この記事では、リハビリ(理学療法・作業療法)で活用される「肩甲骨・骨盤に対するPNFパターン」を記載していく。
ただし、ここに記載されている内容は、PNFパターンの基本を押さえつつも、自身が活用し易いようにアレンジしている部分もある。
また、表現方法に関しても重要なポイントは強調したり、あまり重要でないポイントは割愛したりと、アンバランスな表現方法になっている点は了承願いたい。
念のため、イメージしやすいように動画も掲載しているが、文章と合致していない細かなカ所がある点は注意して頂きたい(ザックリとイメージを持ってもらうと言う意味で動画は活用して頂きたい)。
きちんとしたPNFパターンを学びたい方は、後述する書籍、あるいは研修会で学んでみてほしい。
※地域によっては、平日の夜を使って数時間無料(あるいは低額な受講料)で学べたりと、様々な勉強方法があるので是非調べてみてほしい。
PNFパターンの基本的なポイントについては『PNFパターンを解説!』を参照。
目次
肩甲骨の後方下制パターン
以下の動画は「肩甲骨の後方下制」を解説している。
歩行肢位にて、肩甲骨の合わせて自身の重心も落とせているている。
関連記事⇒『徒手理学療法に歩行肢位を活用しよう』
体の使い方が理解しやすい動画であり、パターン自体にも非の付け所がないのではないだろうか?
肩甲骨後方下制パターンのポイント
ここから先は、肩甲骨後方下制パターンに関するポイントを記載していく。
- 一側手の母・小指球で肩甲骨下角包み込むようにホールドする。
- 反対手は肩甲骨にかかっていれば肩甲棘でもどこでも良い
- 肩甲骨下角へ抵抗をかける
1時から7時の方向がグルーブとなる。
なおかつ外側(天井側)から内側(ベッド側)へ弧を描くような運動パターン
- 肩甲骨下角包む上肢の肘はグルーブ内に入っているように つまりセラピストは肘を開き過ぎないように(前腕の近位~遠位まで全てが抵抗運動中は常に背中に接触した状態であれば、1時→7時の方向という「運動の軌跡」がブレにくい)
- 最終域のイメージは患者が少し胸をはって、更に肩甲骨内転・下制で僧帽筋や菱形筋が収縮するように。
- 最終域で時間的荷重を実施することで、抵抗が最終域で抜けないように心がける。
時間的荷重により対象者が努力によって肘伸展(+肩伸展)が起こる場合がり、その場合は上肢がセラピストの邪魔になることがある。その場合は、対象者に反対側の前腕把持してもらいながら肩甲帯を動かしてもらうと良い。
右肩甲骨へのPNFを実施しているのであれば、対象者自身の左前腕を右手で把持してもらった状態で右肩甲骨を動かしてもらう。
※左前腕を右手で把持するためには右肘は屈曲しておかなければならない。
あるいは、療法士は肩甲骨下角ではなく肘へ抵抗を加えたほうが上手くいくケース多い(私は臨床でこの方法を多用している)。
※肘への抵抗の良い点は、対象者の肩甲骨下角に接触させたセラピストの手がすっぽ抜けてしまうことが無くなる点である。
肘への抵抗に関する動画は以下を参照
※この動画は、後述する肩甲骨の前方拳上と後方下制(肘への抵抗バージョン)を交互に実施している。
この動画は頭側から撮影されているので、PNFパターンが単なる2次元的な動きではなく3次元的(腹・背側な動きも含む)であるという点がイメージしやすいのではないだろうか?
