この記事では、免荷・部分免荷(部分荷重)・全荷重という用語について解説していく。
免荷(めんか)とは?
免荷とは、以下を指す。
ただし、手首の骨折(コーレス骨折など)の術後一定期間は手をついてはいけない期間が存在し、それも『免荷』と表現できるので、別に下肢に限った話ではない(ただ、下肢に使用される頻度が圧倒的に高いだけ)。
※ちなみに、『免荷』の反対語は『荷重(weight-bearing)』
でもって免荷と言われた場合「完全免荷」を指している場合が多いが、厳密には以下の2つに分類される。
・完全免荷(non weight bearing;NWB)
・部分免荷(partial weight bearing;PWB)
※ただ、部分免荷は『部分荷重』と同義であり、こちらで表現されることが多い。
※なので部分免荷という言葉は馴染みが無いかもしれない。
ちなみに免荷が必要ない場合は以下の表現となる。
・全荷重(full weight bearing;FWB)
完全免荷中の移動は、車椅子や松葉杖を使用するのが一般的である。
部分免荷の種類
先ほど「免荷は完全免荷と部分免荷(部分荷重)にわけられる」と前述したが、部分免荷(部分荷重)は更に以下などに細分類される。
・足尖荷重(toe touchという用語が使われやすい)
・1/3荷重
・1/2荷重
・2/3荷重
・・・・・・・など
骨折により免荷をしている場合は、上記の荷重量を決定する原則としては以下が挙げられる。
・X線像での骨癒合状態確認
・荷重時痛の有無
※実際は「痛みに応じて1/2荷重までOK」などといった指示が医師から出たりする。
もしかすると「100%骨癒合が為されるまでは部分荷重なんてしなくて良いではないか、危険だし」とか考える人がいるかもしれないが、以下などの理由で、(骨癒合の程度に合わせて)部分荷重をリハビリしておいたほうが良い。
・・・・・・などなど。
体重負荷対策は、骨癒合が完成するまでは慎重に行い、骨癒合の促進を図ることが重要となる。
そのため平行棒や松葉杖に体重計を併用して活用することが多い(どのくらい体重をかけれているか視覚的に理解してもらえ、厳密な荷重制限ができる)。
松葉杖による完全免荷歩行
松葉杖による免荷を考えるにあたって、まずは松葉杖の使い方についてザックリ記載していく。
松葉杖は以下のイラストの様にして使用する。
※イラスト左が「小振り歩行」、右が「大振り歩行」になる。
※まぁ、若年者でなければ安全性も考えて小振り歩行を指導する。
※いずれにしても、雨天の屋外ではゴムでスリップする場合があるので注意すること!
でもって『免荷』に話を移すと、
上記の松葉杖歩行を理解した上で、患側下肢を浮かしながら歩行すると『完全免荷』になる。
あるいは、患側下肢に多少荷重をかけながら歩行すると『部分免荷』になる。
※ちなみに、イラストの様に両松葉を使用している時点で『部分荷重』にはなっている(患側下肢に全荷重が加わることはない)。
余談:完全免荷時における松葉杖を用いた起立・着座ってどうするの?
余談として「完全免荷時」に松葉杖を使用している場合、起立動作はどのように実施するのだろうか?
その答えは以下になる。
余談:完全免荷中の移乗はどうするの?
