この記事では、脳卒中の運動障害を含む機能障害の総合的評価法として開発された脳卒中機能評価法である『SIAS(Stroke Impairment Assessment Set)』について記載していく。
目次
SIAS(脳卒中機能評価法)とは
脳卒中機能評価法であるSIAS(Stroke Impairment Assessment Set)は「脳卒中の機能障害を定量化するための総合評価セット」であり、1989年に千野らによって開発された。
従来の脳卒中片麻痺の機能評価は運動機能が中心であったが、脳卒中による障害は運動機能のみならず高次脳機能など多面的なものであり、それらを総合して評価することを目標にSIASは作られている。
当時SIASが開発された背景として、米国のリハ研究者の中には、機能障害(impairment)は帰結としての能力低下(disability)のなかに包含されるとして、ADL(activities of daily living)のみを重視する傾向があったこと、わが国では機能障害全般より運動機能のみを詳細に評価する傾向があったことなどが挙げられる。
したがって、多面的な機能障害を評価する総合評価セットの開発は時機を得たものであった。
~『現代リハビリテーション医学 改訂第4版』より引用~
SIASの特徴は、脳卒中で障害される頻度の高い機能を総合的に評価するところにあるが、その評価は簡便であり、しかも信頼性と妥当性が裏付けけされている点にある。
脳卒中機能障害評価セット(stroke impairment assessment set: SIAS):
推奨グレード :A
脳血管障害 65 例における検討から、SIAS-Mとmotoricity indexおよびSIAS-MとBrunnstrom stageとの相関は高く、SIAS-Mの併存的妥当性が示された。
また、a)SIAS-Mとmotricity indexまたはBrunnstrom stage、b)SIAS下肢項目とFIMSM移動項目、c) SIAS体幹項目と腹部筋力では相関があった。
3つの文献では SIASを追加すると退院時機能予測が向上したと報告している 。
SIAS は、motricity index、Brunnstrom stage、NIHSS よりも反応性がよい。
~『脳卒中 理学療法診療ガイドライン』より引用~
SAIASの特徴
SIASの特徴としては、以下などが挙げられる。
- 脳卒中の機能障害を見落としなく評価できる
脳卒中の機能障害は運動麻痺だけでなく、感覚障害・高次脳機能障害など多岐に渡る。
でもって、後述する評価項目を見てもらえばわかるように、多面的な機能障害を見落としなく評価できるようになっている。
- ADLなどの予後に影響する非麻痺側機能や体幹機能を含む
- 簡便に評価できる
ベッドサイドでも簡便に施行できるテストで構成されている。
患者も検者も座ったままで評価でき、テストによって患者の体位を変える必要がほとんどない。
道具も、打腱器・握力計・メジャー以外、特別な道具を必要としない。
SIASは9種類・22の評価項目から構成される
SIASは以下の9種類に分類される22項目からなる。
- 麻痺側運動機能(5項目)
- 筋緊張(4項目)
- 感覚障害(4項目)
- 関節可動域(2項目)
- 疼痛(1項目)
- 体幹機能(2項目)
- 視空間認知(1項目)
- 言語機能(1項目)
- 非麻痺側機能(2項目)
※22項目は3あるいは5点満点で評価される。
※脳卒中片麻痺テストとして認知度の高い「ブルンストロースステージテスト」・「12段階片麻痺機能法」は、上記項目の①(麻痺側運動機能)にフォーカスしたテストであることを考えると、非常に幅広い項目を網羅していることが分かる。
※麻痺側運動機能テスト以外は標準的な神経学的診断法がもとになっており、簡単に評価
できる方法である。
重複するが、SIASは日本で開発され、亜急性期および慢性期の脳卒中の運動機能感覚、高次脳機能、健側評価も加えた包括的評価法として用いられている。
SIASの評価種類① 麻痺側運動機能(5項目)
まずはSIASの『麻痺側運動機能』として以下の5項目を記載していく。
・上肢近位テスト(膝・口テスト)
・上肢遠位テスト(手指テスト)
・下肢近位テスト①(股屈曲テスト)
