この記事では大腿四頭筋についての概要と、リハビリとして複数の一般的な訓練も記載していく。
また、記事最後に掲載いしている『大腿四頭筋セッティング』というトレーニングや『ストレッチング』などの関連記事も合わせて観覧してもらえれば、更に理解が深まると思う。
大腿四頭筋の基礎情報
大腿四頭筋の基礎情報は以下となる。
筋名 |
起始 |
停止 |
作用 |
神経 |
大腿直筋 |
腸骨の下前腸骨棘と寛骨臼の上縁 |
膝蓋骨の膝蓋骨底 脛骨の脛骨粗面 |
股関節の屈曲 膝関節の伸展 |
大腿神経 (L2~L4) |
内側広筋 |
大腿骨の転子間線の遠位方の領域と粗線の内側唇 |
膝蓋骨の膝蓋骨底 脛骨の脛骨粗面 |
膝関節の伸展 |
大腿神経 (L2・L3) |
中間広筋 |
大腿骨の大腿骨体の前面と内・外側面 |
膝蓋骨の膝蓋骨底 脛骨の脛骨粗面 |
膝関節の伸展 |
大腿神経 (L2・L3) |
外側広筋 |
大転子の前面および下面と粗線の外側唇 |
膝蓋骨の膝蓋骨底 脛骨の脛骨粗面 |
膝関節の伸展 |
大腿神経 (L2・L3) |
走行と位置関係:
大腿四頭筋は、大腿直筋・内側広筋・外側広筋・中間広筋とともに腱を形成して膝蓋骨に付着している。
内側広筋と大腿直筋の筋線維は膝蓋骨内側支帯を形成し、外側広筋と大腿直筋の一部の線維は外側支帯を形成している
これらの支帯は膝蓋骨の側方を経由して脛骨顆部に付着する。
筋連結:
大腿直筋
⇒内側広筋の腱・中間広筋の腱・外側広筋の腱と連結
外側広筋
⇒大腿二頭筋の短頭(筋間中隔)・大殿筋(腱膜)・大腿直筋(腱)、中間広筋(腱)、中殿筋(筋膜)大腿方形筋(腱膜)および大腿筋張筋(筋膜)と連結
中間広筋
⇒大殿筋(腱膜)、大腿二頭筋の短頭(筋間中隔)、大腿直筋(腱)、外側広筋(腱)、内側広筋(腱)、膝関節筋(関節包)と連結
内側広筋
⇒大内転筋(腱)、大腿直筋(腱)、中間広筋(腱)、恥骨筋(腱膜)、長内転筋(腱)、短内転筋(腱膜)と連結
ここから先は、一般的な大腿四頭筋の筋力トレーニングとしてとして以下の2つを記載していく。
①端坐位での大腿四頭筋トレーニング
②キッキング
端坐位での大腿四頭筋トレーニング
大腿四頭筋の筋力トレーニングで一般的なものの一つに「端坐位での膝伸展運動」が挙げられる。
方法は簡単で、「座った状態で膝を伸ばす」という運動になる。
※これは、OKCトレーニングに該当する
端坐位での大腿四頭筋トレーニングは、姿勢に注意する
前述したイラストでは背もたれ付きの椅子に座っているが、理想は背もたれにもたれかからず(骨盤後傾=腰椎後彎させず)、骨盤ニュートラル(腰椎の生理的前彎)をキープしながら実施することである。
以下のイラストは、骨盤が後傾した状態での大腿四頭筋トレーニング。
一方で、以下のイラストは骨盤がニュートラルな状態での大腿四頭筋トレーニング。
骨盤ニュートラル(あるいは軽度前傾位)によって、以下が起こる。
- 大腿直筋の起始(ASIS)と停止が近づくことで、収縮が抑制できる(相対的に単関節筋である内・中・外側広筋の活動比率が高まる)
- ハムストリングスの起始(坐骨)と停止が遠のくので、膝伸展とともにハムストリングスが伸張され、それが膝伸展に対する抵抗になる。
従って、きちんとしたポジショニングで膝伸展運動をしてみると、意外と負荷の強いトレーニングになり得るので、重錘を使って負荷を強めようとする前に、代償が起こっていないかをまずは確認してみよう。
※高齢者の中には、このトレーニングを指示すると「手を座面の後方へついて、体を後方へのけ反らせながら運動をしようとする」場合も多いので、ちゃんと姿勢を正してあげよう。
※すると、簡単そうに運動していたのが一変して、膝がガクガクし始めて「姿勢を少し変えるだけでこんなに難しくなるんだね」と驚かれる場合もある。
姿勢を正す=インナーマッスルも強化
端坐位での大腿四頭筋トレーニングを「体幹インナーマッスルとの協調したリハビリ(理学療法)」という視点で考えると以下の様になる。
端座位での膝伸展を骨盤ニュートラル、腰椎前湾を保持しながらインナーマッスルを賦活させつつ膝伸展を実施すると「インナーマッスルと協調した四肢の運動(膝伸展運動)となり得る。
つまりは、コアトレーニングとして活用することも可能という事になる。
関連記事⇒『段階的コアトレーニングを解説!』
ドローインした状態での大腿四頭筋トレーニングであれば、さらにコアを刺激することが出来る。
※ドローインに関しては⇒『腹横筋トレーニングの魅力と限界』
