この記事では「やり抜く力(グリット)」について解説している。
TEDで人気の高いプレゼンで推奨する「成功に必要な要素」とは?
アメリカのプレゼンテーションイベント『TED』の中でも飛び抜けて人気の高いものが2つあり、インターネットの再生回数は1000万回を超えるという。
その中の一つが、以前紹介した「ショーン・エイカーのプレゼン」であり、もう一つがここで紹介する「アンジェラ・ダックスワースのプレゼン」になる。
これも「成功に必要な要素は何か?」についてのプレゼンなのだが、ショーンエイカーとは別の切り口で解説しており、興味深いので紹介してみる。
教師時代の気づき
アンジェラ・ダックスワースは経営コンサルタントの仕事をしていたが、27歳の時に教師に転職した。
でもって彼女は、教師になって以下の事に気づいた。
つまり以下などのパータンが存在するという事だ。
- 成績は優秀だけれどIQは低い
- IQは高いけれど成績は悪い
そこで彼女は以下の様に考えた。
じっくりと時間をかけて一生懸命勉強さえすれば、どんな子だって出来るようになるはずだ。
※つまり中学の数学は、ノーベル賞を獲得したり、スポーツで金メダルを取るような特別な能力が無くとも、平等に習得可能なレベルであると考えた。
「IQが高い=成功できる」ではない
教育における『IQ』は、最も確かな物差しとされている。
しかし、学校や社会で成功するのに必要なのが、IQだけではないとしたら?
この様に考えた彼女は、(教壇を降りて)大学院で心理学を学び始めた。
そして、大人・子供を問わず「何かに挑んでいる人」の調査して、以下を確認しようと試みた。
ちなみに、彼女が考える「成功」とは、以下の様なものだった。
- 会社での業績が良い
- 大変な仕事でも、めげずに続けることが出来ている
- 教師で最も生徒の成績を伸ばすことが出来た
・・・・などなど。
でもって、これら様々なケースを調べているうちに、彼女は成功の鍵を見出したという。
その『成功の鍵』とは「社会性」でも「容姿の良さ」でも「健康な体」でも「IQ」でもなく以下であった。
GRITを高める秘訣はあるのか??
GRIT(グリット)とは以下の頭文字を取っている。
- Guts(ガッツ):闘志
- Resilience(レジリエンス):粘り強さ
- Initiative(イニシアチブ):自発
- Tenacity(テナシティ):最後までやり遂げる執念
でもって書籍ではGRITを、長期目標を達成するための「やり抜く力」と表現している。
「やり抜く力」とは、将来のために日々努力すること。
1週間や1か月ではなく、何年にも渡ってコツコツ努力し、自分の夢を実現すること。
「人生はマラソン」という生き方のこと。
昔のアメリカにおける成功の方程式は、どちらかというと「努力・根性」のような泥臭い類ではなく、「賢くこなす」という類にフォーカスされやすかった。
そんな中で、「成功に必要なものはGRIT」というのは(日本人はともかくとして)アメリカ人には新鮮に感じられたのかもしれない。
では、どうすればGRITを鍛えることが出来るのか?
※子育てをする親であれば、「根気強い子にするにはどうすれば良いのか?」「どうしたら努力し続けるようになるのか?」というのは知りたいところだと思う。
この問いに対する完璧な結論は、まだ出ていない。
しかし、少なくとも「才能」とは関係ないようだ。
彼女が調査した結果、「才能は有るけど、物事をやり遂げることが出来ない」という人が多いことが分かった。
「やり抜く力」と「才能」は大抵無関係で、場合によっては反比例することもあるという。
でもって、(完璧な結論は出ていないものの)どうやら根気強くなるためのヒントは『成長志向』にありそうだと彼女はプレゼンの中で述べている。
ここから先は、このコラム『報酬系』から脱線していくため割愛するが、興味がある方は彼女の著書である以下も読んでみてほしい。
長期目標を達成するためには、報酬系による「期待感」「達成感」の活用が不可欠
先ほど、以下の様に解説した。
- GRITとは、長期目標を達成するための「やり抜く力」を意味する。
- 「やり抜く力」とは、将来のために日々努力することである。
- 1週間や1か月ではなく、何年にも渡ってコツコツ努力し、自分の夢を実現することである。
でもって彼女は、GRITを獲得するために必要な要素の一つとして「成長志向」をあげているが、自分が成長したいと思えるためには「期待感(成長の先にあるもの)」を持つ必要があり、やり抜きたい目標のハードルが高かったり、年月を要すものであればあるほど「どれだけ報酬系を賢く活用することが出来るか」がカギとなる。
でもって、『報酬系コラム①~最終話』では、そのためのヒントを、いくつも紹介出来ているので、あなたの成功に少しでも貢献できるものがあれば幸いである。
ちなみに『努力の重要性』に関しては、以下のコラムも作成している。
当ブログでも人気な記事で構成されているため、『努力』について興味がある方はぜひ一度参考にしてみてほしい。
グリッドだけでは成功しない? 必要不可欠な要素とは?
グリッドが成功するために重要なのは、何となく理解してもらえると思う。
しかし一方で、グリッド単体では効果がなく「ある要素が付随してこそグリットが威力を発揮する」と言われるほど重要な要素が他にある。
それは以下だ。
努力する対象へ「情熱」を持っているか
努力が報われるには、グリットだけでは不十分な点。
努力対象への強い情熱を持っているほど、その努力が報われるという訳だ。
そんな情熱の重要性(グリットだけでは、成功に影響を与えない可能性)については、以下の動画で分かり易く解説されている。
あなたは、誰かに「これ努力し続けたら、成功するよ?」なんて言われたことは無いだろうか?
