リハビリ(理学療法・作業療法)のトレーニングで馴染み深い『PNF(あるいはPNF法』に類似した用語として、『PNFストレッチ』なる言葉を稀に見かけることがある。
ただし「PNFストレッチ」という用語は、理学療法士・作業療法士よりは、他職種(柔道整復師・マッサージ師・整体師)がよく使っている印象を受ける。
今回は、そんな「PNFストレッチ」という用語について記載してく。
PNFストレッチって何だ?
理学療法士に馴染みがあり、講習会を開催している「日本PNF学会」や「日本PNF協会」では「PNFストレッチ」という用語は(恐らく)使っていない(個人的に聞いたことがない)。
ただし、前述した他職種が用いており一般にも浸透していたり(書籍が出回っていたり)、スポーツ分野や海外の文献でもPNFストレッチという用語は登場する。
確かにPNF法の中に「PNFストレッチ」という用語は出てこないが、筋原性な関節可動域制限の改善を目的とした「ホールドリラックス」や「コントラクトリラックス」といった手技は存在し、それらとストレッチを併用することはあり得る。
従って、PNF(固有受容性神経筋促通法)の概念の中に「PNFストレッチ」という方法があるのではなく、ホールドリラクスやコントラクトリラックスなどで用いられる神経生理学的作用(+筋腱以降部の伸長)をストレッチに応用した手法として、PNFとは異なった概念として独立して存在している用語と言える。
そんな中で、『書籍:運動療法学』にPNFストレッチングが記載されていたので、この書籍を参考にしつつPNFストレッチングをまとめてみた。
PNFストレッチングとは
PNFストレッチングとは、「PNF(固有受容性神経筋促通法)を応用して行うストレッチング」を指すため「PNF応用ストレチング」と呼ばれることもある。
※この記事ではPNFストレッチングという用語を使用して解説していく。
すなわちPNFストレッチングは、目的筋や拮抗筋に対して筋収縮や伸張を組み合わせることで、PNFでも活用される「相反抑制」や「Ib抑制」といった神経生理学的効果も利用しながら行われるストレッチ方法と言い換えることができる。
例えばPNFではIb抑制を利用したホールドリラックスやコントラクトリラックス(収縮後弛緩テクニック)という手法がある。
※目的筋がハムストリングスであれば、ハムストリングスに等尺性あるいは求心性収縮を実施した後に筋緊張が低下(+収縮強度が強ければ筋腱移行部の伸長)により筋の柔軟性改善が期待できる。
あるいはPNFでは以下のような「経時誘導」や「相反抑制」といった神経生理学的効果も利用する。
※この「経時誘導」や「相反抑制」を利用したPNFの手法としてスローリバーサル(=ダイナミックリバーサル)などがある。
そして、これらPNFの要素(っというよりはPNFで活用される神経生理学的要素)をストレッチングに取り入れた手法が「PNFストレッチング」ということになる。
PNFストレッチング やり方
PNFストレッチングには以下のような種類がある。
- ホールドリラックス
- コントラクションリラックス
※コントラクトリラックスではない
- スローリバーサルホールドリラックス
※PNFストレッチングで用いられる名称は、PNFで使われている名称と似ているが、方法は同一ではない。
※例えば「PNF法のコントラクトリラックス」は目的筋(伸張したい筋)を収縮させるのに対して、PNFストレッチングでは拮抗筋(伸張したい筋とは反対の、拮抗している筋)の収縮を活用する。
以降は、ハムストリングを例にして、それぞれのPNFストレッチングを解説していく。
ホールドリラックス
- スタティックストレッチングを5~10秒間ほど行う。
- 次にハムストリングスを最大60~80%くらいの力で等尺性収縮させる(3~5秒ほどの持続収縮)。
- その後、ハムストリングスを弛緩させて、再びスタティックストレッチングを5~10秒ほど行う。
コントラクションリラックス
- スタティックストレッチングを5~10秒間ほど行う。
- 次に、ハムストリングスとは反対の拮抗筋(股関節屈筋群)を収縮させるよう指示する。
- 指示と同時に療法士は、収縮に合わせて同じ方向(ハムストリングスがストレッチされる方向)へ関節を動かす(4~6秒ほど持続収縮)。
- その後、股関節屈筋群を弛緩させて、再びハムストリングスのスタティックストレチングを5~10秒ほど行う。
スローリバーサルホールドリラックス
- スタティックストレッチングを5~10秒ほど行う。
- 次にハムストリングスを最大60~80%くらいの力で等尺性収縮させる(3~5秒ほどの持続収縮)。
- その後、ハムストリングスとは反対の拮抗筋(股関節屈筋群)を収縮させるように指示する。
- 指示と同時に療法士は、収縮に合わせて同じ方向(ハムストリングスがストレッチされる方向)へ関節を動かす(4~6秒ほど股関節屈筋群の持続収縮)。
- その後、股関節屈筋群の収縮を止めて、再びスタティックストレッチングを5~10秒行う。
※②の「ハムストリングスの等尺性収縮」により「ハムストリングスのIb抑制が働く」とともに「股関節屈筋群へ経時誘導」が起こり、股関節屈曲の自動運動が容易となる。
