高齢者に対する運動療法の目的の一つに、「動き(基本的動作など)を改善させるために必要な筋力を身につける」というものがある。
ただし、高齢者の筋力向上を考えるにあたって、「筋力向上=筋肥大」では無いという点には注意が必要となる。
そして例えば、立ち上がり能力を「筋力」という点だけにフォーカスして改善を図ろうとした場合、「筋肥大を狙った負荷を高齢者に与えなくとも筋力が向上する」ということはあり得る。
今回は、そんな高齢者の筋力向上について記載してく。
筋出力と筋力
高齢者の筋力トレーニングを考えるにあたって、まずは「筋力」と「筋出力」について整理することがポイントとなる。
ここでは、ヤフー知恵袋に「筋出力と筋力」について分かり易い解説がされていたので引用する。
筋出力は、運動単位の活動電位発生頻度の変調や、活動に参加する運動単位数、運動単位同士をどのようなタイミングで活動させるかという同期性などによって調節される筋収縮の程度。
筋力とは、筋断面積の大きさと筋出力の2つの要素によって成り立つと考えられる筋収縮の程度。
~ヤフー知恵袋:筋力と筋出力の違いより~
つまり、「筋力向上=筋出力向上+筋肥大」という事になる。
そして、筋肥大を目的としたエクササイズにおける負荷量は、高齢者にはモチベーションやリスクを考えて慎重に行わなければならい場合もあったりする。
ただし、重複するように「筋力の改善」は「筋肥大だけ」で成り立つわけではない点は着目すべき点ではないだろうか?
筋肉の成長プロセス
通所サービス(デイケア・デイサービス)におけるパワーリハビリは筋力向上を目的としている場合があるが、その際に筋肉はどの様に成長するのだろうか?
高齢者に限らず、私たちの筋肉の成長プロセスとして重要なのは「神経系の適応」である。
神経と筋肉は繋がっているため、筋肉は脳からの指令を受けて動作が開始される。
つまり脳の指令によって神経系の動員が始まり、それに伴う筋線維の動員率が上昇して、様々な動作が可能となる。
つまり筋力向上トレーニングを継続している人ほど、多くの筋肉を運動へ利用することができ、徐々に力強さがアップしてくる。
※つまり、神経系が適応してくる(適切に運動単位が動員されるようになる)。
これは、いわば「筋肉を目覚めさせる期間(神経適応期間)」と言える。
そして筋力向上トレーニングを更に継続していくと、神経適応期間を通り越し、徐々に筋断面積が大きくなってくる「筋肥大期間」に入ってくる。
高齢者の筋力トレーニングは効果ある?
前述したプロセスによって、私たちの筋力向上は成されることとなる。
そして、このプロセスは高齢者にも当てはまり、高齢者に適切な運動療法によって「筋力向上」を目指す場合は、何も筋肥大だけにフォーカスしているわけではない。
つまりは「神経系の適応」にもフォーカスしているのだ。
生活不活発病に陥ると筋力は低下するが、それは「筋萎縮」のみならず「筋出力の問題(神経系の機能不全)」も起きている。
そして、適切な運動により「筋出力の向上」が成されれば、様々な動作が力強く遂行できるようになっていく。
例えば、立ち上がり動作が円滑になって、尚且つMMTでも筋力向上が確認できたクライアントがいたとする。
ただし、そのクライアントの「大腿四頭筋の周径」を測定したとしても、(筋出力改善の優位性が高い筋力向上であった場合)筋肥大は認められないかもしれない。
しかし、適切な運動療法によって確実に高齢者の筋力は向上していく。
※もちろん、動作能力の改善は「筋力」だけでは語れないが、この記事のテーマに沿って「筋力」をフォーカスしている
※あるいは、筋力向上における「筋出力」の重要性にフォーカスを当てているが、高齢者も筋肥大は起こり、筋肥大の要素も重要である。
※また、筋力向上を考えた場合、適切な運動のみならず、栄養の重要性も見落としてはならない要素である。
⇒『大切なのは運動療法だけじゃない!栄養の重要性を理解しよう!』
まとめ
理学・作業療法士の学生時代は「筋肥大を起こすための原則」を学ぶこととなる。
しかし、「筋肥大を起こすための原則」は高齢者に直接当てはめるにはリクスが高い場合も多い。
そうなってくると、新人の頃には「高齢者の骨格筋に、この程度な軽い負荷を加えても筋肥大は起きないのではあいか?つまりは、筋力は向上しないのではないか?」と思ってしまう場合があったりする。
ただし、「筋力」は「筋肥大のみではなく筋出力も加味された要素」である。
つまり「軽い負荷であっても、適切な運動療法であれば必ず筋力は向上する」という事になる。
神経の順応(neuraladaptation):
最初の2~3週間の筋力増加の原因の大部分は神経経筋の順応である。
負荷された抵抗に打ち勝つために必要な力を出力するために、神経はより高頻度の刺激を出し、より大きな運動単位を動員する必要がある。
よって、初期の訓練による筋力増強はより効率的な運動単位の動員が可能になっていくプロセスである。
筋肥大(musclehypertrophy):
筋肥大では筋全体の体積と横断面積が増加する。
筋肥大は遅筋よりも速筋によくみられ、通常6~7週間の抵抗運動の後になってみられる。逆に廃用による筋委縮は最初に速筋に起きる。
筋肥大は個々の筋線維が肥大することがほとんどで、筋線維の数が増加することは稀にしかない。
~『現代リハビリテーション医学 改訂第4版』より引用~
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