この記事では、医療・介護従事者が知っておくべき『肝炎(B型肝炎・C型肝炎)』について、感染予防の観点も含めて基礎知識を解説していく。
肝炎とは
『肝炎』とは、以下を指す。
肝炎を発症すると肝臓の細胞が壊れて、肝臓のはたらきが悪くなる。
特に日本人の場合、肝臓病の原因の大半は肝炎ウイルスと言われている。
タイプとしてはA型~G型、TTV型があるが、中でも問題となるのはB型とC型である。
肝臓は「沈黙の臓器」といわれ、B型・C型のどちらに感染しても自覚症状がないままに治ることもあるが、慢性化したり、重症化して肝硬変や肝臓がんを発病する危険性もある。
※なので、早期発見・早期治療が必要。
感染経路は以下の通り。
- A型・E型などは経口感染
- B型・C型は血液
B型肝炎・C型肝炎ともに、皮膚のちょっとした傷口からでもウイルスは侵入するため、とても危険である。
ともかく、感染者の血液や分泌物に直接ふれないことが一番安全となる。
※分泌物、唾液、汗、精液などにもウイルスは存在するが(血液に比べると)ごくわずかなので感染力はない。ただし、分泌物や排泄物にも血液が混じっている恐れがあるので、予防的に血液と同じように扱うということ。
たとえ手などに血液や分泌物が付着しても、皮膚が健康な状態ならば感染の心配はない。しかし、ひび割れや傷などがあれば、そこからウイルスが侵入するので注意が必要となる。
肝炎ウィルス保有者やその可能性が高い人の介護をする場合は、ゴム手袋着用のうえで行うのが良い。
ここまで解説してきたように、B型肝炎・C型肝炎はひっくるめて理解したほうが良い点が多々あるが異なる点も色々あるので、念のため以降はB型・C型肝炎について分けて解説していく。
B型肝炎について
~原因~
B型肝炎の原因は「B型ウィルス」である。
~経路~
B型肝炎の感染経路は「血液媒介」だけだと思われがちだが、成人以降では性行為によるものも多い。
- 急性肝炎⇒性行為・針刺し事故・出血からの感染
- 慢性肝炎⇒母子感染
※成人になってからの一過性の感染の場合は、キャリアになることはなく、急性肝炎(一時的な急性肝機能障害)のみで終わって、慢性化することは少ない(つまり自然治癒する。しかし稀に慢性化する場合があり、その際には治療によってウィルスを抑え込み、肝硬変や肝がんの発生を防ぐことが大切になる)。
※幼期の感染はHBVキャリアの母親からの母子感染が考えられるが分娩時には子供に予防措置を行うことが義務付けられており、キャリアは減少しつつある。
~潜伏期間~
1~6か月(平均3か月)
~症状~
B型肝炎の症状は以下の通り。
- 急性肝炎⇒黄疸・食欲不振・全身倦怠感・悪心・嘔吐(急性肝炎の20%~30%)
- 慢性肝炎⇒自覚症状少ない・約10%が肝硬変・肝細胞癌へ移行
~治療~
治療としては以下などが挙げられる。
- 安静
- 薬物療法(抗ウィルス増殖抑制剤 など)
※前述したように成人になってからの一過性の感染ではキャリアになることは無い(定期的に検査を受けて様子を見るだけで良い)。
※前述したようにB型はワクチンが存在するので予防が可能である(C型肝炎に対するワクチンは存在しない)。
~ADLにおけるケア上の注意点~
ADLにおけるケア上のポイントとしては以下などが挙げられる。
- 食器は食後加熱消毒、区別する必要なし
- 入浴は普通通り
- 出血分泌物などあれば清拭
- 浴槽、洗面器は使用後流水で十分に洗浄 (ミルトン、ピューラックス、ステリハイドで消毒すればなお良い)
- 便、尿の処理は普通処理
- 衣類、シーツ等、血液、分泌物などの汚染(+)→流水で洗い流した後、ミルトン・ピューラックス、ステリハイドで消毒、その後洗浄
- 衣類、シーツ等、血液、分泌物などの汚染(-)→通常処理
-
カミソリ、歯ブラシは個人専用とする
B型肝炎に関する検査の解釈
- HBs抗原(B型ウィルスがいるかどうか)
(-)→正常
(+)→HBe抗原(+):感染力強く注意要す
- HBs抗体(B型ウィルスに感染したことがあるかどうか)
(-)→正常
(+)→HBe抗体(+):感染力弱くあまり心配なし
- HBs抗体(+)
→B型肝炎にかかったがもう治っている、抵抗力が出てきているので感染する心配なし
~ウィルスに感染した場合~
- HBs抗原(-)の人は48時間以内にHBIG(抗HB免疫グロブリン)を筋注
