この記事では、通所サービス(デイケア・デイサービス)の体力測定・運動機能評価として、活用され易いTUGテスト(timed up & go test)についてカットオフ値・基準値も含めて記載していく。

 

目次

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TUGテストとは

 

TUGテスト(timed up & go test)が開発されるより以前、GUGテスト(get up & go test)が1986年に開発された。

 

※get up & goテストは、TUGのテスト動作を行わせたときの安定性を5段階(1:正常、2:やや以上・・・・・・など)で評価するものであった。

 

その後1991年に所要時間を測定することで、より定量的な評価としたtime up & goテストが発表された

 

実用歩行を評価するためには、一定区間の直線的な歩行能力を評価するだけでなく、様々な環境や条件における歩行の能力を評価することが求められる。

 

そして、TUGテストは、簡便に評価することが可能であり、かつ転倒リスクの高いものを発見するのにも有用なテストだとされている。

 

※ちなみにTUGテストは「片脚立位保持テスト」と同様に、運動器不安定症状を診断する基準の一つとして日本整形外科学会が指定しているテストとなる。

 

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TUGテストの準備

 

TUGテストの準備は以下の通り。

 

  1. 「背もたれ付きな椅子」を用意する
  2. 椅子の前脚を0m地点として、3m地点にコーンを配置する。

タイムアップ&ゴーテスト(time up & go test)
※椅子は「背もたれに軽くもたれかかった状態で、両足が床に着く高さな椅子」とする。オリジナルは肘掛タイプの椅子だが、肘掛が無くても構わない(ただし、同一条件で実施すること)。

 

※日常生活において歩行補助具を使用している場合には、それを使用して構わない。

 

(ただし、以降の定期的なテストでも、その歩行補助具を統一して使用しなければ、比較できないので注意)

 

 

TUGテストの方法

 

TUGの方法は以下となる。

 

  1. 椅子に座った姿勢が開始肢位。

    開始肢位は背もたれに軽くもたれかけ、肘かけがある椅子では肘かけに手を置いた状態、肘かけが無い椅子では手を膝上においた状態とする(足底を床につける)

     

  2. 椅子から立ち上がり、3メートル歩いてコーンを回って、再び椅子に座るまでの時間を測定

     

  3. 「通常の歩行速度(安全で快適な速度)」で計2回測定する(その前に、練習として1回実施しておく⇒つまり、練習も合わせると計3回実施するということ)。

     

  4. 本番2回のテストのうち、小さい値(速い時間)を採用し、秒数の小数点以下1桁までをご記入(2桁目は四捨五入)

     

  5. コーンの回り方は、右回り・左回りどちらでも構わない。

    ただし、以降の定期的なテストでも、その回り方を統一しなければ、正確な比較ができない点は注意。

 

 

TUG(timed up and go test)のイメージは以下の動画を参照。

 

 

 

理学療法ガイドラインにおけるTUGテストの記載

 

ここまで記載した内容と重複する部分もあるが、「日本理学療法士学会診療ガイドライン・変形性膝関節症P340」の内容を以下に引用しておく。

 

運動器リハビリテーション学会が推奨する具体的実施方法は,椅子に深く座り,背筋を伸ばした状態で肘かけがある椅子では肘かけに手をおいた状態,肘かけがない椅子では手を膝の上においた状態からスタートし,無理のない早さで歩き3 m 先の目印で折り返し,終了時間はスタート前の姿勢に戻った時点とする。

 

2005 年本邦で行われた介護予防事業では要支援の高齢者の平均値が12.2 秒であったとの報告をもとに,介護予防の観点から運動器不安定症のカットオフ値は11 秒と設定されている。

 

 

文献によってTUGテストの数値の解釈が異なるので、念のため『書籍:転倒予防のための棒体操』も引用しておく。

 

TUGが20秒以下の高齢者は日常生活活動(ADL)における移乗課題は自立し、コミュニティで移動に必要とされる歩行速度(0.5m/sec)で歩行することができます。

 

30秒以上では、起居動作やADLに介助を要するといわれています。

 

また、転倒リスクの予測値として、13.5秒がカット・オフ値としてよく用いられます。

 

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TUGテストの歩行速度における変法

 

TUGテストの原法では「安全で快適な速度で実施する」と規定されている。

 

一方で、「出来るだけ速い速度で実施する」という変法を用いた方が再現性が高く、より機能低下を明確に評価できるとされている。

 

TUG(最大努力下)における転倒リスクのカットオフ値は13.5秒と報告されている。文献1)

 

※リスク管理の観点からは「快適速度」、再現性の観点からは「最大の歩行速度」ということになる。

 

※いずれにしても、通所サービスなどで定期的に測定するのであれば、どちらかに統一しておくよう注意する。

 

 

TUGテストの歩行速度に関する余談

 

