以前の記事で、肩甲帯・骨盤帯のPNFパターン組み合わせ運動として「マスフレクション・マスエクステンション」について記載した。
関連記事⇒『マスフレクション・マスエクステンション』
そして今回は、これら以外の肩甲帯・骨盤帯PNFパターンの組み合わせ運動を記載していく。
目次
『肩甲帯・骨盤帯のPNFパターン組み合わせ運動』の種類
具体的なPNF組み合わせパターンは以下の通り。
- 肩甲骨後方下制と骨盤前方挙上
- 肩甲骨前方挙上と骨盤後方下制
- 肩甲骨の前方下制と骨盤後方挙上
- 肩甲骨後方挙上と骨盤前方下制
これらを習得するには、まず「肩甲骨のPNFパターン」「骨盤帯のPNFパターン」が習得できていることが前提条件となるため、これらのPNFパターンがピンとこない方は、まず以下の記事で各パターンを理解することをお勧めする。
※この記事は動画を用いていないため、文章だけ読んでもサッパリ分からない可能性がある。
動画で解説!肩甲骨・骨盤のPNFパターン
肩甲骨後方下制と骨盤前方挙上パターン
以下に、肩甲骨後方下制と骨盤前方挙上のPNFパターンを組み合わせたテクニックの手順を記載していく。
①対象者は側臥位。
②療法士は、対象者の後方へ立ち、尾側から頭側に向かった歩行肢位(つまり、マスフレクション・エクステンションにように仁王立ちではない)。
※両グルーブ(肩甲骨後方下制のグルーブと、骨盤前方挙上のグルーブ)と平行になるような歩行肢位。
③肩甲骨下角に母・小指球をはさみ(水かき部分で挟むわけではない)、反対手で腸骨稜とASISの間にタッチする。
④肩甲骨後方下制と骨盤前方挙上のPNFパターンを同時に実施
※特に肩甲骨後方下制への抵抗は、前腕軸が患者体側と平行、つまり体に擦りつけながらの抵抗を意識する。
※声かけは、マスエクステンションと同様に、(クイックストレッチ後に)「伸びて」で理解してくれることが多い。
肩甲骨後方下制と骨盤前方挙上パターンの備考
肩甲骨と骨盤の組み合わせ運動の中では、比較的よく活用されるテクニックに分類される(体幹可動性・安定性の獲得のためによく使用する)。
これにより腹筋も使いながら良い姿勢が保持出来るようになる。
上手く学習できなければ、肩甲骨後方下制と骨盤前方挙上を別々に実施してもOK。
ただし、慣れるまでは使いにくいかも。
上手く出来ない患者にはエロンゲーションの開始肢位だけでも良いストレッチになる。
また、最終域まで可動出来なければ、セラピストが少し引っ張って自動介助してあげてもOK。
肩甲骨後方下制は胸を張って背筋を伸ばすのに有効で、骨盤前方挙上は腹筋(と背筋の同時)収縮の促通が出来る。
認知面に問題があったりなどではパターンや小さな動きが理解できない場合もあり、そんな人は動作の中で筋収縮を促していく。
例えば「私にくっついて、その状態でコップ取って」など。視覚・聴覚などを使って出来ることから始めるポジティブアプローチと言える。
歩行時の上肢振りと下肢降りだしを促通する際に用いたりもする。
肩甲骨前方挙上と骨盤後方下制パターン
以下に、肩甲骨前方挙上と骨盤後方下制のPNFパターンを組み合わせたテクニックの手順を記載していく。
①対象者は側臥位
②療法士は対象者の後方へ立ち、尾側から頭側へ向かった歩行肢位。
※両グルーブ(肩甲骨前方挙上のグルーブと、骨盤後方下制のグルーブ)と平行になるような歩行肢位
③圧縮は同時に出来ないので、まず両手を使って肩甲骨後方下制状態にしてから(ついつい肩峰の頭側にタッチしてしまいやすいが、腹側へのタッチを意識すること←手を持ち直した後の話)、骨盤も坐骨に手を押しあてて前方挙上状態にする。
④開始肢位では、骨盤後方下制へ抵抗を加える手は前腕回内(手関節背屈位・肘は立てすぎない)にしておくがクイックストレッチ後は、直ぐ前腕回外方向へスイッチングする。
これは、(運動により肩甲骨・骨盤の双方が弧を描きながら離れていくので)患者坐骨に当てていたセラピストの手関節背屈を、前腕回内位から回外位へ動かすことで逃がしてあげないと手首を痛めてしまうことが理由である(骨盤単独のように後方へセラピストが重心を落としていけないので、この様に対応しなければ手首を痛める)。
⑤肩甲骨前方挙上と骨盤後方下制のPNFパターンを同時に実施する。
重心は前方に移動させるため、骨盤へは肘を伸ばしながら抵抗を加えていくことになる(下肢伸展・外転・内旋と同じように肘を伸ばしながら重心は前方移動)。この際に体幹は常にグルーブと平行に向いていることを意識するように。
⑥声かけはクイックストレッチ後に「伸びて」でOK(マスエクステンションと同様)
肩甲骨の前方下制と骨盤後方挙上パターン
以下に、肩甲骨の前方下制と骨盤後方挙上のPNFパターンを組み合わせたテクニックの手順を記載していく。
