この記事では、医療・介護従事者が知っておくべき『MRSA』について、感染予防の観点も含めて基礎知識を解説していく。

 

目次

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MRSAとは

 

MRSAとは、methicililin resistant staphylococcus auresu(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の略である。

 

MRSAは突然変異により、β-ラクタム剤が結合しにくい新しい細菌細胞壁合成酵素を持っているため、メチシリンをはじめとするベニシリン系、セフェム系、マクロライド系などの抗生物質が、その抗菌作用を発揮できないという耐性を示す。

 

黄色ブドウ球菌は、健康な人の3~5%に、鼻や口の中、皮膚、腸などにもしばしば棲みついている。

中でも、鼻や口など温度、湿潤性が保たれている部位では定着・増殖しやすいので、それらの部位からの分泌物、体液、膿などから検出されやすくなる。

通常は人体に害をおよぼすことはありませんが、抵抗力の弱った人は感染しやすくなるので注意が必要となる。

 

 

ちなみにMRSAの菌量については以下のように表現される。

  • [1+]→1ml相当のコロニー数 1万以上
  • [2+]→1ml相当のコロニー数 1万~100万
  • [3+]→1ml相当のコロニー数 100万以上

 

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MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の性質

 

以下がMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の性質と言われている。

 

  • 黄色ブドウ球菌は皮膚や粘膜に常在細菌として生息している

    皮膚や粘膜に何らかの損傷があると感染が成立する。感染の成立と菌量に相関性は低い。

 

  • 乾燥に強い大腸菌は1~7時間の乾燥で死滅するのに対して、黄色ブドウ球菌は乾燥状態で1カ月も生存しうる。また、ゴミやほこりによって空中を飛び回る。ヒトの手が触れる場所で生息する。

 

  • いったん本菌による感染が成立すると、トキシンを産生すること等により、難治化、重篤化する。

 

  • 主な伝播経路は接触感染である

    消毒剤に対する抵抗性が強い。なので手指消毒の際、消毒剤の接触作用時間を長くする必要がある。

 

 

MRSAの『感染発症者』と『保菌者』

 

MRSAは『感染発症者』と『保菌者』に区別される。

 

でもって、それぞれの違いは以下の通り。

 

  • MRSAの感染症発症者:

    文字通り「感染発症した者」を指し、抗菌薬などによる適切な治療が必要とされる。

 

  • MRSAの保菌者:

    細菌が身体に付着し、増殖してはいるが、炎症症状など組織へのダメージがない状態の者をいう。

 

健康な医療従事者など免疫機構が正常な場合には感染することはないが、「何らかの原因で免疫機構が破綻した場合(例えば日和見感染)」で感染する。

 

※日和見感染に関しては以下で深堀しているので、合わせて観覧してみてほしい。

⇒『日和見感染って何だ?

 

 

リハビリ(理学療法・作業療法)の対象となる患者・利用者は(感染発症者ではなく)保菌者が多く、感染症状に対する実質的な治療を必要としない。

 

しかし、「保菌状態(無症状・組織にダメージが無い状態)」であったとしても、細菌は増殖している。

 

なので、リハビリ時に保菌者の細菌を他者(特に免疫力が低下してMRSAに感染しやすい人)に伝播(接触感染)させないよう、十分な感染対策(標準予防策と接触感染予防策)を実施する必要がある。

 

感染対策は以下の記事も参照してみてほしい。

⇒『医療介護従事者が知っておくべき感染症の基礎知識まとめ

 

 

MRSAの症状

 

MRSAは、正常な抵抗力を持っている人にとってはほとんど無害である(前述した「保菌者」に該当)。

 

一方で、抵抗力が低下した人は発熱、呼吸困難、食欲不振などの症状が現れる。

 

また、MRSAの所見に関しては、「発症」と「定着」に分けた一覧を以下に記載しておく。

 