原本に拘らないのであれば、「安全で快適な速度」と「最大の歩行速度」の2パターンを1回ずつ測定するという方法も良い。

 

※個人的にはこのスタイル。

※ただし、原法とは異なるので、あくまで余談。

※2パターンを2回ずつでも良いが、高齢者の場合は疲労が蓄積してし合うのと、テストに要する時間がかかってしまうので1回ずつにしている。

 

 

実際の測定方法は以下の通り。

  • 1回目⇒練習として、ゆっくりと実施してもらう(測定はしない)
  • 2回目⇒本番として「安全で快適な速度」で実施してもらう。
  • 3回目⇒本番として「最大の歩行速度」で実施してもらう。

 

 

声掛けは以下の通り

  • 練習⇒「練習なので、のんびりで良いので。」
  • 安全で快適な速度⇒「いつも歩いている速さで。」」
  • 最大速度⇒「出来るだけ早く歩いて。ただし、転んだり痛みが出ない範囲で。」

 

最大速度を測定する際に「転んだり痛みが出ない範囲で」と付け加えておくのはオススメである。

 

高齢者の中には、稀にセルフエフィカシーが高すぎる人が存在し、転倒リスクを度外視したマジ歩き(っというか走り)を始める人がいるのだが、この一言でその「タガ」が外れにくくなる。

※あと、普段は痛みを庇いながら歩いている人で、テストのときには全力を出し、後に痛が生じてしまい「あのテストをしたからだ」と訴える人もいるが、この一言でこれも解消される。

 

「1度練習をしてから本番を測定する」という考えは、(非効率に見えるかもしれないが)重要となる。

 

1回目はTUGテストのルールを考えながら歩いてしまうため、1回目と2回目ではタイムに差が出る(2回目の方が速い)ことが非常に多い。

 

従って、原本にこだわらない場合であっても、1度練習をしえおくことが望ましい。

 

重複するが、1回目は「(ゆっくりでも良いので)ルールを理解しているか」も兼ねて歩いて練習してみるということである(3m歩いた時点で折り返さずに立ち止まってしまったり、ターンして戻ってきても着座するのを忘れるといったことが初回はあったりする→そんな場合であっても、2度目は問題なく遂行できることが多い)。

 

 

TUGテストの基準(カットオフ値)

 

カットオフ値は、所要時間によって以下の様な解釈がなされる(文献2

 

  • 10秒以内であれば正常
  • 20秒以上であれば日常生活に介助を必要

 

 

ちなみに、日本整形外科学会が運動器不安定症の診断基準としては、「TUGテスト11秒」がカットオフ値となる。

参考⇒『日本整形外科学会 運動器不安定症

 

健常女性におけるTUGの年代別基準値(カットオフ値)は以下の通り(文献3

 

年代 timed up and go(sec)
20~29(n=40) 5.31±0.25
30~39(n=47) 5.39±0.23
40~49(n=95) 6.24±0.67
50~59(n=93) 6.44±0.17
60~69(n=90) 7.24±0.17
70~79(n=91) 8.54±0.17

 

 

  • 文献1)Shumway-Cook A et al :Predicting the probability for falls in community-dwelling older adults using the Timed Up & Go test .Phys Ther 80(9:896-903,2000)
  • 文献2)Podsiadlo D et al : The timed “Up & Go”: a test lf basic functional mobility for frail elderly persons.J Am Geriatr Soc
  • 文献3)Isles RC et al : Normal values of balance tests in women aged 20-80.J Sm Geriatr Soc 52(8) : 1867-1372,2004

 

 

TUGテストの意義(目的)

 

Timed up and go testの意義(目的)は何だろうか?

 

それは『複数の単位動作ではなく、連続した動作』を評価できる点にある。

 

クライアントの活動や動作の実用性や応用性を考えると、単に単位動作(座るだけ、立つだけ、歩くだけ、座るだけ・・など)を安全に遂行できるだけでなく、複数の課題(動作)を同時に連続して、円滑に遂行できることが必要とされる。

 

また、テーブルでの椅子から立ち上がって歩き始める連続した動作においては、立ち上がり、方向転換、歩き始め、歩行が組み合わさって行われる必要がある。

 

この様な観点からも「椅子から立ち上がる⇒真っ直ぐに歩く⇒方向転換する⇒真っ直ぐに歩く⇒方向転換する⇒椅子へ座る」といった連続した動作であるTUGテストは、「機能的な動的バランス」を評価できるが意義のあるテストとされている。

 

一方で、単純に「直線的な歩行スピード」の評価にも(TUGとは異なった)意義があり、この点については『10m歩行を意義(目的)も含めて解説します!』も参照してもらいたい。

 

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TUGテストを撮影しよう!

