以前、『筋の収縮様式(求心性・遠心性・静止性・等尺性・等張力性収縮)』という記事を作成した。
そして、この記事に引き続き、これらの収縮様式を利用したPNFの「収縮後弛緩テクニック」を記載していく。
PNFにおける筋の等尺性収縮後弛緩テクニックを分類
PNFにおける等尺性収縮後弛緩を活用した手法は「ホールドリラックス」が有名だが、以下の様に他の手法も存在する。
※テクニックと言うより「運動療法の一つの考え方」と表現したほうが良いかもしれない。
- ホールドリラックス
- アゴニストリラックス
- 主動作筋の運動単位の動員のための静止性収縮
- 相反抑制(を考慮した手法)
※この考えは、各学派によって異なるため、「PNFのテクニックを覚える」という意味ではなく、「一口に等尺性収縮後弛緩テクニックといっても、臨床で様々に使い分けできるのだ」というヒントとして観覧して頂ければと思う。
ホールドリラックス
目的とする運動に拮抗する筋を収縮させることからアンタゴニスト(antagonist:拮抗筋)リラックスとも呼ぶ。
目的とする動きに拮抗する筋に対するアプローチを指す。
例えばSLR制限に対するハムストリングスへの等尺性収縮である。
また、肩を例にすると上肢挙上が大胸筋の短縮や伸張痛によって制限されている場合に用いる。
筋損傷を避けるため「エンドレンジから少し戻した角度」で用いる。
ホールドリラックスは、拮抗筋の収縮後弛緩による短縮の改善・疼痛の改善に用いる。
※同じように「拮抗筋に対する収縮後弛緩を活用した手法」にコントラクトリラックスがある(こちらは求心性収縮)
関連記事⇒『ホールドリラックスとコントラクトリラックス(+違い)』
アゴニストリラックス
ホールドリラックス(アンタゴニストリラックス)が「拮抗筋を収縮することによるアプローチ」なのに対して、「目的とする運動のために働く筋を収縮させることによるアプローチ」をアゴニスト(agonist:主動作筋)リラックスと呼ぶ。
主動作筋に収縮・短縮痛が生じている場合に、主動作筋の収縮後弛緩による鎮痛目的に用いる。
例えばSLR時に大腿四頭筋に疼痛が出現することで制限が生じている場合に対する等尺性収縮である。
痛みがあるため、「エンドレンジから少し戻した関節角度」ではなく、「痛みの出現しない関節角度」で施行する。
また、抵抗量も少なくて構わない。
ホールドリラックスもアゴニストリラックスも、「Ib抑制を利用したリラクゼーション(+鎮痛)テクニック」と言える。
関連記事⇒『Ib抑制に関する最新の知見』
主動作筋の運動単位の動員のための静止性収縮
目的とする運動のために働く筋が弱化している際に、主動作筋の運動単位を動員させることによるAROM改善目的に用いる。
問題が生じている筋の弱化は、特に短縮位において顕著となる(つまり、中間位ではそこそこの筋出力が認められるため、短縮位において左右差を確認する)。
治療の際は、筋出力を発揮しやすい中間位から開始し、徐々に力を入れにくい短縮位での静止性収縮へ移行していく。
ある程度運動単位が導入できるようになったら、求心性収縮や遠心性収縮にも繋げていく。
前述した「アゴニストリラックス」が鎮痛目的であり、抵抗量もわずかで良く、痛みが一番出現しない角度で施行するのに対し、「主動作筋の運動単位の動員のための静止性収縮」は運動単位の動員が目的でありる。
従って抵抗量は、「痛みに留意しながらの最大収縮」が望ましく、可能な限り主動筋が短縮された角度で実施する。
※抵抗量に関しては、段階的に最大収縮に近づけていくことで疼痛に対するリスク管理はしっかり行う。
※可能な限り最大収縮をさせる理由としては、筋収縮によって生じてしまうIb抑制による筋出力低下より、運動単位の動員による筋出力改善効果が上回るようにするためである。
関連記事⇒『運動単位の動員を、イラスト使って分かりやすく解説』
相反抑制
「目的とする運動方向と拮抗する筋を収縮させる」という意味ではホールドリラックスと同じ。
ただし、ホールドリラックスが「Ib抑制を利用した拮抗筋のリラクゼーションや鎮痛」なのに対して、こちらは相反抑制は「相反抑制を利用した主動筋の鎮痛(収縮痛・短縮痛)」が目的。
重複するが、拮抗筋への等尺性収縮という意味では同じでも、主動作筋・拮抗筋のどちらのリラクゼーションを狙っているかが異なる。
ちなみに、ここで述べてきた「等尺性収縮後弛緩を活用した手法」は、端から見ているだけでは、(どれも等尺性収縮という意味では同じなので)、何を狙ってやっているのか分からなかったりする(目的が違うだけで、全て等尺性収縮だから)。
PNFの等尺性収縮後弛緩テクニックの関連記事
「等尺性収縮後弛緩テクニック」と記載したが、これらは「テクニック」というよりは運動学における「基礎的な要素を活用した一つの考え方」と表現したほうが妥当かも知れない。
筋の収縮様式(求心性・遠心性・静止性・等尺性・等張性収縮)
そして、これらの要素を活用した手法は、様々な名前で呼ばれており、中には「PNFストレッチング」なる用語も一般的に浸透してきている。