所見 発症 定着
発熱 平熱
白血球 増多 正常
膿性痰 膿性痰なし
胸部X線 浸潤影あり 浸潤影なし
褥瘡 発赤・悪臭・排膿 漿液性滲出液
病態変化 あり なし
検査材料染色所見 白血球あり 白血球なし

 

ちなみにMRSAの潜伏期間は不定と言われている(一般的には6~3日程度との説も)。

 

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MRSAに対するケア上の注意点

 

MRSAに関するケア上の注意点は以下の通り。

 

患者に直接接する場合には、手洗い、手袋、プラスチックエプロン、マスクの着用など感染予防対策を確実に実施する。

 

MRSA陽性患者のうち、単にMRSAが定着している患者は、排菌量も少なく、問題は少ない。

 

しかし、皮膚落屑物の多い患者や、気管切開患者、咳の激しい患者、MRSA腸炎の患者等は排菌量が多くなることから、診療・看護等を通じて医療従事者が汚染を受け、一過性のMRSA定着を起こしやすい。

そのため、MRSA陽性患者を診察・看護する医療従事者(ケアスタッフ)の衛生管理は重要となる。。

医療従事者は、袖口の汚染を防止するため、及び手洗いは手首まで洗う必要があるため、半袖の制服を着用する。

 

 

重複するが、MRSAの交差感染は主に接触感染であり、医療従事者の手指を介して伝播される。

 

しかし同時に、MRSAはほこりと一緒に空中を飛び回るので、髪の毛や鼻前庭に付着したり、直接の接触により衣服や手指にも付着しやすい点も忘れてはならない。

そのため、手袋とプラスチックエプロン、マスクの着用が大切となる。

 

 

各種ADLにおける注意点

 

  • 入浴について:

    入浴の順番はMRSA非感染者→感染源がお湯の中を広がらない方→尿路感染、腸内感染の方→感染源が外部(じょくそうなど)の方、感染量の少ない人から。入浴後はシャワーで十分洗浄。

 

  • 食器は通常通り:

    多量の菌を含む膿性体液が付着する場合は別に扱い、次亜塩酸ナトリウム希釈液に30分洗浄する

 

  • 衣類について:

    発病に至らない保菌状態の場合は通常通り、多量の菌が付着した場合は別途に洗濯する。熱には比較的強いので80℃で15分以上必要、台所漂白剤に漬け置き洗いする。(色落ち等に注意)ステリハイドに浸して洗濯。

 

  • 布団・マットレス:

    アルコールスプレーの噴霧+日光消毒

 

 

 MRSAと清掃について

 

MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)は乾燥に強く、空気中のほこりと一緒に移動し、長期間生存する。

 

また、MRSAが主に接触感染であることを踏まえ、ほこりを介して感染が拡大することがないように、ほこりが舞い上がらないように、ていねいに、静かにほこりや汚れを、湿らしたモップやタオル等で清拭し、乾燥させることが大切となる。

 

日々きれいに汚れやほこりを取り除いていれば、床、壁天井から感染することは考えられないので、消毒の必要はない。

 

ただし、皮膚落屑物や血液等が付着している場合は取り除き、次亜塩素酸ナトリウム液0.5%(5,000ppm)で消毒し、その後湿式清掃して完全に乾燥させる。

 

清掃は専用の清掃用具でベッドメイキングの後に行い、床の汚れや、ほこりのたまるベッドの下やカーテンレール等のほこりを静かに湿式清掃し、乾燥させる。

この場合、専用のモップやタオル等が水洗いされた後、十分に乾燥してない状態のものを使用することは好ましくない。

きれいに洗濯され、乾燥させたモップ等を用いて、洗剤等を入れたバケツで湿らせて清拭するオフロケーション法が最適である。

 

ドアノブは洗剤に浸し、固く絞った使い捨て用布やきれいに洗った布等で清拭し、乾燥させれば十分である。

 

ほこりのたまりやすい照明器具や空調の吹出口や吸込口及びフィルターは、6カ月に1回程度ほこりと汚れを定期的に清掃する。

 

