この記事は、リハビリで使われる『歩行補助杖(cane・crutch)』の種類・特徴・選び方・使い方・調整方法などを記載していく。
以降は歩行補助杖を『杖』と表現して記載。
杖の特徴
リハビリに使用される『杖』の特徴は以下の3つである。
・歩行補助杖の主な目的は免荷
・歩行時の駆動と制動
・支持基底面の拡大
また、視力障害のある場合には、感覚情報入力を補う目的でも使用される。
杖の特徴① 免荷
杖を使用することで『免荷(めんか)』が可能となる。
ちなみに免荷とは「身体に体重が乗ることを減ずる」という意味で、完全免荷・部分免荷がある。
杖を2本使用したほうが、1本の使用よりも部分免荷や完全免荷が容易である。
でもって『免荷』と聞いて、一番に思い浮かべるのは松葉杖だろう。
一方で、高齢者が移動する際に一番使用頻度の高い『T字杖』に関しては免荷(部分免荷
の効果はほとんどないと指摘する人もいる(むしろ後述する支持基底面の拡大などによるバランス向上効果の方が大きいとの指摘もある)。
骨折後のリハビリ(理学療法・作業療法)として重要な「免荷の知識」に関しては以下の記事でも深堀しているので合わせて観覧することをお勧めする。
⇒『免荷(めんか)とは?部分免荷(部分荷重)や全荷重も含めて解説!』
歩行時の駆動と制動
杖を後方につくことで、プッシュオフ作用として駆動(推進力)に寄与する。
一方で杖を後方につくことで、ブレーキング作用による制動を得ることが出来る。
歩行におけるプッシュオフという表現については以下の記事も参照。
支持基底面の拡大
片脚立位での支持基底面は足底部分であるが、両脚立位の支持基底面は両足の足底部分とその間の領域に拡大する。
あるいは、同じ両脚立位でも閉脚よりも開脚でバランスが向上するのは、支持基底面が拡大するからである。
さらに、杖を用いることにより、支持基底面がより大きくなる。
以下の様に、「杖なし立位」と「杖(1本杖)あり立位」では、後者の方が支持基底面が大きいのが分かる。
そして、身体の重心線が支持基底面内にあるときに姿勢は安定する。
杖を用いることで、バランスの悪い患者であっても、重心線を支持基底面内に落とすことが容易になり、転倒を防ぐことが可能になる。
支持基底面や重心線についてピンとこなかった人は以下の記事でも解説しているので参考にしてみてほしい。
歩行補助杖の種類
日本語では杖と表記するが、人体との接点が1点のものを『ケイン(cane)』、2点以上のものを『クラッチ(crutch)』という。
ケインの種類としては以下などが挙げられる
- T字杖
- 多点杖(4点杖・サイドケインなど)
クラッチの種類としては以下などが挙げられる。
- 松葉杖
- ロフストランド杖
- 前腕支持クラッチ
ケインの種類
『ケイン』の中で代表的なものは以下の2つになる。
・T字杖
・多点杖(4点杖・サイドケインなど)
T字杖
握りがT字型になっていることから『T字杖』と呼ばれる。
ちなみに、アマゾンで高評価を得ているT字杖は以下になる。
ちなみにT字杖は1点で支えるため免荷機能は十分ではなく、T字杖のみでの完全免荷は困難である。
また、手の力が低下している場合などは使用が難しい。
T字杖自体の支持基底面は小さく・杖のみでは立たせることはできず、杖先をどこにつくかによって安定性が異なる。
最も多く使用される杖であり・材質・重量・デザインもさまざまである。
※ちなみにT字杖は長さを簡単に調節できるものがほとんど(昔は長さ調節が出来ず、長いと思ったらノコギリで切るなどしていたらしい)。
多脚杖
四点杖・サイドケインなどがある。
T字杖との大きな違いは、杖のみで立たせることができる点であり、安定性はT字杖よりも優れている。
※上記のメリットを好んで屋内様に多点杖を使っている人は意外と多い。
