この記事では、医療・介護従事者が知っておくべき『水虫』について、感染予防の観点も含めてザックリとを解説していく。
水虫とは
水虫の感染原因は『白癬菌(はくせんきん)』であり、感染経路は『接触感染』である。
水虫の潜伏期間は不定である(が白癬菌が皮膚に付着しても角質層に進入するまでに最低でも24時間、通常では2~3日かかると一般的には言われている)。
水虫の症状
水虫の症状としては以下などが下られる。
- 足の指と指の皮がむける(皮膚がカサカサになる)
- 水疱形成
- 痒み
・・・・など。
かかとのカサカサが本当に水虫なのか、加齢によるものなのかは、判別しにくかったりする。ただ、水庖も現れた場合には、水虫を疑う必要がある。
水虫が発症しやすい時期
水虫菌は、平均気温が18℃以上、湿度が80%以上になると活発に増殖を始めると言われている。
ジメジメした日が続いて外気温が高くなるゴールデンウイーク明けから秋にかけて、靴の中では水虫菌の繁殖に適した環境が整う。
で、水虫菌がふえると、菌の出す酵素や毒素に人の皮膚が反応して炎症が起こり、痒みに襲われる。
水虫の罹患状況
疫学調査(病気や健康状態について広い地域や多数の集団を対象としその原因や発生状態を統計学的に明らかにする調査)の結果は以下の通り。
- 日本人の4人に1人が水虫
- 60歳以上にいたっては、実に2人に1人が水虫
※つまり、私たちが良く接触する高齢者には水虫が非常に多いということになる。
水虫治療に使われる薬剤
水虫の治療には以下などが用いられる。
- イミダゾール系抗真菌剤
- サリチル酸製剤
水虫のケア・予防のポイント
水虫に対するケア・予防のポイントは以下の通り。
- 爪切りは消毒する
- 足ふきマット、スリッパを共用で使わない
- 外用剤で治療していれば、他者への感染の可能性は低い
- 感染者に触れたら24時間以内に石けん・流水で洗うこと
ここから先は、水虫について深堀解説していく。
水虫は白癬菌が感染したもの
水虫の原因菌は、専門的には「白癬菌」と呼ばれる。
白癬菌は真菌、つまりカビの一種である。
つまり、「水虫のできている皮膚には、カビが巣くっている」と表現できる。
カビが病気を引きを超すメカニズム
カゼやインフルエンザなど、『ウイルス性の病気』であれば、電車でセキをしている人の隣に座っただけで病気をうつされることがあったりする。
一方でカビは、「ちょっと触れた」からといって、その場ですぐに感染するものではない。
ここが細菌やウィルスとの違いとなる。
つまり、以下などでその日の内に水虫が発生するというわけではない。
- 水虫の人と同じスリッパをはいた
- 温泉で、水虫の人が素足で歩いた場所を、自分も歩いた。
※最低でも24時間は感染しないと言われている(皮膚に傷などがある場合はこの限りではないが)
でもって、(意外に思うかもしれないが)白癬菌の潜伏期間は、通常、5〜10年間もあると言われている。
潜伏期間中は(皮層の内部ではよくなったり悪くなったりという変化はあるかもしれないが)、症状として表面化しない。
しかし、高温多湿という白癬菌にとって好ましい環境が整ったとき、菌が増殖を始め、水疱ができるなどの症状が表に出てくる。
これは「感染しただけでは発病せず、免疫が低下したときに症状が浮き彫りになる(発症する)」といった『結核』などをイメージしてもらうとピンときやすいかもしれない。
重複するが、「きっと、昨日あそこでうつったのだろう」あるいは「あの人にうつされたんだ」などと原因を白癬菌に感染した原因を特定するのは困難である。
ただ、水虫に最も感染しやすい場所は「家庭」だと言われているので、家族に水虫がいる場合は(原因を特定することは困難だが)家庭で感染した可能性が高い。
白癬菌の種類