- 肩甲帯のパターン全般に言えることだが、抵抗は弱くてかまわない(いわゆる適刺激)
抵抗を強くしてしまうと対象者が途中(最終域の手前)で動きを止めてしまうことがある。
これを防ぐためには、抵抗は弱くて良いので最終域付近で時間的荷重を強調しておく(もちろん、セラピストが加える抵抗量はグルーブ内で常に一定ではなく、各可動域に適した抵抗量へ調整する必要がある)。
また、強い抵抗を加えない代わりに時間的荷重(「もっと(肩甲骨を)下げて)・「まだ下げて」といった声かけなど)を必要に応じて活用する。
最終域で等尺性収縮を加えるなどの工夫をすると最終域までの運動を意識し易い。
肩甲骨後方下制パターンの臨床応用
開始肢位でクイックストレッチを加えた状態にて軽めな負荷で等尺性収縮を加える→僧帽筋・菱形筋のスパズム軽減
最終肢位で強い負荷や時間的荷重を加える→運動単位が動員され筋力向上
肩甲骨後方下制パターンの注意点
最終域での時間的荷重を頑張るあまり腰椎回旋も出てしまうことがあるので注意。また、開始肢位の段階で体幹が回旋してしまっていないか確認してから行う。
うまくいけば、連鎖として骨盤挙上を引き出せる事もある。
肩甲骨後方下制パターンの動筋
- 前鋸筋(下部)
- 僧帽筋下部線維
- 大・小菱形筋
- 広背筋
肩甲骨後方下制パターンの機能的活動性
肩甲骨後方下制パターンは、体幹伸展、体幹の回旋、松葉杖歩行、体幹の持ち上げ動作(プッシュアップ)などの動作の促通に用いられることがある。
肩甲骨の前方挙上パターン
以下のPNF動画では、まず「肩甲骨の後方下制パターン」を解説し、次に「肩甲骨の前方挙上パターン」を解説している。
※後方下制パターンに関しては、復習もかねて観覧してみてほしい
肩甲骨前方挙上パターンのポイント
ここから先は、肩甲骨前方挙上パターンに関するポイントを記載していく。
- 声かけは「耳の前に肩上げて」でOK
この声かけだと稀に、(腹側を意識し過ぎて)極端に前方へ挙上させる人いるので、そういう人には杓子定規に考えず、「耳へ肩を上げて」で丁度良い場合多いこともある。声かけも何事も臨機応変に。
- 接触方向(肩甲帯の腹頭側)にコンタクトする
ただし、肩峰1点にだけ引っかけた場合、点の圧なため不快であったり、対象者が運動方向を理解出来なかったりするので注意 。
- 手は重ねて接触させる
重ねずに広範囲に接触させてしまうと、(肩峰1点だけに引っかけた場合とは逆に接触面が広範すぎて)抵抗運動の方向が理解できなくなる。
- 肩甲骨へは弧を描くように抵抗を加える
(誇張した表現として)PTはのび上がるように
- グルーブを意識
7時から1時の方向に向かって歩行肢位
1時の方向は、正中位より若干腹側なだけだが、運動方向がもっと腹側(2時の方向など)になり易いので注意。
※狙っている運動ではなくなり、賦活される筋群も異なってくる。
- 抵抗をかけたままで、最終域まで動いてもらうことが大切
最終域の少し手前で、セラピストが抵抗力を抜いてしまわないよう注意。
時間的荷重を用いたり等尺性収縮も活用したりで、狙っている筋群へ刺激を加える。
- 臨床では骨盤後方下制と連動して用いることが多い
例えば骨盤後方下制力が乏しい人に肩甲骨前方挙上位で等尺性収縮を加えて固定した状態なら、骨盤下制力を入れやすかったりする。
↓
この肩甲骨と骨盤の動きでエロンゲーション(側屈)を引き出すことが重要。
エロンゲーションは、肩甲骨前方挙上が出来ているかの一つの目安になる。対象者の背側に立っている療法士からだとエロンゲーションが視認しにくいかもしれないが、治療台と脇腹に隙間ができていたらOK。
肩甲骨前方挙上パターンの動筋
- 肩甲挙筋
- 前鋸筋
- 大・小菱形筋
肩甲骨前方挙上パターンの機能的活動性
この肩甲骨前方挙上、前方への寝返り、体の前に手を伸ばす、歩行関連動作を促痛するためにも用いられる。
体重を支持した同側の立脚後期と対側の体幹の遊脚期の動きを、このパターンを利用することで促痛することができる。
