この記事では、身体が有している神秘手的側面の一つとしてプラシーボ効果に関与する『内因性オピオイド』について記載していく。
オピオイドとオピオイド受容体
モルヒネは現在でも最も有効な鎮痛薬として使用されるが、その成分はけしの実から採れるアヘンである。
そして、アヘンのことを『オピウム』といい、この名前から「モルヒネと同じような性質を示す物質」の総称として使われる『オピオイド』という言葉ができた。
※「オイド」は「~様の」という意味で、つまりは「モルヒネ様の」という意味である。
オピオイドが痛みに効くということは、きっとオピオイドを受け取って働くような何らかの仕組みがあるであろうと古くから考えられてきた。
そして、1980年代になって中枢神経様々な部位にオピオイド受容体が存在することが確かめられた。
次に考えられたのが「オピオイドの受容体があるのなら、きっとそれに対応したオピオイドが体内にも存在しているはずだ」という予想である。
そして、予想通りにその様な物質も発見された。
内因性オピオイドと外因性オピオイド
オピオイドには、体内に存在している『内因性オピオイド』と、アヘンなどの様に外部から摂取することで得られる『外因性オピオイド』に分けられる。
そして内因性オピオイドは、体内に備わっている内因性疼痛抑制系のひとつである。
※内因性オピオイドとは『脳内麻薬』とも呼ばれる
ちなみに、外因性オピオイドとして用いられる薬剤については以下も参照。
内因性オピオイドと受容体の種類
内因性オピオイドの種類:
・βエンドルフィン
・エンケファリン(Met・Leu)
・ダイノルフィン
・・・・・・・・・・など
内因性オピオイドに結合する受容体の種類:
・μ受容体
・δ受容体
・κ受容体 (+σ受容体・ε受容体など)
※受容体は末梢神経・脊髄・脳といったあらゆる場所に存在し、オピオイドとが結合することによって鎮痛作用を発揮する。
※強力な鎮痛作用なため、オピオイド系鎮痛薬は癌性疼痛の治療でも使用されるほどである。
末梢神経に存在するオピオイド受容体
以下の部位にオピオイド受容体が存在する。
・一次侵害受容ニューロンのAδ線維やC線維の末梢側末端部
・一次侵害受容ニューロンのAδ線維やC線維の脊髄側末端部
・脊髄後根神経節の小型ニューロン
一次侵害腫瘍ニューロンの末梢側末端部では、オピオイドが結合することにより、プロスタグランジンの発痛増強効果に拮抗して、痛みを抑えることができる。
これらの部位のオピオイド受容体にオピオイドが結合すると、カルシウムイオンチャネルの機能が抑制され発痛作用のあるサブスタンスPなどの神経伝達部室の放出が減少し、鎮痛効果が発揮される。
中枢神経系に存在するオピオイド受容体
中枢神経におけるオピオイド受容体は幅広く分布しており、下記の部位が鎮痛に関連するといわれている。
・脊髄後角
・延髄腹内側部
・青斑核・外側網様体核
・大縫線核・傍巨大細胞網様体核
・中脳中心灰白質(PAG)
・背側縫線核
・弓状および視床髄板内核部
・側坐核
・扁桃体
・・・・・・・・・などなど
脊髄後角から大脳皮質感覚野に至る痛覚伝導経路におけるニューロン活動を抑える作用がある。
また、中脳灰白質や延髄網様体細胞などに作用することで下降性疼痛抑制系を活性化させ、その伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンの放出を促し、脊髄後角における痛みの情報伝達を遮断することによって鎮痛効果を発揮している。
関連記事⇒『モノアミン神経(セロトニン・ノルアドレナリンなど)まとめ一覧』
中枢神経における各種受容体と、結合によって生じる特徴
内因性オピオイドに関して、「中枢神経における各種受容体」とそれらに結合することによって生じる特徴をまとめた一覧が以下になる。
受容体名 | 特徴 |
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μ受容体 |
μ受容体は398個のアミノ酸で構成されるペプチドである モルヒネの主要な薬理作用はμ受容体が関与することが分かっている。
モルヒネ以外では下記が結合する。 ・オピオイド系鎮痛薬のコデイン・フェンタニル ・内因性オピオイドのβエンドルフィンやエンドモルフィン
大脳皮質や視床のμ受容体を刺激すると間接的に下降性疼痛抑制系が活性化される。 脊髄後角に存在するμ受容体を刺激すると侵害刺激伝達が直接抑制され、鎮痛作用を発揮する。 μ受容体作動薬の副作用としては、呼吸抑制・便秘・多幸感や身体依存が挙げられる。
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δ受容体 |
δ受容体は372個のアミノ酸で構成され、内因性オピオイドであるエンケファリンが特異的に結合する。また、βエンドルフィンとも親和性がある。
δ受容体は錐体外路系に多く存在し、情動・神経伝達物質の制御や依存性に関与するとされている。
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κ受容体 |
κ受容体は380個のアミノ酸で構成されるペプチドで下記と結合する。 ・内因性オピオイドでのダイノルフィン ・オピオイド系鎮痛薬のペンタゾシン・ブトルファノール
視床下部・脊髄に局在し、鎮痛作用や鎮静作用・瞳孔縮小・心拍数低下に関与する。 μ受容体作動薬のような副作用は、κ受容体では生じないことが分かっている。
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鎮痛作用にはμ受容体・δ受容体・κ受容体の3つの受容体のいずれもが関与しているのに対して、「多幸感とセットで生じる依存性」はμ受容体だけが関与している。
βエンドルフィンが中脳腹側被蓋野のμ受容体に作用し、GABAニューロンを抑制することにより、中脳腹側被蓋野から出ているA10ドーパミン遊離を促進させ、多幸感をもたらす。
そして、ドーパミンが持続的に放出される状態で、精神依存が形成される。
しかし、痛みが持続する場合にはκ受容体神経系が亢進してドーパミンの遊離が抑制されるので、精神依存が形成されることがないとされ、したがって癌性疼痛を緩和するためにオピオイド系鎮痛薬を持続投与しても麻薬中毒になることは無いとされている。
また、鍼・プラセボ・バイオフィードバック療法によって自己誘導される鎮痛は、内因性オピオイドペプチドが放出されることによって生じるとされている。
その他の内因性疼痛抑制系
様々な内因性疼痛抑制系に関して以下の記事にまとめているので、興味がある方は参照してみてほしい。
徒手理学療法に重要な内因性疼痛抑制系まとめ
リハビリ(理学療法・作業療法)とは脱線した記事になるが、『依存関連』としては以下がある。
人間関係への依存について
薬物依存(覚せい剤)の恐ろしさ
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また、余談の記事としては以下がある。