この記事では梨状筋(Piriformis muscle)について、「触診方法」やリハビリ(理学療法)としてストレッチやマッサージについて解説していく。
※特に梨状筋のストレッチは諸説あるので、この記事を読んだり実際に試したりしながら色々と考えてみてほしい。
また、梨状筋の機能障害によって起こる『梨状筋症候群』も合わせて記載していく。
梨状筋の基礎情報
梨状筋の基礎情報は以下となる。
起始 | 仙骨の前面で、上位3つの前仙骨孔の周辺 |
---|---|
停止 | 大腿骨の大転子の後近位端 |
作用 | 股関節の外旋・外転 |
神経 | 仙骨神経叢(S1~3) |
筋連結 | 中殿筋(腱)・小殿筋(腱)と連結 |
梨状筋の日常生活における役割
梨状筋は股関節を外旋させる筋群の一つであり、動き回る時に体幹を安定化・直立化させる働きをする。
※股関節の深部に位置するという意味で、いわゆるインナーマッスルの一つ。
梨状筋の触診
梨状筋は以下の2つの交点で(大坐骨孔の出口付近)触診できる。
- 上後腸骨棘と大転子を結ぶ線
- 上前腸骨棘と坐骨結節を結ぶ線
※上後ではなく上前腸骨棘。
※つまり3次元的なイメージを作る
そして、上記の交点に指で深く圧迫を加えて、ゆっくり繰り返して指を頭尾側に動かしてみると、筋スパズムやトリガーポイントが存在する場合は疼痛が誘発される。
※あるいは単純に、起始と停止を結ぶ線上で(深部まで圧を加えた状態で)筋腹を横断するように触診すると確認できる。
※特に、梨状筋が過緊張を呈している場合はゴリゴリとしたものを感じやすい。
疼痛が誘発された際に考えられる所見は以下の通り。
- 梨状筋が殿部の深層で硬く索状に触知されれば梨状筋の反射的短縮が考えられる。
この仮説は、筋の長さテスト(ストレッチング)や等尺性収縮後弛緩テクニックなどによる「試験的治療」によって確認していく。
- 深層の触診で放散痛が明らかに認められる。
偽性根性放散痛か坐骨神経痛かは不明であるものの、梨状筋機能障害を有していることは確認できる。
鑑別するには後述する疼痛誘発テストも併用しながら判断していく。
※梨状筋の機能障害では圧迫によって著しい痛みを伴うことがある。
患者は腹臥位をとる。
大転子・坐骨上前腸骨棘・上後腸骨棘を確認する。
一対の架空の線を引く。
一本は上前腸骨鰊と坐骨結節の間を結んだ線、もう一本は上後腸骨疎と大転子の間を結んだ線をイメージする。
梨状筋はこの2本の線の交点にある。
指腹触診の手の形で静かに殿筋に入り、尾側方向に殿筋を押す。
他方の手は梨状筋を触診するために、指腹触診をした手の上に置く。
梨状筋に痛みのない患者では筋の上からの圧迫として感じる。
これと対照的に梨状筋に硬さやトリガーポイントがある患者では触診を過敏に痛みとして感じる。
坐骨神経の絞扼に関連した過敏な梨状筋をもつ患者は坐骨神経痛症状の再現を感じることがある。
~文章および、以下の画像:ヤンダアプローチより引用~
梨状筋症候群とは?
