「2019年11月25日」に以下のタイトルな記事を発見したのでシェアしてみる。
首都大学東京の授業で「私は “骨盤障害” にされた」
記事によると「首都大学東京の元学生さん(元大学院生さん)」が、仙腸関節痛で悩まされているとのこと。
元学生さんは、自身が在籍していた「国際徒手理学療法学コース」の授業中における実技練習が原因で症状が発症してしまったという認識のようだ。
2019年9月、首都大学東京の大学院を修了したAさん(33歳・男性)。彼はいま、重い症状に苦しんでいる。
Aさんによれば、発症のきっかけは、大学院の授業にあったという。
「私が在籍していたのは『国際徒手理学療法学コース』という、リハビリを実践的に学ぶコース。問題の授業は、『関節マニピュレーション』という実技ですが、“殺人手技” ともいうべき危険なものでした。
わかりやすく言うと、関節の変形を正して治す手技。不安定な姿勢で頸椎を引っ張ったり、救急救命時並みの強さで衝撃を与えつづけるなど、リスクが高い。海外では死亡例もある、時代遅れの手技です」
Aさんはそんな手技を、毎週3時間の授業で、被験者として受けつづけた。
「ほかの学生は、留学生と腰痛持ちで。授業中、私が被験者になるしかありませんでした」
そして、6月中旬に被験者となった翌日、Aさんは起き上がることができなくなった。
「翌週の授業は、うつぶせで受けました。担当のX先生は、『靱帯の損傷だね。そこをやったから(痛めたなら)、治らないよ』と笑っていた。謝罪がないのに驚いたし、『自分は関係ない』という雰囲気でした」
関節マニピュレーションとは
元学生さんは、国際徒手理学療法コースの関節マニピュレーションを何週間も受け続けて仙腸関節痛を発症してしまったらしい。
理学療法で用いられる「関節マニピュレーション」の定義は国によって異なるが、ノルディックシステムをベースとする『国際徒手理学療法コース』では以下を指していると思われる。
高速低振幅テクニック(スラストテクニック)
「素早く小さな振幅で加える力」を関節に加えるテクニックであり、治療時にポキッという音(ポップ・クラッキング音などと呼ばれる)が鳴る様なアプローチと言えばイメージしやすいかもしれない。
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記事の中では「殺人技」「時代遅れの技」などと多少煽った表現も記載されているので、こんな表現を「首都大学東京の元学生さんが使ったのかな?」という違和感はある。
(今回の仙腸関節に対するマニピュレーションとは直接関係なさそうな)頸椎マニピュレーションの記載が急に出てくる辺りは、関節マニピュレーションのリスクを印象付けるための文章構成として巧みな気がする。
それは置いといて。。。
確かに、頸椎スラストによる海外での死亡例は数件あるとうだし、死亡に至らないまでも「整体院で首をポキッとやられてから、益々手のしびれが悪化した」や「首の調子がおかしくなった」などの相談を受ける医師は日本でも多いので、医師はマニピュレーションを施行する整骨院・整体院を嫌う傾向にある(というか大嫌な人が多いかもしれない)。
しかし実際は、そのアプローチによる被害を(直接施術家に訴えるのではなく)医師に相談する患者も多くいることも認識しておいた方が良いだろう。
理学療法士は高速低振幅テクニックを学ぶ機会は少なく、どちらかというと関節モビライゼーションを臨床で活用することが多いのが実際のことろだ。
しかし一方で、自費活動をしようと思っている理学療法士の中には、差別化という意味で最近は高速低振幅テクニックを習得しようと考えている人は増えているのかもしれない。
関節マニピュレーションを何度も受けることで生じること
関節マニピュレーションを「首都大学東京の元学生さん」は週3時間の講義で毎回受けていたことを仙腸関節痛発症の因果関係としてあげている。
でもって、この「関節マニピュレーション(によって生じるクラッキング音)が身体への影響」がウィキペディアに記載されていたので特に同意出来る部分を赤色で表記しつつ引用してみる。
そもそも個人のクラッキングは爽快感を得るために行われるケースが多い。整体師などによるクラッキングや自分で一回クラッキングした程度では問題ないとされるが、習慣化すると様々な悪影響が出てくる。空洞が発生し消滅する際に強い衝撃波が生じ、これによって関節内部を冒し、損傷している可能性があるという。これをエロージョン(Erosion)という。特に首の場合は、脊髄があるため、エロージョンによって、手足の麻痺から最悪の場合、生命に関わるおそれもある。具体的には首の関節を頻繁にクラッキングすると、椎骨の先端部分などが傷つけられてしまうことがある。すると、それを修復しようと、骨が増殖し、骨棘が発生しそれが神経を圧迫し、頚椎症性脊髄症などを発症してしまう場合もあり得る。その他、頭痛、肩こり、耳鳴り、手足のしびれなどの症状に悩まされる可能性もある。また、クラッキングを繰り返している内に、損傷を受けた軟骨を修復するために関節が肥大してくる。このため関節が太くなってくる。 これらのことから、個人が自分の関節をクラッキングするのはなるべく行うべきではないとする意見がある。
さらに、長年にわたって無理に関節を曲げると靭帯が緩んでしまい、これによって余計に疲れを感じてしまうようになるという危険性も指摘されている。
にもかかわらず、クセになってしまう理由には諸説ある。たとえば、硬くなった関節周囲のストレッチで、疲労物質が流し去られるために快感を得て、心地良いと感じるからだとされる説がある。関節内部は痛みを感じないため、クラッキングによる強い衝撃をうけても、ストレッチによる快感だけを感じてしまう。このほか、クラッキング音を出すことにより関節の可動域が広がったことを脳が快感と感じるという説、クラッキング音そのものが脳に快感を与えているという説もある。