肩甲骨の前方下制パターン
以下の動画は、肩甲骨の前方下制パターンと後方挙上パターンを実施している。
前置きが長いので、パターンだけ確認したい方は、2分20秒から再生してみてほしい
PNFパターンは四肢も含めて全てに言えることがだ、療法士が手を当てる部位に関して「運動方向のみに用手接触させる」という原則がある。
※対象者に運動方向を理解してもらったり誘導しやすいとの理由から。
でもって、この動画は「PNFの原則」を忠実に守っている。
※つまり、腋窩に手を入れ込んでいる
一方で、原則から外れる「例外」もあり、肩甲骨の前方下制に関しては「上腕を両手で腹・背側から挟み込むようにして把持する(つまり、運動方向への用手接触ではない)」でOKと指導されることも多い。
でもって、正確なPNFパターン、あるいは狙った反応が引き出せているのであれば、全てのPNFパターンにおいて原則か外れても構わないと個人的には勝手に解釈している。
肩甲骨前方下制パターンのポイント
ここから先は、肩甲骨前方下制パターンに関するポイントを記載していく。
- 声かけは「肩を臍の方へ引いて」や「引いて」などでOK
- 療法士は対象者の頭背側へ立ち、尾側へ向かって歩行肢位
- 療法士は脇を絞って、両手とも虫様筋握りで上腕近位部を腹・背側から挟むようにコンタクト
※運動方向に用手接触させるのがPNFパターンの基本(この場合は脇の下への接触)だが、それでは不快なので原則から外れる。
※もし患者の頭側に壁がある(例えば訪問リハビリ先など)ようであれば、少し難しいが腹・頭側にセラピストが立って実施しても全く問題ない。
- 対象者の運動する側の肘が不安定であれば、非運動側の前腕を握っておいてもらうことで安定させる
※肩甲骨後方下制パターンで記載した内容を参照
- 腹筋優位な寝返りが適用となりそうな際は、腹筋群の賦活を目的に実施することもある。
(例)左側への寝返り練習の場合は、左側臥位にて右肩甲骨前方下制を実施
- 脊柱の生理的彎曲に配慮
脊柱を生理的前彎にした状態で上手く運動パターンを引き出せれば、運動連鎖として骨盤後方挙上も引き出せる(骨盤後方挙上は背筋・腹筋を同時収縮させたい時に用いる。円背でニュートラルに出来ない人は、その分股関節屈曲角度を浅くしたら、側屈可能で同時収縮できる可能性あり)。
あるいは、あえて腰椎やや後彎位で実施すると腹筋有意となるため、起き上がり練習になる。
↓
腰椎の彎曲具合で同じパターンなのに腹筋・背筋の収縮割合が全然違ってくる。
- 前方下制運動の中間~最終域では母指の接触はなくしておく
これは肩甲骨の外転方向への刺激を避けるためである。例えば、どうしても上腕が正中方向にしか動かなかったとする(腹尾側へ動かないということ)。その際は、背側手のタッチを軽くし、腹側のタッチを強くすると同時に「私の前(腹側)の手を少し押すようにしながら」と口頭指示するなどが有効。
肩甲骨前方下制パターンの動筋
- 大・小胸筋
- 前鋸筋
- 大・小菱形筋
肩甲骨前方下制パターンの機能的活動
歩行時の上肢前方振りと下肢蹴りだしを促通する際に用いる。
前方への寝返り・前方への上肢の伸展に用いる。
肩甲骨の後方挙上パターン
肩甲骨の前方下制の動画と全く同じだが、念のため掲載しておく。
※後方挙上パターンは3分50秒くらいから実施される。
肩甲骨後方挙上のパターンは、他の肩甲骨パターンと比べて学習が難しい傾向にあるので、リプリケーションを活用する場合も多い。
肩甲骨後方挙上のリプリケーションは以下の通り。
①後方挙上位で等尺性収縮
②中間域から最終域までの範囲で求心性収縮
③全範囲での求心性収縮
と段階を踏んで範囲を広げていく。
肩甲骨後方挙上パターンのポイント
ここから先は、肩甲骨後方挙上パターンに関するポイントを記載していく。
- 全ての肩甲骨パターンに言えることだが、強い抵抗は必要ない
- 肩甲帯のパターン全般に言えることだが、抵抗は弱くてかまわない(いわゆる適刺激)