「水虫菌は専門用語で白癬菌(はくせんきん)と呼ばれる」と前述したが、白癬菌は以下のように分類できる。
- 人から人へ伝染するヒト好性菌
- 土の中で生活している土壌好性菌
- ネコやイヌなどの動物の毛に棲みついている動物好性菌
で、患者数のいちばん多いのが『ヒト好性菌』で、水虫の患者さんの90%以上がこの菌に感染しているといわれている。
水虫の原因に多い「ヒト好性菌」とは
ヒト好性菌は、人との親和性がとても強い菌で、角質層に棲みつく。
そのため、角質層がアカとなって体外に落ちると、一緒にくっついて体外に押し出される。ただし、いったん体外に出たからといってすぐに死ぬことはなく、アカがひからびるまでは、半年でも一年でも生き続る。そして、そのアカを踏んだ人の足に再び寄生していく。
なので先ほど「水虫に最も感染しやすい場所は家庭である」と記載したが、白癬菌に感染した自宅では至る所で白癬菌が見つかる。
で、至る所で見つかっても「干からびていれば(死んでいれば)問題はない」のだが、以下の場所は白癬菌が生き続けるのに適した「高温多湿になりやすい場所」なため感染しやすい場所ともいえる。
- バスマット
- スリッパ
- 畳
- じゅうたん
- 寝具
・・・・など。
重複するが、家庭は水虫に最も感染しやすい場所である。
ただし、白癬菌が人の皮膚に入り込むまでに、最低でも24時間(一般的には2〜3日)はかかる。
なので、(仮に白癬菌が自身に付着したとしても)毎日風呂に入り、足を念入りに洗えば、水虫は何ら問題はない(簡単に予防が可能である)。
私たち医療従事者が触れることの多い高齢者は、水虫であることも多いと前述したが、ここに記載したとおり、十分な手洗いや自宅での洗体を心がければ、感染することは滅多に無いと言える。
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白癬菌感染は患部によって病名が変わる
白癬菌は、ケラチンがあり、高温多湿の環境が整えば、どこにでも寄生する。
つまり、水虫は体のいたるところにできる可能性がある。ただし、同じ白癬菌に感染したといっても、体の部位によって症状は違い、治療法も変わる。そのため、専門的には病名を変えて区別されている。
そこで、白癬菌が棲みつきやすい体の部位と、正式な病名は以下の通り。
- 足白癬:
患者数の最も多い。足白癬は、土踏まずや足の側面に水泡ができる「小水庖型」、足の指と指の間にできる「趾間びらん型」、足の裏全体、もしくはかかとにできる「角質増殖型」と、大きく三つに分けられる。水虫が慢性化すると、菌が爪にも入り込み、「爪白癬」になる。足にできた水虫が手にうつったとき、これを「手白癬」と呼ぶ。手足や爪は角質層が厚いため、体のほかの部位にできた水虫より治療に時間がかかる。
- 頭部白癬:
白癬菌が頭部に感染したもの。頭部白癬になると、感染した毛穴が赤く腫れ上がり、周囲の髪の毛が抜け落ちる。
- 生毛部白癬:
産毛が生える部位に生じる水虫は「生毛部白癬」。これには、股にできる「股部白癬」と、股以外の部位に環状の湿疹ができる「体部白癬(タムシ)」に分類される。
爪水虫
爪が水虫になることを、専門的には「爪白癬」と呼ぶ。
手の爪は、細かい物をつかむときなどに指先を補助し、指先の微妙な触覚を助ける働きがある。
また、足の爪は、立ったり歩いたりするときに、足の指の先端を上から押さえて、微妙な力の配分をしている。
ところが爪白癬になると、かゆみやジクジクなどの症状はないものの、爪が厚く変形し、色がにごって、ポロボロとくずれてくる。こうなると、爪の重要な働きが奪われる。
※医療・介護従事者であれば、現在関わっている高齢者の足指を注意深く見てみて欲しい。上記が当てはまる人は何人か見かけないだろうか?
