この記事では徒手療法のアプローチ(DNICアプローチ)にも応用されることのあるDNIC(広汎性侵害抑制調節)について記載していく。

 

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DNIC(広汎性侵害受容性調節)とは

 

DNIC(広汎性侵害抑制調節)とは「痛みが痛みを抑制する現象で、全身のあらゆる部位に加えた侵害刺激(熱刺激、機械適刺激、発痛物質による化学刺激のような多様な刺激)が本来の痛みの情報伝達を抑制する」というものである。

 

DNICにより、痛み信号があちこちから一度に入った時には最も緊急を要する場所の痛みだけが伝わり、他の場所はとりあえず後回しにして痛みが抑えられる仕組みになっていると考えられ、生命を維持していくための優れたしくみの一つと言われている。

 

また、最近では侵害レベルの刺激でなくとも、離れた部位に加えた刺激で本来の痛みが抑制されることが報告されている。

 

日常において、「体のどこかが痛む時、そこ以外のどこかに痛み刺激を加えると、もともとの場所の痛みが消えてしまったり、あまり感じられなくなったりする」といった現象は皆が体験したり、臨床でも遭遇したことがあるのではないだろうか?

 

例えば、左右ともに股関節痛が存在する場合、どちらか一方の股関節痛が強いと反対側の股関節痛があまり気にならないといった状況が生じる。

 

そして、痛みが強いほうを人工関節に変えて痛みが消失したとたんに、今までDNICで誤魔化されていた反対側の痛みを強く感じるようになる。

 

体の様々な部位に痛みが出現していたとしても、その全てが同程度に痛むといった事は無く、その中でも一番強い痛みに他は誤魔化されていることがほとんどだと言える。

 

そうなると、理学療法により「痛みの訴えがある部位の鎮痛が図れたと思ったら、今度は他の部位に疼痛が出現してしまった」といった『あたかも、痛みが移動したように感じる』ことの一つの解釈にもなり得るのかもしれない(もちろん、本当に痛みが移動するケースもあり得るし、様々な要因が考えられる)。

 

DNICの機序には様々な仮説がなされているが、確実な原理は分かっていないようである。

 

しかし、DNICの現象は確実に存在していることから、この現象は鍼灸やトリガーポイント刺激、TENS、その他体表から何らかの刺激を加える痛み治療法による鎮痛メカニズムの一つと考えられている。

 

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DNICアプローチ

 

DNICアプローチとは、前述した「DNIC」と非侵害刺激である触・圧刺激、ストレッチングの3つを併用したアプローチである。

 

※つまりDNICだけを活用したアプローチではなく、ゲートコントロール理論も用いるという事になる。
関連記事⇒『ゲートコントロール理論とは?

 

※痛みを伴わない圧・触刺激は同一脊髄髄節レベルの痛み信号を抑制するだけでなく、交感神経系の活動を抑制することも知られている。

 

 

例えば、疼痛を伴う可動域制限に対するDNICアプローチは、手順の手順で実施する。

 

①DONICを利用し、異なる部位への痛み刺激を数秒間与える。

※これによって広作動域ニューロンの侵害性インパルスを抑制する。

 

②可動域運動時に発生する痛みの部位に対し、圧・触刺激を数秒から十数秒与え、痛みをさらに抑制するとともに、交感神経系抑制による血流改善を図る。

 

③可動域運動時の痛みが軽減された後で、痛みが発生していた筋にストレッチングする。

 

※少しDNICアプローチとは脱線するが、関節可動域制限が存在するとき、可動域運動の方向は必ずしも制限されている方向とは限らないことに注目する必要がある。

 

※筋を主体とする可動域制限では、可動域制限の原因は拮抗筋よりむしろ主働筋が大きく関与していることが多く、その場合の可動域運動の方向は制限されている方向ではなく逆の方向に動かし、筋をストレッチングすることとなる。

 

 

これら①~③によるDNICアプローチによって痛みの軽減とともに、筋および筋膜など結合組織の伸張性,柔軟性が獲得され、関節可動域が改善される。

 

 

DNIC以外の内因性疼痛抑制系

 

様々な内因性疼痛抑制系に関して以下の記事にまとめているので、興味がある方は参照下さい。

 

『徒手理学療法に重要な内因性疼痛抑制系まとめ』