抵抗を強くしてしまうと対象者が途中(最終域の手前)で動きを止めてしまうことがある。これを防ぐためには、抵抗弱は良いので最終域付近で時間的荷重を強調しておく(もちろん、療法士が加える抵抗量はグルーブ内で常に一定ではなく、各可動域に適した抵抗量へ調整する必要がある)。
また、強い抵抗を加えない代わりに時間的荷重(「もっと(肩を)挙げて)・「まだ挙げて」といった声かけなど)を必要に応じて活用する。
あるいは、最終域で等尺性収縮を加えるなどの工夫をすると最終域までの運動を意識し易い。
- 肩甲骨後方挙上は屈曲・外転・外旋の上肢パターン(の最終域で必要な動き)でもある。
- このパターンを利用して(収縮後弛緩の作用にて)筋スパズムが改善される可能性がある。
方法:
①側臥位で枕から頭を降ろして頸部屈曲・側屈(+どちらか伸張される方へ回旋)で僧帽筋を伸長する。
天井側上肢は肘伸展位で腹側へ垂らす。
療法士は肩甲帯を下制位で保持、あるいは天井側手首を把持して肩甲骨下制方向にトラクションをかけながら、反対側は頭部が伸展+天井側に側屈しないよう保持する。
②手関節伸展してもらい、それに掌側方向への等尺性収縮を加える。
③PIRと同様に次の筋障壁まで頭部を屈曲させる
④この一連の流れを繰り返す。
※健常者では首柔らかいから、かなり頚部屈曲しないと効果ない。
※伸張位で実施するが、あくまで痛みが出ない範囲!絶対守ること。
※僧帽筋でも前部線維の方を伸長しようと思うなら、天井側の手は背側に垂らした状態で手関節背屈に抵抗。
肩甲骨後方挙上パターンの動筋
- 僧帽筋上・中部線維
- 肩甲挙筋
肩甲骨後方挙上パターンの機能的活動
後方への寝返り・シャツを被る動作など
骨盤のPNFパターン運動における主動筋群
ここから先は、骨盤のPNFパターンについて記載していく。
各PNFパターンにおける主動筋群は以下の通り。
運動 | 主動筋群(Kendl and McCreary 1993) |
---|---|
前方挙上 | 内・外腹斜筋 |
後方下制 | 体側の内・外腹斜筋 |
後方挙上 | 同側の腰方形筋・同側の広背筋・腰腸肋筋・胸最長筋 |
前方下制 | 反側の腰方形筋・腰腸肋筋・胸最長筋 |
ただし、開始肢位を崩すことや、運動方向や抵抗量を変えるなどによって様々な反応を引き出すことが可能となる。
骨盤の前方挙上パターン
以下の動画は、骨盤の前方挙上パターンを解説している。
※1分過ぎから実際のPNFパターンが観れる。
骨盤前方挙上パターンのポイント
ここから先は、骨盤前方挙上パターンに関するポイントを記載していく。
- 「腸骨稜とASISの間」を把持する
ついついASISに指を引っかけてしまいがちだが、ASISではなく「腸骨稜とASISの間」を把持する。
理由は、ASIS把持では痛み生じる可能性があることや、運動方向が腹側になりすぎてしまうからである。
※つまり「7時から1時の方向」ではなく「8時から2時の方向」なグルーブになってしまい、狙っている運動パターン・筋収縮が得られないといこと。
- 歩行肢位の向きは肩甲骨前方挙上⇔後方下制のグルーブと平行なまま。
- リズム的開始法における他動運動では一側手は坐骨結節に当てて行うと操作しやすい。
- 脊柱はニュートラル(生理的彎曲)な状態でスタート
骨盤前方挙上により腰椎屈曲・側屈(+回旋)が起こる。
ただし、腰椎の動きは小さくて良く、ダイナミックな動きを狙うものではない。
側屈は腹斜筋が働かないと起こらないため、きちんと側屈が起きているかを確認するのは重要である(この手技は特に腹斜筋を促通したい時に用いるから)。
この手技は腰痛患者で腹筋が使えていない人(腰背筋の筋緊張が高い人)への相反抑制としても有効である。回旋は屈曲と側屈が起これば必然的に生じる付随運動であり、回旋を意識しようとすると変な動きになる(例えば側屈が出ない場合がある)。
- PNFパターンの応用①⇒代償も活用して目的筋を賦活
天井側の上肢でベッドの端を把持してもらった状態で骨盤前方挙上する。