以下はアマゾンで好評かな4点杖となる。
※昔は「4点杖=重い」といったイメージがあったが、最近は4点杖は非常に軽くなっている。
以下がサイドケイン。
サイドケインでは支持基底面が非常に大きくなり安定性は高いがかさばることから折りたためる構造を持つことが多い。
T字杖では歩行が不安定な患者に多脚杖を使用させることで、安定した歩行が可能になることもある。
ただし、T字杖のように斜めに接地させるのではなく、真上から押さえて使用する必要がある。
※でもって、この様に真上から押さえるのが難しく、T字杖の方が安定する人もいるので一概には言えないが。。。
多脚杖はすべての脚が接地して初めて効果があるので、砂利道のような平面でない場所ではかえって転倒の危険が増してしまう。また、狭い階段や坂道でも使い勝手が悪い。
したがって、病院や施設などに限定して用いられることが多い。
ただし、最近は上記の様な「多点杖」の一般常識から外れるような商品も出始めている(特に4点杖)。
例えば以下などは、杖の最先端だけが四つ又になっているが、この位コンパクトな四つ又なら狭い階段や坂道も関係ないし、前述したように「真上から押さえつけなければ使用できない」といったことも無い(ただし、安定性という意味では若干劣るかもしれないが。
上記の商品は、LEDライトがついていたり、折りたためたりと余計な機能も付いているが、もっとシンプルで最先端のみ四つ又なものは(要介護認定されているのであれば)福祉用具相談員などに相談してみても良いかもしない。
クラッチ
クラッチにも複数の種類があるが、日本で使用頻度が高いのは『松葉杖』と『ロフストランド杖』である。
松葉杖
腋窩支持型といわれるが、腋窩で支持をさせると神経や血管を圧迫するので、実際には腋窩より2~3横指程度下の位置で、上腕と体幹で支える。
1本または2本使用することで、部分免荷から完全免荷まで可能である。
松葉杖は骨折や捻挫時に、一時的に使用することも多く、そのような場合は病院が貸してくれることがほとんどである。
ちなみに松葉杖では、大振り歩行、小振り歩行なども行うことができる。
※松葉杖に関しては、以下の記事でもっと深堀した解説をしている。
ロフストランド杖
前腕と手の2点で固定されるため、ケインよりも安定し、松葉杖の様に腋窩への圧力も生じない。
上肢の筋力低下や失調などによりケインをうまく把持できないときにも有用である。
ちなみに、アマゾンで人気なロフストランド杖は以下になる。
前腕支持クラッチ
プラットホーム式とも呼ばれ、関節リウマチや外傷などにより手や手関節での荷重支持が困難な場合に使用する。
杖の長さ
杖を使用するためには、杖の長さを使用者に合うよう調節する必要がある。
でもって、昔は(例えばT字杖などは)長ければノコギリで切り落とすなど一発勝負的な調節が必要だったったり、調整に時間が必要だったりしたかもしれないが、現在では簡単に調整、再調整が可能な作りになっている。
ここではcane(T字杖)の調整方法について記載していくが、松葉杖の長さ調整について知りたい方は以下の記事を参照してほしい。
T字杖の長さ調整
杖の長さは、いくつかの基準が存在し、具体的には以下のなどが挙げられる。
①杖を大転子の高さに合わせる
②杖を橈骨茎状突起(手首に出来るしわの部分)に合わせる。
③杖を前方15cm、外側15cmに接地させた状態で、肘関節が20~30°屈曲できる長さ。
ただし、①の「杖を大転子の高さに合わせる際」は以下の点に注意する必要がある。
あるいは②の「橈骨茎状突起に合わせる際」は以下の点に通いする必要がある。
①②は一瞬にして杖の長さを調整できるというメリットがあるが、上記のデメリットもあるので、ベストは③の「杖を前方15cm、外側15cmに接地させた状態で、肘関節が20~30°屈曲できる長さ」であり、以下のイラストも参照してみてほしい。