※④の「股関節屈筋群の等張性収縮」により「ハムストリングスへ相反抑制が働く」ことにより自動介助運動における可動域の拡大が起こる。
腸腰筋のPNFストレッチング
前述した方法をPNFストレッチングとするならば、その手法は他の筋にも応用できる。
ここでは腸腰筋のPNFストレッチング(のコントラクションリラックスバージョン)を以下に示してみる。
- 対象者はベッドに腹臥位(うつ伏せ)
- 療法士は、ストレッチ側の大腿を把持下から救い上げるように把持して、股関節を伸展させた状態を保持する。
⇒これによって腸腰筋(股関節伸展筋群)のストレッチングされる(スタティックストレッチング)
⇒5~10秒保持する。
- その肢位から股関節を伸展方向へ可動させるよう努力してもらう(大殿筋を収縮)。
⇒伸張しようとしている筋(腸腰筋)の拮抗筋(大殿筋)を収縮させることによって、相反神経抑制(Ia抑制)が起こり、施行後に腸腰筋のリラクゼーションが得られる。
⇒指示と同時に療法士は、収縮に合わせて同じ方向(腸腰筋がストレッチされる方向)へ関節を動かす(自動介助運動のエンドレンジで4~6秒ほど持続収縮)。
- その後、大殿筋を脱力させて、再び腸腰筋のスタティックストレチングを5~10秒ほど行う。
※大殿筋のみを収縮させたい場合は膝を屈曲させるほうが良い(ハムストリングスが緩むので)。
※一方で、この方法だと大腰筋のみならず大腿直筋も伸張されてしまう(なので一長一短)。
※また、腹臥位での股関節伸展によって腰椎も前彎し易いため、この様な刺激で腰痛がし易い人には不向き。
PNFストレッチングの注意点
PNFストレッチング、つまりはPNFを応用したストレッチングについて記載してみた。
ただし、PNFストレッチングで活用される筋収縮やストレッチングの強度は比較的強力な印象を受ける点は、注意すべきではないだろうか?
したがって、理学・作業療法士が臨床で活用するというよりは、健常者やアスリートに対して実施するイメージがある。
※もちろん、これら神経生理学的効果は様々に応用可能な要素ではある。
PNFストレッチング関連記事
そのほかの「ストレッチ」や「PNF」に関しては、以下のカテゴリーに様々な記事をまとめているので、こちらも参照して理解を深めていただきたい。
PNFの臨床活用法を紹介♪
伸張反射/Ib抑制/Ia抑制(相反抑制)を極めよ!!!!!
ストレッチングの種類・方法・効果
また、専門的にPNFを学んでみたい方は、上記リンク先の記事の他に、以下のDVDが非常に参考になると思う(基本的な理論の解説が網羅されている)。
特に、『PNF概論(臨床応用のために)』の1枚目(56分)と2枚目(50分)は参考になるため、目次も掲載しておく。
1枚目:
①Philosophy(治療に対する考え方)
②Basic Principles(基本原理)とProcedure(手段)
◎「Basic Principles&Procedure」の概要
◎触覚刺激
◎聴覚刺激
◎視覚刺激
◎抵抗
◎関節刺激(牽引、圧縮)
◎伸張刺激(ストレッチ)
◎パターン
◎タイミング
◎放散、強化、加重
◎ボディメカニクス
※これらに関しては、関連サイト『筋骨格系理学療法の世界』でも解説しているので、そちらも観覧してみてほしい。
2枚目:
Techniques(テクニック)
◎「Techniques」の概要
◎Rhythmic Initiation
動筋パターンの運動能力を改善
◎Combination of Isotonics
動筋パターンの中でリラクセーションさせることなく行う、求心性、遠心性、そして持続した静止性筋収縮
◎Repeated Stretch from beginning of range
動筋パターンにおいて、開始肢位から、十分にエロンゲーションされた筋群への反復的ストレッチ
◎Repeated Stretch through range
動筋パターンにおいて、運動域の中で収縮している筋群への反復的ストレッチ
◎Replication
患者に運動感覚や位置などを教えたり、その運動の最終位置を教えるテクニック
◎Dynamic Reversals
拮抗筋から動筋に筋緊張を低下させることなく変換させる交互性の動筋収縮
◎Stabilizing Reversals
筋緊張を低下させることなく行う、拮抗筋と動筋の交互性の静止性筋活動
◎Rhythmic Stabilization
関節運動を起こさず、筋緊張を低下させることなく行う、拮抗筋と動筋の交互性の静止性筋活動
◎Contract Relax
拮抗筋に随意的求心性収縮をさせ、それに対抗し、その位置を維持、 そしてその後のリラクセーションを得る事により動筋の自動運動域を拡大させる
◎Hold Relax
拮抗筋あるいは動筋に最適な静止性収縮をさせ、その後の拮抗筋のリラクセーションを得ることにより、動筋の自動運動域を拡大させる
※これらに関しては、このブログでも触れているので、以下も合わせて観覧してみてほしい。
ジャパンライム社が作成しているDVDの宣伝動画も掲載しておくので、興味がある方はチェックしてみてほしい。