→天井側手でベッドをつかんで固定として作用するため、肩関節伸展筋を促通することも出来る。これは上肢の力を利用して弱化した骨盤前方挙上筋をサポートしたエクササイズにもなるということ。
これは、悪い言い方をすると「代償してしまっている」ということ。
ただし、骨盤帯の収縮が学習されていくうちに上肢のサポートは必要なくなってくる場合が多い。
つまり、目的とする運動パターンの学習・目的筋群の賦活が得られたら、上肢の固定無しで実施するなど難易度を調整していくこととなる。
難易度調整は、ここで記載した「上肢の使用」以外にも、抵抗量を弱めから始めたり、リプリケーションを実施する様々な方法がある。
- PNFパターンの応用②⇒等張性運動の組み合わせを用いる
求心性→等尺性→遠心性の順に行うことを「等調整運動の組み合わせ」という。
遠心性収縮による腹筋群のコントロールの学習は非常に重要である。遠心性収縮時の声かけは「骨盤を私が下げるので、ゆっくりついてきてください」な対象者の反応が良いものを選択。
骨盤前方挙上パターンの機能的活動性
歩行の遊脚時や前方への寝返り動作時など
骨盤の後方下制パターン
以下の動画は骨盤後方下パターンを解説している。
このパターンは前述した「前方挙上パターン」と共に臨床で活用しやすいPNFパターンと言える。
骨盤後方下制パターンのポイント
ここから先は、骨盤後方下制パターンに関するポイントを記載していく。
- 腰椎はニュートラル(生理的湾曲)な状態からスタート
- 坐骨結節に手を重ねた状態でコンタクトする。
- 1時から7時の方向がグルーブとなるため、そのグルーブと並行となるよう頭側へ向かって歩行肢位をとる。
- 対象者は腰部を側屈させることにより弧を描くような運動となるよう、療法士は抵抗を加える。
※つまりセラピストは膝を曲げながら重心を落としつつ抵抗を加える。
殿部は肩甲骨と比べて軟部組織が厚いのため、開始肢位の段階で、坐骨を少し強めに押さないと患者が押す対象物である手や運動の方向が分からない。
一方で(脊柱が生理的な彎曲でPNFパターンを実施するが)女性の場合はクイックストレッチを強くしすぎるとその刺激によって更に腰椎が前彎した状態からスタートすることになってしまうことがある。
すると、パターン的に更に腰椎伸展する方向に動くことにより、尚且つこれでは肝心な側屈も引き出せない。
つまり、スタート時に過度な前彎になっていないか、あるいはクイックストレッチによって前彎方向へ脊柱が動いていないかをモニタリングしながら行う。
- 骨盤後方下制により腰椎は伸展・側屈(+回旋)する
骨盤後方下制により腰椎は伸展・側屈(+回旋)するが、回旋は伸展・側屈させたら自然と出てくるものであり、回旋を意識しすぎると正しいPNFパターン運動からズレた動きになってしまうので注意。
- クイックストレッチ
個人的には、クライアントの運動へセラピストの抵抗のタイミングを合わせるためにも、クイックストレッチは非常に重要な要素だという印象を受ける。
クイックストレッチやリプリケーションを用いることで、高齢者などボディーイメージが崩れている人でも容易に運動パターンを学習でき、狙った筋収縮が得られる。
また、実施するために必要なスペースも少なくて良いため、(柵で囲まれた)ベッドでも容易に可能と凡庸性も高いのでオススメなPNFパターンの一つと言える。
- PNFパターンの臨床応用
骨盤後方下制だけでは体幹をあまり使ってくれない人に対しては、天井側の上肢を挙上位でベッドに手をつき尾側に体を押してもらうと後方下制をサポートできる。
寝返りが出来ない人の準備段階として用いることも出来る。
機能的活動性
ジャンプや階段昇降、ハイステップのような最終立脚活動でこの運動が観察できる。
骨盤の後方挙上パターン
以下の動画では、まず「骨盤の後方挙上パターン」を解説し、次に「骨盤の前方下制パターン」を解説している。
動画の後半(4分25秒くらいから)では、(骨盤ではなく)足部に抵抗を加えての「後方挙上パターン」も実施している。