①対象者は側臥位
②療法士は対象者の後方へ立ち、頭側から尾側に向かっての歩行肢位
※両グルーブ(肩甲骨の前方下制のグルーブと骨盤後方挙上のグルーブ)と平行になるような歩行肢位
③肩前面(大胸筋まで接触)、腸骨稜後面にコンタクトする。
④肩甲骨前方下制と骨盤後方挙上のPNFパターンを同時に実施する。
固定点と運動の概念を応用してみよう
この組み合わせパターンは、「固定と運動」の概念を用いて、以下の手法で腰痛や体幹回制限の改善に応用することも可能である。
①骨盤を前方下制位(後方挙上パターンのスタートポジション)で保持する。
②「①」を保持した状態なまま、肩甲骨後方挙上位(前方下制パターンのスタートポジション)で保持する。
※つまり、体幹が側屈・回旋位で腰方形筋などが伸張されたポジショニングとする。
③「①」を保持したまま、肩甲骨前方下制方向運動へ静止性収縮を加える。
④肩甲骨前方下制筋群の収縮を活性化させるために、「①」が固定点となる。
⑤つまりは、骨盤帯前方下制位で保持されている状態から、骨盤後方挙上運動に必要な筋群(腰方形筋など)を収縮させることで固定点を作り出し、肩甲骨前方下性運動を強化しようとする反応が見られる可能性がある。
⑥もし、この反応が見られるようであれば、③を数回実施することで、腰方形筋にIb抑制(収縮後弛緩作用)が働き、疼痛緩和や可動域拡大という反応に繋がる場合がある。
※全ての人が同様な反応を示すわけではない点に注意(人によって運動を遂行する際の固定点は異なり、反応が出にくい場合もある)。
※この様な間接的なアプローチ(目的とする部位とは別の部位への運動を意識させつつ、間接的に目的とする部位へアプローチする)という手段は、治療部位へ意識が集中し過ぎていて収縮が難しい際などに活用される。
※つまりは、治療部位を患者が意識しないため、強い痛みにも対応できる点である。
※重複するが、「固定と運動」は患者によって反応が異なるため、杓子定規に考えず、反応を確かめながら臨床展開していくことが大切となる。
関連記事⇒『固定点と運動』
肩甲骨後方挙上と骨盤前方下制パターン
以下に、肩甲骨後方挙上と骨盤前方下制のPNFパターンを組み合わせたテクニックの手順を記載していく。
①対象者は側臥位
②療法士は対象者の後方へ立ち、頭側から尾側へ向かっての歩行肢位(つまり「肩甲骨前方下制と骨盤後方挙上」と同様)
※両グループ(肩甲骨後方挙上のグルーブと、骨盤前方下制のグルーブ)と平行になるような歩行肢位
③肩後面と坐骨結節(抵抗が難しいが)にコンタクトする。
坐骨結節への抵抗が難しければ膝でもOKだが、歩行肢位の向きやボディーメカニクスを変える必要があるかも。
④肩甲骨後方挙上と骨盤前方下制のPNFパターンを同時に実施
終わりに
組み合わせパターンどれでも言えることだが、学習できなければ再度単独パターンで練習したり、一側パターン最終域で等尺性収縮を加えながらの反対側パターンの練習といった方法もある。
例:起き上がりexで骨盤前方挙上位等尺性収縮のまま、肩甲骨前方下制の練習するなど
書籍やDVDでPNFパターンを理解
ここでは、視覚的にPNFパターンを学べるものを揃えてみた。
PNFパターンの様な運動は言語化した表現だけではピンとこないことも多いのので、ぜひ映像で理解してもらえればと思う。
上記は、書籍でありながらPNFの動画も網羅してあるので、コストパフォーマンスとしておススメである。
PNFパターンに関しても、ちゃんとした動画が観覧できる。
もう少しミッチリと動画でなびたいのであれば、『PNF の 治療 技術 : 臨床 応用 編1 ~ PNFの 最新 理論 と 腰痛 への アプローチ』 がおススメ。
PNFの基礎的な要素がかなり網羅されており、映像も踏まえて解説してくれた方が字面だけよりも頭に入ってきやすいと思う。
腰痛へのアプローチに関しても参考になる点が多かった。
※パート2PNF の 治療技術 : 臨床応用 編2 肩関節 への アプローチは個人的にイマイチだったが、こちらはおススメできる商品だと思う。
※もちろん、研修会に参加するのが一番である。研修会のメリットに関しては、以下でも言及しているので是非参考にしてみてほしい。
関節モビライゼーションの研修会・勉強会・講習会を教えます
PNFパターン関連記事
マスフレクション・マスエクステンション
上記リンク先には、肩甲骨・骨盤の組み合わせ運動である「マスフレクション」と「マスエクステンション」についてを紹介している。
PNFパターンについて解説!
動画で解説!四肢のPNFパターン
動画で解説!肩甲骨・骨盤のPNFパターン
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