そして、それを続けても成功できず、泥沼にはまって苦悩した経験はないだろうか?
そんな際は、「そもそも、今していることは情熱を持って取り組むに値する努力なのだろうか」と振り返ってみるのも良いかもしれない。
情熱の無い努力は苦痛だし、成功しても継続は困難。
そもそも、情熱のある物事は「成功などとは関係なく」続けることが出来る(成功するかどうかは後付けで楽しく続けることが出来る)って考えは、今回の記事とは関係ないので割愛する。
報酬系に逆らう? 従う? とちらが良いの?
意志の強さ、つまり「目先の報酬に気を取られないかが、いかに将来において大きな利益をもたらしてくれるのか」を証明したのが『マシュマロ実験』だ。
※超有名な実験なので、知ってる人も多いかもしれない。
マシュマロ実験は「人が、この実験でどの様な選択をするかは4歳の時点で既に差がついていて、その差は中年になるまで人生に影響を及ぼしている」という結果を導き出した有名な実験である。
この実験内容は以下の通り。
※この時のお菓子にマシュマロが使われたので、マシュマロ実験と呼ばれている。
その上で実験者は「15分ほど待っててね。15分後に帰ってきてまだお菓子がそのまま残っていたら、もう一皿マシュマロをあげる」などと言って部屋を出ていき、子供を一人にする。
で、一人にされた子供がお菓子を食べてしまうのか、我慢するのかを観察する。
すると約7割の子供は待ちきれずにお菓子を食べてしまう。
しかし残りの3割の子供は食べないでとっておく(⇒もう一皿マシュマロをもらえる)。
隠しカメラで、これら3割の子供たちを観察すると「机の下にお菓子を隠す」「見えないようにする」など子供なりに食べたいという衝動が起きないよう工夫をしていた。
つまり、15分経てば2皿貰える、2倍になるということを計算して、自制心を駆使することが出来ている訳だ。
そして、その子たちの14年後、18歳時点で(日本でいうセンター試験みたいな)アメリカの入試テスト「SAT」の成績をみると、なんと我慢できた子と我慢できなかった子の得点差は平均で明らかな差が出ていた。
※我慢できて、自制心を発揮したこの方が、圧倒的に成績が良かった。
また、40年後の44歳の時点での追跡調査もなされていて、年収と社会的ステータスを比べると、やはり我慢できたこの方が高かった。
つまり、「我慢出来たり、計画を立てて行動したりという事が得意な個体の方が、より利得の高い人生を送ることが出来る」と証明されたことになる。
人間が「投資」より「浪費」が好きな理由とは?「現在バイアス」と「双曲割引」
「現在バイアス」と「双曲割引」を紹介してみる。
『現在バイアス』は、嫌な事や面倒な事を先延ばしにしたいという心理によるものである。
例えば夏休みの宿題を後回しにして、大好きなTVにばかり夢中になって、休みが終わるギリギリまで取り組まなかった経験は無いだろうか?
これは、「宿題という嫌なものは早くやってしまうに越したことはない」と理解はしつつも、つい目先の利益、つまりは「遊びに行くなど、別の楽しいこと」を優先させてしまう傾向が原因で、この傾向が『現在バイアス』だ。
関連記事⇒『現在バイアスって何だ? 物事を後回しにしない!将来のことを軽視してはいけない件』
一方で『双曲割引』は「現在バイアス」とは異なり、別に「嫌な事を先延ばしにしよう」という気持ちがなくとも、遠い将来に得られる利益の価値を多く割り引いてしまう、つまり価値を低く見積もってしまうことを言いう。
いずれにしても、「現在バイアス」「双曲割引」ともに目先の利益を優先してしまいがちになっているという点では同じといえる。
でもって、私たちが金を増やそうと考えたとしても、「現在バイアス」や「双曲割引」に邪魔されることは多い。
資産形成のためにも計画的に貯金や投資をすべきなのだが、どうしても目先の旅行や食事などの楽しいイベントにお金を使ってしまうということだ(旅行や食事がダメなわけでなく、度をこえてしまうのがダメだと言っているので、誤解なきよう)。
さらに買い物についても衝動買いをしてしまったりして、本来は計画的に支出していくべきなのだが、それがなかなか出来ないという状況に陥ってしまう場合がある。
これらの心理・行動経済学は、報酬系と密接に絡んでおり、前述したマシュマロ実験でどのような行動をとる子供かによって影響の受け方は異なっているだろう。
でもって、計画的に資産形成をしていくうえでは「目先のことばかりに目を向けがちな報酬系は幸せに結びつきにくい」と表現できることができる(あくまでお金と幸せを結びつけた際の話)。
いやいや、意志の力は弱くて良いよ。刹那的に生きることにもメリットはあるよ
進化の過程において、前述したように「意志力が高く、将来的なことまで考えて選択していける個体(ドーパミンに依存しない個体)が利得を大きくするのに(一方的に)有利であれば、数世代も経てば、そんな個体ばかりになっていくはず」だが、現実を見てみると、どうも違うようだ。
これは以下を意味する。
例えば生物にとって非常に重要な「子孫を残す」という点からは、自制心があまり働きすぎないほうが有利と言える。
「経済的に大変だから子供をつくらないでおこう」と考える人々のグループよりも「経済的に大変でも、子供を作りたい」、あるいは単に「子供が出来てもいいからとにかくセックスしたい」というグループの方が、次世代以降の子供の数が多くなることは明らかだ。
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