また、足の爪白癬では、変形した爪が皮膚にくい込み、靴に当たってズキズキ痛むことが多くなる。
爪白癬は不治の病ではなくなった
爪白癬は、かって「不治の病」といわれていた。
しかし、いまは白癬菌を殺す作用が強く、しかも副作用の少ないというすぐれた内服薬が開発されている。
爪白癬はもはや「不治の病」ではなくなったのだ。
なので、適切な治療を早い段階で行えば、爪白癬もほかの水虫と同じようにきれいに治すことができる。
そのためには、「必ず治そう」という患者さんの覚悟と根気も必要だ。
というのも、爪白癬の治療には、とても長い期間がかかる。
手の爪は1ヵ月に約3ミリ、足の爪は約1ミリしか伸びない。
したがって、新しい爪に入れ替わるまで、手の爪は6ヵ月、足の爪は12〜18ヵ月かかる。
そのため、爪白癬を治すには、最低でも手の爪で半年、足の爪で1年以上の期間がかかると言われている。
持病のある人は爪水虫になりやすい
水虫を重症化しやすい人がいる。
それは以下の人達だ。
また、末梢循環不全の患者は40%以上が爪白癬にかかっているとのデータもある。
※末梢循環不全は血液のめぐりが悪くなる病気で、代表的なものに関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの膠原病があげられる。膠原病は自己免疫疾患。免疫は、細菌やウィルスなど体内に入り込んだ異物を攻撃して体を守る重要な仕組みだ。ところが、この仕組みに誤作動が起こり、自分の体を攻撃してしまうことがある。これが自己免疫疾患であり、こうした免疫の異常も、白癬菌に対する抵抗力を弱めてしまう。
さらに、糖尿病は35%以上、エイズ(後天性免疫不全症候群)はおよそ25%、腎移植は15%以上、乾癬は10%以上の患者が水虫でしたであるとのデータもある。
高齢、末梢循環不全、糖尿病、エイズ、腎移植、乾癬は、いずれも皮膚の免疫機能を低下させる要因になる。免疫力が落ちれば、感染症にかかりやすくなりる。当然、水虫にもなりやすいので注意しなければならない。ただし、末梢循環不全の人にしても、糖尿病の人にしても、もとの病気に注意が向きすぎて、で水虫にまで気のまわらないことも多い。
水虫治療で重要なのは「素人判断をしないこと」
水虫の治療で第一に重要なのは以下になる。
素人判断をしない
足に丘疹(炎症性のできもの)や水萢、かゆみなどの症状が現れると、「水虫ができた」と早合点し、市販薬をぬっている人が大勢いる。
しかし、これはとても危ないことだ。
なぜなら、丘疹や水萢、かゆみなどの症状を起こすのは水虫だけではないからだ。
※高齢者であれば、疑っても良いと思うが、若年者であれば特に。
水虫とよく似た皮膚病はたくさんある。
実際「水虫を疑って来院する患者さんのうち、半分以上が水虫ではない」というデータもあるほどだ。その人たちに多いのが、かぶれだ。なかでも、水虫薬にかぶれて症状を悪化させている人が多数いる。
実際には水虫ではないのに、かゆみや水庖などの症状があるからといって「水虫だ」と素人判断し、市販薬をぬってかぶれてしまう。
※水虫薬は刺激が強く、ときとして皮膚をかぶれさせる。酸やアルカリ分の強い薬や濃度の高い消毒薬は、水虫の原因菌である白癬菌を殺す前に人間の皮膚をいためてしまうのだ。
※また、水虫薬をぬってかぶれても、その原因が薬にあるとは考えもしない人もいる。かぶれは、一種のアレルギー反応(体がある一定の物に拒絶反応を起こし、危険信号を出すこと)である。かぶれの原因が、水虫ではなく水虫薬にあることもあるということになる。
水虫治療は途中で放棄してしまわないように
水虫治療を途中で辞めてしまう人が非常に多い。
なぜ通院をやめてしまうのだろうか?
