まだ5月病の話をするのは早いかもしれないが、新人さんは仕事に慣れてきただろうか?
この時期は、「理学療法士辞めたい」なんて記事が人気になりやすいが、既に職場をやめたくなっている人はいないだろうか?
5月病とは全く関係ないのだが、理学療法士に嫌気がさす理由の一つに以下が挙げられることがある。
- 柔道柔道整復師の現状はどうなっているのか
- 柔道整復師は理学療法士をどう思っているのか
- 本当に理学療法士は恵まれていないのか
理学療法士と比較される柔道整復師
「理学療法士は他職種と比べて恵まれた職業なのか」という議論は昔からある。
でもって、比較対象となる資格には「作業療法士」「言語聴覚士」「看護師」「介護福祉士」「ケアマネージャー」など様々だ。
そんな中で、独立開業権を有する「柔道整復師」も比較対象とされることは多いのではないだろうか。
柔道整復師に関しては、以前は以下などの話題が出る際に比較対象とされることがあったりした(今では少なくなったが)。
- 「理学療法士の開業権」が話題になった際
- 「理学療法士の政治力」が話題になった際
「理学療法士の開業権」が話題になった際
(今では少なくなったが)以前は「理学療法士が独立開業権を持つために、理学療法士協会はもっと政治に働きかけるべきだ」とする声が大きかった。
でもって、その際の反対勢力の一つとして柔道整復師が挙げられることが多かった。
「既に柔道整復師が存在するのだから、理学療法士が開業権を持つ必要性がない」っという形でなら反対されていたのではと想像する。
「理学療法士の政治力」が話題になった際
医師や看護師はめちゃくちゃ政治力が高い。
でもって理学療法士の政治力が、今より更に弱かった時代、柔道整復師も「理学療法士より政治力が高そうな組織」として認識されるケースが多かったので、
例えば前述した開業権などと絡めて「理学療法士より柔道整復師のほうが政治力があるから、開業権についても反対意見のほうが通ってしまう」という話もよく出ていた。
柔道整復師とは
ここからは、ザックリと柔道整復師について記載しておく。
ウィキペディアに記載されている「柔道整復師の業務内容」は以下の通り。
打撲、捻挫、脱臼および骨折などの各種損傷に対して、外科的手術や投薬といった医療的手技を使用せずに、その回復を図ることを目的に施術を行う。
でもって、交通事故との打撲やねん挫などへの保険請求も許されているのだが、
柔道整復師の対象である「打撲・捻挫・脱臼・骨折」などが生じた際、まず最初に受診するのは整形外科が圧倒的に多くなっている。
なので、(整形外科が少なかった時代は重宝されたかもしれないが)今では存在意義を疑問視する人も増えている。
また、保険請求の対象(打撲・捻挫・脱臼・骨折)が少ないので、対象を拡大すべく慢性症状(肩こり・腰痛など)に対しても病名を変えて保険請求するといった実態もあるらしい。
厚生労働省は平成16年の国会答弁で、柔道整復師の業務としては一般的に『骨折、脱臼、打撲、捻挫』等の「急性期の新鮮な状態」に対する施術であるという認識を示しており、按摩や鍼灸が扱うような慢性期の疾病は柔道整復師の扱う対象ではないとしている。慢性期の疾病に対して施術を行い、急性期の病名を付けて保険請求することは療養費の不正請求となる。
・・・・中略・・・・
柔道整復師の施術は、医療保険各法に定める「療養の給付」には該当せず、患者は別途「療養費」の支給を受ける扱いになる。この療養費は歴史的経緯により柔道整復師による受領委任払いが認められているが、柔道整復師による療養費の不正請求が全国で後を絶たない。
~ウィキペディアより~
柔道整復師の人数も、(理学療法士と同じく)規制緩和による学校乱立により激増しており、パイの奪い合いになっている可能性がある。
そんな中で「理学療法士まで参入してくる」となれば抵抗するのは無理からぬことかもいれない。
柔道整復師の現状はどうなっているのか
ウィキペディアには、柔道整復師に関して以下のような記述がある。
以前は資格取得後5-10年間の勤務を経験して施術所を設立して独立開業することが多かったが、2018年頃には卒業生の2割が資格取得直後に独立開業するようになった。知識や経験を積まず、違法行為に手を染めてしまう整復師が問題視されている。
この様な問題を受けてかどうかは定かではないが、最近になって柔道整復師の開業権(厳密には、保険請求ができる「施術管理者」になれる権利)に制度変更がなされた。
具体的な変更点は以下の通り。
国家試験合格により施術管理者になれた
↓
↓
変更後:
国家試験合格後、「3年間の実務経験」+「研修参加」が施術管理者になるための条件となった。
国は制度変更により以下の点を期待している印象を受ける。
- 新人教育により、不正性請求に手を染める柔道整復師を抑制できる
- 保険請求ができるようになる(施術管理者になる)ためのハードルを高くなることで、医療費の抑制が期待できる
一方で、ウィキペディアの意見とは異なり、以下のような意見もあある。
知らないと損する療養費の現状「療養費問題の最前線」
最近、図書館に行った際に以下の書籍に目が留まった。
この本は290ページにわたって柔道整復師に関する制度的な内容が記述されている。
でもって理学療法士が興味を持て読める項目は少ないものの、そんな中で興味深く読める記述として以下の2点あったので引用してみる。
- ライバルがいない方がいいという柔整師たち
- なぜ私たち柔整師がこんなにも攻撃されるのですか?