カーテンはリネン交換と一緒に週1回交換すれば理想的であるが、汚染時は速やかに感染性のプラスチック袋に入れて出し、通常は退院時に洗濯交換する。

 

清掃者はプラスチックエプロンと手袋を着用、退出時に液体石けんと流水で手洗いをする。

 

 

MRSA陽性患者の感染源隔離の方法

 

MRSAの伝播経路は接触感染であり、MRSA陽性患者から医療従事者や他の患者へ交差感染することが、院内感染として問題となる。

 

なので、MRSAの院内感染を防ぐために(接触隔離予防策として)感染源隔離を行う。

ただし、MRSA感染予防対策の基本は標準予防策の完全実施であり、感染源隔離は必ずしも必要ではない(「MRSA=必ず隔離」ではない)。

 

MRSA陽性患者に対して感染源隔離を施行するか否かは一律に取り扱うのではなく、以下の事項を検討して決定する。

 

  • MRSA陽性患者の面からの検討:

    発症患者及び発症していない場合でも、慢性呼吸器疾患患者や広範囲な皮層疾患のある患者、気管切開のある患者、便失禁のある患者等、発症者と同様に排菌量が多く、周囲をMRSAで汚染する可能性のある患者は感染源隔離をする。

 

  • MRSA陽性患者の周囲の環境面からの検討:

    MRSA陽性患者はMRSAの感染リスクによって対応することが必要となる。つまり周囲の患者が『易感染性患者』の場合、MRSA感染リスクが高リスク、中間リスクの場合は感染源隔離が必要となる。また、経済面・患者の人権等も考慮して統合的に感染源隔離を検討する。

    ちなみに『易感染性患者』とは、高齢者・寝たきりの患者・熱傷患者・褥瘡患者・重症の糖尿病患者・慢性気道疾患患者・気管切開・IVH挿入中の患者・抗菌薬の長期使用患者・未熟児等を指す。

 

MRSA陽性患者の感染源隔離は必ずしも個室に収容することではなく、同じ病棟で複数の患者が出現した場合は、1カ所に集めて感染源隔離をする。

 

MRSA陽性患者に対して感染源隔離をするかどうかは、医師や病棟責任者などが様々な要素(医療機関の医療内容・患者の状態など)踏まえて、医療機関の事情に配慮して医療機関ごとに決めることになる。

 

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MRSAだと診断された人への説明について

 

最初にMRSAは健康な人や正常の抵抗力を持っている人には、ほとんど無害であることを理解してもらうことは非常に重要である(不必要に不安を掻き立てないようにする)。

 

保菌状態の人には菌が定着しているだけで、感染症を発症しているわけではないことをよく説明する。

 

MRSA感染症を発症したとしても、治療薬があることを説明して安心してもらう。

ただし、健康な人には発症しない菌で感染症を発症すること自体、患者の抵抗力が弱っていることを意味することは、家族には十分理解してもらうよう心がける。

 

また、病院は特殊な場所で、抵抗力の弱い患者がたくさんいるので、協力してもらう必要があることも説明する。

 

保菌者が易感染者かそうでないかによって対応が違うことを理解してもらう(易感染者とはどんな人達かは前述したとおり)。

 

MRSA感染症の患者には,隔離の意味についても説明しておくことが望ましい。

 

一定の場所に他の患者から隔離することは以下の2つの意味合いがあることを伝える。

  • 感染力を有する患者から他人への感染を防する目的で行う(感染源隔離)
  • 感染に対する易感染性患者を感染から守る目的で行う(防御隔離あるいは逆隔離)

 

 

これらの感染源隔離と逆隔離の組合せを患者の状態や病棟の運営状況をみて臨機応変に行うことが、MRSA感染症患者自身の治療に有用であることをよく説明し、患者の精神的ストレスが少しでも軽くなるよう配慮する。

 

 

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以下の記事では、感染に関する基礎知識や、感染に注意すべき疾患をまとめているので合わせて観覧してみてほしい。

 

⇒『危険!これだけは知っておくべき「感染症予防の基礎知識」まとめ