動きが小さく、対象者自身も療法士の指示通りな運動を正確に遂行できない場合もあり、比較的難しいPNFパターンに分類される。
運動は求心性収縮のみならず、等尺性や遠心性収縮なども用いられる(どのPNFパターンにも言えることだが)。
骨盤後方挙上パターンのポイント
ここから先は、骨盤前方下制パターンに関するポイントを記載していく。
- 骨盤後方挙上の動きを理解してもらう
前述したように、このPNFパターンは動きが小さいことや、骨盤後方下制とは異なり学習しやすい方法がないので、ピンとこない患者が多い。
これを解消する一つの方法として、まず前方下制を学習させてから「それを戻す方向」という声かけで運動を指示すると、すんなり学習してもらえることがある。
- PNFパターンの手順
まずは腸骨稜後方と坐骨をそれぞれの手で前方下制方向へエロンゲーション(=屈曲・側屈)させる。このエロンゲーション忘れることがあるが重要なポイントである。
その後、坐骨側の手を腸骨稜後面を把持した手に重ねる。これがスタートポジションとなる。歩行肢位で肘はしっかり絞っておく+肘軽度屈曲位で。
そこから骨盤後方挙上(=腰椎伸展+側屈+αとしての回旋)させる。弧を描くような運動方向なので、その軸と肘が合うように体を落としていく
機能的活動性
こんのPNFパターンは、後進歩行で見られる。
また、骨盤前方下制の遠心性収縮を学習するための手段として、併用される場合もある。
骨盤の前方下制パターン
骨盤の後方挙上パターン動画と全く同じだが、念のため掲載しておく。
※前方下制パターンは3分50秒くらいから実施される。
骨盤前方下制パターンのポイント
ここから先は、骨盤前方下制パターンに関するポイントを記載していく。
- 開始肢位では生理的な前彎位であることを確認。
- 両手を重ねて大転子に指を引っかけるように用手接触(爪は立てないように)
- PNFパターンが理解できない場合
もし患者が運動パターンを理解できないなら、一側手は大転子へ引っかけ、反対手は膝に当てつつ「(私の)手を膝で押して」という声かけだと理解し易い。
(正式には両膝間にクッションをはせるが、臨床では下の足の上に足のせるポジションにするだけで用いないことが多い)。
- 左側臥位であれば右骨盤前方下制で腰椎は(相対的に)右回旋する(左側屈と屈曲が出れば自然と回旋も出る)。このパターンでは、特に左側屈を引き出すことが出来るかが重要。
- 前方下制の動き
動きとしてはASISはほとんど動かず支点になり、坐骨が動く感じ→これにより7時の方向にある大腿長軸方向への動きとなる。
これにより、腹筋群働きながらも背筋群の同時収縮が可能となる。
また、股関節屈曲角度を増やして大腿長軸上に働かせばより腹筋優位になるなどの微調整も可能(ただし、腰椎の生理的前腕が残存する程度で実施)。
- クイックストレッチの方法
開始肢位からの筋伸張(クイックストレッチ)は重要だが、このPNFパターンではクイックストレッチをかけにくいと。
従って、『一側手はASIS・反対手は坐骨結節でそれぞれはさみ組むように把持する』という手法によってクイックストレッチを強調できる。
※つまり、肩甲骨前下制と同様に、セラピストの手は運動方向のみに接触させるという原則から外れる。
※坐骨結節に触刺激が加わることで、このパターンを学習しにくいのであれば、大腿を下からすくうように回して、セラピストの手を膝に当てる(坐骨には肘が当たる)。この状態で「膝で私の手を押すように」と指示することで運動を実施するが、開始肢位でしっかり側屈・伸展が出ているかをモニタリング(手が使えないのでセラピストのボディーメカニクスで作る)。
- このPNFパターンが対象となる例
腰痛の人で、背筋群や腰方形筋の短縮があるクライアントが対象となる場合がある。
あるいは、ヒールコンタクト時の骨盤安定性にもつながる。
ヒールコンタクトで活動する筋群のメインは股関節外転筋だが、体幹スタビライズとして骨盤底筋も収縮していると言われており、骨盤底筋や腹筋群など補助的に活動する筋群の促通にもなっている。