患側下肢が完全免荷な場合における移乗動作(ベッド⇔車椅子)は、若年者であれば単に「ベッド柵(あるいはアームレスト)を把持して、健側下肢だけで踏ん張って立ち上がり(患側下肢は浮かしておく)、ベッド(あるは車椅子)へ移乗する」と簡単である。
※脳卒中片麻痺などは「健側(非麻痺側)を移乗する側にする」というのがセオリーであるが、若年者の骨折であればあまり重要視しなくて良い。
一方で、高齢者で若干の認知症があったり緊張したりなどで、移乗の際に患側下肢にもついつい荷重してしまう人も存在する。
その様な人への介助方法としては以下などのアイデアなどがある。
平行棒内での完全免荷と部分免荷(部分荷重)
外来受診であるならば、松葉杖を貸し出して松葉杖歩行を指導して帰ってもらう。
一方で、入院している患者の場合は必ずしも松葉杖は使用せず、ある程度患側下肢に部分荷重出来るようになるまでは平行棒内でリハビリをすることも多い(自室⇔リハ室間の移動は、基本的に車椅子)。
※特に高齢者では松葉杖使用の習得が困難なことも多い。
ここから先は、そんな『平行棒と免荷』について記載していく。
完全免荷時と平行棒
完全免荷時は、車椅子へ移乗する際も患側下肢は浮かしておく必要がある。
でもって、平行棒内で歩行練習する際も患側下肢を浮かした状態で「両上肢と健側下肢の機能」によって歩行をする。
ただし、平行棒内でこの様な歩行ができる人は、松葉杖適応な人が多いので、この様な練習は一般的ではない。
でもって、完全免荷が必要な高齢者(松葉杖が使えない人)が平行棒で実施出来る内容としては「(患側下肢を浮かした状態で)両上肢で平行棒を把持し、健側下肢での立ち上がり練習」である。
健側下肢の筋力も廃用性の筋萎縮が起こり易く、特に高齢者では健側下肢の筋力を、この様にして維持しておくことは大切となる。
高齢者は、そもそも下肢筋力が若年者よりも強くないため(平行棒を把持して上肢の力を利用したとしても)健側下肢だけでは立ち上がれない場合もある。
その様な場合は、理学療法士・作業療法士が立ち上がりを介助してあげても良いのだが、座布団などを重ねて敷くことで椅子の座面を高くするという方法もある。
この点は、以下の記事でも同様な内容を記載しているので興味がある方は観覧してみてほしい。
平行棒内で部分荷重を学習しよう
医師の指示により、「完全免荷」から「部分荷重」へ移行出来る時期がやってくる。
その際は、(患側完全免荷状態で)松葉杖歩行をしていた人も、それまで歩行を実施していなかった人も、『部分荷重歩行』へとリハビリを進めていく。
具体的には平行棒につかまった状態で、以下の様な方法を用いる(あくまで一例)
ちなみに、部分荷重歩行のための荷重練習では、歩行中の加速度による荷重超過を想定し、設定荷重量の10%程度少ない荷重量を目安として実施すると良いとされている。
~静的立位における部分荷重の学習⇒部分荷重歩行~
- 体重計に乗り、患側下肢に徐々に荷重させ、許可した荷重量を体得させて行う(本人にも体重計を視てもらうことで現在の荷重量を確認してもらう)。
- 次に、視覚情報なしで荷重量をコントロールできるか確認していく。具体的には体重計をみずに徐々に患側下肢に荷重をかけもらい、許可された荷重量をオーバーしないよう練習を行う。
- ②が可能となれば、実際に部分荷重歩行をしてもらい、再び体重計に乗って目標とする免荷(許可された範囲での部分荷重)ができているか確認する。
荷重量の測定は、平行棒内に2台の体重計を設置し、それぞれの体重計に均等に脚を乗せた静的立位時の荷重量と片側下肢へ最大限に荷重した際の最大荷重堂の両方を評価することが一般的である。
最大荷重量は、片脚の最大荷重量を体重で除することにより、下肢荷重率を求め定量化することができる。
下肢荷重率は、下肢筋力や歩行自立度との相関があることが報告されている。
また体重計によって評価できる下肢荷重率の測定は簡便であり、平行棒内で測定可能なことから転倒リスクは低く、下肢支持性の低下した患者に対しても比較的安全に実施することが可能である。
加えて測定方法自体に高い再現性や妥当性を有する。
部分荷重訓練については,荷璽赦が少ないほうが足底から得られる荷重感覚が少なくなるため正しく荷蓮することが困難となる。
さらに、荷重量調節には患側下肢のみだけでなく、健側下肢や上肢筋力も影響するため、患者に合わせた歩行補助具を用いることが大切である。
~『骨折の治療指針とリハビリテーション』より引用~
~(補足)ステップ位での荷重練習~