その理由は以下などと言われている。
- 症状がよくなったから(無症状だと、治療の意味を見いだせなくなったり、気にならずに自身が水虫だと忘れてしまうことがあるかもしれない)
- 治ったと自分で判断したから
多くの人が比較的早く(例えば2週間以内など)に薬の効果を感じると言われている(もちろん、効果を感じない人も一定数含まれてはいるが)。
でもって、この時点で「治った」と勘違いする人がいても、(無症状に改善されていればとくに)何ら不思議ではない。
しかし、この段階では、薬の有効成分によって白癬菌の勢力が弱まっているにすぎない。
菌はいまだ皮膚内にとどまっている。
で、菌を完全に追い出すためには、皮膚のターンオーバーを待たなければならない。
それには、足の皮膚で最低3カ月間かかる。
そのため、菌に感染した皮膚が根こそぎ変わるまで、半年から1年は治療を続ける必要があると言われている。
水虫の撃退法・予防法
最後に水虫の撃退法・予防法を2点だけ記載して終わりにする。
①石けんで患部を毎日よく洗い、清潔にする
白癬菌が寄生する角質層(皮膚の最も外側の層)は、毎日、アカとなって少しずつはげ落ちている。
そこで、アカを洗い落とすことが白癬菌の退治につながる。
アカとともに、皮膚の表面にこびりついた汗や脂をきれいに落とすことも大切だ。
それには、石けんがとても役立つ。
石けんでアカや皮膚の汚れを十分に洗い流して乾かせば、皮膚の新陳代謝(新旧の物質の入れ替わり現象)が早まる。
皮膚の表面についた白癖菌やそのほかの細菌も感染する間もなく流れ落ちる。
石けんはなるべく刺激の弱いものを選ぼう。
とくに、かぶれを併発している、分泌液が多い、患部が赤く膨れ上がっているなどのように症状が激しい場合は、石けんの刺激にさえ過敏に反応することがある。
そのため、より刺激の弱い石けんを選んだほうが良い(だからといって、高価な石けんを使う必要はない)。
洗い方は以下の通り。
- ぬるま湯を足全体にかけ、表面の汚れを流す。
- 石けんをよく泡立て、指の股をていねいに洗っていく。
※指の股は、とくに汚れがこびりつきやすいところだ。指を一本一本開いてしっかり洗おう。
ちなみに、ナイロンタオルや軽石でゴシゴシ洗う人がいるが、皮膚を傷つけるのでやめよう。
手やタオルで足の指をくるむようにして、やさしく洗う。
足の側面や裏も同じように洗おう。風呂から上がったら、乾いたタオルで水分を完全にふき取る。皮膚が乾燥したら、外用薬をぬる。
こうすれば薬の有効成分が浸透しやすく、じゅうぶんな効果を期待できる。
ただし、洗いすぎも注意が必要。
「足を清潔に保つことが大切」と話すと、神経質なまでに1日何度も足を洗う人がいる。こうすると、角質層がふやけて逆効果になる。
ふやけた角質層は、白癬菌が増殖するのに都合のよい環境となるため、足を洗うのは「入浴の時」と「朝起きてから」など、1日1~2回で十分である。
「足を蒸らさず、温めず、いつも清潔に」がポイントだ。
家族感染を予防する
水虫の完治には一定の治療期間が必要だ。
自分の水虫を治すのはもちろんのこと、家庭内感染を防ぐうえで最善の方法は、こまめに掃除をすることだ。
とくに、洗面所や浴室、脱衣所、台所、トイレなど、カビの繁殖しやすいジメジメした場所は、白癬菌にとっても最高の環境である。
人がよく歩く場所、すなわち、居間や廊下、階段なども、白癬菌のエサになるアカや髪の毛が落ちやすいところ。
ホコリやゴミのたまりやすい部屋のすみや物の下にも、白癬菌がいます。こうした場所は、念入りに掃除する。
皮膚に直接ふれるバスマットやスリッパ、じゅうたん、寝具、靴は常に清潔にし、乾燥させておくことが大切だ。バスタオルやスリッパなどの共同利用はやめて、個別に用意しておく。また、下着類や靴下を洗濯した際には、じゅうぶんに乾燥させてから身につけるようにしよう。
また、室内の温度と湿度にも注意を払うのも大切だ。
とくに、梅雨から夏にかけては高温多湿になり、白癬菌が活発化する時期である。
できるだけ窓をあけ、風をじゅうぶんに通そう。
外気を室内に頻繁に取り入れていると、湿度の上昇を防ぐことができる。
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