梨状筋症候群とは、梨状筋が過緊張を起こすことによって、(坐骨神経の絞扼を含め)て様々な症状を引き起こすことを指す。
梨状筋症候群の原因
梨状筋の直下を坐骨神経が走行しているため、緊張やオーバーユースからくる筋のタイトネスや攣縮によって坐骨神経に負荷がかかる(更に炎症を起こしていることにより痛みが起こるという説もある)。
人口の約15%(諸説あり)の人は坐骨神経が梨状筋内を走行しているとされ、その様な人は坐骨神経が絞扼を受けやすい。
また、過緊張は筋スパズム・トリガーポイントを形成し、梨状筋自体が痛みを引き起こす要因となることもある。
梨状筋症候群の症状
梨状筋症候群の症状としては以下が挙げられる。
- 臀部の鈍痛
- 下腿への放散痛
- ヒリヒリ感や痺れ感などの異常感覚
また、「座る」「階段や坂を上る」といった動作により痛みが増強しやすいとされている。
梨状筋症候群以外で坐骨神経痛(下肢症状)を呈す疾患
梨状筋症候群以外で坐骨神経痛(下肢症状)を呈す疾患としては以下が挙げられ、これら脊柱管内(あるいは神経根)に原因がある坐骨神経痛との鑑別に注意する。
- 椎間板ヘルニア
- 脊柱管狭窄症
- 腰椎分離すべり症
・・・・・・・・・・・・・・・・・・など。
あるいは、前述した梨状筋の症状の一つである「殿部の鈍痛」は仙腸関節障害でも起こりやすい症状の一つなため、仙腸関節の評価も併せて実施すると良い。
※梨状筋症候群と仙腸関節機能障害は併発していることも多い。
関連記事
⇒『仙腸関節障害を治療しよう』
梨状筋由来の坐骨神経痛かを判断する疼痛誘発テスト
梨状筋由来の坐骨神経痛かを判断する疼痛誘発テストは以下などが存在する。
Bonnet'sサイン:
股関節を内旋するような刺激で坐骨神経痛が誘発されるかどうか
Freiberg'sテスト:
背臥位で股関節を他動的に屈曲・内転・内旋させて坐骨神経痛が誘発されるかどうか
結局のところ、目的は「梨状筋・上双子筋等を伸張し神経絞扼を増強させることで疼痛を誘発するかを確認すること」である。
あるいは、端坐位で等尺性収縮を梨状筋に加えることで坐骨に圧迫刺激を加え、坐骨神経痛を誘発させる『Paceisテスト』などがある(これも坐骨神経に圧迫刺激を加えることで症状の有無を確認するという意味において原理は同じ)。
そんな様々な梨状筋症候群の疼痛誘発テストの中で、エビデンスの高いものとして『FAIR検査(屈曲-内転-内旋検査)』を紹介しておく。
梨状筋症候群、すなわち梨状筋の下を通る坐骨神経の圧迫を診断から除外する方法が考えられている。
近年、FAIR(屈曲-内転-内旋)検査が梨状筋による坐骨神経の圧迫を見つける手段として実証されている。
FAIRの肢位は、患者を側臥位にして下肢遠位端を持ち上げる。
そのとき患者の下肢は屈曲-内転-内旋位となる。
この検査を行っている際に、坐骨神経と梨状筋の交差点に疼痛が誘発されるなら、陽性と考える。
FAIR検査は、感度0.88、特異度0.83、陽性尤度比5.2、陰性尤度比0.14であることが証明されている。
関連記事⇒『感度・特異度とは?』
※ただし、この記事で記載している「梨状筋症候群」は坐骨神経の絞扼によって起こる症状以外に、梨状筋そのものの機能異常によって生じるものも含めて表現している点に注意して頂きたい。
※なので、この検査が陰性であっても「梨状筋の機能異常」があるのであれば、後述する「梨状筋症候群の治療」は適応となる。
※その辺りは、前述した梨状筋の触診時の反応や、梨状筋の短縮度合いから判断していく。
梨状筋症候群の治療
症状が坐骨神経にストレスが加わって起こっている場合においても、梨状筋自体の機能異常から起こっている場合においても、梨状筋の筋緊張・筋スパズムを改善することは重要となる。
そんな梨状筋症候群の治療に関して、ここではストレッチングとテニスボールを用いたマイオセラピー(ダイレクトストレッチング)を紹介していく。
梨状筋のストレッチングをするための基礎知識
梨状筋の作用は「外旋・外転」であると基本情報に記載した。
ただし、これは股関節屈伸中間位での話であり、股関節が一定以上屈曲した角度になると回旋作用が逆転するとされている。
つまり外旋作用から内旋作用へと逆転するという事になる。
一体、何度以上の屈曲角度で逆転するかは諸説ある(ドイツ徒手医学では60°以上の屈曲としてる)が、少なくとも90°以上の屈曲位であれば内旋筋として作用する。
極端な股関節屈曲位において、梨状筋の作用に変化がみられる。
中間位では外旋-屈曲-外転筋であるのに対して、極端な屈曲位では内旋-伸展-外転筋になる。
これら2つの作用域の移行点は屈曲約60°付近で、ここでは外転作用しかない。
股関節が屈曲すると梨状筋は(股関節伸展位にある)外旋作用から内旋作用へと切り替わる。
これは骨格モデルと筋の力線を模倣した柔らかいコードを使用すると視覚的に良く理解できる。
そのため、股関節屈曲90°以上で外旋位にすると、梨状筋をさらに伸張することとなる。