 

現在は、要介護認定を受けた利用者の体力測定は必須ではなくなってきているため、必ずしもTUGテストを実施するわけではない(要支援の利用者は体力測定が必須)。

 

しかし一方で、運動機能の改善度を客観的に評価する上で、TUGテストを含めた体力測定は重宝する。

 

更にTUGテストでは、動画を撮影することで一定期間(通常は3か月)での変化の度合いを視覚的にも把握しやすい。

 

例えば動画では、「動作遂行に要したスピード」だけでなく、歩容(痛みを庇いながらの歩行かなど)や安定性(フラツキながらの歩行化など)も含めて視覚的に変化を確認出来る。

 

利用者自身も(毎日、自身の身体と向き合っているため、ちょっとした変化の積み重ねを体感しにくく)「3か月前と全然変化していない」と感じている場合は多い。

 

そして、そんな利用者に動画を観覧して変化を実感してもらうことは、リハビリに対するモチベーション向上につながる。

 

また、職員や家族も頻回に利用者に関わっているため「3か月でどの程度歩行が改善されたか」を動画で比較することで改めて実感できることも多いのではないだろうか?

 

そして、これらの変化点をケアマネージャーにも観てもらうことで、事業所の評価をグッと引き上げることにもつながる(こういうのも集客アップには大切となる)。

 

ちなみに、TUGテストの動画撮影方法は以下の2パターンがある。

 

  • コーンより遠方にカメラを設置し、前方から撮影する方法
  • TUGテストをする側面にカメラを設置し、側方から撮影方法

 

前者では歩行時の側方への動揺などをチェックし易く、後者では良い姿勢で歩けているか(背筋が伸びた状態での歩行化など)をチェックし易い。

 

そして前者のほうが、廊下などでも撮影可能で横スペースが必要ないためお勧めである。

 

※一番良いのは、前方・側方からの撮影だが、ここで示した理由だけで撮影するのであれば費用対効果は少ない。

 

※もちろん、動画を撮影するにあたって利用者(場合によっては家族も含む)に説明と同意を得て書面にてサインをもらう必要がある。

 

 

TUGを見える化!Q'z TAG® walk plus(キューズタグウォーク・プラス)を住友電気工業からリリース

 

TUGを視える化できるシステム『Q'z TAG® walk plusキューズ タグ ウォーク・プラス』が、住友電気工業から2018年6月にリリースされた。

 

この製品を使用すれば、TUGの「起立⇒歩行⇒方向転換⇒歩行⇒着座までの一連の過程」を高い精度で自動検知してくれるので、セラピストはストップウォッチ無しで介助・見守りに専念できる。

 

TUGを一人で測定したことがある人ならば、ストップウォッチ片手に転倒にも配慮しながら測定することで(対象者によっては)ヒヤヒヤさせられた人もいるのではないだろうか?

 

そんな人には、朗報な機器と言える。

 

また、TUG測定の結果をソフトが詳細に視える化してくれるため、測定結果や過去との比較が可能なため、効果判定がしやすいし、利用者へそのまま手渡すことも可能とである。

 

興味がある方は以下などのリンクを参照してみてほしい。

⇒『TUGの自動測定が可能な新機種「Q'z TAG® walk plus」を発売開始

⇒『パンフレット:TAG Walkシリーズ

 

今回(2018年)の介護報酬改定で、リハビリテーション計画書が変更になったが、そんな中で、握力・10m歩行・片足立ちなど様々な運動機能テストが省かれている中でTUGだけは記録するような書式になっている。

 

それだけTUGは高齢者の運動機能を把握するうえで重要視されているのだろう。

 

 

TUGテストをリハビリ(理学療法)にも応用しよう

 

TUGテストもリハビリ(理学療法)に応用できる。

 

例えば、そのままTUGをリハビリに取り入れても良いし、例えば紙コップに水を入れて、それをこぼさないようにTUGを実施してもらっても良い。

 

「コップを持って歩く」という行為は、異なる単一動作を同時に実施しているという意味で『二重課題(dual task)』と言える。

 

そして、「TUG(連続動作)」に「コップの水をこぼれないようにする」という動作が付け加わる(同時動作)ことによって、更に機能的な動作をトレーニングしているという事になる。

※以下では、そんな二重課題トレーニングを紹介しているので、興味がある方は観覧してみてほしい。

 

⇒『二重課題トレーニングで転倒予防!

 

 

TUGテストの関連記事

 

転倒予防に関するテストを以下の記事にまとめているので、こちらも参考にしていただきたい。

⇒『転倒予防テストのカットオフ値まとめ

 

 

転倒リスクのカットオフ値(基準値)が以下となる。
※ここからでも興味のある記事にアクセスすることができる

 

テスト カットオフ値
膝伸展筋力 1.2Nm・kg
FRテスト 15cm未満
片脚立位保持テスト(開眼) 5秒以下
TUGテスト 13.5秒以上
歩行速度 毎秒1m未満(横断歩道が渡りきれない)
5回立ち座りテスト 14秒以上
立位ステッピングテスト 17秒以上