが、効果的な刺激かどうかの確証は持てない

     

  3. 反復を繰り返すことで痛みが低下する

    ※最初の運動で5点だった痛みが、10回目の動作で0点になっていた⇒DPな可能性も考慮してみる

 

 

※①に関して、例えば炎症性の侵害受容疼痛であればワインドアップなどにより痛みは増強する。

 

※他方で、非炎症性の侵害受容性疼痛(メカニカルな原因のみ)であれば、痛みは変化しない、あるいは(適した方向への刺激であれば)痛みが低下することがある。

 

※DPとは「クライアントが悩んでいる痛み(このケースでは連続歩行によって生じる痛み)に良い影響を及ぼす運動方向を指す。

 

DPの詳細はこちらも参照⇒『マッケンジー法における分類

 

これらは、自動運動だけでなく、オーバープレッシャーであったり、徒手的な介入によっても検証していくこともあるが、その辺はややこしいので省略する。

 

 

そして③(反復伸展で痛みが徐々に低下する)であった場合、

クライアントの「連続歩行で痛みが誘発される」という訴えが、「反復伸展という試験的治療を施行した後に変化がもたらされるか」核心部分を評価していく。

 

つまりは、「連続歩行によって生じる痛み」と、一見すると別物な要素な「伸展運動によって生じる痛み(反復運動で改善される)」にポジティブな因果関係があるかを評価していくということになる。

 

 

※この評価をするためには、事前にどの程度歩くと痛みが誘発されるかを実際に確認しておく必要がある(効果判定に使用するためのベースラインをきちんと引いておく必要がある)。

 

※問診だけでなく、実際に確認する理由は、クライアントの言っていることと実際が異なる可能性(この場合はいくら歩いても痛みが誘発されない)を除外するためだ。

 

※これをしておかないと、反復刺激によって連続歩行距離が延びたのか、そもそも今日は偶々(たまたま)歩いても痛みが出ない日だったのか区別がつかないから。

 

※もちろん反復刺激によって連続歩行距離が短くなってしまう可能性もあるがが、その場合もベースラインを実際に確認しておかないと、この日が偶々(たまたま)短距離で痛みが出現してしまう日だっただけなのか、セラピストが加えたメカニカルな刺激が及ぼした影響なのかの判断がつかなくなり、このメカニカルな刺激が有効かどうかの判断が出来ない。

 

そして、「腰部反復伸展運動によって連続歩行距離が普段より伸びた」ということが確認できたら、この刺激を治療として用いることも考慮しながら、さらなる臨床推論を進めていくことになる。

※このベースラインの改善がみられた時点で、初めて「腰椎の反復刺激はDPである」と確定する。

 

これらの過程を整理して、短く表現するとすれば以下のようになるかもしれない。

 

「腰を反らすと痛い(一時的・瞬間的に鈍痛が生じる)」と表現しているクライアントに対して「痛みを誘発させる動作(腰椎伸展の反復運動)」をリハビリに取り入れることで、本人が訴えていた「連続歩行によって徐々に生じる腰痛」が改善された。

 

 

まとめ 

 

基本的には痛みの誘発は感作に繋がることがあるため避けるべきですが、必ずしもそうではない場合もあることを記事の前半に記載してみた。

 

でもって記事の後半では、「誘発させても大丈夫な痛み」を試験的治療に活用する例を示してみた。

 

もちろん、疼痛を誘発させる際は十分なリスク管理能力が前提条件ではあるものの、痛みという指標を適切に評価へ組み入れることで、効果判定がし易くなることは覚えておいて損はない。

 

単純に「痛み=悪」という単眼思考をもってしまうと、「クライアントにとって良い痛み」が見抜けず、治療のチャンスを逃してしまう可能性がある。

 

 

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