※この際に、肩の高さも自然になっているか(肩甲帯の挙上や下制が起こるなどで不自然になっていないか)も確認する。
また、ここま述べてきた「杖の適切な長さ」は疾患や病態によって必ずしも同一ではないので、使用者に合わせた調節が必要となる。
※あくまで目安として参考にしてもらいたい。
杖を持つ側
一般に、杖は健側(非患側)で使用することが推奨されている。
その理由は以下の2つで説明されている。
- てこの原理
- 支持基底面
てこの原理:
例えば立位保持を考えた場合に、健側(非患側)に杖をつくほうが、患側に杖をつくよりもてこの原理から患側にかかる荷重を小さくできる。
支持基底面:
支持基底面も明らかに健側(非患側)に杖をついたほうが大きい。
さらに、患側に杖をつく場合には、支持基底面が患肢から外側にあるため、体を安定させるためには患側への重心移動が必要になる。
また、片麻痺では患側の上肢に麻痺があることが多く、患側での杖保持が困難であることも多い。
上記が一般論として言われている考え方である。
しかし、現実には、患側に杖をついたほうが安定した歩行が可能な患者も存在するので「杖は健側(非患側)に持つ」と固執する必要はない。
運動器疾患で患側の免荷を必ずしも要しない場合には、利き手に杖を持たずフリーにすることを好む患者もいる。
杖を使用した「2動作歩行」と「3動作歩行」
以下のイラストは、左が「2動作歩行」、右が「3動作歩行」となる。
※どちらも右側が患側である想定
※いずれのイラストも、右から左の順に観覧してほしい(左から右の順ではない)。
2動作歩行:
①杖と左下肢(患側)を出す。
②(杖と左下肢で荷重しながら)右下肢(非患側)を出す。
3動作歩行:
①杖を出す。
②左下肢(患側)を出す。
③(杖と左下肢で荷重しながら)右下肢(非患側)を出す。
脳卒中片麻痺の歩行
余談として、脳卒中片麻痺のT字杖歩行について記載して終わりにする。
脳卒中片麻痺患者の歩行当初は3動作歩行(杖→麻痺足→非麻痺足の順で杖をだす)で、杖を出してから麻痺足が振りだされるまでの時間が長いが、次第に短くなり、最後には2動作歩行(杖と麻痺足が同時に出る)となる。
※あくまで一般例。麻痺の程度によって異なる(急性期から杖が不要な人もいる)。
また、3動作・2動作歩行に関わらず、杖を使用した歩行時の麻痺足・非麻痺足の位置関係によって以下の分類をすることもある。
- 相反型歩行:
非麻痺足・麻痺足が交互に前方へ出るもの
(非麻痺足にフォーカスして『前型』と表現する場合も)
- そろい型:
先に出た非麻痺足に、麻痺足が横にそろうもの
- 麻痺足前型:
非麻痺足がいつも麻痺足の後ろをついてくるもの
(非麻痺足にフォーカスして『後型』と表現する場合も)
- 非麻痺足前型:
麻痺足がいつも非麻痺足の後ろをついてくるもの(前型の一種)
でもって、麻痺足前型→そろい型→相反型と改善していく例が多い。
「杖を使用した麻痺側前型」が一番安定しており、「杖なし相反型」が一番不安定(難易度が高い)のだが、『セントラルパターンジェネレーターを賦活する』という観点からは、装具を着用したり、セラピストのハンドリング下(後方介助など)でも良いので『(杖あり・無し問わず)相反型』が推奨される。
※もちろん十分なリスク管理下、尚且つ歩行能力を十分見極める必要はある。
そんな『セントラルパターンジェネレーター』に関しては以下の記事も参照してみてほしい。
歩行リハビリで『CPG(セントラルパターンジェネレーター)』を賦活せよ!
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