筋膜には「狭義の筋膜」と「広義の筋膜」がある。
でもって、国試などでは「筋膜」と聞かれたら恐らく「狭義の筋膜」なのだが、最近は「広義な筋膜」を治療として重要視する学派もいる。
この記事では、そんな「広義な筋膜」をイラストにして紹介していく。
⇒『筋上膜と筋外膜の違いとは?「(狭義な)筋膜」もイラストで解説』
筋膜とは
膜組織は頭部から足趾まで全身を三次元的に覆う強い結合組織である、あらゆる器官に存在しいる。
そして、この“全身を覆う膜状の結合組織”も含めて『筋膜(fascia)』と表現されることがある。
※単純に「膜(fascia)』と表現する学派もある。
これが、「広義な筋膜」を意味する。
筋膜(fascia)の概要
筋膜は浅層から以下の順で層になって存持している。
- 浅筋膜
- 深筋膜
- 筋外膜(=筋上膜)
- 筋周膜
- 筋内膜
少しわかりにくいが、上記の左(青色の分類)における「皮下組織」の下に『深筋膜』が存在し、その直下に『筋外膜』が存在する。
余談として、一部ではあるが「浅筋膜より深層にある筋膜の総称を深筋膜と呼んでいる(つまり筋外膜・筋周膜・筋内膜は、深膜という解釈)。
なので色々と混乱しやすい。
浅筋膜よりも体の深部にある筋膜を総称して深筋膜という。深筋膜と浅筋膜とはつながっている。便宜上本書では、筋肉群を覆う筋膜(包膜)、筋肉を取り囲む筋膜(筋外膜)、筋中の線維束を取り囲む筋膜(筋周膜)、個々の筋線維を取り囲む筋膜(筋内膜)を深筋膜とする。
~『クリニカルマッサージ』より引用~
一般的には、この記事で記載されている内容が多勢の解釈だと考えてもらって問題ない。
浅筋膜と深筋膜の特徴
浅筋膜
浅筋膜は、皮膚の真皮に付着してその深部に存在する「疎性結合組織」である(高密度に包まれた層と疎性結合組織脂肪からなる)。
浅筋膜の厚さは部位によって異なり、また個人差も大きい。
浅筋膜は疎性結合であるため、多くの方向に動くことができ、深筋膜上で皮膚の滑走を容易にしている。
浅筋膜は、皮膚の血管や神経通路であり、またエネルギー貯蔵の役割を担っている。
深筋膜
深筋膜は、筋群を覆う結合膜によって形成されている。
深筋膜の基質内には、「エラスチン線維」と「(波状の)コラーケン線維」が存在する。
これらの線維は、同じ筋膜の異なる平面において、縦・横・斜めと3つの異なる方向に配列している。
そして「浅筋膜」「深筋膜」「筋(最外層は筋外膜)」の間の疎生結合組織にはヒアルロン酸が存在し、各層の動きをなめらかにし、筋収縮の際に隣接筋などの間に摩擦が起こらないように働く。
また異なる方向に配列しているために、あらゆる方向の動きとまた外力に抗することができる。
また深筋膜には、自由神経終末やパチニ小体、ルフィニ小体など様々な受容器が存在している。
筋外膜・筋周膜・筋内膜については以下の記事を参照してほしい。
- 筋外膜は、筋間中隔・腱膜・腱として深筋膜と結びつく。
- 筋周膜の波状コラーゲン線維は筋外膜とともに腱へ移行する。
補足:筋膜マニピュレーション協会における「深筋膜」の定義
ここでは、筋膜マニピュレーション協会における深筋膜の定義について記載していく。
- 広義の意味で『深筋膜』とは腱膜筋膜と筋外膜を指す(この記事は、この定義に沿って記載していないので混乱しないように注意してほしい)。
- 浅筋膜→深筋膜(腱膜筋膜→筋外膜)→筋周膜・・・の順に浅部から深部へ移行する。
- 浅筋膜と筋外膜は全身に存在するが、腱膜筋膜は存在しない領域もある。その領域においては浅筋膜→深筋膜(=筋外膜)→筋周膜・・・の順に浅部から深部へ移行する。
- 筋膜腱膜が存在しない領域は「頸部・僧帽筋・大胸筋・三角筋・広背筋・腹斜筋・大殿筋」である。
ちなみに、この知識がなくとも筋膜マニピュレーションにおける評価・アプローチは可能(深筋膜の解釈が賛否るとしても、それが臨床に影響する知識ではない)。
筋膜におけるコラーゲン線維とエラスチン線維
