この記事では、理学療法士・作業療法士の治療対象となりやすい「慢性疼痛」という用語について考えていく。
急性痛と慢性痛という分類
痛みには様々な分類方法があり、例えば以下の通り。
①痛みを症状で分ける分類:
アロディニア
痛覚過敏
自発痛
灼熱痛
・・・・・・・・・・・など
②痛みの原因による分類:
侵害受容性疼痛
神経因性疼痛
心因性疼痛
そんな中で、以前より「急性痛」・「慢性痛」という分類が存在する。
ただし、急性痛・慢性痛に関しては、どれくらい痛みが続いているかという「期間」で決められていることが多いものの、「期間」について統一した見解は存在しない。
※国際疼痛学会は6か月以上持続するあるいは繰り返し発生する痛みを慢性痛と定義していますが、3か月以上を慢性痛とする意見(Waddell 1998)もあり様々。
また、慢性痛を「期間」として定めるのではなく、「痛みを感じている場所に病理所見が見当たらない痛み」の総称としてとらえる意見もある。
前者・後者のいずれにしても本来ならば消失してもおかしくないにも関わらず、いつまでも残存し続ける痛みは慢性痛に該当するようである。
また、後者が慢性痛の解釈を「痛みが持続している期間」で定めないのは、「病理学的所見の認められる疼痛(いわゆる侵害受容性疼痛・炎症性疼痛と呼ばれるもの)が長期にわたって存在するケース」を、慢性痛から除外するためだと思われる。
そして、この条件に該当する痛みとしては、例えば以下が挙げられる。
- 関節リウマチの疼痛
- がん性疼痛
・・・・・・・・・・・・・・・などなど。
これらの疾患は、疾患の特性上、次々と新たな侵害刺激が加わるために痛みが絶えない。
つまり、関節リウマチや癌による痛みは、奇妙な表現を用いるならば「急性痛が慢性的に生じている状態」と言えるかもしれない。
余談となるが、慢性関節リウマチという名称から「慢性」という言葉が外れて「関節リウマチ」と名称変更されたのは、この様な解釈からも妥当であったと個人的には思っている。
※ただし、名称変更の経緯は上記とは異なり、詳しくは以下も参照。
慢性痛は様々な要素が複雑に絡み合っている
いずれにしても、慢性痛に関して「期間」以外でなされる解釈を知っておくことは、痛みを多面的に考えるきっかけを与えてくれるのではと思う。
そして、慢性痛を「痛みを感じている場所に病理が見当たらない痛み」とするならば、侵害受容器の興奮を抑える薬剤(NSAIDsやステロイド性抗炎症薬)が効きにくいのは当然と言える。
ただし、「痛みを感じている場所に病理が見当たらない痛み」を、いわゆる「気のせい」などの心因性疼痛に直結させてはいけない点には注意が必要だ。
実際、心因性要素が痛みの原因を生むきっかけになり得る一方で、心因性要素そのものが痛みの原因になることは稀だと思われる。
※心因性要素が病理学的変化を生み出した結果の疼痛(ストレスから派生した胃潰瘍による痛みなど)がよく有るケースではないだろうか。
さらには、心因性疼痛(心に問題があために起こる疼痛)だと従来は思われていたものが、実は『脳の可塑的変化』『中枢神経感作』『末梢神経感作』といった神経因性疼痛の要素も含まれていることが分かってきている。
関連記事⇒『HP:感作(末梢性感作・中枢性感作)と脳の可塑的変化を解説!』
また、我々が臨床で遭遇しやすい診断名(例えば変形性関節症など)を受けたクライアントの長期にわたる疼痛であっても、それが「痛みを訴える部位に病理学的所見がほとんど見当たらないケース」な可能性がある一方で、何らかの原因で関節に侵害刺激が加わり易くなっていることで「急性痛を慢性的に繰り返しているケース」な可能性もある。
例えば、膝OAで長年痛みを患っているとしても、最近になって膝に熱感や腫脹といった所見が新たに加わった場合、期間としては「慢性痛」に分類されるが、炎症所見が認められた時点で「急性痛(侵害受容性疼痛)とも言えるだろう。
そして、前述した例を含めて「急性痛を慢性的に繰り返しているケース」であるならば、加わり続ける侵害刺激が多様な痛みの修飾を招き、急性痛であったとしても単なる侵害受容性疼痛ではなく、複雑な病態を呈している可能性もある。
つまり、この様なケースの場合は、侵害受容性疼痛が神経因性要素・心因性要素によって修飾が加わった状態で表出している可能性も考慮しながら介入していく必要があるということになる。