階段を降りる際にも、骨盤前方下制に必要な筋群の遠心性収縮も重要。
骨盤前方下制パターンの機能的活動性
日常生活動作において骨盤の前方下性パターンの動きは、遠心性の動作(階段を降りる際、振り出しの最終)などの動作に見られる。
これらの動作を促通するために、骨盤後方挙上と遠心性の収縮を両手で抵抗を加えて促通することができる。
肩甲骨前方下制を利用して、骨盤前方下制を制限している筋群を緩める方法
この記事のおまけとして、前方下制を制限している筋群(後方挙上パターンで収縮する筋群を含む)の緩めかたを記載していく。
骨盤前方下制位から遠心性収縮しながら骨盤後方挙上位になれることは歩行立脚初期には重要なのでPNFの学習必要となる。
しかし、骨盤の前方下制に(筋原性な)可動域制限が生じていては意味をなさないため、筋を緩めて伸張出来る(前方下制出来る)状態にしておくことが大切。
ここでは、肩甲骨前方下制パターンの等尺性収縮後弛緩テクニックPIRを用いた筋を緩める方法は以下となる。
- ポジショニング
療法士は一側の手で、骨盤前方下制位で後方挙上しないよう止めておく
(つまり、骨盤後方挙上パターンの開始肢位)療法士の反対側手は、対象者の肘に当てておく。
(この肘に抵抗を加えることで、肩甲骨前方下制の等尺性収縮を実施)
- 肩甲骨への抵抗運動
肩甲骨の前方下制の等尺性収縮を実施。
等尺性収縮によって、固定点となっている骨盤の後方挙上筋も収縮してくる。
力を抜いてリラックスしてもらう。
※ここでのPNFパターン運動の目的は腹筋・背筋同時収縮ではなく、背筋を緩めることなため、「生理的前彎のある状態」ではなく、必要に応じて背筋が伸張される「腰椎後彎位」で実施する。
※つまり同じPNFでも目的に応じて使い分けること。
- 等尺性収縮後弛緩の効果
等尺性収縮後弛緩によって、骨盤後方挙上に寄与する筋のリラクゼーションが起こる(=骨盤前方下制方向へ可動し易くなる)。
更に、体幹伸展・回旋させ(クラフテクニックな方向)、そこから再度肩甲骨前方下制への等尺性収縮を実施(つまり①のより運動距離が長い)。
これを何度か繰り返し、脊柱の回旋・側屈可動域の拡大も起こす。
書籍やDVDでPNFパターンを理解
ここでは、視覚的にPNFパターンを学べるものを揃えてみた。
PNFパターンの様な運動は言語化した表現だけではピンとこないことも多いのので、ぜひ映像で理解してもらえればと思う。
上記は、書籍でありながらPNFの動画も網羅してあるので、コストパフォーマンスとしておススメである。
PNFパターンに関しても、ちゃんとした動画が観覧できる。
もう少しミッチリと動画でなびたいのであれば、『PNF の 治療 技術 : 臨床 応用 編1 ~ PNFの 最新 理論 と 腰痛 への アプローチ』 がおススメ。
PNFの基礎的な要素がかなり網羅されており、映像も踏まえて解説してくれた方が字面だけよりも頭に入ってきやすいと思う。
腰痛へのアプローチに関しても参考になる点が多かった。
※パート2PNF の 治療技術 : 臨床応用 編2 肩関節 への アプローチは個人的にイマイチだったが、こちらはおススメできる商品だと思う。
※もちろん、研修会に参加するのが一番である。研修会のメリットに関しては、以下でも言及しているので是非参考にしてみてほしい。
関節モビライゼーションの研修会・勉強会・講習会を教えます
PNFパターン関連記事
PNFパターンについて解説!
動画で解説!四肢のPNFパターン
PNFの概要を理解しよう!
筋の収縮様式(求心性/遠心性/静止性/等尺性/等張性収縮)
また、肩甲骨に関してはPNFパターンの様な「動的なアプローチ」の他に、『各種骨格筋に対するストレッチング』や『肩甲骨のモビライゼーション』といった「他動的なアプローチ方法」も重要なことがあり、それらとPNFパターンを組み合わせることも良くある。
以下には『肩甲骨モビライゼーション』に関しては以下を参考にしてみてほしい。
肩甲骨モビライゼーションで可動性を高めよう