ドナルド・L・アンガーは60年以上にわたり、毎日左指の関節を鳴らす一方で、右の指関節は決して鳴らさないということをこつこつこつこつ続け、指の関節炎の原因を研究した。その「功績」により2009年イグ・ノーベル賞(医学賞)を受賞した。どちらの手にも関節炎の症状はないという。
~ウィキペディアより引用~
この「クラッキング音」によりβエンドルフィンという脳内麻薬が分泌されるという文献もあり、これが「クラッキング音を鳴らしたくなる・鳴らしてほしい」と感じる要因の一つともいわれている。
この点について詳しく知りたい方は以下の記事で深堀り解説しているので観覧してみてほしい。
⇒『要チェック!!マニピュレーションとβエンドルフィンの関連性』
ただし、この行為を繰り返していると、どんなリスクが生じる可能性があるかは引用したウィキペディアの通り。
カイロプラクターの養成校などでは、学生同士が手技を掛け合って双方の体をバキバキ鳴らしまくりながら上達していくらしいのだが、卒業するころには体に不調をきたしてしまう人もいるという話を聞くが、実際はどうなのだろうか。。。
ちなみに(言うまでもないかもしれないが)ウィキペディアでは「整体師などによるクラッキングや自分で一回クラッキングした程度では問題ないとされる」と記載されているが、整体師のクラッキングであれば安全という訳ではない。
脊柱にはポキッと「鳴り易い関節」と「鳴り難い関節」が混在しており、関節が緩くなっている関節ほど(本来ターゲットとすべき硬い関節よりも)鳴り易い傾向にある。
なので、「緩い関節」を十分に閉鎖したうえで、「硬い関節」のみにマニピュレーションを加える必要があるのだが、それが出来ているかは疑わしい。
※単なる一過性効果を狙ったパフォーマンスな可能性もある。
※少なくとも(単関節ではなく)多関節にクラッキング音が生じた場合は、疑ってかかった方が良い。
診断書の内容と、元学生さんの症状
医師による「首都大学東京大学院の元学生さん」の診断書は以下の通り。
病名:変形性腰椎症・坐骨神経痛・仙腸関節痛・腰痛症
6月ごろ右腰部を強く圧迫され、それ以後腰・臀部痛が出現し、10月1日に受診された。パトリック試験陽性、日本仙腸関節研究会の仙腸関節スコアで8点であり、仙腸関節関連痛と診断し、後仙腸靭帯ブロックを2回、硬膜外ブロックを1回行った。痛みの軽減はあるものの、右下肢での片足立ちでは、不安定感を訴えている。当科での治療終了し・・・・に紹介した。
~Aさんの診断書より引用~
仙腸関節スコアは以下の通りで、9点満点中4点以上で仙腸関節障害が疑われる。
項目 | スコア |
一本指さしテスト | 3 |
鼠径部痛 | 2 |
座位での疼痛誘発 | 1 |
Newtonテスト変(仙腸関節) | 1 |
PSISの圧痛 | 1 |
仙結節靭帯の圧痛 | 1 |
仙腸関節障害については以下でも解説しているので興味があればチェックしてみてほしい。
元学生さんの症状
「首都大学東京の元学生さん」は自身の症状について以下のように語っている。
椅子に座ると強い腰痛が、立って右脚に体重をかけるたびに痺れと脱力感、強い痛みが生じます。ひどいときは、歩くのも困難です。
活動時はコルセットを着用しており、歩行時には杖が必要とのこと。
元学生さんが憤っている「首都大学東京側の不誠実な対応」とは
ここからがFLASH記事の本題で、元学生さんは首都大学東京側の不誠実な対応について憤っているようだ。
具体的には、以下の様な対応をされたとのこと。
そして、6月中旬に被験者となった翌日、Aさんは起き上がることができなくなった。
「翌週の授業は、うつぶせで受けました。担当のX先生は、『靱帯の損傷だね。そこをやったから(痛めたなら)、治らないよ』と笑っていた。謝罪がないのに驚いたし、『自分は関係ない』という雰囲気でした」
「受傷から2週間以上たっても、X先生が上司や学域長のY教授に、私の症状を報告している様子はなく、私から彼らに連絡を取りました。
しかし、7月中旬にY教授から届いたメールは、『関係者で共有・協議します』だけ。Y教授もひどく、メールしても毎度1週間以上返信がない。らちが明かず、8月中旬に大学のハラスメント委員に連絡しました」
だが、本部での聴取日程は、さらに1カ月後と打診された。
「結局、聴取後の9月下旬に本部から届いた聴取結果は、『精神的損害のハラスメントとしてしか受けつけられない』というもの。謝罪や、手術費などの相談は、『制度がないから』と却下されました。
『大学側が、法律上の損害賠償責任を負うこととなった場合に、支払いできる可能性がある』と説明されただけです」
ちなみにFLASH側が、首都大学東京の広報課に上記の件を問い合わせると、以下の解答のみだったとのこと。
以前パリスアプローチを受講した際「高速低振幅テクニックは熟練を要すし事故の危険性もあるため日本のセミナーでは行わない」と話していた。
ドイツ徒手医学においても、(本国でのことは知らないが)日本では(四肢のごく一部を除いて)学ばなかった。
オステオパシーの学校では「授業中の事故をカバーする適当な保険が見つからなかったので開校を延期している」という話を以前聞いたことがある。
首都大学東京は、昨年も理学療法士教授の問題で話題になっただけに残念だ。。
引用・参考記事
この記事は、以下を引用・参考にして記載しています。
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