今回はおススメ本の紹介とともに、リハビリ(理学療法・作業療法)の専門用語である『エロンゲーション』について解説していく。
また、記事の後半では「書籍:のび体操」も紹介している。
目次
エロンゲーション(elongation)とは
一般的には聞きなれない用語である『エロンゲーション』の意味は以下になる。
「体を伸ばす」っと聞くと『ストレッチング』をイメージしやすいと思うが、「からだ全体」っというのがエロンゲーションのポイントとなる。
更にストレッチングとの違いを挙げるとすると以下になる。
(静的)ストレッチングは「リラックスしながら筋を伸張させる」のに対して、
エロンゲーションは「筋収縮を伴いながら体全体を伸張させる」という違いがある。
「筋収縮」と「筋伸張」は相反するためピンと来ないかもしれないが、エロンゲーションを用いた運動で一番分かりやすいのは「背伸び」だろう。
ぜひ「背伸び」をしてみてほしい。
自身の筋収縮と筋伸張を感じることが出来ると思う。
「エロンゲーションの意味」の補足
エロンゲーションに関して、以下の記載がなされている文献もある。
~『系統別・治療手技の展開(1版)』より~
「抗重力位での軟部組織の伸張」っという点では、前述した「(立位・座位での)背伸び」の他に、以下なども想定している可能性がある。
上記は「座位での立ち直り反応」を表しているが、体幹右側は「抗重力位で伸張している」っと言える。
この様な「立ち直り反応」は、中枢性疾患において起こりにくくなる場合があり、その様な際のリハビリで「右側へのリーチングで、体幹エロンゲーションが生じるようになっている」などと表現されることがある。
ただし、エロンゲーションの定義を「抗重力位での軟部組織の伸張」とした場合、以下はエロンゲーションに含まれないことになる。
エロンゲーションを用いた運動療法には、低難易度な内容として「背臥位や側臥位での背のび」もある。
これらは「抗重力位での軟部組織伸張」には該当しないので、エロンゲーションの意味は以下が妥当ではないだろうか。
ちなみに『PNF(固有受容性神経筋促通法)』でも、エロンゲーションを引きだすといった表現を使うことがある。(例えば、骨盤の後方下制パターンのエンドレンジ付近で、エロンゲーション反応(腰部の側屈)が起こっているかを確認するなど。
この場合の「エロンゲーション」は(全体ではなく)部分的な反応なので、これもエロンゲーションに含めると以下の表現の方が尚良いのかもしれない。
※ただ、エロンゲーション運動の良さは「全身の伸張」なので、この良さを定義に盛り込みたい気もするのだが。。
エロンゲーション運動による特徴・効果
「エロンゲーションを取り入れた運動」の特徴・効果として以下などが挙げられる。
- 手や足、首などを体の中心から離すように伸ばしていく運動
- 「関節同士を引き離すこと」が自身で可能
- 体の歪みを整えることが可能
- 全身の血流改善
- ハンズオフで可能なため、セルフトレーニングに向いている
- 器具がいらないため、どこでも実践可能(専用のアイテムが売ってはいるが、簡単なトレーニングであれば不要)
- 効率の良く全身の柔軟性・安定性を高めることが出来る
補足:エロンゲーションが起こす脊柱への効果
エロンゲーション運動を実施することにより、自分自身でマッスルインバランスの改善(弱化された筋を強化し、短縮した筋を伸張する)が可能である。
また、左右対称あるいは非対称な動きを取り入れることで、脊柱のローカルマッスルにも働きかけ、筋の強化・伸張により脊柱の歪みを是正するトレーニングとしても有効である。
これらのエクササイズは、頻度が重要なため「いつでも、どこでも可能」というのもメリットだ。
筋膜と関節の可動性がいったん改善されれば、エロンゲーションとストレッチは効果的である。エロンゲーションはストレッチとは異なり、アコーデオンを開くように一次的に力が加わった脊柱に作用し、これを離開するようにする。
~『系統別・治療手技の展開(1版)』より~
その機械的負荷の原因である椎体と椎間板への牽引とhypermobility部位の安定化のためのエクササイズが特に重要である。
日常生活において症状を誘発させないためには正常な動きを取り戻すことが必須であり、そのためにはセラピストによる定期的な介入と自己トレーニングおよび姿勢修正の日常化が重要である。
よってセルフコンディショニングの方法は、できる限り簡単でわかりやすい方法を指導しないと継続困難となりやすい。
今回行ったツーウェイストレッチングの方法は近年開発された「エロンゲーショントレーニング」を基礎とした方法を行った。
全身の伸張によって筋収縮および体幹深部安定化筋群への刺激とストレッチング、関節の離開を同時に期待でき筆者も臨床的にその効果を感じていることから紹介した。
~『ケースで学ぶ徒手理学療法クリニカルリーズニング』より~
誰でも出来るエロンゲーション運動の一例
ここでは、分かりやすい「エロンゲーション運動」を一部紹介していく。
背伸び(立位・臥位)
一番分かりやすいエロンゲーショントレーニングの一例は、何度も紹介してる「背のび」である。
ぜひ、何気なく日常で実施している「背伸び」を、改めて体感してみてほしい。
また、高齢者の中には「立位では背のびが難しい人」も存在する。
ただ、そんな高齢者であっても「背臥位」や「側臥位」での背伸びは可能となる
