この記事では、ステロイド薬(ステロイド性抗炎症薬)について記載してく。
ステロイドとは
ステロイドとは、本来は、ステロイド環と呼ばれる化学構造を持った物質の総称である。
このうち、ホルモンとしての作用を持ったものがステロイドホルモンと呼ばれる。
ステロイドホルモンには、糖質コルチコイド、鉱質コルチコイド、性ホルモン(アンドロゲン、エストロゲン、横体ホルモンなど)がある。
このうち、糖質コルチコイドと鉱質コルチコイドは副腎皮質から産生されるために副腎皮質ステロイドホルモンと呼ばれる。
これに対して、性ホルモンは精巣、卵巣などで産生される。
そして、この糖質コルチコイド(=コルチゾール)を合成して薬にしたものが副腎皮質ステロイド薬である。
※ちなみに、ドーピングの対象となっているのは、人工的に合成されたステロイドホルモンのうち、筋肉増強作用のある男性ホルモンである。
副腎皮質ステロイドホルモンについて
副腎皮質から産生される副腎皮質ステロイドホルモン(糖質コルチコイドと鉱質コルチコイド)は体の恒常性を維持するのに大切ホルモンで、体がストレスに曝されたときには、それに反応して産生される。
もしも、動物から両側の副腎を摘出してしまうと1~2週間のあいだに死亡してしまうことからも、副腎皮質ステロイドホルモンは生命の維持に必要不可欠なホルモンだということが分かる。
また、このホルモンのうち、糖質コルチコイドは炎症を強く抑える特徴を持っている。
そして、糖質コルチコイドの作用を持った化学合成物質が副腎皮質ステロイド薬である。
※以下の文章は副腎皮質ステロイド薬をステロイド薬と略して記載。
ステロイド薬の作用
ステロイド薬に対するレセプターは全ての有核細胞にあるため、ステロイド薬は(良くも悪くも)多種多様な細胞に作用を及ぼす。
ステロイド薬の様々な作用の中で、特に注目されているのが非常に強い抗炎症作用と免疫抑制作用である。
ステロイド薬は、炎症性サイトカイン・プロスタグランジンなどの産生を強力に抑制したり、リンパ球の機能を抑えることによって、非常に強い抗炎症作用と免疫抑制作用を発揮する。
これら2つの作用から、炎症が起こっている病気(炎症性疾患)や、免疫異常が強くみられる病気(自己免疫疾患)の治療法の一つとなっている。
代表的なステロイド薬であるプレドニゾロンは内服によって投与されるが、デキサメタゾンは注射によって投与され、特に関節炎などでは関節腔内注射によく用いられる。
※ステロイド薬が炎症を抑えるメカニズムは、基本的に炎症反応をもたらすプロスタグランジンがつくられる化学反応をストップさせるという意味ではNSAIDsと同じである。
NSAIDsと異なるのは、炎症性サイトカインが放出されるのを抑えたり、抗体がつくられるのを抑制する点である。ステロイドはこれほどの働きがあるだけに、NSAIDsと比べると効果は絶大である。
※コルチゾール(ステロイド)はやる気を起こさせるホルモンと言われている。そのためステロイド薬は痛みをとると同時に、病気のために暗く沈んだメンタル面に作用し、気分を明るく積極的にする働きもあるとされる。
しかし一方で、ステロイド薬に免疫抑制作用があることからも分かるように、ステロイド薬を用いていない人であっても、ストレス刺激が強すぎたり、長期間ストレス刺激にさらされ続けると、副腎の機能が活性化され過ぎて免疫力が低下する可能性がある。
いわゆる「ストレスばっかり感じていると、体調不良におちいり、風邪などの病気にかかり易くなる」といった風説は、あながち嘘ではないのかもしれない。
同様に、ポジティブ思考でストレス刺激を感じにくい人は、病気にかかりにくいというのも、一つの側面としてあり得るのかも知れない。
ステロイド薬の副作用
ステロイドに対する受容体が全ての有核細胞に発現されていることから、ステロイド薬は炎症抑制作用や免疫抑制作用だけでなく、糖代謝・脂質代謝・骨代謝、電解質代謝などにも作用する。
そのため、下記のような様々な副作用が起こる可能性があり、適用や使用方法にはとくに注意が必要である。
服薬を中止すれば改善する軽い副作用
- ムーンフェイス(顔が満月のように丸くなる)
- 中心性肥満(体幹に脂肪がついて手足が細くなる)
- 食欲不振or異常な食欲増進、体重増加、むくみ、高血圧、多汗、不眠など
※これらはステロイド薬の量を減らすか、使用を中止すれば自然に改善される
注意を要する重い副作用
- 日和見感染⇒肺炎や肺結核:
ステロイドが免疫機構で重要な働きをしている白血球やリンパ球の機能を低下させることで起こる
前者は細菌感染の防御に重要で、後者はウィルス・真菌・結核菌などの感染防御に必要である。
- 骨粗鬆症:
ステロイドが骨代謝に作用するために、骨密度が低下してしまう。
- 糖尿病:
ステロイドが糖代謝に作用するために、糖尿病の発症が誘発されてあり、あるいは糖尿が悪化することがある。
- 消化性潰瘍:
ステロイド薬の連用で胃潰瘍や十二指腸潰瘍が出現したり、悪化することがある。
ステロイド薬は胃液を酸性に傾け、消化酵素の量を増加させるとともに、胃粘膜保護作用のあるムチンを減少させる。
さらにプロスタグランジンの産生を強く抑えるために、消化性潰瘍が出来やすくなる。
ステロイドの反跳症状と離脱症状
ステロイド薬を長期に服用していると、『視床下部-下垂体-副腎皮質』の働きが抑制され、やがて副腎皮質は萎縮してしまう。
関連記事⇒「ステロイドホルモン産生調整のメカニズム」
これは長期にわたってステロイド薬を服用することにより、外からステロイドホルモンが補給されることに体が慣れてしまい、副腎皮質がホルモンを作らなくなることに起因する。
そうした状態で、外部からのステロイドの供給が急に減ってしまうと、体をより良い状態に維持するために必要なステロイドが一時的に不足するため、自己免疫疾患の症状が再燃することになる。
このような減量に伴う症状の悪化を『反跳症状』と呼ぶ。
また、このような状況でステロイド薬の使用を勝手に中止してしまうと、体に必要なステロイドが得られなくなり、副腎皮質ホルモンの欠乏症状として、発熱・倦怠感・めまい・吐き気・血圧低下によるショック症状などが起きることがある。
このような状態を『離脱症状』と呼ぶ。
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