少しだけ患側下肢を前方に出した状態(ステップ肢位)にて体重計へ乗り、患側へ体重をかけていくという方法もある(これも視覚情報あり⇒なし の順でコントロール練習を進める)。
~(補足)高齢者における部分荷重の注意点~
部分荷重の荷重量は、疾患や骨癒合の程度によって異なるが、高齢者では荷重量をうまく調整することができないこともある。
先ほど「設定荷重量の10%程度少ない荷重量を目安として実施すると良いとされている」と記載したが、上記を考慮した場合、もっと少ない荷重量で最初は練習したほうが良い場合もありケースバイケース。
部分荷重による歩行
高齢者では両松葉杖での免荷歩行が困難な例が多く、(ある程度の荷重許可が下りるまでは)歩行器を使用することも少なくない(あるいは平行棒内歩行のみにとどめ普段は車椅子移動か)。
歩行器であれば患側の足先だけを接地させる(toe touch)やすり足歩行も併用することで、荷重量をかなり抑制できる場合もある。
歩行器にもいくつかの種類があるが、上記の様に「前輪キャスター付き歩行器」を使用する場合は、歩行器を地面に押し付けて歩行器が固定された状態で下肢を振りだすよう気を付ける必要がある。
歩行器・歩行車の種類や選び方に関しては以下も参照。
⇒『歩行補助具(歩行器・歩行車・シルバーカー)の特徴・選び方を紹介』
多くは平行棒、松葉杖、ロフストランド杖、T字杖などを使用してヘルスメーターの上に荷重し、荷重量を足底と下肢全体の感覚でコントロールすることを学習させている。
部分荷重に関して健常人でも制限量が小さい場合は荷重量を超過し、逆に制限量が大きい場合は許容量より少ないとの報告がある(溝呂木,1983)。
荷重センサーを使用した部分体重負荷歩行の実験報告によると、平行棒は負荷重1/5の時期の歩行様式としてはつま先のみ接地の患側前型がよかった。またこのときの歩数は55歩前後での荷重コントロールが容易であった。
・・・・中略・・・・
また、荷重センサーを利用し聴覚フィードバック与えると、85%が適切な部分荷重が可能であったが、使用しないときには約半数が不正確であった。したがって厳密に1/3以下の細かい部分荷重にはフィードバック機器の導入が望ましい。
ヘルスメーターで行う場合は繰り返し部分荷重を行って、十分に学習してから歩行に入る必要がある。
しかし、高齢者や、知覚障害・変形性関節症を合併した場合には荷重訓練は難しい。
~『理学療法ハンドブック第3版 (3巻)』より引用~
荷重量 (体重比) |
歩数 |
歩行 (ケイデンス) |
1/5 |
平行棒 (toe touch) |
55 |
1/3 | 松葉杖 | 55-60 |
2/3 | ロフストランド杖 | 70-80 |
3/4 | T字杖 | ーーー |
~『理学療法ハンドブック第3版(第3巻)』より引用~
一般的に両松葉杖では、体重の80%の支持、片松葉杖では体重の20%の支持が可能である。
整形外科疾患で歩行訓練を行う際、治療上の理由で片側下肢を免荷する場合、免荷から1/2荷重までは両松葉杖、2/3~3/4荷重までは片松葉杖、3/4荷重以上はT字杖とする。
~『骨折の治療指針とリハビリテーション』より引用~
部分荷重における色々
あくまでも一つの目安ではあるが、以下の様な事が言われている。
部分荷重歩行:体重の1/3~1/2まで
両側に松葉杖を持たせて部分荷重歩行で、荷重コントロールが上手くいく。
部分荷重歩行:体重の2/3
「健側に松葉杖を持たせる片松葉杖歩行」で荷重量のコントロールがうまくいく。
※T字杖での免荷可能な程度は体重の4/5程度であり、免荷の目的として使用するよりはバランスを得るための補助具として考えたほうがよい(この免荷程度は文献によってまちまちであるが、あまり免荷という意味でのメリットは無いというのが多数派な意見となる)。
※ただ、「骨折にフォーカスした免荷」ではなく、「下肢の変形性関節症で生じる疼痛」などにフォーカスした場合は、免荷として機能するとの意見もある。
なので、運動器疾患による慢性痛などにたいしては、試しにT字杖などを活用してみても損はない(疼痛が緩和されれば、それは杖が免荷として寄与している可能性もある)
話を「骨折後の部分荷重」にもどして、、、
高齢者で片松葉杖(crutch)の使用が難しいケースでは、ロフストランド(cane)杖を使用するとうまくいくことも多い。
※ロフストランド杖が使用できる環境であれば、ぜひ試してみてほしい。
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