・下肢近位テスト②(膝伸展テスト)
・下肢遠位テスト(足パットテスト)
上肢近位テスト(膝-口テスト:Knee-mouth test)
上位近位テスト(膝ー口テスト)の動作は以下の通り。
・麻痺側手部を対側膝(大腿)上より挙上して、手部を口まで運ぶ。
・この際、肩関節は90°まで外転させ、そして膝下まで戻す。
・これを3回繰り返す。
※肩・肘関節に拘縮が存在する場合は、可動域内での運動をもって課題可能と判断。
以下を基準に0~5点で採点:
0:上腕二頭筋収縮なし
1:手部が乳頭まで拳上できない
2:手部が乳頭まで拳上
3:ぎこちなさがあるが口まで手部が届く
4~5:スムーズにできる(4はややぎこちなさがある)
上肢遠位テスト(手指テスト:finger-function test)
上肢遠位テスト(手指テスト)の動作は以下の通り。
・手指の分離運動をさせる。
・母指から小指の順に屈曲させ、小指から母指の順に伸展させる
以下を基準に0~5点で採点:
0:手指の動きまったくなし
1:集団屈曲と伸展がわずかに可能
(そのうち、集団屈曲のみ可能:1A、集団伸展可能1B、わずかな分離運動可能:1C)
2:全指分離運動が可能だが不十分
3:十分な屈曲伸展の分離運動可能
4~5:5は正常な協調性、4はやや協調性が欠ける
下肢近位テスト①(股屈曲テスト:hip-flexion test)
下肢近位テスト(股屈曲テスト)の動作は以下の通り。
股関節を90。屈曲位より最大屈曲させる。
以下を基準に0~5点で採点:
0:随意的動きなし
1:わずかな下肢の動き
2:足部がかろうじて床から離れる
3:足部が床から十分離れるまで股関節を屈曲できる
4:十分でないが非麻痺側と同様に動く
5:非麻痺側と同様に屈曲できる
下肢近位テスト②(膝伸展テスト:knee-extension test)
下肢近位テスト(膝伸展テスト)の動作は以下の通り。
膝関節90°屈曲位から十分(-10°程度)伸展させる。
以下を基準に0~5点で採点:
0:大腿四頭筋収縮なし
1:大腿四頭筋収縮があるが、足部は床から離れない
2:膝関節伸展ができ,足部が床から離れる
3:重力に抗して膝が十分に伸展できるが、ぎこちなさがある
4~5:5は非麻痺側と同様な筋力があり、4はやや筋力が劣る
下肢遠位テスト(足パットテスト:foot-pat test)
下肢遠位テスト(足パットテスト)の動作は以下の通り。
踵部を床に着けたまま、足部の底背屈運動を3回繰り返す
以下を基準に0~5点で採点:
0:前脛骨筋収縮なし
1:わずかな前足の動き
2:前足が上がるが十分でない
3:前足が十分に床から離れる
4~5:5は正常の筋力があり、足の底背屈運動の協調性あり、4は5の運動がぎこちなく、やや筋力がない
SIASの評価種類② 筋緊張(4項目)
次に、SIASの『筋緊張』として以下の4項目を記載していく。
・上肢腱反射(上腕二頭筋・上腕三頭筋)
・下肢腱反射(膝蓋腱反射・アキレス腱反射)
・上肢筋緊張
・下肢筋緊張
上肢腱反射(U/E DTR :biceps or triceps)
上肢腱反射テストとして、以下の腱反射を行う
・上腕二頭筋腱反射
・上腕三頭筋腱反射
以下を基準に0~3点で採点:
0:2つの腱反射著しく冗進または、手指の屈筋クローヌス誘発
1:「中等度亢進:1A」・「減弱ないし消失:1B」
2:軽度亢進
3:反射正常
※上腕二頭筋腱・上腕三頭筋腱の反射の方法に関しては以下の記事でも解説しているので参考にしてみてほしい。
下肢腱反射(L/E DTR :PTR or ATR))
下肢腱反射テストとして、以下の腱反射を行う
・膝蓋腱反射
・アキレス腱反射
以下を基準に0~3点で採点:
0:2つの腱反射著しく亢進、または、足関節クローヌス誘発
1:「中等度亢進:1A」:「減弱ないし消失:1B」
2:軽度亢進
3:反射正常
※膝蓋腱・アキレス腱の反射の方法に関しては以下の記事でも解説しているので参考にしてみてほしい。
※足クローヌスに関しては以下の記事で方法や動画が掲載されているので参考にしてみてほしい。
上肢筋緊張 (U/E muscle tone)
上肢緊張の検査方法は以下の通り
肘関節の他動的屈伸時の筋緊張をみる
以下を基準に0~3点で採点:
0:著しく筋緊張亢進
1:「中等度亢進:1A」・「筋緊張低下:1B」