※関節の角度によって異なる作用を持つ筋は多く、梨状筋もその一つという事になる。
関連記事⇒『胸鎖乳突筋は肢位によって作用が違うよ』
背臥位での梨状筋ストレッチング
前述した梨状筋の基礎知識を考慮した上での背臥位ストレッチングは以下の2パータンとなる。
①股関節軽度屈曲+内転+内旋:
こちらのパターンは、「梨状筋を含めた外旋六筋全体をストレッチングしたい場合」も有効となる。
※梨状筋以外は、深屈曲位でも作用が逆転しないので。
また、前述したようBonnet'sサインやFreiberg'sテストなどの「梨状筋由来の坐骨神経痛かどうかを評価する疼痛誘発テスト」にも用いられる。
坐骨神経が梨状筋内を走行しているケースは別として、通常は梨状筋と上双子筋の間に坐骨神経が挟まれているので、疼痛を誘発するためには(Freiberg'sテストでも記載したように)梨状筋以外の外旋筋もストレッチングする必要がある。
②股関節最大屈曲+内転+外旋:
個人的には、こちらのストレッチングを採用することが多く、おススメである。
外旋だけでなく内転も強調するのがポイントとなる(外旋・内転のどちらが疎かになっても効果が半減する)。
セルフストレッチングとしては以下の方法がある(右梨状筋をストレッチング)
右股関節を屈曲・外旋・(分かり難いと思うが、通常の胡坐位より)内転することにより梨状筋をストレッチングしている。
端坐位での梨状筋ストレッチング
つぎに端坐位での梨状筋ストレッチングを記載していく。
※実際のところ、端坐位での梨状筋ストレッチングのほうがおススメできる。
方法は、前述した「屈曲・外旋を利用した背臥位でのストレッチング」を端坐位でも同様に実施するだけである。
- すなわち、端坐位で、右下肢だけ座面に持ちあげて胡坐(右股関節屈曲・外転・外旋)を作る。
(前述した動画の様に)右下腿は左大腿の上に乗せておく。
↓
- そこから右股関節を無理のない範囲(バランスを崩さないことも含む)で内転方向へ動かしておく(股関節屈曲・外旋・内転の状態を作る)。
↓
- そこから更に、骨盤前傾をキープしたまま体幹を前屈(+右回旋・右側屈)していく(股関節最大屈曲位)
※体幹の重みで前屈するため、動画よりも「リラックスした状態で強力なストレッチングを梨状筋へ加えることが可能」となる。
端坐位の動画としては以下が非常に分かりやすい。
動画では分かり難いが、骨盤前傾けるはしっかりキープしながら体幹を前傾させていくことが重要となる。
運動学を考えると、もう少し内転したほうが梨状筋に効果的な気がする。
※内転することで伸張刺激に差が出るかは、観覧している各々で体感してみてほしい。
あるいは、左大腿を両手で抱え込んでいるが(おそらく、上肢の力で体幹前傾を補助するのが理由だと思うが)重力によってジンワリとエンドレンジまで体幹は倒れていく(よっぽど梨状筋の短縮が軽度であれば別だが)ので、手で抱え込まず自由になった右上肢を右膝の上へ乗せた上でストレッチングする方法を個人的にはおススメする。
これによって「ストレッチングとともに右膝が浮いてしまう(外旋が甘くなってしまう)のを防止できる。
※力で膝を押さえつけるのではなく、上肢を乗っけておけば、体幹前傾による体全体の重みが「右膝が浮くこと」をせき止めてくれる。
※ストレッチングは以下に脱力した状態で、気持ちよく伸ばせるかがポイントとなる。
念のため、梨状筋ストレッチングが背臥位よりも端坐位がオススメな理由を記載しておく。
- 背臥位が自身で大腿を引き付ける必要があるのに対して、端坐位では重力に任せて体幹を倒していけば良いだけなので、リラックスしやすく、持続的に疲れずストレッチングが可能
- わざわざ寝転がらなくても良いので、梨状筋症候群で辛い際に、ちょっとした休憩の合間に椅子さえあれば実践できる
余談
ちなみに大殿筋の作用は伸展・外転・外旋なのでストレッチングの方向は、「屈曲・内転・内旋」となり、股関節深屈曲位でのストレッチングに関して梨状筋との違いは「回旋方向」となる。
ただし、上記のセルフストレッチングでは、強力に「屈曲・内転刺激」が加わるので(外旋位でのストレッチングではあるものの)、大殿筋に短縮が認められるクライアントが実施すると、梨状筋と一緒にストレッチングされる。
関連記事⇒『ストレッチング、ちゃんと知ってる?』
梨状筋のマイオセラピー
梨状筋に対る療法士のマイオセラピー(押圧刺激によるアプローチ)や横断マッサージの方法は前述した「触診」を参照。
また背臥位で、テニスボールを梨状筋の筋スパズム・トリガーポイントが生じている部位に当てることで、症状を緩和してくれることがある。
テニスボールは、大きさ・硬さともにセルフエクササイズに使用するのに丁度良い。
関連記事
⇒『トリガーポイント治療』
関連記事
梨状筋以外に対するストレッチングに関しては、以下の記事にまとめているので、チェックしてみてほしい。
ストレッチング、ちゃんと知っている?
梨状筋は『股関節の外旋回六筋』の一つであり、以下の記事で解説している。