この記事では、医療・介護従事者が知っておくべき『結核』について、感染予防の観点も含めて基礎知識を解説していく。
目次
結核とは
結核とは以下を指す。
結核に感染し、重症で排菌している場合は入院治療が必要となる。
しかし一方で、以前の様に「為す術の無い国民病」ではなくなっており、治癒(発病状態を治す)ことが可能な疾患になっている。
リハビリ職種(理学療法士・作業療法士)が結核を発症している対象者に遭遇することはきわめて少ないと思われる。
しかし、対象者が「高齢で結核の既往がある場合」は、免疫力の低下などにより結核の再燃がみられることがある。
なので、「2週間以上続く咳や痰などの症状がみられる」など感染の兆候が疑われる場合、理学療法士は微粒子マスク(N95マスク)を準備して使用し、対象者に対してはマスクの装着を促すことが望ましい。
※ちなみに以下がN95マスクになる。
※高齢者の場合「2週間以上続く咳や痰=結核」と結びつけてしまうのは短絡的だが、結核の既往がある場合は注意するに越したことは無いし、医療機関への受診を勧めることも重要となる(通所介護、訪問リハビリの場合)。
結核の「感染」と「発病」
皆さんは感染症に関して「感染=発病(何らかの病気を患う)」と考えてしまっている人も多いのではないだろうか?
ただし、厳密には潜伏期間が存在していたり、結核に様に「感染」と「発病」を分けて考えたほうが良いケースもある。
※例えばエイズなんかも「単にHIVに感染している」と「エイズが発病している」では分けて考える必要がある。
⇒『医療・介護従事者が知っておきたい『AIDS(エイズ)』『HIV』の基礎知識 』
結核菌に感染しても結核が発病するとは限らない
仮に結核菌に感染しても、健康的に過ごしている人なら免疫によって結核が発病せずにすむことが非常に多い。
免疫力によって結核菌の増殖や活動を抑え込むことが出来るのだ。
事実として、結核菌に感染しても約70%の人は、生涯で一度も結核を発病することなく過ごすことが分かっている(文献によってパーセンテージは異なるが「感染=発病」では無いことは理解してもらえると思う。
しかし一方で、免疫力が落ちると発病する危険があることも事実である。
例えば高齢者になると自然と免疫力は落ちてくるし、日和見感染(免疫力を低下させる感染症)を引き起こす要因があると、体内に潜んでいた結核菌が増殖・活動しはじめ結核を発症してしまう可能性もあるので注意が必要だ。
一次結核症と二次結核症
必ずしも「結核菌の感染=結核の発症」では無い点は前述したとおり。
また発病するにしても「感染してすぐに発症する人」もいれば「感染して10年後に発病する人」もいるなど様々なケースが存在する。
でもって、「感染から発病までの期間が短いか長いか」で一次結核症と二次結核症に分類される。
- 一次結核症:
感染して3か月から数年のうちに発病する人を指す。
※感染者の約15%にみられるとの文献も。
- 二次結核症:
感染して数年から数十年後に発病する人を指す(5~20年以上を指すと言われている)。
※感染者の約15%にみられるとの文献も。
※二次性結核は慢性結核とも呼ばれる。
上記のいずれの結核にしても「免疫力が低下した際」は結核発症の引き金となると言われている。
免疫力が低下するときってどんなとき?
「免疫力を高めておくことが重要」とは言っても、免疫力に影響を及ぼすものは多岐に渡り、仕事や人間関係などのストレスもそうだし、睡眠不足・暴飲暴食などの不摂生も免疫力に影響しそうだ。
そして、上記が免疫力にどの程度影響を及ぼすかにも個人差があり一概には言えない。
そんな中で「免疫力を低下させる疾患(や対する処置)」というのは存在し、例えば以下などが該当する。
- 糖尿病:
糖尿病で高血糖状態にあると免疫力が低下する。
そのため結核だけでなく様々な感染症にかかり易くなる。
- 抗がん剤の使用:
抗がん剤は免疫力が極端に押さえられることがある。なので、結核を発症しやすくなる。
その程度は(後述する)ステロイド剤と同程度と考えられている。
- ステロイド(副腎皮質ホルモン薬)の長期使用:
膠原病(関節リウマチなど)や腎臓病、気管支ぜんそくの治療薬である副腎皮質ホルモン薬(ステロイド)には免疫力を押さえる働きがある。
- 人工透析:
慢性腎不全のために人工透析を行っている場合は、糖尿病と同じく免疫力が低下する。
- エイズ:
HIVに感染すると、免疫細胞を破壊しながら、次々と新たな免疫細胞に親友趾、増殖と破壊を繰り返す(=免疫力が低下する)。
そしてエイズが発症した時点においては、健康な人と比べて170倍も結核の発病率が高まるとされている。
上記の様な免疫力を低下させる感染症(エイズや糖尿病など)は『日和見感染症』と呼ばれる。
そんな日和見感染に関しては以下の記事でも解説しているので合わせて観覧してみてほしい。
2週間以上、風邪の症状が続いたら病院へ
冒頭でも記載したが、一般的に「2週間以上、風邪の症状が続いたら、念のため病院へ行って検査をしてもらうこと」が推奨されている。
ちなみに私は喘息もちで、(風邪が長引くことで)稀に2週間以上「軽い咳」や「痰が絡む」などがあり、「2週間以上の風邪症状=結核」ではないのだが念のためという事で。。
専門医の問診としては以下の様な事をきかれる。
- 2週間以上咳が続くか?
