この記事では、日本でも鎮痛薬として処方されることの多いNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)について記載していく。
NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)とは
NSAIDsは鎮痛薬としては最も一般的で、特に生体内に炎症がある場合に効果を発揮する。
鎮痛・消炎・解熱効果などがあることが知られているが、種類によっては消炎効果が強い物や鎮痛・解熱効果が強いもの、あるいは平均的に効果を発揮するものなど様々である。
現在、日本には100種類以上のNSAIDsが存在するが(代表としてはアスピリン・ロキソプロフェンナトリウム水和物、ジクロフェナクナトリウム、インドメタシンなど)、中でもアスピリンは世界で歴史上最も売れた薬として知られている。
アスピリンの歴史
柳の葉には痛みを和らげる効果があり、これは古代ギリシャ時代においてヒポクラテスが「リウマチの薬は柳である」と記しているほど昔から知られていた。
しかし、鎮痛をもたらす成分が何であるかは長い間、謎であった。
1800年、柳からサリチルという成分を分離することに成功し、その後、より鎮痛効果に優れたサリチル酸が合成された。
これは、世界で初めて人工的に合成された医薬品であった。
1899年、バイエル社は「アスピリン」の名で発売を開始し、わずかな期間で、鎮痛薬の一大ブランドとなった。
NSAIDsの作用
炎症が起こっている関節では、プロスタグランジン(PG:prostaglandin)という化学伝達物質が存在しており、これが炎症反応をもたらす一因を担っている。
そしてNSAIDsの主な作用は、炎症細胞(リンパ球など)のアラキドン酸からPGが合成される過程で働くシクロオキシゲナーゼ(COX:cyclooxgenase)と呼ばれる酵素を阻害することにある。
その結果、炎症に関与する化学伝達物質であるPGの産生が抑えられ、鎮痛効果が生じることになる。
※PGには発痛作用はないが、疼痛増強作用がある
COXは2種類存在する
プロスタグランジンの合成を促進する酵素「シクロオキシゲナーゼ=COX」には、下記の2種類あることが分かっている。
COX1(善玉シクロオキシゲナーゼ):
胃の粘膜や血管を保護するPGの合成に関わるもの。
普段から私たちの体内に存在し、臓器の粘膜の血流を保ったり、血小板による止血したりと重要な役割を果たす。
COX2(悪玉シクロオキシゲナーゼ):
普段は存在せず、炎症性の刺激があるときのみ新しく造られ、痛みのもととなるPGの合成に関わる。
つまり、NSAIDsの目的は、COX2を阻害することにより鎮痛を図ることである。
しかし、NSAIDsはCOX2の働きのみならず、私達の体にとって大切なCOX1まで遮断してしまうため、副作用として消化器障害が出現しやすくなってしまう。
NSAIDsと一緒に胃薬も処方されるのは、このような理由のためである。
現在は、COX2の働きだけを遮断するものとして以下のような「COX2選択的阻害薬」というNSAIDsも登場しており、実際に胃腸障害などの副作用が少ないことが報告されている。
COX2選択的阻害薬:
セレコキシブ(セレコックス)
メロキシカム(モービック) など
また、NSAIDsの多くは経口薬であるが、一部の薬には坐薬もある。
坐薬:
ジクロフェナク(ボルタレン坐薬)
ピロキシカム(フェルデン坐薬)
坐薬は胃に直接作用せず、吸収が速いため、痛みを急速に止める必要がある場合や、経口薬では胃腸障害を起こす人にも使用される。
ただし、坐薬といえども吸収されれば胃の粘膜細胞に達し、そこを傷めることは避けられないため、注意が必要である。
余談(潰瘍発症の危険因子と胃薬について)
NSAIDs潰瘍に伴う消化性潰瘍発症の危険因子は以下のようなものがある。
確実な危険因子 |
高齢(年齢とともに増加) 潰瘍に既往 糖質ステロイドの併用 高用量or複数 NSAIDsの内服 抗凝固療法の併用 全身疾患の合併 |
可能性のある 危険因子 |
H.pylori感染 喫煙 アルコール |
胃薬には目的別に以下に分類される。
目的 | 詳細 | 成分 |
胃酸中和 | 胃酸を中和して侵襲性を低下 | 金属イオンなど |
胃壁強化 |
粘膜保護・増殖 血流増加による細胞強化・不要物除去 |
セルベックス アプレースなど |
胃酸抑制 | 胃酸の分泌抑制 | H2ブロッカー PPI |
※NSAIDsの強力な破壊力の前に、胃壁強化型の薬剤は無力とされる。
※NSAIDsと一緒に処方される第一選択は、胃酸抑制型薬剤である。
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