従来、非器質性疼痛は、「痛みの発生メカニズムが説明できない痛み」とされてきた。

 

しかし、最近の分子生物学的研究により、心理社会的因子が慢性疼痛となぜ密接な関係を持つかが解明されつつある。

 

そんな中で鎮痛に対して注目されているのが、中脳辺縁系の『ドーパミンシステム(dopamine system)』である。

 

でもって、この様な内因性疼痛抑制系の存在をリハビリ職種(理学療法士・作業療法士)が理解しておくことは重要である。

 

同様に、このドーパミンシステムを患者に説明し、メカニズムを理解してもらうことも、認知療法の一環として有益となる。

 

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目次

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中脳辺縁系のドーパミンシステムは?

 

ドーパミンシステムには以下の2つがある。

 

中脳の腹側被蓋野は黒質や赤核に囲まれた内側の領域である。

 

そんな腹側被蓋野には『ドーパミン作動性ニューロン(A10細胞集団とも呼ばれている)』が多く存在する。

 

でもって『中脳辺系』とは、この『腹側被蓋野』から、側坐核や腹側淡蒼球、前頭皮質、扁桃体などへ軸索をのばしているドーパミン回路を指している。

※~画像引用:大脳辺縁系のお話

 

 

この「中脳辺縁系が賦活されることで起こる鎮痛作用」を『中脳辺縁系ドーパミンシステム』と呼ぶ。

 

ドーパミンは中枢神経系に存在する神経伝達物質であり、運動調節、認知機能、ホルモン調節、感情意欲、学習などに関わる。

 

ドーパミン神経細胞は中脳の黒質および腹側被蓋野で興奮するが、このうち腹側被蓋野の細胞群のほうから伝達されるA10ドーパミンが広範囲調節系として働く

 

特に関与するのは前頭前野と前方の大脳辺縁系である。

 

このドーパミン作働性投射は、ときに中脳皮質辺縁ドーパミン系と呼ばれており、報酬系に主に関与しているといわれている。

 

つまり、この経路はある種の適応行動の重要性を評価したり。強化したりする役割をもっている。

 

~『ペインリハビリテーション』より引用~

 

※いずれ「報酬系」に関しても記事にまとめるが、報酬系は意欲・学習などに関要するだけではなく、鎮痛にも関与することは覚えておいてほしい。

 

 

中脳辺縁系ドーパミンシステムの作用機序

 

人体に痛み刺激が加わると主に側坐核でμオピオイドが産生される。

 

でもって、この『μオピオイド』の産生に関与しているのがドーパミンである。

 

すなわち、痛み刺激が加わると(側坐核でμオピオイドを産生させるために)腹側被蓋野から大量にドーパミンが放出される。

 

ドーパミンの放出により、側坐核や腹側淡蒼球でμオピオイドが産生され、これによって例えば下行性疼痛抑制系が賦活さるなど『内因性疼痛抑制系』が機能する。

※これらは意識的に機能するのではなく、無意識に機能している。

 

そして、これら内因性疼痛抑制系によって痛みが抑制される。

 

言い換えるなら「何らかの原因で、内因性疼痛抑制系に機能障害が起こった場合は、痛覚過敏(痛みを感じやすくなる)に繋がる可能性」を示している。

 

中脳辺縁系ドーパミンシステムが賦活されやすい人、そうでない人とでは、同じ痛み刺激でも感じ方が異なるといった事も起こるかもしれない。

 

※例えば『線維筋痛症』や『複合性局所疼痛症候群(CRPS)』は様々な原因が言われているが、ここに記載したドーパミンシステムの破綻も関与しているのかもしれない。

 

※もちろん、痛みは主観であり『感覚刺激は情動も伴った上で認知される』という点も忘れてはならない。

 

ちなみに、前述した「ドーパミンシステムが機能不全に陥る原因」として非常にありふれており分かり易い例としては『ストレス』や『不安』『抑うつ』などが挙げられる。

 

 

痛みは快感により抑制される

 

ドーパミンの放出は痛み刺激のみではなく、快感や報酬の期待によっても起こる。

 

例えば、心地よい匂いやイメージ・好きな音楽・好きな食べ物などは明らかに痛みを抑制する効果が認められている(pleasure-related analgesiaの科学的根拠が得られている)。

 

重複するが、痛みと快感には相互作用が存在する。

 

心地よい匂い(アロマセラピー)、イメージ(清潔感美しい画像)、心地よい音楽などを医療現場に導入することは慢性疼痛の患者にとって癒しになり、治療効果に大きな影響を与える可能性がある。

 

整体などでは、これらを狙った(あるいは無意識的な)環境を整えていることもある。

 

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心理的因子とdopamine

 

 

ここまで「中脳辺縁系ドーパミンシステムの賦活」が鎮痛に重要な要素であることを記載してきた。しかし、何らかの原因(抑うつ、不安、ストレスなど)が存在すると、このシステムが上手く作動しない可能性がある。

つまり、ドーパミンは痛み刺激に十分に反応せず、その結果、μオピオイドは産生されず、痛みの抑制機構が働かない。

「痛み刺激で大量に放出されるドーパミン」を『phasic activity dopamine』とよぶのだが、ストレス・不安・うつ等が存在すると、海馬がシナプス前抑制として働き、腹側被蓋野から『tonic activity dopamine』が放出される。

tonic activity dopamineが増加すると、痛み刺激に対するphasic activity dopamineの反応性は低下し、十分なμオピオイドが産生されなくなり、痛みは増幅されていく。

このように慢性疼痛と心理社会的因子の間には分子生物学的レベルで説明可能な病態が明らかに存在している。

 

 

プラセボ効果とドーパミンシステム

 

プラセボ効果にはドーパミンシステムが関与している。

 

例えばプラセボの投与で、鎮痛に関与している脳内化学物質(内因性オピオイド)が活性化される(プラセボ効果は内服で50%、手術では70%に認められ、ゆっくり長く持続するとの文献もある)。

 

  • 鎮痛治療ではプラセポ効果が大きな役割を有しており、医師と患者間の信頼関係があり、治療意欲のある患者で良好に認められる。

 

  • プラセボ効果は高い価格のほうが安い価格の鎮痛薬よりも効果的であり、鎮痛効果が高い。すなわち治療に対する患者の期待が高いと痛みの抑制につながる。

 

これらの事実は、治療効果判定や日常診療ではプラセボ効果を考慮して行うことの重要性を示唆している。

 

さらに、患者の治療への期待や医療従事者との信頼を通じて治療効果を増強できる可能性を示唆している。

 

 

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中脳辺縁系(腹側被蓋野から派生するドーパミン回路)によって賦活される内因性疼痛抑制系のまとめ記事は以下になる。

 

徒手理学療法に重要な内因性疼痛抑制系まとめ

 

 

プラセボ効果のまとめ記事は以下になる。

 

理学・作業療法士が知っておくべき「プラセボ効果」のまとめ一覧

 

※プラセボ効果関連のカテゴリーは『プラセボ効果』を参照。