これらを読むと、柔道整復師の現状、柔道整復師が理学療法士をどう見ているかの(一意見としてであれば)参考になるのではと思う。
ライバルはいない方がいいという柔整師たち
多くの学校が淘汰され、施術管理者になって保険を取り扱うには実務経験と研修を経なければならなくなり、柔整業界は今後、急速に縮小していく。そうなれば、遠くない未来、理学療法士に全て飲み込まれてしまうだろう。
なぜ私たち柔整師がこんなにも攻撃されるのですか?
さて、高齢者人口が大幅に増加しているにもかかわらず高齢の患者さんの来院数が減ってきているのは、ひとえに介護保険制度におけるデイサービスが機能しているからです。高齢者を取り巻く社会環境はどんどん変容しています。要介護3や4の人はもはや接骨院には来ません。業界のリーダーの責務は「みんなが食べていける」ように、仕事を創出し、業務を拡大し、保険適用枠を広げることです。しかし、この状況下で、指導者たちは自ら政策や制度を策定する努力を忘れてそれらを行政に丸投げし、保険者に媚びを売っている有様。それとは対照的に、他の医療域は業界内の国会議員を通じて様々なテーマについて国に働きかけ、自分たちに有利な状況を作り出そうとしています。例えば医科の場合、ビッグデータの活用やジェネリック医薬品の推進への対応策、高度先進薬剤の保険適用など。こうした活動が特に目立つのが理学療法士(PT)でしょう。PTの国会議員は2名おり、彼らが介護保険を中心に活動できるようにする環境の整備を進めています。PTは毎年1万2000人程度が誕生していますが、新規免許取得者がその半分にも満たない柔整師ばかりがバッシングされ、せっかく開業しても保険取扱いに関する嫌がらせを受けるという始末。さらに4月からは、「実務経験がなければ保険を使わせない」などという事務処理が開始されます。一方でPTは、与えられた権益を存分に活かし、法人組織を設立してリハビリを主体としたサービスを提供する介護予防施設をどんどん立ち上げているのです。柔整師と異なり、健康保険などの医療保険では独立開業権が無いPTですが、介護保険分野では既に事実上開業権を有しているかのように活躍しているPTもいます。整骨院がリハビリも含めて総合的に高齢患者を抱えることができた環境は崩壊したのです。
介護保険によるデイサービスは誰にでも運営できますが、柔整師の皆さんはなぜか積極的に参画しようとしません。時代は移り変わっているのです。
鍼灸柔整新聞2018年2月25日号
隣の芝は青い
いかがだっただろうか?
読んでもらうだけで、色々と感じることがあろうかと思う。
そして、その「感じたこと」は理学療法士にとって、少なくともネガティブな感情ではないと思われる。
私たち理学療法士は、柔道整復師に対して以下のような漠然とした思いを持つことがある。
- 開業権のある柔道整復師を羨ましいなぁ
- 古くから存在する柔整師は、理学療法士よりも政治力が高いんだろうなぁ
ただし、彼らには彼らなりの悩みがあり、むしろ理学療法士よりも深刻な状況に陥っているのかもしれない。
「隣の芝は青く見える」という諺があるが、柔道整復師からみると理学療法士は羨ましく思える対象となっているのかもしれない。
理学療法士は恵まれていないのか?
理学療法士は恵まれた職業といえるのだろうか。
眺める角度によっては「恵まれていない」と感じることがあるかもしれない。
一方で、別の角度から眺めてみると「意外と恵まれているのでは」と感じることもあるかもしれない。
もちろん同じ理学療法士であったとしても、活躍するフィールド、立場が異なれば価値観も異なってくるので、一括りに議論するのが難しい。
そんな中で今回は、比較対象として柔道整復師を取り上げて見たので「理学療法士は恵まれているのか」について考えてみる材料にしてほしい。
また、比較対象が「介護福祉士」「看護師」などになると全く違うしてもが見えてくることもあるので、機会があれば記事にしていきたいと思う。