2:軽度亢進
3:筋緊張正常
※筋緊張の評価の詳細は以下の記事で解説している。
⇒『筋緊張とは?MASなどの筋トーヌステスト(筋緊張検査)も含めた評価を紹介』
下肢筋緊張(L/E muscle tone)
下肢筋緊張の検査方法は以下の通り
膝関節の他動的屈伸時の筋緊張をみる
以下を基準に0~3点で採点:
0:著しく筋緊張充進
1:「中等度亢進:1A」・「筋緊張低下:1B」
2:軽度亢進
3:筋緊張正常
※筋緊張の評価の詳細は以下の記事で解説している。
⇒『筋緊張とは?MASなどの筋トーヌステスト(筋緊張検査)も含めた評価を紹介』
SIASの評価種類③ 感覚機能(4項目)
次に、SIASの『感覚機能』として以下の4項目を記載していく。
・上肢触覚
・下肢触覚
・上肢位置感覚
・下肢位置感覚
※感覚検査に関しては、以下の記事も作成しているので合わせて観覧してみてほしい。
⇒『感覚検査(触覚・痛覚・位置覚・運動覚のテスト)を徹底解説!』
上肢触覚(U/E light touch)⇒手掌
上肢触覚の検査として、手掌の触覚をみる。
以下を基準に0~3点で採点:
0:感覚脱失
1:中等度低下
2:軽度低下、または異常感覚
3:感覚正常
下肢触覚( L/E light touch)⇒足底
下肢触覚の検査として、足背の触覚をみる。
以下を基準に0~3点で採点:
0:感覚脱失
1:中等度低下
2:軽度低下、または異常感覚
3:感覚正常
上肢位置覚(U/E position)⇒母指 or 示指
上肢位置覚の検査方法は以下の通り
示指または母指を上下に動かして、その動きがわかるかを検査する
以下を基準に0~3点で採点:
0:全可動域にわたって指の動きが全くわからない
1:動いていることはわかるが、その運動の方向はわからない
2:中等度の動きで、その運動の方向がわかる
3:わずかな動きで、その運動の方向がわかる
下肢位置覚(L/E position)⇒母趾
下肢位置覚の検査方法は以下の通り
母指を上下に動かして、その動きがわかるかを検査する
以下を基準に0~3点で採点:
0:全可動域にわたって指の動きが全くわからない
1:動いていることはわかるが,その運動の方向はわからない
2:中等度の動きで、その運動の方向がわかる
3:わずかな動きで、その運動の方向がわかる
SIASの評価種類④ 関節可動域(2項目)
次に、SIASの『麻痺側運動機能』として以下の2項目を記載していく。
・上肢関節可動域
・下肢関節可動域
上肢関節可動域(U/E ROM)
上肢関節可動域の検査として「他動的な肩関節の外転の可動域」を測定
以下を基準に0~3点で採点:
0:60°以下の可動域
1:60~90°の可動域
2:90°~150°の可動域
3:150°以上の可動域
※肩関節外転の可動域検査に関しては以下の記事で解説している。
⇒『肩関節のROMテスト | 参考可動域・代償運動・制限因子』
下肢可動域(L/E ROM)
下肢関節可動域の検査として「膝関節伸展位での足関節の背屈の可動域」を測定
以下を基準に0~3点で採点:
0:-10°背屈(10°伸展位)より大きく制限
1:0°までの背屈制限
2:0~10°の背屈可動域
3:10°以上の背屈可動域
※足関節背屈の可動域検査に関しては以下の記事で解説している。
⇒『膝関節・足関節・足部のROMテスト | 参考可動域・代償運動・制限因子』
SIASの評価種類⑤ 疼痛(1項目)
次に、SIASの『疼痛』として以下を検査していく。
肩関節や手指などの関節痛や視床痛などの痛みを主観的に検査する
※脳卒中に由来する疼痛の評価を行う。
※既往としての整形外科的(腰痛など)、内科的疼痛は含めない。
※また過度でない拘縮伸張時のみの痛みも含めない。
以下を基準に0~3点で採点:
0:睡眠を妨げるほどの著しい痛み
1:中等度の痛みで、睡眠を妨げるほどでない場合
2:軽度の痛み
3:痛みに問題がない場合
※SIASにおける痛み評価とは全く関係ないが、『疼痛の評価』に関しては以下の記事も作成しているので、興味がある方は観覧してみてほしい。
⇒『痛み評価テスト(VASなどの疼痛スケール)の臨床活用法』
SIASの評価種類⑥ 体幹機能(2項目)
次に、SIASの『体幹機能』として以下の2項目を記載していく。