結合組織線維には「コラーゲン線維」と「エラスチン線維」がある。
コラーゲン線維
コラーゲン線維の最も重要な機能は組織の構築を支持することである。
コラーゲン線維は柔らかく屈伸自在であり、張力に対しては強い抵抗性を示す。
コラーゲン線維は体内に最も普遍的に存在する結合組織であり、また腱や靭帯はこの線維の終息したものだとも解釈できる(同じ成分なものが集束しているのが腱・靱帯)。
走行は線維ごとに多用であるが、結合組織が伸張状態にないときには、緩やかに波を打って走行している。
エラスチン線維
エラスチン線維は細く、コラーケン線維と一緒に存在し、まばらな網状構造を形成する。
コラーゲン線維に比べると強靭ではないが、ゴム紐のように弾力に富む線維であり、元の長さの2~2.5倍まで伸張するが、力が去れば元に復元する特徴がある。
浅筋膜>深筋膜>筋外膜>筋周膜>筋内膜
※筋内膜には、もはやエラスチン線維は存在しないと言われている。
これら「コラーゲン線維」と「エラスチン線維」を理解することは治療にも役立ち、Spring and Dashpod Modelをイメージすると分かり易い。
でもって、このモデルに関しては以下の記事で紹介してるので、合わせて観覧してみてほしい。
筋膜の機能 4P
ここまでの内容を踏まえて、筋膜の機能4つ(各機能の頭文字Pをとって4P)を紹介して終わりにする。
筋膜の機能【4P】は以下の通り。
- Packing(包装)
- Protection(保護)
- Posture(支持機能)
- Passageway(通路)
Packing(包装)
筋膜は、全体構造を覆い、構造物を隔てると同時に結びつけている。
筋膜は全身を包み込むようにネットワークが張り巡らされており、膜組織どうしの異常な癒着、特に膠原線維の癒着は炎症を引き起こし、一か所の引っぱりや緊張が身体全体のバランスを変化させ、身体の運動性とアライメントに影響を与える。
Protection(保護)
筋膜は、器官を覆い保護している。
Posture(支持機能)
三次元的な筋膜の緊張バランスで関節のアライメントを決定し姿勢を形作る。
筋膜の概念を提唱するセラピストは、この「支持機能」に関して『テンセグレティー理論』を提唱している。
テンセグリティー理論とは:
テンセグリティーは、tension(張力)とintegrity(統合)からの造語である。
人体を「テント」のようにとらえ、筋などの軟部組織全てが体の復元力・構成力に関与していると考る。
テントは主に「ポール(棒)とシート(布)とローブ」で作られている。ポール(棒)がテントの内側の空間を保護し、シートとローブが多方向からポールを引っ張り合う事でポールの位置を定めているという解釈。
これと同様に、人体も全身に点在する骨を筋などの軟部組織が引っ張ることで、その形を維持しているという考え。
Passageway(通路)
筋膜は、神経、動脈、静脈、リンパ管のための経路を作る。神経系、循環器系の通路であるとともに呼吸器系、消化器系などとともにつながりを持っている。
筋膜は、この「経路としての形」を保護していると考えることも出来る。
つまり、筋膜が障害されると神経やリンパにも障害が生じる可能性があると考える。
筋膜アプローチの考え方
筋膜アプローチの考え方は以下の通り。
- これまでの癖、生活環境、不良姿勢、過用、誤った運動パターン
- 外傷、障害、手術などの既往
↓
↓
- 筋・筋膜機能異常
(筋膜高密度化・基質のゲル化・ヒアルロン酸凝縮化など)
↓
↓
- 筋膜を正常な配列に再構築
・これにより筋・筋膜痛の解消
・これにより筋出力・柔軟性・パフォーマンスADLの改善
関連記事
この記事では「広義の筋膜」について解説してきたが、国試も含めた一般的な「筋膜」の概念は「狭義の筋膜」である。
でもって、そんな「狭義な筋膜」は以下で解説しているので、興味がある方は観覧してみてほし。
合わせて観覧することで、筋膜への理解が深まるかもしれない。