- BCGを接種したことがあるか?
- 過去のツベルクリン反応の結果(ツベルクリン反応に関しては後述)。
- 最近、呼吸器に異常はないか?
- 関連疾患の有無(2週間以上咳が続く症状は、結核以外にも起こり得る)。
- 周囲に結核を発病した人はいなかったか?
- 過去に結核に感染又は発病したことはあるか?
BCGは結核菌仲間で、独力が弱い筋である。
でもってそれを接種することで結核に対する免疫を作ることが出来る。
なので、生後6か月(あるいは1年)に達するまでに接種することがすすめられる。
BCGを摂取すると、しなかった場合に比べ結核発病のリスクを1/4に減らせると言われている。
一方で、BCGの効果は生涯持続するわけではなく、10~15年有効で、それ以降は効果が下がると言われている。
また、後述する『ツベルクリン反応』はBCGを接種していると、(結核に感染していなくとも)反応が現れる。
問診と並行して行う検査
問診と並行して以下の検査をすることで結核かどうかを判断する。
・画像検査(X線検査・CT検査)
・痰の検査
- 画像検査に関して:
X線検査画像では、結果による病巣は白い影として映る。
X線だけではわからない場合もあるので、CT検査も行う。
しかし、他の肺疾患と判別できないこともあるので、その場合は「他の肺疾患」に対する診断的治療を実施することで鑑別したりもする(他の肺疾患い特異的な治療を施行し、改善されない場合は結核な可能性が高くなるなど)
関連記事⇒『診断的治療と試験的治療』
- 痰の検査に関して:
画像検査と並行して痰の検査も行う。単に結核菌が含まれているかどうかを調べるためだ。
結局のところ、結核と診断するためには(画像診断ではなく)この「痰の検査」が必要不可欠となる。
結核の症状
結核の初期症状は(ここまで記載してきたとおり)「風邪に類似した症状」であり、具体的には以下などが挙げられる。
- せき
- 痰
- 倦怠感(体がだるい)
- 37~38℃の発熱
結核が悪化した際の症状としては以下などが挙げられる。
- 血痰(痰に血が混じっている)
- 胸痛
- 呼吸困難
結核の治療
結核の治療としては以下の2パターンに大別される。
・入院して治療するケース
・外来で治療するケース
結核菌を輩出していない人は、周囲の人に移す心配が無いので、外来治療が可能となる。
一方で入院が必要だと判断された場合は、一般的に約2~3か月の入院が必要と言われている。
※適切な治療を行えば2~3週間でほぼ感染力は無くなると言われているが、安全を期すという意味で2~3か月らしい。
入院中は毎日薬を服用し、退院してからも一定期間は毎日薬を服用する必要がある。
※排菌しておらず、他人に移す恐れが無くなったら通常の生活に戻ることは可能となる。ただし、だからといって服薬を辞めて良いという訳ではなく、医師の許可が下りるまで絶対に服薬を辞めてはいけない。
この『服薬』こそが結核治療の要であり、退院したからと服薬を辞めたり、いい加減な服薬をしていると治療は失敗し、再治療に臨んでも後の最初よりも治療が難しい状態になってしまっているので注意が必要だ。
治療に失敗して、再度治療に挑戦する場合は『多剤耐性結核(たざいたいせいけっかく)』になってしまっていることがある。
この結核は「薬に対して耐性を持つ結核菌ができてしまい、薬が効きにくくなった結核」を指す。
重複するが、多剤耐性結核にならないよう、退院しても必ず医師の指示を忠実に守り続けることが大切だ。
医療従事者が結核感染の予防をする際の注意点
結核は、空気中を漂う結核菌が肺に侵入して感染する疾患である。
つまり、感染経路は『空気感染(飛沫感染も含む)』である。
※感染経路や結核も含めた様々な感染症については以下の記事にまとめているので合わせて観覧してみてほしい。
⇒『危険!これだけは知っておくべき「感染症予防の基礎知識」まとめ』
具体的な結核感染の流れは以下の通り。
- 患者さんの口から菌が飛ぶ(会話や咳などによって)