※体幹をコントロールする能力で、体幹の垂直保持と腹筋力を評価する。
・腹筋力
・垂直性
腹筋力(abdominal MMT)
腹筋力の検査方法は以下の通り
・患者を車椅子か背もたれ椅子に坐らせ、臀部を前にずらし、体幹を45度後方へ傾け、背もたれによりかかった姿勢を取らせる。
・大腿部が水平になるように検者が押さえ、体幹を垂直位まで起き上がらせる(背もたれから両肩を離して座位をとるように指示する)。
※検者が徒手抵抗を加える場合には、胸骨上部を押さえること。
以下を基準に0~3点で採点:
0:起き上がって坐位がとれない
1:起き上がって自力で坐位がとれる
2:検者が胸骨部に軽い抵抗を加えても坐位まで起き上がれる
3:腹筋力が十分あり、かなりの抵抗を加えても坐位まで起き上がれる
垂直性テスト(verticality test)
垂直性テストとして、患者に垂直な座位をとらせる。
以下を基準に0~3点で採点:
0:坐位の姿勢が維持できない
1:坐位姿勢を維持しようとすると側方に傾き、垂直に修正するように指示してもできない
2:指示すれば垂直位の坐位がとれる
3:正常に坐位がとれる
SIASの評価種類⑦ 視空間認知(1項目)
次に、SIASの『視空間認知(visuo-spatial deficit)』を記載していく。
視空間認知の検査方法は以下の通り。
・患者の眼前50cmのところに、検者が50cmの巻尺を水平位に延ばす。
・患者には「水平位に延ばされた巻尺」の中央を非麻痺側指で示させる。
・2回行い、中央からのずれの大きい方を採点とする。
以下を基準に0~3点で採点:
0:中央から15cm以上大きくずれる
1:15cm~5cmのずれ
2:5cm~2cmのずれ
3:2cmより小さいずれ
SIASの評価種類⑧ 言語機能(1項目)
次に、SIASの『言語機能(speech)』を記載していく
言語機能の検査として、理解面と表出面から失語症を評価する。
※構音障害は、この評価には含めない。
以下を基準に0~3点で採点:
0:全失語
1:「重度感覚失語1A」・「重度運動失語1B」
2:軽度失語
3:正常
SIASの評価種類⑨ 非麻痺側機能(2項目)
次に、SIASの『非麻痺側運動機能』として以下の2項目を記載していく
・大腿四頭筋の筋力
・上肢の握力
非麻痺側大腿四頭筋の筋力(quadriceps MMT)
非麻痺側大腿四頭筋の筋力を以下の方法で検査する
坐位で、膝90°屈曲位から膝伸展運動をさせる
以下を基準に0~3点で採点:
0:重力に抗しては伸展できず
1:中等度筋力低下(MMT4程度まで)
2:軽度低下
3:正常
非麻痺側握力(grip strength)
非麻痺側握力を以下の方法で検査する。
・坐位で肘伸展位で測定する。
・握力計の握り1幅は原則5cmとして、患者の握り幅に修正する。
・2回測る。
以下を基準に0~3点で採点:
0:3kg以下の握力
1:3~10㎏の握力
2:10~25㎏の握力
3:25㎏以上の握力
握力測定に関しては以下の記事も参考になるかもしれない。
⇒『握力測定の方法と平均値(年齢別)を紹介(高齢者の数値もあるよ)』
SIASの採点
SIASは、22項目の合計点で評価する。
※正常は76点である。
レーダーチャートで記載すると、機能障害の各要素をわかりやすく表すことが出来る。
レーダーチャートは、正常であれば円になるが、障害の重いところはくさび状になり、障
害の特徴が示される。
また、2回目検査結果をプロットすれば、経時的変化を見ることができる。
参考書籍(オススメ書籍)
この記事(SIAS)の参考書籍であり、SIASを学ぶ上でベスト1な書籍は以下になる。
上記書籍には、医療におけるADL評価で最も認知度の高い『FIM(機能的自立度評価表)』についても詳しく解説されている(っというか、出版されている書籍の中で一番詳しく解説されている)。
なので、「SIASとFIM」について勉強したいと思っている方は、持っておいて100%損はない書籍となる(値段も手ごろ)。
FIMに関しては以下の記事でも詳細に解説しているので、興味がある方はこちらも参考にしてみてほしい。
FIM(機能的自立度評価表)の項目・点数をガッツリ網羅!これさえ読めば安心です。
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