この記事では「ベッドアップ座位における摂食嚥下」のイラストを通して、「嚥下時に頚部が前屈している必要がある理由」について解説していく。
嚥下時に最適なベッドアップ角度は?
食事をする際に最適なベッドアップ角度は約30°と言われている。
30度ベッドアップは実際に測定してみると、かなり起きているので注意してみよう。
以下は、30°と45°のベッドアップとなる(意外と45°くらいのベッドアップにしている人は多いのではないだろうか?)
ちなみにベッドアップ30度というのは、あくまで「嚥下機能が低下している人」の基準であり、その人の嚥下状態に応じて臨機応変に変えても良い。
例えば、円背(ねこ背)の強い方では角度を下げる(20度など)必要があるなど。
また、嚥下がスムーズにできるようになったら徐々に体幹角度をあげていくなど(60度になると普通の食事をする体位に近い感覚となるので、自身でも試してみてほしい)。
頚部を前屈させることの重要性
本題である「嚥下時には頸部を前屈しておく必要がある」という点に話を戻す。
頸部前屈が重要な理由は以下の通り。
- 誤嚥が予防できる
- 嚥下運動が容易になる
頸部前屈により誤嚥が予防できる理由
「頸部前屈位」では、解剖学的に誤嚥が起こりにくくなる。
以下の「左イラスト」のように、頚部が伸展していると、咽頭と気道が直線になり、気道が開いて誤嚥しやすくなる(気道に食塊が入りやすくなる)。
一方で、以下の右イラストのように頚部を前屈すると、咽頭と気道に角度がついて誤嚥しにくくなります(気道に食塊が入りにくくなる)。
頸部前屈位により嚥下運動が容易になる理由
「嚥下のし易さ」という観点でも「頸部屈曲位」なポジションにすべきである。
試しに自身でも空嚥下(何も口に含んでいない状態での嚥下)を、実施してみてほしい。
で、嚥下をする瞬間に「頸部を屈曲するパターン」と「頸部を伸展するパターン」を試してみてほしい。
絶対に「嚥下をする瞬間に頸部を屈曲するパターン」の方が、飲み込みやすいはずである。
頸部前屈位により嚥下運動が容易になる理由は以下の通り。
もちろん、筋がリラックスしすぎている(筋が短縮位になりすぎている)と機能を発揮しずらい(なので、頸部が最大前屈位となっていても嚥下し辛いので試してみよう)。
また、「頸部が前屈しておらず嚥下筋が緊張している状態(筋が伸張位になりすぎていたら状態)」でも嚥下し辛いはずなので、これも試してみてほしい。
飲み込みやすい頸部の角度は、顎を引いて軽くうつむいた状態(顎と首の間に指3本分以上のすき間がある状態)と言われている。ぜひ、指3本を顎と胸骨柄の間に挟んだ状態での飲み込みを自身で試してみてほしい。
円背な人は誤嚥しやすい
この理屈から考えれば、円背な方は誤嚥しやすいということになる(胸腰椎が過度に前湾している分、頸椎を過剰に前湾する必要があるため)。
リクライニングベッドの操作方法
リクライニングベッドの操作方法は以下の通り。
- 「股関節(大転子付近)」と「ベッドの背上げ軸」を合わせる。
- 足上げを先に行いずり落ちを防止する。
- 背上げ・足上げを交互に行いながら高さを調節する。
- もしも(膝屈曲拘縮やハムストリングスの単修などで)大腿がベッドから浮いてくるようであれば、安楽となるよう膝下にタオルなどの詰め物をする。
リクライニングに「足上げ」が必要な理由
ベッドやリクライニング車椅子において、なぜ「足上げ」も必要なのだろう?
その理由は以下の通り。
- 足上げにより下肢屈曲位となりリラックスしやすい
- 摩擦が生じにくい(褥瘡が生じにくい)
適切なポジションかつ、足上げを施行していないベッドアップでは、身体がベッドの尾側にずり落ちてしまう光景はイメージしやすいと思う(ずり落ちた光景を、職場で一度は見かけたことがあると思う)。
リクライニング位は「全員に推奨すべき肢位」ではない
リクライニング位が適応になるのは、以下などの限られたケースとなる。
- 食物の取り込みに障害がある人(口から食物がぼろぼろとこぼれて食べれない)
- 食塊の送り込みに障害がある人(誤嚥や肺炎リスクが高い人)
- 座位での頭頚部コントロールが難しい人
上記の人に対して、(椅子座位ではなく)30度仰臥位をとれば重力が利用できて、取り込み、送り込みに有利となる。
嚥下に問題のない人では食べ慣れた姿勢が一番良い。
※安易にベッド上(リクライニング位)で食事をすることの弊害は言うまでも無いので割愛する。
嚥下障害のない方がむりやり毎日ベッドで食べさせられたら、おいしくないし食欲もなくなってしまう可能性もある。
出来ることなら、家族と一緒に食卓で、またみんなと一緒に食堂で楽しく食事をしたいものだ。
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