- 感染者の血液・分泌物・排泄物には直接触れない→ゴム手袋の使用(アルコール消毒は効果不十分)
C型肝炎について
~原因~
C型肝炎の原因は「C型肝炎ウィルス」である。
~経路~
C型肝炎の感染経路は『血液媒介』であり例えば以下などが挙げられる。
~潜伏期間~
潜伏期間は(B型肝炎と異なり)不明である。
~症状~
C型肝炎の症状は以下の通り。
- A型・B型に比べると症状が軽く気がつかないことが多い
- (無症状な事も多いが)全身倦怠感、食欲不振、悪心、嘔吐、黄疸が起こる場合もある
- 感染すると慢性化する率が高い
- C型肝炎ウィルスのキャリアが適切な治療を受けずに70歳まですごした場合、約10~15%が肝硬変、約20~25%が肝癌に進行
一旦慢性化すると自然経過で治癒することはなく、初感染から平均20年で肝硬変、30年で肝細胞がんに進展するとされている。
慢性化する機序としては、膜蛋白の抗原性を示す遺伝子の変異が激しいためと考えられている。
~『標準理学療法・作業療法学 内科学』より引用~
~治療~
- 規則正しい生活
- 飲酒を控える
- インターフェロンの投与
- 飲み薬による治療
・・・など。
※C型肝炎に対する治療は「インターフェロン療法」が主であるが、その効き目は、ウィルス量、肝障害の程度、感染期間といった要素に左右される()。
※でもって、上記インターフェロン療法を補う形でリバビリンなどの「飲み薬による治療」も注目を集めている。
飲み薬は注射が必要なく、インターフェロン療法の効き目が悪い人にも効果が表れるなどのメリットがある(一方で、薬が効かない耐性ウィルスの問題や、併用を禁じられている薬が多いなどの問題もあり万能でもない)。
インターフェロンとは?
インターフェロン(intereron:IFN)とは「ウィルスが細胞に感染したときに、細胞から産生される物質」であり、ウイルスに未感染の細胞に対して抗ウイルス状態にする。
IFNにはα・β・γの3穐類あるが、IFNには抗ウイルス作用のみならず、抗体産生抑制作用、マクロファージ活性化作用、NK細胞活性化作用、抗腫瘍作用があり臨床的にはC型肝炎の治療に使われている。
~『標準理学療法学・作業療法学 内科学』より引用~
もう少し噛み砕いて解説すると、インターフェロンとは、もともと体内で作られるたんぱく質である。
でもって、ウィルスが体に侵入すると、リンパ球などの免疫関連の細胞から分泌される。
ウィルスに直接作用するだけでなく、ウィルスの増殖を抑える免疫の働きを助ける役割も果たしている。
慢性肝炎では自然のインターフェロンが出ているが、体外から注射でさらに補うのが『インターフェロン療法』となる。
ちなみに、前述した「インターフェロンを用いない飲み薬による治療」で用いられる薬剤(の組み合わせ)としては以下などが挙げられる。
~ADLにおけるケア上の注意点~
ADLにおけるケア上のポイントとしては以下などが挙げられる(B型肝炎と同じ)。
- 食器は食後加熱消毒・区別する必要なし
- 入浴は普通通り
- 出血・分泌物などあれば清拭
- 浴槽、洗面器は使用後流水で十分に洗浄(ミルトン・ピューラックス・ステリハイドで消毒すればなお良い)
- 便、尿の処理は通常処理
- 衣類、シーツ等、血液、分泌物などの感染(+)→流水で洗い流した後、ミルトン、ピューラックス、ステリハイドで消毒、その後洗濯
- 衣類、シーツ等、血液、分泌物などの感染(-)→通常処理
- カミソリ、歯ブラシは個人専用とする
C型肝炎に関する備考
<検査について>
- HCV抗体(-)→正常
- HCV抗体(+)→C型ウィルスを持っている
<介護施設などの集団生活の場での感染>
常識的習慣を守っている限りHCVの感染を起こすことはごくまれ。
くしゃみ、せき、抱擁、食べ物、飲み物、食器やコップの共用、日常の接触では感染しない。
<針さし事故>
HCV陽性血液に汚染された針刺し事故の後1.8%のものがC型肝炎ウィルスに感染している。
<HCV陽性の人の血液に触れた場合の対応>
- その血液にウィルスが入っているかどうか調べる
- C型肝炎ウィルス抗体検査、ALT検査(接触直後)
- C型肝炎RNA定性検査(1W後、2W後)
- 感染した場合は、インターフェロン等投与(専門医に相談する)
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