※もちろん、十分なエロンゲーションは起こせないかもしれないが、その人なりの機能を引き出したトレーニングにはなることが多い。セルフトレーニングとしてもオススメ。
※座位での背伸びは、下肢へ影響が派生されないためオススメできない
対側上下肢を伸ばす
立位・臥位でのエロンゲーションを以下で実施する。
これは、以下の写真がイメージしやすい(参考にしたオススメ書籍の表紙)。
皆、マッスルインバランス、左右の歪みは大なり小なり生じている。
なので立位・臥位でこの運動をしてみてほしい。
交互に実施すると「簡単な側」と「難しい側」があるはずだ。
そういうのも体験しながらエロンゲーションを学べば楽しいと思う。
※「臥位でのエロンゲーション」の方が左右差を認識しやすい。
※「立位でのエロンゲーション」は(地面があるので)下肢は伸ばしにくい。
難易度高め。片足立ちでの対側上下肢エロンゲーション
難易度が高く、高齢者のリハビリで実施することは無いと思うが、片足立ちで「伸び上るように、一側上肢のみ天井方向へ伸ばす」っという方法もある。
※足部は(エロンゲーションではなく)バランス保持に集中しつつ、上肢を利用し「上肢・体幹をエロンゲーションする」というイメージ。
出来るかどうか実践してみてほしい。
※簡易なデュアルタスクトレーニングにもなっている。
※体験する際は、頭頸部・体幹は正中位を保持しよう
※より(軟部組織の伸張に)筋収縮が伴っているのが体験できるかもしれない。
ヨガやピラティスも、基本はエロンゲーション
ヨガやピラティスもエロンゲーションは重要視される。
例えば、立位姿勢を保つ際でも「天井から垂れている一本の糸に、頭頂が上方へ引っ張られるようなイメージを持つ」といったニュアンスの指導がなされる場合があり、
これはまさしく「適度な筋収縮を伴いながら、それによって関節(この場合は主に脊柱)同士が引き離される」というエロンゲーションを意識した指導となる。
これはあくまで一例だが、それ以外にも多くの場面でエロンゲーションを意識した指導がなされる。
以下はセラバンドを用いながらピラティスを実施している場面であるが、体幹インナーマッスルを賦活させつつ可能な限り体幹のエロンゲーションのキープがなされている。
オススメ書籍:5秒の「のび」が一生寝たきりにならない体を作る! 寝たままできるキセキの「のび体操」
エロンゲーション運動のオススメ書籍は以下になる。
筆者の経歴は以下の通り。
理学療法士。
大和大学保健医療学部総合リハビリテーション学科講師。
FMS健康増進研究所所長。
1969年生まれ、愛媛県出身。
病院のリハビリ現場で働いたのち、ドイツ留学でOMPT(徒手理学療法)を学ぶ。
立命館大学スポーツ健康科学研究科にて、高齢者の健康増進と予防医学分野の研究を行う。
従来のリハビリ方法に限界を感じ、高齢者が簡単にできて、全身に効果的な複合トレーニングとして「のび体操」を開発。
現在、介護施設や市民教室で指導を行い、劇的な効果を上げている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
アマゾンレビューの数、評価共に凄く良い。
私もドイツ徒手医学を学んだことや、「高齢者が簡単にできて、全身に効果的な複合トレーニング」というのに興味を持った。
「伸び体操を開発」とも記載されているので、運動の内容この時点で何となく想像は出来たのだが、一体どのように話を膨らませて「のび体操」を書籍レベルにまでもっていったのかな?というのにも興味があった。
でもって、購入して正解だと感じる。
高齢者のリハビリに携わる人すべてにオススメできる書籍である。
凡庸性があり、尚且つ力加減も本人が調整できるため疼痛も起こしにくく、以下のリスク管理についてもきちんと解説されている。
- 高血圧対策
- 腰痛対策
上記は、高齢者にエロンゲーション運動をしてもらう際に、きちんと対策しておくべきことだと感じる。
※もちろん肩関節に拘縮を有している高齢者など、各々の機能障害に考慮して、エロンゲーションを多少アレンジすることも重要。
また、疾患別な伸び体操も掲載している。
一般書籍でリーズナブルなため、興味がある方は是非!
オマケ:自分でできる筋膜リリースガイド
オマケとして「自分でできる筋膜リリースパーフェクトガイド」も掲載しておく。
書籍に掲載されているもの全てではないが、エロンゲーションの特徴である「筋収縮を伴いながら軟部組織を伸張させる(さらに言うなら、全身の軟部組織を伸張させる)」というものが部分的にでも含まれている。
合わせて観覧すると身体への理解が深まり、応用が利くかもしれない。
アマゾンのレビュー数・評価も高いので、これ単体としてもオススメできる書籍である。
国際エロンゲーショントレーニング協会
この書籍に書いてあることは、凡庸性があるためオススメできると記載した。
一方で裏を返せば、体操がパッケージ化されているため(疾患別や、その他の工夫が記載されているとはいえ)、「十分に専門的な内容」とは言えないかもしれない。
しかし、『国際エロンゲーショントレーニング協会』なるものが存在しているので、書籍を読んで「もっと学びたい」と思った方は受講してみても良いかもしれない。
最後に「のび体操」の著者である佐伯 武士氏が出演している「滋賀県守山市の取り組みを紹介した番組」を掲載して終わりにする。
のび体操のイメージが湧く動画なのでぜひ!
動画で使われている「青色のバンド(エロンゲーションバンド)」は国際エロンゲーショントレーニング協会で販売されているらしい(値段は5000円)。