正しい姿勢での大腿四頭筋トレーニングとエクステンションラグ
また、「正式な端坐位での膝伸展トレーニング」は前述した理由から膝伸展筋力を発揮しにくく、『エクステンションラグ』と起こしやすくなる。
エクステンションラグに関しては、以下の記事でも解説しているので参考にしてもらいたい。
正しい姿勢での大腿四頭筋トレーニングとハムストリングスのストレッチ
前述したように骨盤ニュートラルでの大腿四頭筋トレーニングでは、ハムストリングスの起始(坐骨)と停止が遠のくので、膝伸展とともにハムストリングスが伸張され易くなる。
従って、ハムストリングスの短縮がある場合は、大腿四頭筋のトレーニングであると同時に、ハムストリングスのストレッチという意味合いを持つようになる。
そして「端坐位での膝伸展運動」によって大腿四頭筋を収縮させるということは、相反抑制の観点からもハムストリングスの筋緊張を低下させることに繋がり、効率の良い運動療法となり得る(インナーマッスルとの協調+大腿四頭筋の筋トレ+ハムストリングスのストレッチング)。
大腿四頭筋の静止性収縮によって膝伸展位を保持することで、ハムストリングスにも静的ストレッチングを加えるのが一般的だが、以下の様に大腿四頭筋の求心性収縮いよってハムストリングスに動的ストレッチングを加える手法もある。
相反神経支配も活用したストレッチングに関しては、以下の記事も合わせて観覧すると理解が深まると思う。
⇒『伸張反射/Ib抑制/Ia抑制(相反抑制)を極めて、ストレッチに活用!』
重錘バンドやセラバンドで負荷を増やす方法も
姿勢を正すことで大腿四頭筋への負荷が強まることを述べてきたが、この点を押さえた上で更に負荷を強めたければ、徒手抵抗を加えたり、重錘やセラバンドを利用するのも一つの方法と言える。
関連記事⇒『セラバンドを紹介』
キッキング(Kicking)
キッキング(Kicking)運動とは「背臥位で対象者の足底に療法士の手を当て、その手を対象者に蹴るように伸ばしてもらう(療法士は、その蹴る力に抵抗を加える)」といった運動が臨床では用いられることがある。
※個人的にはキッキングを上記の意味でしか表現しないが、厳密には他の意味もある。
「膝に荷重刺激を加えながらの、多関節の動きを伴う運動」ということになるが、これをCKCトレーニングに分類するかどうかは議論がある。
関連記事⇒『CKCとOKC(+違い)』
このキッキング運動は、負荷としては非常に弱いが、臥床傾向な高齢者の「準備運動」的な手段として用いられることも多い。
また、変形性膝関節症などで膝関節機能障害を有しているケースに対して「障害を起こしている関節構成運動に配慮した微調整を加えながら、軽微な抵抗を加えることで膝関節に適刺激を入力させる」といったことが可能な、便利な運動でもある。
この様な目的によるキッキングによって以下の作用が期待できる。
- 多関節のトレーニングであるため、下肢筋の協調した収縮が促される。
- 適度な刺激による「滑液分泌の促進」や「感作の抑制(脱感作と呼ぶ)」
- 膝へ刺激に対する過剰な恐怖感を除去し、快適な筋収縮を促す
これにより、キッキング後に荷重痛が軽減し、立ち上がりや歩行が劇的に変化することがある。
※どちらかというと訪問リハビリなどで対象となる、「ベッドへ寝たままで普段から動こうとせず、尚且つ膝を痛がっている」といった悪循環をきたした高齢者に反応しやすい。
※訪問リハビリ導入後、直ちに好循環が生まれて寝たきりから脱却できるケースもある。
※一方で「普段から活動的で、尚且つ膝痛を有している変形性膝関節症患者」には反応しにくい。
大腿四頭筋のリハビリ(理学療法)関連記事
ここでは大腿四頭筋の筋力トレーニングとして「端坐位での膝伸展運動」「キッキング運動」を紹介してきたが、それ以外の『大腿四頭筋にまつわる記事』は以下でも解説しているので、興味がある方は観覧してみてほしい。
パテラセッティングって効果ある?
高齢者のスクワットを解説!
SLR運動のメリット・デメリットとは?
大腿直筋は何で縮んでしまうんだ?(+ストレッチ)
大腿四頭筋の筋力は転倒との因果関係も指摘されている。
従って、大腿四頭筋の筋力評価は、転倒予防に重要な『バランス評価テスト』の意味合いも含まれている。
そんな、『バランス評価テスト』のまとめ記事は以下になるので、興味がある方はチェックしてみてほしい。
知らなきゃ損!バランス評価テストのカットオフ値まとめ
以下は、大腿四頭筋(麻痺)破行も含めた異常歩行についてのまとめ記事となる。