咳では約1.5cm、くしゃみでは約3mにわたって「しぶき」が飛び散る。
この「しぶき」の中に結核菌が混じっている。
※この「しぶき」で感染すると『飛沫感染』ということになる(飛沫感染はサージカルマスクの着用で予防できる)。
↓
- 水分が蒸発し、菌だけになる
空気中に飛散した「しぶき」は、やがて水分が蒸発し、結核菌だけになり、空気中を漂う。
↓
- 別の人に吸い込まれる
結核菌は空気中を漂い、空気の流れに乗って流れていく。
やがて、呼吸によって別の人の鼻や口から体内に侵入する。※これを『空気感染』と呼ぶ。
結核菌による空気感染を予防するには特殊なマスク『N95マスク』が必要となる。
マスクに関しては以下の記事でも深堀解説しているので合わせて観覧してみてほしい。
⇒『感染予防に大切なマスクの知識! 最強マスクも『微粒子(N95)マスク』も紹介するよ』
結核患者に対するケア時の注意点
- 病室では、排菌患者でもMRSAのようなガウンテクニックは不要である(接触感染ではないので)。ただし、患者にはマスクを着用してもらう(相手へ飛沫感染を起こさせないため)。
- 大量排菌者、耐性菌排菌者への対応時、結核も疑われる患者に接する際は微粒子マスク(N95マスク)を用いる(患者から結核菌をもらわないため)。
- 病室への出入りの際の手洗い、患者の衣類の洗濯、食器の洗浄、部屋の床、床頭台等の清掃には特別な消毒剤は不要であるとの意見が多い。ただし、ゴミ箱の中身には痰を出したり鼻水をかんだティッシュペーパーなどが入っていることが多々あり、その中には結核菌が大量に付着している可能性はある。なので、扱いには注意したほうが良い。
- 密閉された空間では結核菌が充満するので、換気をするに越したことは無い。
院内結核発生時の対策
院内の結核発生は、主として自覚症状による定期受診により発見されることが多い。
- 自覚症状発症から受診までの期間が長い排菌陽性患者は、周囲へ感染させた危険性が高い。
- 定期検診によって発見されるのは一般に軽症、早期例が多く、感染源ではない場合が多い。
結核発生時の対応
排菌を確認できなくても、結核と診断すれば予防法に基づき発生届を出す。
院内で結核患者の診療を行っていない場合でも、感染源が院内にある可能性もあるので、接触者の調査を院内・外で行う。
特に患者の咳が多く排菌陽性の場合、複数の患者が発見された場合には二次感染、集団感染が発生した可能性があり、保健所に協力して定期外検診を行う。
検診で発見されたツ反強陽転者にはインフォームドコンセントを得て予防投薬を行い、ツベルクリン反応陰性者へのBCG再接種はこれに準じて行うことが望まれている。
ツベルクリン反応について
最後にツベルクリン反応について記載して終わりにする。
ツベルクリン反応は結核感染が疑われるときに実施される検査で、以前は乳幼児期、小中学生時代に行われていた。
ただし、後述したようにBCG接種を受けた人は反応が現れてしまい、判定が難しいケースも多い。
※なのでBCGの影響を受けないQFT検査というものも存在する。
ツベルクリン反応の実施時期は、医療従事者では病院への雇い入れ(採用、移動)時に実施する場合がある。
ツベルクリンの陽性反応
ツベルクリンの陽性反応は以下の通り。
反応 |
判定 |
符号 |
|
発赤の直径9mm以下 |
陰性 |
(-) |
|
発赤の直径10mm以上で硬結・発赤なし |
陽性 |
弱陽性 |
(+) |
発赤の直径10mm以上で硬結を伴うもの |
中等度陽性 |
(++) |
|
発赤の直径10mm以上で硬結に二重発赤・水痘・壊死などを伴うもの |
強陽性 |
(+++) |
※~『小倉 剛:結核の院内感染予防対策.国立大阪病院感染対策(編),院内感染予防ハンドブック,南江堂,東京,1998;57』より引用~
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